Leonna's Anahori Journal
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2004年07月30日(金) 津の守坂辺り

こんどの仕事場は新宿区にある。
今日は銀行へ行く用事があって、靖国通りは合羽橋の交差点から津の守坂(つのもりざか)をのぼって新宿通りまで出た。

津の守坂は比較的ゆるやかな坂道で、交通量も少ない。ここにはきれいなブティックや花屋さんもあるけれど、風呂桶屋さんやガラス店、あまり品物を置いていない小さな八百屋さんなんかもある。それから出版社の洒落た社屋やお粥もやっている中華料理店も。これらの大小様々な建物が街路樹のうしろに隠れるように、静かに並んでいる。

東京の、このような雰囲気の場所に来ると、私はほとんど夢見心地になってしまう。やっと歩けるようになった幼児の頃に受けた“東京”の印象が身内によみがえってきて、いまがいつなのか、自分が何者なのかといったことの輪郭がぼんやりと滲み始める。携帯電話もインターネットも、新人類みたいな若者たちのことも全部消えてしまう。

また、津の守坂辺り(四谷界隈)というと必ず思い出すのが、四谷シモンのことで、彼のこの名前は四谷片町に住んでいたことからつけられた。そうなると当然唐十郎や澁澤龍彦のことも思い出すし、金子國義のことも思い出す。國義は、麹町から四谷左門町のアパートへ移ると同時に油絵を描き始めたのだ。あとは、高橋睦郎。たしか彼は四谷愛住町に住んでいたのではなかったっけなどとやっていると、いよいよ四谷の町は現実を離れて聖地(ちと大袈裟か)の色彩を帯びてくる。

私がそんな風に、ごくごく個人的な幸福感に浸りながら坂をのぼっていると、突然、ポツポツと水滴が落ちてきた。天気雨。日傘のかげから見上げると、ビルや街路樹に縁取られた東京の空は目にも鮮やかな青色と白(積乱雲)だった。

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会社の帰り。

少し回り道をして舟町のセツモードセミナーの前まで行ってみる。
外から覗くと、改装中なのか建物のなかはガランとして、一階に改装業者のような人が出入りしている。

さらに急な石段をのぼって、壁にはめ込まれた小さなドアのガラスに顔をくっつけて覗き込んだら部屋の反対側にもガラス張りのドアがあって、視線は部屋から先の屋外へと抜けた。そこには中庭か別棟へ続く狭い石段があってトラ猫が一匹、悠然と寝そべっていた。

 
 


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