2006年09月16日(土)
HighLevel Love(ラグナロク・モンク×セージ)
|
「発頸!発頸!気孔!発頸!!」 「ナパームビート!!」 「発頸!!」
ここはタートルダンジョン1F。数ある狩場の中でも屈指の高効率を誇るところ。 プリーストとモンクのペアや、モンクのソロでは王道の場所である。 しかし、今は一風変わったペアがここにいた。
「クリス、そっちタゲとって。発頸!気孔!!発頸!!発頸!!!」 「わかりました、ナパームビート!!」 「ナーイス!発頸!!っと・・・」
見える限りのあらかたのモンスターを倒し、一息つく赤い髪のモンク。名をオッズという。
「オッズ、無茶しすぎです。貴方はここのモンスター相手では50%も回避できないのですよ?」
一方、クリスと呼ばれた青年は知的な雰囲気と端麗な容姿をしているセージ。流れるような長い銀の髪を後ろに高く結っている。
「だーいじょーぶだって。もしオイラがタゲられても発頸ですぐにちょちょいとやっつけるってば」
注意を受けたオッズはまったく気にしておらず、先ほどモンスターから攻撃を受けてできた傷にヒールをかけながら答える。 ふと、クリスの腕が怪我をしているのに気づいた。
「クリス、怪我してるじゃん!」
先ほどまでひょうきんだったオッズの表情が険しくなる。その急変化にクリスはいつもの冷静さを欠いて戸惑った。
「あ・・・、いえ、これくらいなら自然治癒で十ぶ・・・」 「ダメだよ、クリスはせっかく綺麗な見た目してんだから痕残っちゃったら大変じゃん!」
クリスの言葉も終わらないうちにオッズは強引にヒールをかけながらクリスを叱る。
(心配してくれるのは嬉しいけど・・・綺麗な見た目・・・ってのはなぁ・・・)
クリスは心の中で嘆息する。オッズは以前からクリスのことを「綺麗」とか「美人」とかといった言葉で形容したがる。 オッズは同盟ギルドでも屈指の阿修羅覇王拳を使うSTR型で男らしい筋肉を持っていて、それとは逆に自分は学問を究める道を進んだ故に筋肉質とは程遠い体型をしている。 ・・・とは言っても、攻城戦のときに活躍できるようにとVIT(体力)を鍛えてはいるのでまったくのガリガリではない、・・・と思うのだが。
「ほら、これでよし。クリスのほうこそ無茶しちゃダメだぞ!」
すっかり傷の癒えた腕をぽんとやさしく叩いてオッズは愛嬌のある笑顔を見せた。
(あ・・・まただ、弱いんですよね、この笑顔・・・)
オッズの笑顔を眩しそうに見つめて、クリスは心の中で降参の白旗を揚げた。 「綺麗」や「美人」と言った形容も普段なら癪に障るのに、オッズのこの無邪気な笑顔を見せられたら何故か無条件に許してしまう。 毒気を抜かれる、とはこのことなのだろうか?
「・・・ありがとう、ございます・・・」 「いいってことさ。さ、もうひと頑張りしよっか!」
言葉を終えるとともにオッズは気孔の玉を連続して5つ出す。 クリスも横に並んでナパームビートの呪文を用意して索敵を開始する。
いつからだっただろう・・・?暇なときにこんな風にオッズと二人で狩に行くようになったのは。 自分は攻城戦で活躍できるようにと、通常のセージとは違って、体力(VIT)を主流に、器用さ(DEX)を重点的に鍛えたため、魔力の強さともなる知力(INT)はほとんど修行を積まなかった。 なので、当然、魔法や、打撃攻撃でのソロ狩は(ry となる。 仲間が集まれば、モンスターを釣ってくる係りとして活躍できなくもないが、そういう大人数狩自体、そう毎日あるわけでもない。 ギルド狩もない、いつもの平日に暇を持て余していると、他でもないオッズが誘いかけてきた。
『よかったら、一緒に狩にいかない?』
そのときは、同じギルドのプリースト・フローラと一緒に狩に行くようだったが、同情からだったのかオッズが誘いかけてくれた。 しかし、さすがに吸い上げでしかないと感じられたため断ったのだが、オッズの執念の説得と、フローラの「人数が多いほうが楽しいにきまっておりますわ」というナイスフォローによって、行くことにした。 自分はタゲ取りをし、フローラにはレックスエーテルナに専念してもらい、3人でなかなかの効率を出せたのでその後は遠慮することなく3人で狩にいけるようになった。 ただ、フローラは夫がいていつでも自分達と狩にいけるという状態でもないので、フローラがこれないときはペアで、というのがいつの間にか普通になってきていた。
