思い出せない記憶。


6歳の頃、急に目が見えなくなった。
ただ真っ暗な闇の中で、誰も見えなくなった。

最初の記憶。

学校も行かずに大きな病院に連れて行かれた。
毎日のようにいろんな病院を転々として。
ときには見たこともないような大きい機械に入れられて。
白衣を着た人達が、ガラス越しにあたしを見てた。
気付いた時にはお母さんが隣に居てあたしの手を握ってた。

それからしばらく、学校へは行かなかった。

次の記憶。

また違う病院に行った。
そこでの記憶は、ほとんどない。
ただ、優しそうな女の人が、あたしと話がしたい、ってそう言った。
だからあたしは、話したんだ、多分。
あたしには記憶がないけど。


今日、その頃の話を聞いたんだ。
あたしのバラバラだった記憶が、繋がった気がした。


初め病院へ行ったその日、先生は言った。

「紹介状を書くから、すぐに大学病院へ行きなさい。」

思いも寄らない言葉。

「小児ガンかもしれない。少しでも早いほうがいい。」



次の日、大学病院で精密検査をした。
それから、沢山の病院で沢山の検査をした。
いくつもの不治の病と診断されかけて。
だけど結局、なかなか原因はわからなくて。



最後に辿り着いたのは精神科だった。



両親は部屋に入ることなく、あたしと先生2人きりで。
その後、先生は両親にあたしの話を説明した。

「目をつぶっても、後ろから見られてる。」

「目を開いてても、真っ暗で何も見えないの。」

あたしはそう言ったんだって。



普通、この症状が出るのは12歳くらいから。
もうその頃になると、どうにもならなくなるらしい。

「この子は人一倍繊細で、神経質な子なんです。
 今、あなた達が強くしてあげないと、この子は壊れてしまう。」

先生は、あたしへの接し方を長い時間、両親に話しをして。

・毎日様子を注意してみること。
・たくさん話しをすること。
・決してヒステリックにならないこと。
・自主性を持たせること。
・急激に環境を変えないこと。
・甘やかさずに愛してあげること。

「これは、あの子が一生抱えていかなきゃいけないことだから。」

そう言われて、

「どんな時も絶対あなたは独りじゃないって教えてあげなさい。」


----それからもう13年も経つんだね。

精神科には、もう行ってないよ。

自殺しようとしたりもした。
隠れて自傷に走ってた頃もあったけど。
その時はお兄ちゃんが本気で怒ってくれたっけ。
あたしの赤くなった左手を見て、頭を思いっきり叩いて、
右手に持ってた物を床に投げ捨てて怒鳴られたっけ。

夜中、発狂して飛び出したあたしを、追いかけてくれたっけ。
自分の髪をめちゃくちゃに切って震えるあたしを、
お母さんはずーっと抱き締めててくれたっけ。
背中をなでながら。
泣きたいのは、ふたりだったよね。
ごめんなさい。


わけもわからず、あたしの頭に蔓延る記憶の断片が
今日やっと繋がってあたしは真実を知ることができた。

でも自分自身のことが、ちょっとだけ怖い。
2003年08月23日(土)

魔法がとけるまで。 / ちぃ。

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