++ 記憶の中へ
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■ ちょっと嬉しかったこと 2002年03月28日(木)
 毎日、夕方5時過ぎになるとマンションの前を通る一人の女性がいる。恐らく知的障害を持っているのだと思うけれど、いったい何歳なのか年齢は分からない。高校生くらいの頃からうちのマンションにも出入りしていて、小さな子どもを見るといろいろと話し掛けて、けっこう有名人だ(笑)

 小さな子どもが好きなのはいいけれど、子どもが持っているお菓子を「ちょうだい」と言ってひょいと子どもの手から取ってしまうことがあった。その頃は私もその子のことがよく分からなかったから、当時、長女か長男が持っていたお菓子を取って行った彼女に
「小さい子のお菓子を取っちゃダメじゃない」
とごく普通に注意したことがある。彼女は反省するふうでもなくケロリとして関係ないことをものすごい早口で喋り始めた。そのとき、初めて障害のある子なんだとわかった。

 あの頃多分養護学校に通っていた彼女は、今は作業所で働いているらしい。そして彼女の自宅と、通っている作業所の中間にうちのマンションがある。作業所の帰り道、マンションの前や駐車場で私と海渡が保育園から帰ってきた時間と重なるときがあり、そんなときは決まって走りよってきてあれこれ話をする。たいてい一方的に彼女が話し掛けてきて、会話にはなりにくいのだけれど、それでも彼女は満足らしい。

 おとといも保育園の帰り、海渡をおぶって駐車場を歩いていたら駆け寄ってきて話し掛けてきた。適当にあいづちを打っていると、持っていたスーパーの袋から小さな菓子袋を取り出して

「海ちゃん、せんべ食べる?」

とそれまで私に話し掛けていたのとは全然違う、優しい声で海渡におせんべいの入った小さな袋をふたつ差し出した。海渡は具合が悪かったので私の背中に頭をもたれさせたままおせんべいの袋を受け取った。彼女は海渡の様子を見て「○○病院行った?」と一言。海渡が病気なのだと思ったのだろう。「あそこは小児科はやってないの」と答えると「やってるよ。書いてある」と言う。確かに10年以上前は小児科もあったらしいが、今は内科だけで看板の小児科の文字は白く塗りつぶしてある。恐らく彼女は、子どもの頃その病院で診てもらったことがあるのだろう。

「あそこの先生は優しいよ」
「看護婦さんも優しいよ」

 彼女なりに、海渡を心配してくれているのだ。
 10年以上前、小さな子どものお菓子を取り上げていた彼女が、今小さな子にお菓子を分けてくれて、おまけにからだを気遣ってくれている。他人事ながら、ここまで成長した彼女に、何だか嬉しくなった。




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