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2005年06月07日(火) ■ |
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現実には伏線なんてないよ。いつだって突然だし、必然さ by鍵紫先輩 |
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佐々木女史の飼っている猫が死んだ。
飼っているというのも少し語弊がある。 ダンボールに入れられた四匹の子猫が、アパートの前にいたらしい。 見つけた佐々木女子はそれを無視しきれなかった。 「これ、飼えんかなあ?」 「私に言われても……。無理でしょ」
佐々木女子はサークルボックスにダンボールを隠した。隠したといってもキャットフードの袋や牛乳はいっぱいあるからばれているといえばばれている。
「佐々木女史。ここに置くんですか?」 「えっと……」
佐々木女子は言葉に詰まった。
サークルの中で、とりあえず大きくなるまで置いておこうということになったらしい。佐々木女子は子猫の世話をし始めた。 私は何も言わなかった。
あるとき佐々木女史のサークルの前を通るとねこの目やにをとっている佐々木女史がいた。 「慣れてますね」 「実家で飼ってたけん、ある程度は知ってるよ」 とりあえず、エサの皿を洗っておいた。
あるとき佐々木女史のサークルの前を通るとねこのえさをやっている佐々木女史がいた。 「……えさ、三回やってるんですか?」 「××くんが、昼とかはやってくれてるかな」 ダンボールから脱走した猫を捕まえた。
あるとき佐々木女史のサークルの前を通ると一匹だけタオルに包まれていた。かなり衰弱しているとのこと。 「あ、物部くんこんにちは」 「そのキャット、どうしました?」 「あ、今から病院連れてくんよ」
それから三日経つ。
お菓子の袋とかペットボトルが散らばる校舎裏に少し大きな石が置いてある。 とりあえずごみを拾って、水を入れた空き缶に摘んできた花を生けた。 手を合わせたりはしなかった。
今日、佐々木女史のサークルの前を通ると猫の目やにを取っている佐々木女史がいた。 「物部くん埋めたとこわかった?」 「ええ」 佐々木女史には、墓に参ったことも花を供えたことも言っていない。 個人的な感傷として、死んだ後から世話しても、なあ……。
「佐々木女史。私もセンチメンタルな人間です」 「そやね」
佐々木女子は子猫の目やにを取っていた。
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