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2006年12月15日(金)

某HPに押し付けた小説。2(ラグナロク・ギャグ)


フローラ司祭長の愛☆


日曜日の朝の大聖堂は平日に比べて賑やかだ。
週に一度、この日曜は一般の人も主に祈りを捧げるために礼拝に訪れるからだ。
人ごみを優雅に掻き分けて(と、いうより人々が自然と道を開けて)俺のほうに青い髪の女性が近づいてきた。

「あぁ、いましたわ、ノアル。お久しぶりね。」

・・・この顔には見覚えがある。っていうか忘れられるわけがない・・・!
アコライト教育係りチーフ、フローラ司祭長。
俺がノービスからアコライトに転職する際、色々と手助け・・・っていうか現実というものを突きつけてくれた人だ。

「お、お久しぶりです、フローラ司祭長様・・・。」
「・・・なんで後ずざりしておりますの?」

自分でも無意識に逃げ腰になっていたらしい。
・・・まあ、ファーストコミュニケーションが「アレ」ではしょうがないと思ってください(泣)

「で、何か御用でしょうか・・・?」

できることなら「誤用」であってほしいと内心願いつつ。(謎)

「えぇ、昨日エーディンとリングナートがプリーストに転職したと報告がありまして、ね。
そこであなたはどうしているのかと思って名簿を調べたら・・・まだジョブLv40にも達していないっていうじゃないの。」

個人情報保護法はどこへいきましたか、プロンテラ大聖堂・・・。できればこの人だけには知られたくなかったのに。
なぜなら。

「そこで、今日はわたくしの体力のもつ限り貴方を支援しようと思いますの!」

キタ――――(;´゚∀゚`)――――ッ!!!!
っていうか体力のもつ限りって何ですかっ!!??

「あ、あの!体調が悪いのでしたら、ご無理せずに!俺・・・いや、僕なら急いで転職するつもりもないんでっ!!!」
「あぁ、いえいえ。体調が悪いってわけじゃないんですのよ。ただ、ちょっと昨日の朝8時からずっとおきてるだけで。」

寝 て く だ さ い ! !

「まぁ、今日は調子もいいのでこのまま貴方を転職させちゃおうと思いまして!」

ホ ン ト も う 頼 み ま す か ら 寝 て く だ さ い ! ! !
寝不足という言葉は貴女の辞書には存在しませんか。そうですか・・・。

「大丈夫ですわ。今日は強力な助っ人もいらっしゃいましてよ。」

そういって彼女の後ろからゆうに180cmを越える長身の男性が姿を現した。

「紅玉 斬玖と申します。」

短く挨拶をしてくれたその人は大きな十字架の模様の甲冑をつけている。・・・どうやらロードナイトらしい。

「あ、はい。俺はノアル=ヴァンシュタインといいます。よろしくお願いします。」

右手で握手をしたときに見えたギルドエンブレムから察するにどうやらフローラ司祭長と同じギルドらしい。
そしてフローラ司祭長がにこにこと「にくきゅーぱんち!」というPTを配りながら驚くべき事実を突きつけてきた。

「斬玖さんはわたくしの旦那様、つまり夫ですのよ。」
「は・・・?えええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!???」

・・・俺の驚いた声は大聖堂中に響き渡り、当たり前に一般人を驚かせてしまった。
後程カルロ司教が他の司教たちに怒られたのはいうまでもない。



アマツ、畳の迷宮。
嗚呼、ここには来たくなかったのに・・・。
カブキ忍者とかカブキ忍者とかカブキ忍者とか・・・トラウマでしかないのに・・・。
それをフローラ司祭長に伝えたら。

「じゃあ、カタコンベにします?ただ、今はダークロード様が闊歩なさってますけど。」

と、笑顔で新たなトラウマ作成宣言をされた日にゃぁアマツで手を打たざるを得ません。

「ノアルは少し臆病すぎますわねぇ。
わたくしはアコになったばかりのとき、遊び臨時狩でダークロード様に初めてお会いして微弱ながらもヒール砲をお見舞いさせていただきましたのに。」

