2012年08月16日(木) |
特別阿保列車〜道後温泉編その一〜 |
わたしが敬愛する作家・内田百ケン先生の師匠は、夏目漱石である。
松山道後温泉とくれば、「坊っちゃん」の町である。
宮崎駿の甘木アニメ映画のモデルとされたらしい建物も、有名である。
正直、夏目漱石作品は「吾が輩は猫である」しか、読んだことがない。
であるから、「坊っちゃん」の登場人物らで賑わう街並みも、サザエさんらで賑やかしい街並みとさして変わらないようにわたしには見えてしまうのである。
先生の師匠に所縁ある街として、神妙にお邪魔させていただいた。
しかし。
道後温泉は、大した目的があって訪れたわけではない。 「四国四県制覇」などという馬鹿らしいこじつけの理由が大半であった。
道後温泉本館と松山城くらいがせいぜいの興味であった。
明日の夜にはこの地を発ってしまうのである。 もっと有意義に、計画を立てて観光を味わうべきだろう。
しかしわたしは最初の高知で、魂の半分を抜かれてしまっていた。 あくる阿波で、さらに半分をさらわれてしまっていたのである。
湯治客ではないが、ちゃぷちゃぷ三昧で締めくくってもよかろう。
宿は、道後温泉のホテルをとっていた。 わたしがとるホテルであるから、観光ホテルよりもビジネスホテルに近いものばかりである。
それが。
着いたら、驚いた。
とてもとても、コジャレた、それでいて落ち着いた和風の演出がなされたホテルだったのである。
なんせ一番に驚いたのは、部屋のトイレが東陶のなかなかグレードが高いやつを、たかがシングルの小部屋に使っていたのである。
木質の内装は部屋の全てに渡り、ベッド脇の明かり取りの窓は「無双窓」がしつらえている。
「無双窓」とは、格子をずらして隙間加減を調節する味わいのある窓のことである。
しかし。
部屋に風呂はついていない。 シャワーがついているだけである。
いや、必要ないのである。 なにせ、すぐそこに公衆浴場「道後温泉別館」があり、もう少しゆくと「本館」があるのである。
夜の十一時まで入湯できるのだから、ホテル内に余計な風呂はいらない。
備え付けられたシャワーにしても、これまた「デザイナーズ」物件でしか使用しないような、やはりハイランクのものなのである。
おまけに、バスタオルは「今治タオル」を好きな種類のものを選べ、それで温泉に行き、帰ってきたら返却籠にポイと返し、また使うときは別のタオルを選んで、の繰り返しなのである。
わたしはトイレの時点で、思わず全く無関係の名古屋の友に驚嘆のさまを伝えてしまった。
注釈を入れておくが、トイレの時点で、というのは、入室直後についついやってしまうチェックのことであり、用を足すときに、という意味ではない。
値段もお手頃なあたりだというのに、ここは、素晴らしい。
スタッフも皆、きちっとしたホテルマンであり、「お夜食にどうぞ」とラップに包まれた可愛らしいおにぎりをフロント前に用意してくれている。
「おひとつずつ、それぞれどうぞ」
思案していたわたしに、「これは炊き込みごはんで、塩むすびで、わかめになります」と、ひょいひょい手渡してくる。
いただきます、と三種類ぜんぶを腕に抱えて部屋に帰る。
今夜の風呂は道後温泉別館の方であった。 湯は本館とまったく同じらしいので、広々としていたのと時間を気にしなくてよい分、快適であった。
有名な建物である本館の方には、明日浸かってみよう。
ホテルのチェックアウトが、なんと昼の十一時という、のんびり支度ができる時間なのである。
ホテルについている朝食は、これまたコジャレたレストランで、地産地消で地元の有機野菜を中心としたビュッフェスタイルである。
しかも、クリームコロッケやソーセージは注文してから調理がはじまり、席に届けてくれるのである。
これがまた、美味かった。
注文制でなかったら、わたしは大人取りして、皿ひとつをそれだけで埋めていただろう。
気がつくと、宿のことしか書いていないままであった。
つまり、高級老舗旅館でもない比較的リーズナブルな宿でたまたま出会したこちらのホテルは、なかなか素晴らしいお勧めのホテルであったわたしの衝撃度具合が、伝わっただろうか。
「やや」語り足りないが、観光についてもまた語らなければならないので、まずはここまでで。
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