2007年09月03日(月) |
やさしいうたはうたえない |
老人介護の 問題提起は 現代社会の 人間関係の 希薄さを 我々全員に突きつけています。
地域の 福祉は 善意の 奉仕によって まかなわれるものの やはり 現代社会の人間関係の希薄さ、からは逃れられません。
そこで 青少年の老人介護のガイドライン をここに策定し 十代前半、学なりがたし 六十代でも迷いっぱなし 世代を越えて二つの世界 前途洋々、ようよう来たのう 迎えてくれるに違いない めでたしめでたし、芽も出たし あとは野となれ山となれというわけです。
ただし 不特定多数の青少年と 不特定多数のボケ老人 不特定多数と不特定多数を足すことで 不慮の不幸が起こらないとも限らない。
そこで 現代社会の人間関係の希薄さを利用し 面と向かって言えないことに 僕たち、私たちは、 人にやさしいモールス信号を用いることを ここに宣言します。
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おばあさん おばあさん over?
おばあさん おばあさん おーばー?
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リクライニングベッドからは、幾本かのチューブが伸びていた。 ジリジリと鳴るモールス信号に起こされ 私は小さくためいきをつく。 カーテンレールには雪見草が宙吊りにされていた。 玄関に昨日まで飾られていたのだった。 その横には、一昨日の雪見草。 ヘルパーに雪見草の思い出話をしたら、それ以来ずっとこうだ。 整然と並ぶ雪見草は、三日もおくとからからになった。 そのうち、その列に加えてもらおうかな。
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ドライフラワーに ドライフラワーに おばあさん
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初めてトメゾウさんのオムツ換えをしたのは、私が中学二年生のときだった。私は当然のようにトメゾウさん、のうんこに触れた。トメゾウさんのうんこはとてもくさかった。指のあいだも、爪の隙間も、とてもとてもくさかった。だんだんトメゾウさんがくさく思えて、私はトメゾウさんの目じりに浮かんだ目やに、を見て、えづいてしまった。えづいて、吐いた。トメゾウさんは口をあけたまま、ぼんやりとまばたきをして、ぼんやりと朝ごはんを何度もねだった。くさくてたまらなかった。でもなぜか、私は手を洗わなかった。トメゾウさんの、うんこがからからに乾いてくさくなくなるまで、私は手を、洗えなかった。
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ひとつ。 僕たちは、やさしい言葉づかいに気を使います。
この文脈における「やさしい」とは ゆとり、教育における円周率3,14をおよそ3としてあげるやさしさではなく 旅先のトイレのドアをあけたとき、洋式、かつウォシュレットがついている そんなやさしさ しかし過ぎたるは及ばざるがごとし 浮気相手のトイレのティッシュペーパーを三角に折って出て行く そんなやさしさ は、ときに人を傷つけます
過度な老人扱いは人間関係の円滑さ、を損なうのです。 ジェネレーションギャップとは、越えてはいけない一線、という意味です。
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不特定多数と不特定多数を足して 不特定多数と不特定多数の
先生は僕に みんなと仲良くしなさいと言ったので 僕は不特定多数と人間関係をかけて、友情を演算する。 それが初めて習った連立方程式だった。 この国の小学生の半分は とっくに円周率も人間関係も人生設計も終えていた。 でもEnterがわからなくて、およそ3のままで涙目になる。 どこかでかけちがえている。
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夏休みの自由研究に、先生は老人介護を推奨した。 文部省指定のおばあさんと、人にやさしいモールス信号をかわす。
つーとん、つーつー。 つーとん、つーとん、つーとんとん。
でたらめで、意味も知らずに。 小さくため息をつく。 おばあさん、おばあさん、over?
とんとん。 おばあさんのため息が、耳をなぜた。 いますぐ電車に乗りたかった。
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不特定多数の青少年、と 不特定多数のボケ老人、が 同じ部屋にいるとため息しかでない という連立方程式 にもとづいて、面会は禁じられているのだった。
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やさしいうたはうたえない 雪見草のような ため息のような 足し算と、足し算と、足し算と、やさしい
ぼくらはおよそでしか、物事をはかれない
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つーとん、つーとん、つーとんとん。 つーとん、とんとん、つーつーつーつーつー つーつーつー つーつーつー ツーツーつー ツぅ。
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over? over? おばあさん?
おばあさん?
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不特定多数の青少年と 不特定多数のボケ老人と 不特定多数のドライフラワー
ジリジリと鳴り響くモールス信号 のびきったチューブ めくれたタオルケット かきむしる ガラス だらしない不協和音が 不特定多数の青少年と 不特定多数のボケ老人と 不特定多数のドライフラワーと 不特定多数のみんなの耳に鳴り響いて
静かなのは、雪見草だけだった
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おばあちゃん!! おばあちゃん!! おばあちゃん おばあちゃん、ん おばあ、
over....
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先生が みんなと仲良くしなさいと言っていたころ 僕はもう、夏休みの宿題を終えていた 僕らはもう、夏休みの宿題を終えていた すべて、終えていた すべて、およそでしか、はかれなかった
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