ulala-roo on Web3
DiaryINDEX|past|will
2003年11月01日(土) |
前立腺癌待機療法についての最近の考え方 |
・前立腺癌における無治療経過観察66例の経過を、がんセンターの東先生が西日本泌尿器科学会(島根)で報告するらしい。 学会の抄録を読んでいたら載っていた。
診断時のPSAの中央値が5.5で、大半はT1で、全例N0M0(転移なし)である。 5年の生存率は82.3%、前立腺癌のみに関しての生存率は100%であり、フォロー期間中に転移を認めたものはなかった、とのことである。
・西日本泌尿器科という学会誌にも、香川医大教授の筧善行先生の論文が載っている。
「PSA検診時代の前立腺癌:治療選択枝としてのactive monitoring(西日泌尿.65:491-495,2003)」というものだ。
例の天皇陛下の前立腺全摘から、検診にPSAが次々に取り入れられ、当院でも、T1C(触知不能の癌)の発見率は上昇している。 T1Cは悪性ポテンシャルの幅が広いといわれているが、最近では限局性癌を無治療で経過観察し、活動性が増したときに治療開始するというレジメも増加しているようだ。 言葉としてwatchful waitingというものとactive monitoringというのがあるようだが、いずれにしても要注意でフォローしてしかるべき時からしかるべき治療を開始するという積極的なニュアンスだそうだ。
北欧での研究では、限局性前立腺癌では、非担癌患者と変わらない生存曲線が得られたというデータだそうだ。もっともこれはPSAの普及される前のデータなので多少のバイアスがかかっている。
また、スウェーデンとアメリカで早期限局癌に対しての待機療法と全摘術の比較検討の中間報告がなされたが、それでは、生存率に差はないものの、疾患特異的死亡率および転移出現率では5-6年目からは手術群の方が有意に低かったとのことである。 これもランダム試験なのだが。
前立腺全摘に関しては、天皇陛下のPSA値がわずかであるが感度内に入ってきたとか、ちょっとした話題だったり、先日腹腔鏡下前立腺全摘術で未熟な術者が延々と手術を続けてそのあげくの死亡例があったりとか、世の泌尿器科医は物議を醸し評価は地に落ちているのかもしれないとかも話題である。
それはさておき、手術による副作用としての排尿障害とか勃起不全・放射線治療による直腸障害などが、待機療法では避けられるというメリットがあるが、患者サイド(特に日本人とかは)からすれば何も治療をしないで様子を見ましょうというのはやはりヒヤヒヤものである、という精神的デメリットがあるのだろう。 それで待機療法に関しては???の部分も多いのだと個人的には思う。 日本の医療は薬出してなんぼって図式でずっと来たし、そうしないと儲からない仕組みができてるしね。
著者らは厚生労働省がん研究助成金で、50-80歳T1C癌患者・PSA20以下・生検で1/6陽性・グリソンスコア6以下の症例に対して、無治療経過観察をおこなうというプロトコールを2000年から開始しており、PSA倍加時間で待機治療の継続か中止勧告(次の治療に変更するかそのままにするか)を行うこととし、経過を報告している。 2002.12までに48例中39例が待機療法を継続中で、癌死は0とのデータである。
こういった事柄に対して、もっとデータが集まるといいなと思う。
2003年10月20日(月) |
間質性膀胱炎について |
過活動性膀胱(OAB)に関して自分なりにまとめていたのだが、どうもこちらも収拾がつかず、あまり自分もよく知らなかった間質性膀胱炎が、アメリカでは100万人以上いる、という記事を見たので、若干の解説と自分の勉強をする。
女性の尿意切迫とか、違和感というのは結構外来でも遭遇するのだが、大半は細菌性膀胱炎である。 ところが、そう高齢でもなく、検尿所見も異常なく、それでいて、医者からは気のせいです、と一括されてしまっていたであろう人々(女性が90%だそうである)の中に、間質性膀胱炎も潜んでいるのだ。
