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2005年06月18日(土) ■ |
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物部日記・『暗夜行路の終着』 |
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今、ゆうさんの運転するスターレットの助手席に座る。 「で、結局それはなんだったわけ? つまり物部は猫の幽霊見たってこと?」 ゆうさんはバックミラーを確認しながら聞いてきた。私は首を振りもせず言葉だけで否定する。 「いや、そういうものではありません。多分偶然似た子猫を見たのでしょう。今はもう毛並みの色も思い出せないし、体ももう少し大きかったように思います。……単なる私の感傷でそう見えただけ、ってのが一番信憑性が高いですよ」 「ふうん」
そこでその会話は終わり、別のことを話し始めた。 ゆうさんがボルシチを作ったこと。魚肉ハンバーグのこと。来週の合宿のこと。藍花の性格の悪さのこと。私が帰省すること。
「ほい、着いたよ」 「ゆうさん、今日は送ってくれてありがとうございました」 「えーよ。ところでさ、物部」 「なんです?」 ゆうさんは、何の気なしに聞いてきた。 「それを佐々木には言ったわけ?」 私は軽く笑う。 「そんなこたぁ、しませんよ。お休みなさい」 「お休みー」
暗夜の向こうに消えて行くゆうさんの車を見送った後、私は家に入る。 玄関で鍵を回していると、隣の部屋から誰かが出てきた。 っていうか隣に住んでいるのは一人だけ。
「物部さん、こんばんは」 「あ、ヘルレイザーさん、こんばんは」 ヘルレイザー鎌足さんだった。
「物部さんは、今お帰りですか?」 「あ、はい。どちらか行かれるのですか?」 「今から仕事で……」 この時間から仕事か。大変だな。 私は他人行儀なあいさつを済ませて部屋に入ろうとする。
「物部さん」 呼び止められた。 「はい、なんですか?」 「あの、物部さん火曜日の夜、どちらに行かれていたのですか?」
……火曜の夜? それは、佐々木女史の部屋で飲んだ晩か?
「なんで空港の向こうに自転車でいたんですか?」
……ああ、帰り道で迷子になったときか。
「ああ、ちょっと迷子になっちゃって」 鎌足さんはきょとんとした後少し笑って、そして原付にのって暗夜の向こうへと消えていった。
私は、今度こそ部屋に戻った。 眠い。
そういえば、鎌足さんはいつ私の姿を見たのだろう。 あんなに人通りの少ない道で、気付かなかったのかなあ。 けど、眠いから、寝た。
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