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2002年08月05日(月) 二次性副甲状腺機能亢進症の病態と治療

A.何が困るか?

1.線維性骨炎を起こし、骨量が変形したり、ひどい場合は骨格が変形する
2.生命予後を悪化させる
 異所性石灰化を生じ、血管の虚血性変化を起こすとともに、心臓の弁の石灰化を起こし弁膜症を生じる。その結果心血管系合併症の頻度が高まる。
3.QOLの低下
 筋力低下・イライラ感・不眠など

B.透析患者におけるiPTHの目標値

 線維性骨炎を防ぐという意味で正常の3−4倍が以前は推奨されていたが、現在はブロックらがiPTH100-200pg/mlを提唱している。

 Ca*P<55
 P<6.0(ブラックらは2.5-5.5を提唱するが本邦では6.0が妥当であろうと)
 Ca9.2-9.6mg/dl

 Pが高くても自覚症状はないが、「これが続くのは真綿で首を絞められているようなものだよ」ということを患者さんに話すと、富永先生。

C.治療の目標

・副甲状腺の過形成にも2種類ある。
 びまん性と結節性。
 過形成の程度がひどくなるにつれ、びまん性から結節性に移行してゆくことがわかってきている。上皮小体は500mg以上(長径1cm以上)に腫大するとほとんど結節性となるため、そうならないように内科的治療でくい止める必要あり。

・いずれにせよ、透析による生存率ものびてきており、生命予後に影響を与える1ファクターとして、副甲状腺機能亢進症も考えてゆかねばならず、名古屋赤十字病院外科の富永先生(日本における権威)は、iPTH500を越えるような結節性過形成は、現時点の治療では、副甲状腺摘除術(PTx)が望ましいと述べられている。

・また、座談会の最後に、熊本泌尿器科病院の野上先生が面白い知見を述べられていました。
 二次性副甲状腺機能亢進症によって骨がもろくなり、骨折はおきやすくなるのか?という問いに対して、骨粗鬆症関連の研究からは、必ずしも相関しないということがわかってきており、iPTHが低いからといって骨折しやすいわけではなく、骨折の既往や骨折しやすい環境(歩行に不安がある人)にある人が骨折しやすいという結果が得られたとのこと。だから転んでも骨折しないような外部環境・内部環境を整備することも重要だとのことです。あたりまえといえばあたりまえですが、そのとおりです。でもそれがもっとも難しかったりするのです。

以上(医薬ジャーナル 2002.vol.3より)



2002年07月29日(月) 第8回『愛媛県の人工透析医療を考える会』

7/27松山赤十字病院で、第8回『愛媛県の人工透析医療を考える会』。主催は日赤の原田先生である。

今回のテーマは二次性副甲状腺機能亢進症に対する治療の概要である。
まずPのコントロール、次にビタミンD内服もしくは経口パルス、そしてオキサロールの投与(これは週1では効果ないが週2なら効果あるとのこと・今後投与量を減量してゆく際のひとつのメルクマールとなるのだろう)、そして直接注入療法、また手術(これは特別講演をされた済生会八幡総合病院の安永先生が詳しく述べられた)。

当院からは、『二次性副甲状腺機能亢進症におけるマキサカルシトール直接注入法の当院での治療成績』という演題で発表をする。
当院でのオキサロール直接注入の成績は今ひとつで、その結果から推論されるのは、結局P-MITは量を増やして回数を多く入れた方がいいようだという結論になった。
それで当院でも、腫大副甲状腺体積の80%にオキサロールを3回注入していたのを、先日からは体積の100%に対してロカルトロールを6回入れるという方法に変更しており、これが成果を上げてくれるといいのだという流れになった。

また新しい話題として、Pの吸着剤としてはCa上昇作用のほとんどないリナジェル(?)というのが来年あたりにキリンと中外から出るらしく、この薬は期待できるようだ。
やはり、P/Caの両方を適正範囲におさめることも重要ではあるし、Ca*P積を55以下にすることが異所性石灰化を抑制する意味では重要でしょう。

また新しいVitD誘導体製剤であるホーネルについての発表もあった。ホーネルは(当院でも使用中)は0.3=1capがアルファロール0.75程度に相当するということらしい。

とにかく二次性副甲状腺機能亢進症による骨破壊、貧血の進行、掻痒感・イライラ感とかいうものは、何年もかけて出てくる透析の長期合併症であり、常日頃のメインテナンスが重要である。


2002年07月26日(金) 前立腺生検後のフルニエ壊疽

最近、PSAという腫瘍マーカーがでてきたせいで、前立腺癌の早期発見率が上昇している。当院でも、PSA10以下での発見が年間5−6例はある。
またクリティカル・パスを使って、前立腺生検3日間コースというのを設定し、前立腺性感・膀胱ファイバー・IVPを円滑に行えるようにしており、現在のところさしたるバリアンスも発生していないので、自分なりには、けっこう自画自賛していたのだった。

ところが今日送られてきた日本泌尿器科学会雑誌で、『経直腸的前立腺生検後にフルニエ壊疽を発症した管理不良な糖尿病患者の1例』(vol93.NO.5 p648-651,熊谷章その他、手稲渓仁会病院泌尿器科)という論文を読んだぞっとした。

この患者さんは糖尿病で、PSA8.4ng/mlで、経直腸的前立腺生検を受け、その後大腸菌によると思われる会陰部から陰嚢部への壊疽をおこし、多剤抗生剤投与・人工呼吸・CHDF・エンドトキシン吸着など全ての手段を尽くしたにもかかわらず、生検後10日目に死亡してしまったのであった。
フルニエ壊疽では、急激に感染が拡がり、組織の壊死が起こる。致死率は8-67%である。治療は原疾患の治療・早期外科処置・広域スペクトラムの抗生剤投与・γグロブリン投与などである。基礎疾患を有するものが82.4%で、そのうち糖尿病が約53%とのことだ。

フルニエ壊疽ではないが、大学に勤めている時に僕も1例、前立腺生検後3日目に、急性の多臓器不全を起こした患者さんを経験したことがある。
教授回診が終わり、何事も起こらずほっとしていると、目の前で患者さんがけいれんを始めた。いろいろ調べて内科の先生に髄液穿刺までしてもらった(髄膜炎疑いで)が、原因不明で、多臓器不全が生じたが、保存的治療だけで1ヶ月あまりで軽快され退院となった。それ以来、前立腺生検の前の直腸の処置と抗生剤投与はますます慎重に行っている。

それにしても糖尿病患者さんの前立腺生検は怖いものだな、と考えさせられました。


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