間質性膀胱炎の症状は、頻尿と尿意切迫感で、時にはひどい痛みさえ生じる。 具体的に表現すると「膀胱の中に火かき棒を入れてかき回された」「きゅーんとしみてすぐいかんと間にあわん」「もう膀胱をのけてくれ」とかそんな感じだ。
2003年5月、京都で初の国際会議が開かれ、臨床的症状で判断する傾向が強まったとのこと。 以前の基準では膀胱鏡でハンナー潰瘍もしくは点状出血を認めたりすることが必要であったそうだ。 麻酔下水圧拡張時に筋線維のバンドが、尿路上皮の血管の血行を妨げ、痛みを生じ、水圧を解除してゆくと血行が再開され点状出血が起こるというのが典型的な所見だそうだ。 過活動性膀胱という膀胱平滑筋の過活動状態に対して、間質性膀胱炎は尿路上皮とか血行によるものと考えるとわかりやすいと書かれていた。
そういえば、自分の患者さんにも、いくら抗コリン剤とかトフラニール使っても頻尿が治らない、初老の女性がいた。彼女には膀胱鏡も施行し組織検査もしたのだが、異常なしとのことだった(麻酔下拡張はしなかったなあ)。
で、治療なのだが、一時的には水圧による拡張(下半身麻酔で膀胱内にゆっくり生食を1時間くらいかけて注入してゆき膀胱を進展させる。麻酔なしでは50ml程度の注入で苦痛と排尿が生じてしまう)が有効だそうで、これは膀胱粘膜下にあるGAG鎖にくっついたいろんな因子(サイトカインや成長因子)を一時的に遊離させるためと考えられている。
・抗コリン剤 ・カプサイシン ・レジニフェラトキシン ・イミプラミン(トフラニール) ・DMSO膀胱内直接注入(C求心性繊維を脱感作しブロックする) ・抗ヒスタミン剤(肥満細胞を抑制する意味でIPDなどが有用視されているそうな)
とかいうのが治療法だ。
著者らはIPDの有用性を示している。14例中1回排尿量が平均87.5→179ml(4ヶ月後)という素晴らしいものである。
知らないと診断には結びつかないのが間質性膀胱炎で、常にこの疾患も念頭において置かねばならない。
参考文献
1)日系メディカル2003.10,p127-131「見逃される間質性膀胱炎」,上田朋宏(公立甲賀病院泌尿器科副部長) 2)間質性膀胱炎に対するIPD-1151T経口投与の有効性と問題点(J.Urol,2000,164;1917-1920,Ueda T et al.)
2003年07月23日(水) |
おねしょの薬・デスモプレシン・スプレーがついに発売された!! |
やっと、デスモプレシン(抗利尿ホルモン)のスプレーが発売され、尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症に対する適応となった。 具体的には夜尿の見られた翌朝起床時の尿浸透圧が800mOsm/L以下、あるいは、尿比重が1.022以下の夜尿症に適応とされている。
使用法は眠前に1プッシュ点鼻(10マイクログラム)で2プッシュまで増量可とのことだ。
改善率は53.6%とのこと。
副作用として、頭痛(1.3%)、食欲不振(1.3%)、嘔気(1.0%)、顔面浮腫(1.0%)を認めた。また日本では報告がないが、抗利尿ホルモンの化学合成誘導体であるため、体内にNa(水)を蓄積させる水中毒の危険性もある。
ちょっと困るのが遺尿症の治療薬として用いているトフラニール(塩酸イミプラミン)と相互作用があり、低Na血症性のけいれん発作の報告があるとのこと。 どうしてそうなるのかというと、トフラニールにも抗利尿ホルモンを分泌する作用があるとのことで(知りませんでした)、デスモプレシンの作用を増強するのだそうだ。 併用は有用と考えているが、慎重に使わなければならないのだろう。
とにかく、セカンドラインの治療として、今後は、こういった治療薬の説明も初回受診時にしておく必要があるのだろう。
http://www.kyowa.co.jp/onesho 夜尿症(おねしょ)ナビというサイトを発売元が制作されているので、興味のある方はのぞいてみるといいと思う。
|