「おーい、クリス、そろそろ戻らんかね?」
いつの間にか狩り始めて2刻ほど過ぎていたらしい。さすがに回復剤も底をついてきたため、戻ることになった。 オッズが出した空間転移(ワープポータル)の呪文でギルドの溜まり場である、モロクへと戻った。
「お疲れ様ー!」 「お疲れ様」
清算は、ない。高額のレアアイテムなんて落ちない、効率だけを求めるタートルダンジョンにそんなものは必要ない。 休憩を挟んだとはいえ、長時間の過激な狩にオッズとクリスは溜まり場の横にある小屋の壁にもたれかかる。 ここは日陰になっていて、モロクの焼けるような直射日光も防いでくれるため疲れを癒すには最適の場所だ。 幸い、溜まり場には他のギルドメンバーはいないためオッズとクリスの二人締めとなる。 気持ちも体もリラックスしたところで、クリスは狩り中にふと疑問に思ったことを訊いて見ようと思った。
「ところで、オッズ。どうしていつも僕なんかを狩に誘ってくれるんですか?」
本当に、少しだけ。何気なく疑問に思ったことを口にしただけだったのに・・・
「んなの、決まってるジャン。誰だって好きな人の力になりたいって思うでしょ?オイラもそうしただけさ。」 「・・・そうか・・・。・・・ん?・・・って、えぇ!?」
返ってきた答えは予想していたのとは少し違っているもので、クリスは素っ頓狂な声をあげた。
「そ、それは・・・どういう・・・意味・・・ですか・・・?」 「ん、そのまんまの意味だけど?」
おろおろとした表情をするクリスとは真反対に、いつもどおりの表情で言い切るオッズ。 だけど、次の瞬間オッズはいたずらを思いついたような表情となった。
「んー、そうだね、わかりやすく表現するとこんな感じかな?」 「・・・っ〜〜〜!!!!1111」
職業柄の癖で、オッズの言葉の意味をクリスなりに考えて考えすぎて隙の出きたのだ。 クリスの顔にオッズの顔が急接近する。 素早さ(AGI)が初期値のまま鍛えてないクリスは避けることができるはずもなく・・・
オッズはクリスに、キスをした。
「・・・お、オッズ!!あなたという人は、何ていうことを・・・!!!」 「何って、わかりやすかったでしょ?」
あせりまくって声を荒げるクリスとは打って変わって、いつもどおり無邪気に微笑むオッズ。 けれど、また次の瞬間オッズの表情が変わる。
「キスじゃ全然物足りないけどね。」 「!!!!」
クリスは思わず腰をつけたまま一歩後ずざる。・・・先ほどキスされた口に手を当てて。 今まで見たこともないオッズの表情に気圧されたのか。 「男」の表情に。
「まあ、今はキスだけで我慢してあげる。イキナリあれもこれもしたらクリスの思考回路が爆発しそうだし♪」
一瞬だけ「男」の表情を見せたオッズはすぐにいつもどおりの少年のような表情でにこっと無邪気な笑顔を見せる。 クリスはといえば、先ほどと同じ、座って口に手を当てたままの状態で放心している。 もう十分に思考回路はショートしかけているのだ。
「さて、今日はもう休むね。まあ、夜にまた起きれたらまた会おうよ!」
放心しているクリスをよそに宿に戻ろうと(ログアウト)するオッズ。最後に、振り返って
「クリスの心の準備ができたら・・・続きしようか。」
と、先ほどの「男」の表情でにんまりと笑う。 その表情にクリスはまた過敏に反応し、ずざざと2歩ほど後退して後ろにあった木箱にぶつかる。 そのさまを見てオッズはあははと笑いながら宿へと戻った(ログアウト)。
クリスは、放心状態のまま考えていた。 考えすぎで思考が洪水のようなほど考えていた。 なぜオッズは自分なんかを好きだと言ったのか・・・? もしかして自分は女だと思われていないか? いや、そんなわけあるはずがない。 では、男だとわかった上での告白なのか・・・。
色々と疑問や仮定論が洪水のように溢れてくる。 だけど、ひとかけらの疑問が浮かび上がる。
(オッズにキスされて・・・僕は嫌だとか、気持ち悪いとか感じなかった・・・!?)
そんな考えがよぎってぶんぶんと頭を勢いよく左右に振る。
(イヤとか気持ち悪いとかはオッズに対して失礼だ!そうじゃない、そうじゃなくて・・・・・・でも・・・)
ぐちゃぐちゃになりそうな頭をなんとか上げてモロクの灼熱の太陽を見る。
(・・・あつ・・・なんか、もう疲れた・・・今日はやすも・・・)
ふらふらと頼りなげな足取りでクリスも宿に向かう。 先ほどオッズにキスされた唇と、胸の奥に何かうずくものを感じながら。
|