何だその、つわものどもが、夢のアコ。(のある芭蕉)
土下座して頼みますので、俺には普通のアコライト人生を歩ませてください。

「・・・しかし、司祭長が結婚していたなんて・・・意外でした。」
「そう、かしら?」
「だって、それならもっと話題になってるはずでしょう?」

そう、結構知られざる真実なのだ。
先ほど命・・・世間知らずな後輩アコライトたちがフローラ司祭長について話しているのを思い出した。

「あ゛ー!やっぱフローラ司祭長いいよなっ!」
「おまえノンケだもんなー。俺だったらぜってーユイさんだけど!」
「でもでも、フローラ司祭長が「好き・・・」とか言ってきたらどーするよ!?」
「付 き 合 い ま す ね !」
「だろっ!?あー、彼氏とかいんのかなー!?」

(・・・アホらし。それ以前に相手にされんよ、お前らじゃ。)

結婚してなかろーが相手にされないが、ロードナイト相手じゃそこらのアコが束になってもかなわないな。
っていうか、早く夢から覚めたほうがいいぞ、お前ら。

「んー、まあ結婚して1年経ちますし。それほどたいしたことじゃないわ。ね?」
「そうだのぅ。」

フローラ司祭長がにこっと微笑んでペコペコに騎乗した斬玖さんを見上げる。
斬玖さんも少し目を細めてフローラ司祭長を見下ろす。
それを見て、すこし居心地が悪くなったのと同時にふっと脳裏に一人のアサシンの顔が横切った。

(今、何やってんのかな、アイツ・・・)

斬玖さんがタゲをとった銃奇兵にフローラ司祭長がレックスエーテルナをかけた後俺がヒール砲で倒す。
支援は全てフローラ司祭長。マグニフィカートもあるので、回復剤いらずでさくさくとレベルが上がっていく。
カブキ忍者も斬玖さんが即座に倒してくれるし、楽すぎるので3人で会話しながら畳の迷宮を進む。
しばらくすると、後ろのほうからアコライトたちの叫び声が聞こえてきた。

「て・・・っテロだぁああああ!!」
「えっ!?」

ここはアマツの畳の迷宮。アコライト達のソロとしても有名なところ。
時々、アコライトには絶対手におえないカブキ忍者が現れることもあるけれど、先輩プリースト達が倒せる。
テレポートができない分、テロなどが起こることはほぼないのだが・・・。

「うわあああぁぁ!!助けてー!!」
「大変!行きましょう、斬玖さん!!」

アコライトたちの悲鳴のするほうへ駆け出そうとするフローラ司祭長。
それに続・・・かない斬玖さん・・・!?

「・・・遠いし、ウチ達が着くコロにはもう処理されてるんじゃないかな・・・。」

・・・あの、少し面倒そうに見えるのは気のせいですか!?
そんな斬玖さんの言葉に駆け出そうとしていたフローラ司祭長はくるりと振り返り極上の笑顔でこう言った。

「・・・じゃぁ、このままテロを鎮圧しにいくか、ニブルに離婚届を出しに行くかどちらになさいます?」
「イヤン。テロ鎮圧にイキマス。」

(;´Д`)・・・!?
ロードナイトの威厳もクソもなく、即座にフローラ司祭長の意向に従う斬玖さん。
俺はこのとき気づいた。

・・・この人も被害者なんだな、と・・・。

騎乗ペコ「ペコ玉吉」(斬玖命名)に乗った斬玖さんを先頭に俺たちはテロ現場に駆けつけた。
現場は思っていたよりも酷く、アコライトやプリーストでは手に負えない魔物たちで溢れかえっていた。

「行きますわよ!ノアルは死なないように援護してくださいね。ブレッシング、速度増加、アスムプティオ!!」

高速詠唱を自慢とするフローラ司祭長が斬玖さんと他に戦えそうな人たちに次々と支援スキルをかけていく。
先ほど面倒くさそうにしていた斬玖さんだが、一変してロードナイトとしての力を存分に発揮していた。

「食らえ、ボウリングバッシュ!!!」

勢いよく振り下ろされた槍にモンスターが吹き飛ばされ他のモンスター達を巻き込んでなぎ倒されていく。
倒されたモンスター達の後ろから次々と新手が現れ、斬玖さんが皆の盾となって一身に攻撃を受けている。

「・・・!斬玖さん、上!!」

瞬間、フローラ司祭長が声を上げる。
そのおかげで斬玖さんがペコ玉吉をかがませ、装備していたキャップだけが犠牲となる形になった。
キャップを見るも無残な形にしたのは、俺が初めて見たあの有名な深淵の騎士・・・!

