今日も、下校後公園へ遊びに行った海渡。 私はいつものように10分おきにベランダから様子を見ていた。何度目かに様子を見た時、海渡はブランコに乗っていた。そして、海渡の隣のブランコに乗っている男の子が立ち漕ぎで横に大きく揺すっていた。今にも海渡にぶつかりそうだ。・・・というよりわざとぶつけようと漕いでいるように見える。
危ないなぁと思いつつ見ていたが、ちっとも止めようとしない。途中でいったん降りてはまたわざわざ横へ引っ張って海渡の方めがけて揺すっている。どう見てもわざとぶつけようとしている。海渡はその子に向かって何か言っているようだけれど、よく聞こえないがあの様子だと多分「あぶないよ」と言っているんだろう。あんなに大きく揺すったブランコが海渡のブランコに当たったら、握力の弱い海渡は多分落ちてしまう、そこへまたブランコが揺れて来て頭に当たったら・・・・どうしよう、注意しに降りようかと迷っていたら、その子がブランコから降りた。
そして、海渡の前へ来て、海渡が脱いだ靴を両方とも持って、公園脇の草むらへ放った。そして、また海渡のところへ戻り、今度は海渡の乗っているブランコを無理やり奪い取ろうとしている。海渡はブランコを離さず「やめてよ、やめてよ!」と叫んでいるのがベランダまで聞こえた。
ここで我慢できなくなって降りて行った。 公園へ行くと、海渡はブランコの下に座り込み、べそをかいていた。私は海渡の前を通り過ぎて、自転車に乗って帰ろうとしていたその子の前へ行き名札を見た。なんと、1つ下の1年生だった。ちょっとショック・・・・。その子は名札を隠そうとしたけれど、かまわずに言った。
「ボク、1年生? おばさん、ずっとベランダから見てたんだけど、さっき海ちゃんのブランコにブランコぶつけようとしていたでしょう? それから、海ちゃんの靴を草のところにほかったでしょ? 」
その子は半分笑いながらウンとうなづいた。見てみれば無邪気な可愛い顔をした男の子だった。海渡よりも、うんと小柄で幼い。私の問いかけに拍子抜けするくらい、すんなりとやったことを認めたので、それ以上責めたりせずに
「じゃあ、海ちゃんに謝ってくれる?」
と言うと、これまたあっさりと「うん」と言って、海渡のそばに歩いていった。
そして座り込んで泣きべそかいている海渡に、これまた素直に「ごめんね」と言った。海渡のほうが、泣きべそかいたまま黙り込んで何も言えない状態だったので、私がかわりに
「謝ってくれてありがとう。もうこんなことしないでね。仲良く遊んでね」
と言うと、その子は走っていった。私は、座り込んだままの海渡に
「もう大丈夫だよ。お友達、ごめんねって言ってくれたよ。 海ちゃん、嫌なことは『やめてよ』ってちゃんと言えて、偉かったね」
と言った。そうしたら、しゃがんでいた私の膝の上に乗って力いっぱい抱きついてきた。ギューッと抱きついてきて、涙をポロポロこぼした。海渡なりに悔しかったし、悲しかったんだろう。
あの子もそんなに悪気があったわけでなないと思う。多分、もう二度としないと思う。それよりも、嫌なことをされて、ちゃんと「やめてよ!」と言えた海渡が私にはとても嬉しかった。
|
|