++ 記憶の中へ
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■ ともだち 2003年11月26日(水)

 うちによく遊びに来てくれるA君。
 ひ弱な感じがするけれど優しそうな男の子だ。テレビゲームが大好きで、うちに来るときは必ず何かソフトを持ってくる。

 初めは仲良くゲームをしているのだが、ゲームを始めて数分でA君のイラついた声がするようになった。海渡がA君の言うことを理解できないのか、わかっていてもきかないのか、A君の指示通りのことをしないらしい。

 A君の声ははたで聞いていてもものすごく不愉快そうだ。イライラを通り越して怒っている。彼が遊びに来るたびにすぐにこんな調子で、私も海渡に注意したりしていたのだが、どうもそれほどのことでなくてもA君はイライラすることに気づいた。

 海渡は知的障害があるので、A君と対等の会話も成立しないし、A君の言うことを全部は理解できない。A君は海渡が知的に遅れていることをよくわかっていない風なところもあり、どうして自分の言うことがわからないのかというところでイライラしているようでもある。でも、それにしては自分の感情のぶつけ方が横で聞いていても不快になるほど暗いものを感じた。おとなしく気弱そうなA君は、もしかして自分もあんなふうに言われることがあるのかもしれない。

 そんなとき、B君が遊びにきた。3人でゲームをすることになった。
 そして、またA君が海渡に対してイライラをぶつけるようになった。それを見ていたB君が言った。

「そんなに怒らなくてもいいのに」

 B君は、よほどA君の怒り方が気になったのだろう。
 A君が答えた。

「怒ってやるもん」

 それを聞いた私はさすがにカチンときた。思わず言ってしまった。

「A君、いつも海渡に怒っているけれど、海ちゃんは普通に言えば分かると思うよ。そんなに怒らないでくれる?仲良くしてくれる?」

 A君は黙ったまま何も答えなかった。言い過ぎたかな?わかってもらえなかったかな?もう来てくれないかな? でも、言わずにいられなかった。

 数日して、A君とB君二人そろって遊びに来た。
 この日、A君は海渡に気を使っているのか、妙に優しかった。もしかしたら私に気を使っていたのかもしれない。
 チラシで紙飛行機を折っていた3人は公園へ行くことになった。海渡は自分も一緒に行くのが当然と言うように二人の後を追って行こうとした。もう4時を回って外は薄暗く、かなり肌寒くなっている。私は海渡を止めようか迷ったが、行かせることにした。喜んで嬉しそうに二人を追いかける海渡。公園へ遊びに行くときはいつも私が一緒だけれど、今日はまず海渡だけで行かせてベランダからしばらく様子を見ていた。二人の後を追いかけて走りまわる海渡を見ていると、ともだちのありがたさ大切さをひしひしと感じる。

 いつまでも海渡だけにしてはおけないので、私も公園へ出ていくと、海渡はまた嬉しそうな笑顔で二人に寄り添った。「ボクたちはともだちなんだよ」と言いたそうな顔だった。A君とB君がジャングルジムのてっぺんまでいとも簡単によじ登っていくのを見て、海渡も負けじと登ろうとするが到底無理だ。それでもまだよじ登ろうとする。それを見たB君が

「海ちゃんはいいよ、あがってこなくても。」と言った。海渡がまだ登ろう
とするのを見て、今度はB君は私に

「海ちゃんのお母さん、海ちゃんに上がらなくていいって言って」

と言った。B君には海渡のことがわかっているようだった。

 3人ゆりかごに乗り、椅子に立ち上がって「せーーの」と言いながら、紙飛行機を飛ばす。何度も何度も。紙飛行機はてんでんばらばらに空を切り、ばらばらに地面に着地した。A君とB君はゆりかごの椅子から飛び降りて、紙飛行機を拾いに行く。海渡は飛び降りることができないので、まず椅子から降り、その次にゆりかごから降りようともたもたしている。すると、A君が海渡の紙飛行機を拾い上げ、無言で海渡に渡した。海渡は笑って受け取り

「あ〜がと(ありがと)」

と短く言った。

 それを見て、ホッとした。わかってくれたんだなと感じ、また、A君の気持ちがうれしかった。

 海渡のともだちが海渡を理解するには彼らなりの時間がいるし、やり方がある。でも、彼らなりに海渡のことを理解し、受け入れてくれるときが必ず来るのだ。言葉で海渡のことを説明することも必要かもしれないけれど、一緒に過ごすうちに自然と分かり合え、受け入れられるときが来るんだなと思う。

 薄暗くなりかけた公園で、いつまでも紙飛行機を飛ばす子どもたちを見て思う。できれば、いつまでもこんな風に遊んで、笑って、時にはけんかして、このままの気持ちで大人になってほしいと・・・・。

 



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