バカ恋
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■ 思ひ出ごっこ ■


其の人を初めて見たとき、

「あたし、この人と結婚するかも・・・」

と、何の根拠も無くそう思った。

其の人は長身で、細身で、洒落たスーツを上手に着こなす、

誰が見ても素敵だと思ういい男だった。

当時あたしは高校生で、制服ばかりに慣れていたこの目は、

スーツを着た其の人に釘付けだった。




最初は憧れるように遠くで密かに見つめていたが、

其のうち、軽く挨拶を交わす仲になり、

そして、キスを交わす仲になり、

何時しか其の人の隣があたしの指定席になっていた。







其の人は十九歳。あたしは十六歳。







或る日其の人は言った。

会社を辞めて、上京する。一緒について来てくれ。

あたしは迷わず了解し、寒い冬の或る夜、

両親宛ての置手紙を残し、あたしは家を出た。







其の人は二十歳。あたしは十七歳。







駆け落ちを決め込んだはいいが、所詮子供の浅知恵。

すぐさま親に発見され、あたしは強制的に実家に連れ戻された。

其の人とあたしの目論みは、大人達に断固として阻まれ、

あたし達は其れから離れ離れで暮らす事になった。

やがて弐年の歳月が過ぎ、念願叶って上京し、

其れから参年、別れたり寄りを戻したりを繰り返したが、

あたし達は共に暮らすようになり、そしてあたしは、

其の人との子供を子宮に宿した。



幸せになろうと二人で誓った。

愛は変わらないと信じていた。

此の先も、これからも、其の人の隣があたしの指定席だと、

ずっとずっと信じていた。








其れでも愛は色褪せて、そして壊れた。













あたしには今、愛する人が居る。

穏やかに、穏やかに、愛する人が居る。








あたしはまだ愛を信じている。












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