家業を手伝い始めた頃だから、あれは十六の時だったと思う。壱哉は歳が十離れた従姉の十和子に伴われ、遠縁というだとかいう男の家を訪れたことがあった。恩義だの借りだのというような、行かなければならない理由は特に知らされていなかった。言い付けられたから行っただけであって壱哉もちろん、十和子ですら知らない繋がりだった。 その頃すでに家の人間としても社会人としても自立していた十和子は、その家までの道すがら、ずっと文句を言っていたように思う。彼女は年頃の女性らしく、何がしか愚痴を言うのが常だった。しかし、家が見えてくるとぴたりと口をつぐんだ。一言で言えば実に陰気臭い家だった。昭和の高度経済成長期に大量に作られた、粗雑でつまらないありがちな外見の建物だった。年月を経た壁は趣よりも古臭さばかりが目につき、瓦は削れて角を失い苔むし始めていた。背後には裏山なのか庭なのか区別がつかない竹林が広がり、家を覆いつくさんと長い長い枝を屋根にかけている。そんな見た目だけなら時代に取り残された家で済んだかもしれない。その家を陰気たらしめているのは、締め切ったカーテンの内側に満ちた闇だった。夕刻も近く、日も半ば落ちているというのに明かりはなかった。 玄関と思しき小さな引き戸の前に立ち、強気で通っている従姉はひとつ大きく深呼吸した。引き手にかけた手が震えている。 「十和姉」 壱哉はその震える手に自分の手を重ねた。そこで初めて、ほっそりとした白い手がいつの間にか自分の手よりも小さくなっていたことに気付いた。まっすぐに彼女の目を見つめてひとつ頷く。それだけで、不安の色を隠し切れていなかった瞳に強い光が戻った。 実のところ、壱哉の首筋はずっと粟立っていた。ぞわぞわとした寒気は決して気持ちのいいものではない。本能が警告を発しているのだろうか。十和子よりも感性が強い彼は尋常ならざるものを感じとってしまっていた。だがここで折れてしまってはいけないのだ。それでは二人で行動している意味がない。 そろりと音もなく戸がスライドした。 ***** ここまで書いて、続きをどうするか悩み中。 キャラ物にするかホラーにするか普通に書くか… よし、参考までにアンケートとるか!
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