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海老日記
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2007年03月22日(木)
伯爵と25のシチュエーション


 スーツ姿の男が、花束を持って待ち構えている。
 次にこんなシチュエーションに出会えるのは、プロポーズされる時くらいだろう。しかし、それも一体何十年後の話だろう。
「T先輩、卒業おめでとうございます」
 スーツ姿の男は自分にその花束を差し出した。

「ありがと」
 受け取る。
 受け取って、喋ってみた。
「似合わないね花束」
「いえ、とてもお似合いです」
「君に似合わないね」
「……そうですね」
 この男は何を言っても笑うなあ。
 なんて思って、彼女は続けた。
「でも、こんな日くらいなら、誰でにでも花が似合うね」
 
 スーツ姿で、花束を持って待ち構えていた男は、そこで泣いた。

「ちょっと、そこは私が泣くとこなんだけれど……」
 花束を肩に担ぎ、彼女は空を仰ぎ見た。


 桜前線は、遅刻している。