「隙 間」

2012年07月01日(日) 「きっと ここが帰る場所」「星の旅人」「臍帯」

一日、映画サービスデーである。
レイトショーのみでかぶってしまったり、なかなかうまいことはしごできる作品がなかった。

選択肢がないということは、迷わずにすむということでもある。

しかし迷わなければ、欲求はなかなか高まらない。

面倒くさいところである。

「きっと ここが帰る場所」

を有楽町ヒューマントラストシネマにて。

ショーン・ペン演じる引きこもりの元ロックスターが、三十年疎遠だった父親の危篤をきっかけに、ナチの残党を探しに旅にでる。

うっかり素で観てしまい、途中から落ちてしまって内容がよくわからなかった。

うかつである。

気を取り直して、

「星の旅人」

を同じくヒューマントラストにて。

トムの元に、巡礼地巡りをしていた息子が、フランスで不運にも嵐に逢って亡くなってしまったと突然、連絡が入る。

トムは遺体の確認と引き取りにフランスへと飛ぶ。

四十歳になる息子は大学院の博士課程を辞めて「世界の巡礼地を回りたい」といい、トムは出発前に空港へ車で送ったのだった。

インド、中国、チベット、世界中の聖地で撮った写真や日記。
しかし今回の巡礼帳は、サンティアゴへ向かう最初のスタンプしか押されていなかった。

「普通のひとは、そんなフラフラ旅行に行ったり出来ないぞ」

空港への車中、トムは吐露した。

「世界を見たいんだ」

息子はそういった。

「かなったのよ」

トムに彼の秘書がかけた慰めの言葉。

トムは、息子が目指そうとしたサンティアゴへの巡礼を、息子の遺骨と共に巡ることにした。

眼科医で自分のクリニックを開いているトムには、息子の気持ちがますますわからなかった。

トムと同じ巡礼の同行者は、ダイエットが目的といいながら食べてばかりいる男や、禁煙が目的といいながら煙草がやめられない女や、作家でスランプで作品が書けないといいながら実は小さな新聞の連載しかない男。

四人は巡礼の目的地サンティアゴに何をみるのか。



とにかく不思議なことに、一番の秀作だった。

騙されたと思って、観てみてもらって構わない。

巡礼のゴールは、ゴールの地に着くことではない。
着いたからと、それは本当のゴールではないのである。

巡る過程、見えない思い、意思、きっかけ、それらすべて、それぞれが、巡礼の目的なのである。

わたしも、ゆきたくなった。

今夏、まずはよさこい祭りからのお遍路参りだろうか。

さて場所を移して、

「臍帯」

を新宿武蔵野館にて。

「臍帯」とはへその緒である。

ミカは、ある一家の様子を観察していた。
そして、中三のひとり娘あやのを誘拐、監禁する。

「あなたの一番大切なものを、壊してあげる」

母親へ送られたミカの脅迫文。

衝撃のラストシーンに向かって、物語は進んでゆく。



一瞬「八日目の蝉」のような話かと思ったが、違う。

ミカは、あやのの父親の違う姉だった。
生まれてすぐ、ごみ置き場に捨てられ、運よく助けられて施設で育った。

母親は前夫のDVに苦しみ離婚し、あやのの父親と出会う。
再婚しようとしたとき、前夫の子、ミカを妊娠していることが発覚した。
再婚して幸せを手に入れるために、ミカをバレないように生み、捨てたのだった。

だから、母親はミカのことを誰にも話せないし、まさか生きて目の前に現れるとも思っていなかった。

ミカはあやのを閉じ込めた小屋で、共に過ごす。

食べ物も、水も、トイレもない。

ふたりきりで、ただただ、無言で、過ごす。

「あなたはまだ、壊れてない」

閉じ込めた者と閉じ込められた者。

愛されている者と捨て去られた者。

帰りたい場所がある者と帰る場所などない者。

ふたりの娘とひとりの母親。

ミカは、やがて「壊れた」あやのを母親の前に運んでゆく。



物語に「凄さ」をあまり感じなかった。

「凄さ」を感じさせられたのは、ミカとあやのを演じたふたり。

極限状態の刹那的な儚さ。

圧し殺した感情。

瞬間、解放した激しさ。

なんだか、勿体ない。

もっと象徴的なエンディングが、あったように思う。



久しぶりの映画のはしごだったが、なんだかすっきりしない。

「図書館戦争」をとっといて今日観ていたら、きっとよかった。

観てみたい作品が都内だが遠方だったり、なかなかうまくゆかないものである。

「普通のひとは、フラりと映画のはしごなんか出来ないぞ」

贅沢な悩み、なのだろう。


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