「まぁ・・・これでは『か弱い』アコさんプリさんでは歯が立ちませんわね・・・。」
「どっかの廃プリはアスム・セイフティウォール・ホーリーライトで無傷で倒しますけどね・・・。」
「何やってんすか・・・フローラ司祭長・・・。」
「まぁ!そんなしょっちゅうやってるお遊びじゃなくってよ!それよりわたくしより
ギルドマスター様なんかは毎日+10トリプルブラッディチェインでしばきにいっておりますもの!」

あんたんとこのギルドはどういう・・・もう、いいや。頭いてぇ。

「ん、行くか。コンセントレーション、オーラブレイド!!」
「イムポシティオマヌス!アスペルシオ!!レックスエーテルナ!!!」

攻撃力をさらに高め、斬玖さんの闘気が空気を伝って感じられるほどになる。
先ほどの能力上昇スキルにくわえ、武器の威力を高める祈りをささげるフローラ司祭長。
流石に夫婦だけあってコンビネーションは抜群だ。
レックスエーテルナのチリリンという合図と同時に斬玖さんのピアースの技が炸裂し、人々から恐れられている深淵の騎士はなす術もなく崩れ落ちていった。
しかし、それで終わったわけではない。魔物たちはまだまだ他にいるのだ。
槍を握り締める斬玖さんの横顔が少しつらそうに見える。流石にSPが付きかけているのだろう。
そこでフローラ司祭長が愛用のスペルフローグローブを取り外し、きらりと誓いのダイヤがまぶしい結婚指輪をはめる。
そうか、婚姻したもの同士でSPを分け与えられるスキルがあったっけ!
その際に必要な愛の言葉を伝えるためにフローラ司祭長が大きく息を吸う。そして放たれる・・・

「斬玖さんの犬耳と肉球が好きー!大好きー!!愛してるぅー!!!」

・・・愛の、言葉・・・!?

「何じゃそりゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!????」

俺は今日一日分の貯まったツッコミをすべて吐き出すかのように腹の底から声をあげてフローラ司祭長に裏拳をかました。
だが、改めてよくみてみると、斬玖さんの頭には二つ、白毛の動物耳がついている。

「斬玖さん、母方の祖父様は人狼(ワーウルフ)でしたのよ。それで隔世遺伝で斬玖さんに犬耳がついておりますの。」
「あー・・・、そういえばアサシンギルドのやつにもワーキャットってのがいましたっけ・・・。」

知り合いのプリーストの恋人のアサシンを思い出す。あんまり面識はないけど。
しかし、それでもしっかりSP回復してるあたり、悲しいですね・・・斬玖さん。

数回ボウリングバッシュをかましてテロで呼び出された魔物を一掃してきた斬玖さんが俺たちの元に戻ってきた。
一言「肉球はないぞ。」と言って疲れ果てたのか意識を手放してペコ玉吉からずり落ちてフローラ司祭長がしっかりそれをキャッチする。
フローラ司祭長は意識のない斬玖さんをよしよしと頭をなでながらしっかり胸に抱え込んで最大級のヒールをかける。傍から見れば見事なバカップルぶりだ。

「フローラ司祭長、・・・もしかして、斬玖さんを結婚相手に選んだ理由って・・・?!」
「わんこだから。」

俺の質問に答えるフローラ司祭長の瞳に嘘偽りどころか迷いさえも微塵も感じられなかった。

そして、斬玖さんが寝てしまったため俺の転職までの壁は中止。
そこで各自解散となった。

家に帰り着いてから晩飯を作りながらフローラ司祭長と斬玖さんのことを思い返す。
・・・効率がどうとかスキルが便利だとか転生2次職だと見栄えがいいとかより全然純粋なのだが、
それが理由よりも「わんこだから」といわれた斬玖さんが可哀想な気がしてならなかった。
そうだ、今度一緒にゴハンでも食べに行こう。
今日のお礼に愚痴なのか惚気なのかなんなのかわからない話を聞いてあげるのもいいかもしれない。


終。



      

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