ゆうべのことば

2018年07月02日(月) おやすみ

「今日はとても風が強いのね」
天にも昇る気持ちで舞い踊る皆を見送る
わたしは昔からノリの悪い女の子だった

「私の瞼はとても器用なの」
そう言って彼女はパチパチ拍手する
「瞬きひとつで人を殴る事だって出来るのよ」

「いたいのいたいのとんでいけ」
優しい手が囁いて
見る間に痛みが遠のいた
そうして私の目玉は今も
私の身体を見下ろしている

落ち着きのない私を
お母さんはぐるぐる縛って
お父さんは目隠しをして
妹たちは嘲笑い続けている

ふざけないで
オママゴトじゃないのよ
痕が残るくらいしっかり縛って
身動きできないように雁字搦めに
目だけじゃなくて耳も塞いで
毒を注いで喉元に刃を突き付けて
でないとオバサンになる前に
王子様が迎えに来てくれないわ



2018年06月28日(木) 波の句

果て知らぬ 白波あふれ 雲となり
果て知れぬ 海の彼方に 届け波
白しぶき 風に舞い散り 花の如
波音が 響き震わす 彼の岸辺
波音は どこの海でも 変わらずに
忘れじと 寄せて返すは 君の音
引いた後 必ず戻る 波のよう
絶え間なく 終わる事なき 波と共
波の先 目を向けた先 笑むあなた
波の音 引いた後には また寄せて
この波を あなた方にも 届けよう
波音は どこの海でも 変わらずに
波音が 響き震わす 彼の岸辺



2018年06月26日(火) はっぴー

私は誰より幸せな女の子でいなくちゃならない

出来るだけたくさんの腕に
ここに居てって言われるように
ショートパンツの似合う身軽さで

お土産にもらったマカロンを
その場で口に放り込み
空いた両手をポケットに突っ込んだ

呼ばれた名前はひと月も古くて
まるで他人みたいに響く
返事の代わりに欠伸をひとつ

皆が欲しがっているモノは
お金、時間、恋人、健康
色々あるけどつまり幸せ

だから私は誰より幸せな女の子に違いない



2017年09月28日(木) あなたに棲みたい

広い背中に拠り掛かり
頼もしい腕に頬杖ついて
指と指とを絡めながら
毛の生えた脛を 足の爪の先でくすぐる

思うさま息を吸い込んで
スッカラカンの私の中を
あなたですっかり満たしてしまおう

汗や涙や涎や血や尿や髄液や
すべてのあなたが入り混じり
すき焼きの終わりみたいにどろりとして
甘ったるいんだか塩辛いんだか
わからないまま愚図愚図している

あなた
あなた
ねえ、あなた

そっと頭上を仰ぎ見る
太陽が一番高く昇る角度で
世界を明るく照らしてくれる
穴が開いた白い顔

カラッポになったあなたの首に
私は表札を掛けた



2017年04月18日(火) 遠浅の眠り

そっと唇で食んだ水は
分厚く柔でひんやりとして
寄せては返す血潮に合わせ
膨れ上がっては萎んでいく

碇の付いた腕を掲げて
空気を掬って掻き分け掻き分け
少し左に傾きすぎると
そのまま陸地を恋しく想う

私は服を着ているのだから
砂利の不快感を恐れず
足をびたんと踏みしめて
跳ねる雫にただ浸っていればいい

沁みないように瞼を閉じれば
まばたきの音が途絶え
舌の表面を風が過ぎ去って
喉まで真っすぐ抜けていく

柔らかと温かが似て
明るいと痛いが混ざり
漸く言葉を放し飼いにする
まるで孵ったばかりのように

涎がつうと垂れ
私がはみ出す
まるで還っていくかのように


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小石ゆうべ [MAIL]

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