ulala-roo on Web3
DiaryINDEXpastwill


2005年04月06日(水) ノコギリヤシとBPH、内服の前立腺癌早期発見における影響

自分が泌尿器科であるため、当然、前立腺肥大症(BPH)の患者さんの比率が多いわけだが、
患者さんの中にはいろんな健康食品を試される方がいる。

最近では、黒大豆の酢漬けというのをよく聴くのだけど、このノコギリヤシというヤツはメジャーなものらしい。

ノコギリヤシの作用は5αリダクターゼ阻害作用といわれている。

しかし、実際の人体においては、前立腺肥大症治療薬としてのノコギリヤシは、排尿機能を改善させるが、その明確な作用機序は不明なのであるそうだ。
動物実験では、5αリダクターゼ阻害作用を有するため、前立腺祖有意な組織学的変化(上皮の収縮、線組織自体の縮小)をおこすそうだが、人での研究ではそういった効果はどうも得られなかったそうなのだ。

5αリダクターゼ阻害作用といえば、簡単にいうと抗男性ホルモン作用なので、
前立腺癌の腫瘍マーカーであるPSAへの影響が懸念されるが、
この論文によると、PSAはフィナステライド(外国では用いられているメジャーなクスリ、日本ではその有効性から現在使用されている薬剤以上の効果はないであろうとのことから承認が見送られた少し悲しい運命をしょったクスリなのである。そういえばこの薬の発売に向けてプロジェクト組んでた、B製薬のK木さんは今どこで何をしているのやら・・)6ヶ月投与群では41%低下したが、
ノコゴリヤシ製剤であるPermixon6ヶ月投与群では変化がなかったとのことで、
前立腺癌発見に妨げとなることはないであろうとの結論であった。

症状を改善するのであれば(あるデータではIPSS19.0→12.4の改善が得られたそうだ)、内服OKである。
ただし、日本では内服薬としては販売されていない。

こんな事を書くのは、当院の患者さんで、ノコギリヤシ製剤を使われている方がおられ、いろいろ聞かれたので調べてわかったのだが、

そうか、始めて知った。

泌尿器科の世界ではもしかしたらみんな知っててオレだけしらんことだったのかもしれんなあと、ちょっと冷や汗が出るのであった。

(参考文献 Saw palmetto and benign prostate hyperplasia,The Ameridan Journal of Chinese Medicine,2004;32(3):331-8)


2005年03月30日(水) ●血をさらさらにするので夜水分とりなさいね・・てことについての信憑性を巡る記事。

日経メディカル(2005年)の3月号に、
『根拠ない「梗塞予防に飲水」』という記事が載っている。

血をさらさらにするために寝る前に充分な水分を取りなさいというアレに関する提言だ。

論文検索をしたところ、明らかに飲水による血液粘稠度の低下が脳梗塞の発症を予防できたという論拠を提示でした論文はなかったとのこと。
一般的には、通常時の食事摂取であれば、口渇時に200ml、一日で1000ml程度の水分摂取で十分だと述べている循環器Drの意見も載っている。
確かに脳梗塞の発症は早朝に多いのだが、それには早朝高血圧とかも絡んでくるので、一概に血液粘稠度との相関に関しては?という感じの論調である。

これはもともと泌尿器科医の先生(岡村菊夫Dr)からの提言なのである。

夜間頻尿はQOL低下の原因となっているので、飲水によって夜間多尿→頻尿をおこしている方は、ちょっと一考の必要ありかな、と、いう意図での記事だと思う。
自分の診ている患者さんも、夜間は遺尿に起きるたびに十分飲水をして、量もかなり出ておるようです・・といいながらそれに納得されている方と、それで夜間頻尿がよくならないという人と、また別の病態で夜間尿量が昼間尿量より多い人とかいろいろだからなあ。

では一日でどれくらいの尿量をキープすればいいのか?
大体、25-30ml/Kgとのことである。
ということは体重50kgの方で、1250-1500mlということになる。

でも、『血をさらさらにする』っていう言葉にはインパクトあるよなあ。
あなたの血はどろどろです、とかいわれたら、水ばっこばっこ飲むよなあ、普通。

まあ、これは一般記事なので、流す程度に読んどいてください。


2004年11月26日(金) STD肛門病変

とあるゲイの方からBBSの方に質問がきたので、本格的にSTD肛門病変について調べてみる。

肛門といえば肛門科の門を叩くのがすじだと思うのだが、どんなときに泌尿器科に肛門病変の方はやってこられるのか?
そりゃやっぱりナニにアナルを使用されてからおかしくなった・・なんて覚えのある方でしょうね。
ちなみに肛門病変の9割は、痔核・痔瘻・裂肛で占められているそうな。

肛門疾患の専門家の黒川彰夫先生の書いた論文を読む。

http://www5f.biglobe.ne.jp/~kurokawa/index.htm

結論から言うと、STD肛門病変も少しずつ増加している。

1.真菌症(肛門周囲に限局した強い掻痒感を伴う湿疹様病変)
2.尖圭コンジローマ(これはペニスにできるものと同様で、乳頭状の腫瘍が多発している)
3.ヘルペス(これもペニスと同様、浅い潰瘍とかびらんである)
だそうである。

渡航者とかではアメーバ赤痢があったり(これの症状は腹痛・粘血便・肛門出血・肛門内潰瘍といかにも痛く苦しそうである)、
扁平コンジローマ(顕性梅毒の第2期で肛門周囲の限局した乳白色−淡紅色の扁平な隆起病変としてみられるとのこと、症状自体は軽度の不快感程度である)とか、
AIDSによる日和見感染もあったりするとのことである。

ちなみに黒川先生の診療所でのSTD/感染症(%)(1992-2001)は

1.真菌症 45/397(11.3%)
2.尖圭コンジローマ 41/64(64.1%)
3.ヘルペス 40/59(67.8%)
4.アメーバ赤痢 9/13(69.2%)
5.梅毒 8/8(100%) おおすごい確率!
6.AIDS 2/2(100%) これもすごい!

だそうで、これって泌尿器科でお目にかかることは少ないかもしれないけど、結構なもんだ。
ちなみに自分は、肛門部の尖圭コンジローマしか実物は見たことがないけど、この若い兄ちゃんも、
神に誓ってアナルは使用していないと手術台で言ってました。

(参考文献;日医雑誌第132巻・第2号,pp199-203『STD肛門病変の診断と治療』,黒川彰夫)


ulala |HomePage