++ 記憶の中へ
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■ ささやかな乳離れその翌日 2004年11月30日(火)
 「一人で行く?かあさんと?」

 毎朝、海渡に訊く言葉。今日は指を一本立ててニコニコと出て行った。
 こっそりと下に下りて集合場所の公園手前の駐車場の車の陰から見張る・・・いや見守る。

 ブランコに乗っている海渡。そのうち、班長さんの「並んで〜」の声がして男の子が一人、ブランコに乗っている海渡を呼びに来てくれた。もう一人女の子も来てくれた。ここからが問題で、「海ちゃん、行こう」で素直に降りればいいのだが、このとき無理やり腕を引っ張ったり、強引に連れて行こうとすると、言うことを聞かなくなることが時々ある。

 班長さんの声がしたら、並ぶこと。それは海渡もよく分かっている。だけど、人に言われて動くんじゃなくて、あくまでも海渡は自分の意志でブランコから降りたいのだ。最近よく見る海渡の今まで以上に強い自我の一端。パッと動ける日もあれば、自分なりにカウントダウンして気持ちを切り替えて動ける日もある。わかっているけど、言われてやるのはイヤなのだ。自分の意志で行動したいのだと思う。

 だけれど、お友達にはそんなややこしいことはわからない。
 決して無理やりではなく、それとなく腕を引っ張って誘ってくれているが、海渡は動かない。しばらく見ていたけれど、8時も過ぎているし出ていくことにした。

 「海ちゃん、さあ、行こうか」

後ろからそれとなくブランコのチェーンを持つ海渡の手に触れた。そうしたら、海渡はパッと私の手を握って、

「かあさんの手 あたたかーーい」

と言ったかと思うと、ブランコから飛び降りてニコニコと私を見た。女の子がミトンをしていたので、羨ましかったのかもしれないし、私の手を握ることでブランコから降りるきっかけができたのかもしれない。さっきまで頑としてブランコから降りなかったのに、海渡はすんなりと歩き出した。

 しばらく手をつないで歩いていたけれど、海渡の方からそれとなく手を振り解き、まるで私のことなんか初めからいなかったかのように歩いている。そして、学校の門が見えたとたんに班長さんに続いて走り出した。

 私の方なんか見向きもしない。 
 毎朝、学校のそばまで一緒に歩いてきても、学校が見えたとたんに海渡はそばにいた母のことなんかすっかり頭に無いんだよね。

 ブランコで手に触れた瞬間、かあさんの役目は終わったのかも知れない。



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