ゆうべのことば

2019年04月23日(火) 孤独の窓辺

昨夜見た悪夢は枕元に置き去り
蜂蜜をひと匙垂らした紅茶が香る部屋

重いカーテンの隙間から差す
針よりも細く鋭い一筋の光

それが私の心臓を貫かんとする
悪魔の毒牙でない事を
何人たりとも証明し得ない

それが如何ほど私の心を
惨めたらしく暗澹とさせるか
何人たりとも理解し得ない

目覚めなければ良かった
目覚めなければ良かった

甲高く囀り続ける鳥たちが
硝子玉の目で此方を見張っている

布団の内では何者かが息衝き
私は差し込む朝日に背を向けて
ひとり窓辺で首を垂れる



2018年07月02日(月) おやすみ

「今日はとても風が強いのね」
天にも昇る気持ちで舞い踊る皆を見送る
わたしは昔からノリの悪い女の子だった

「私の瞼はとても器用なの」
そう言って彼女はパチパチ拍手する
「瞬きひとつで人を殴る事だって出来るのよ」

「いたいのいたいのとんでいけ」
優しい手が囁いて
見る間に痛みが遠のいた
そうして私の目玉は今も
私の身体を見下ろしている

落ち着きのない私を
お母さんはぐるぐる縛って
お父さんは目隠しをして
妹たちは嘲笑い続けている

ふざけないで
オママゴトじゃないのよ
痕が残るくらいしっかり縛って
身動きできないように雁字搦めに
目だけじゃなくて耳も塞いで
毒を注いで喉元に刃を突き付けて
でないとオバサンになる前に
王子様が迎えに来てくれないわ



2018年06月28日(木) 波の句

果て知らぬ 白波あふれ 雲となり
果て知れぬ 海の彼方に 届け波
白しぶき 風に舞い散り 花の如
波音が 響き震わす 彼の岸辺
波音は どこの海でも 変わらずに
忘れじと 寄せて返すは 君の音
引いた後 必ず戻る 波のよう
絶え間なく 終わる事なき 波と共
波の先 目を向けた先 笑むあなた
波の音 引いた後には また寄せて
この波を あなた方にも 届けよう
波音は どこの海でも 変わらずに
波音が 響き震わす 彼の岸辺



2018年06月26日(火) はっぴー

私は誰より幸せな女の子でいなくちゃならない

出来るだけたくさんの腕に
ここに居てって言われるように
ショートパンツの似合う身軽さで

お土産にもらったマカロンを
その場で口に放り込み
空いた両手をポケットに突っ込んだ

呼ばれた名前はひと月も古くて
まるで他人みたいに響く
返事の代わりに欠伸をひとつ

皆が欲しがっているモノは
お金、時間、恋人、健康
色々あるけどつまり幸せ

だから私は誰より幸せな女の子に違いない



2017年09月28日(木) あなたに棲みたい

広い背中に拠り掛かり
頼もしい腕に頬杖ついて
指と指とを絡めながら
毛の生えた脛を 足の爪の先でくすぐる

思うさま息を吸い込んで
スッカラカンの私の中を
あなたですっかり満たしてしまおう

汗や涙や涎や血や尿や髄液や
すべてのあなたが入り混じり
すき焼きの終わりみたいにどろりとして
甘ったるいんだか塩辛いんだか
わからないまま愚図愚図している

あなた
あなた
ねえ、あなた

そっと頭上を仰ぎ見る
太陽が一番高く昇る角度で
世界を明るく照らしてくれる
穴が開いた白い顔

カラッポになったあなたの首に
私は表札を掛けた


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小石ゆうべ [MAIL]

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