初日 最新 目次 MAIL HOME


海老日記
管理人(紅鴉)
MAIL
HOME

My追加

2006年06月29日(木)
物部日記・『異象』


 「まあ、そんな日もある」
 そういう言葉を言う人と出会う。
 結構私もよく使う。
 人生で、妥協をするために、己に諦めを与えるために唱える言葉。


「まあ、いんじゃない?」
 私も他人によく言う。


 かれこれ十年以上前のことだけれど、ふと思い出した。



「まあ、そんな日もある」
 いつもそう言っている女の子がいた。
 その頃はただ、同じクラスの女の子、ということくらいしか関係のない、単なる隣の人だった。
 誰かがガラス瓶わったりだとか、体育の時間にこけたりだとか、忘れ物をしたりだとか、みんなが見てるドラマを見忘れたりした時に、彼女は口癖のように言っていた。
「まあ、そんな日もある」
 変な子だった。


「まあ、そんな日もある」
 面白い台詞は真似したがる私だったが、当時の自分のキャラクターと重ね合わせると、そういうことを口にするほど達観もしておらず、あんまり言う気にならなかった。
 彼女だけの人の慰め方。
「まあ、そんな日もある」




 ある夕方、車に轢かれた猫の死体が落ちていた。
 その隣には、例の彼女。
 いつもの台詞は、出てこない。
 私も、そんなことを連想できるほど死体になれていない。

「    」

 何に対してそう言ったのかはわからないけれど、その言葉に反応してか彼女は猫だったものから視線を外した。


 そんな日も、あった。