2004年03月26日(金) |
ラブラブSHOW(ヨコヒナ編) |
「ヒナ」 「あかんよ」
呼びかけただけなのに、即答されて、横山はがっくりとうな垂れた。 久しぶりの二人きりの時間。いつものラジオが終った深夜のホテル。そら、期待するなっていうのが間違いなんじゃない? けど、愛しい恋人は、明日の撮りある番組の台本を眺めたまま、自分の顔を見ない。 呼びかけても生返事。少しづつそばによっても気付かない。なら・・・と肩に触れても、動く気配なし。 もしかして、いける?思って、自分のほうを向いてほしくて呼びかけただけなのに。 名前を呼んだ途端、拒否られた。
「なんも言うてへんやん」 そう、自分はまだ。これからなにがしたいのか。言った覚えがない。台本まっしぐらの村上が気付くわけがない。 けれど。 「明日早いから、アカンよ」 なにが、なんて言わず。きっぱりと切り捨てるかのように言う村上。 それは正しく、今横山が何を考えたのかわかってて。それへの答えだったと言ってるも同然で。 「やから、なんも言うてへんやん・・・・」 小さく呟いたけれど、それすら見逃さず。「アカンよ」と駄目押しされてしまった。 いつも頼りになる、村上のアンテナ・ツッコミだけれど。 (こんな返事やったら、いらんわ!) 嘆いたところで、それを故意に育てた自分が悪いわけで。 「もうええ!」 ふて腐れて、布団を被った。 別に、ヤるだけが目的ではない(もちろんん、最終目的だけれど) ただ、二人だけの時間が欲しくて。せっかく、二人だけの空間なのに、自分を見ようとしない村上に、少し腹がたって。自分に視線を向けてほしくて。その手段として、名前を呼んだだけなのに。 その言葉の奥深くの意味すら読みとって。先手を打って。シャットアウトしてしまう村上の態度に。横山は腹を立てていた。 旅行にも誘われない。新居にも招かれない。俺は、おまえにとって、なんや? 恋人だったはずだ。少なくとも、この数年は、確かに恋人であったはずだ。 しかしこの一年。気付けば自分が欲しいと思った言葉を、全て他のやつがもらっていた。 会いたいとか。寂しいとか。どこか遠くへいきたいって弱気な言葉も。自分に向けられていてもいいはずだ。 それを、自分も待っていた。村上が寄りかかってくるのを、待っていた。一言、言ってくれれば。すべて叶えてあげたのに。 気付いたら、村上の姿が見えなくなっていた。 自分は、事後報告を受けるだけの存在になっていた。
恋人のはずなのに。
なんで、他の男と旅行いったとか。報告されなアカンねん!
ふて腐れて、これ以上考えたくなくて。寝てしまおうと思って。布団を被った。 村上の存在を。体温を感じないように。シャットアウトしてしまおうと思った。 けれど。
「ヨコ」
ふわりと、懐かしい体温が、自分を包む。 自分が恋焦がれた暖かさが、回りを包んでいく。
「ごめん。イジワルした」 「・・・・」 「ヨコ・・・・・顔、出して」 泣きそうな声が聞こえてきて。驚いて反射的に布団から顔をあげると。 今にも泣きそうな顔で、自分を見つめる視線とぶつかった。 「ヨコに嫌われたら・・・・なんも出来ひんようになってまうよ」 「ヒナ?」 「お願いだから。嫌わないで」 自分を置いていかないでと。泣きそうな顔で訴える村上。 その顔は、何度も見てきた。泣き虫といわれていた頃の村上そのもので。 泣きそうな顔を、下唇を噛んでぐっとこらえて。だけど視線は真っ直ぐ相手を見つめる。 そんな仕草がかわいくて。悲しくて。自分は、村上のそばにいようと思った。唇を噛み締めるような思い、させへんって、思った。 けれど、今の村上の顔は。自分がさせてるもので。 「嫌いになるわけないやろ」 慌てて起きあがって。肩を抱き寄せる。 嫌いに、なんて言葉。村上いんだけは、使うことないだろうと思ってるのに。 なにがあっても、嫌いになんてなれるわけがないのに。 「ほんなら、好きって言って?」 珍しく、ストレートに言葉を欲する村上に、横山はどうしようと迷ったけれど。いつも言えないのだから、求められたときだけは、言おうと思ったから。 「好きやで」 まっすぐに目を見つめて。村上だけを写した視線で言葉を紡ぐと。安心したように笑って。 「俺も、ヨコのこと、好きや」 ゆるやかに、もたれかかるカラダ。馴染んだ体温が、愛しいと思った。
2004年03月20日(土) |
『指輪』(しんごせんせいとひろきくん(ヨコヒナ)) |
「しんごせんせい〜!これ見て!」 言いながら掲げた手には。赤いガラスがついた、指輪がはめられていた。 「キレイでしょ!?」 「ああ、キレイやな。おかんに買ってもらったんか?」 「うん!」 お出かけしたときに、おもちゃやさんで売ってた。キラキラと輝いていてきれいで。しんごせんせいの目みたいやって思って。おかんに買ってもらった。 「キレイやな」 ニコニコと笑うしんごせんせい。
「結婚式しよう!」 「結婚式?」 「うん!「ちかいのことば」言うて、そんでせんせいの指輪と、僕の指輪交換すんねん!」 大きくて大好きなしんごせんせいの指に、いつもはまっているシルバーの指輪。 アクセサリーとか仕事中にはつけないのに、何故か指輪だけはしていた。 片時も離さないように、お遊戯の時間だろうとなんだろうと、指で光っていた。 「大事なものやねん」 手を掲げて、指輪を見つめながら。しんごせんせいは嬉しそうに笑っていた。 しんごせんせいを、こんな風に笑わせられる指輪が。しんごせんせいに大事にされてる指輪が、すごく欲しくて。 でも欲しい言ってもくれなかったから、交換だったら、くれるかもしれない。 銀色だけの指輪より、赤いキラキラしてる指輪のがきれいだし。こっちでいいって言ってくれるだろう。 やけど、いくらまってもせんせいから返事かえってこなくて。せんせい見てると、しんごせんせいは困ったかのような表情浮かべていた。
「これはあかんねん。交換できひんねん」 「なんでぇ?」 こんなにキレイやのに!って言うと、しんごせんせいは苦笑いを浮かべた。 「あんな、これはせんせいの大事な人からもらったもんやから、交換できひんねん」 「大事な人?」 「そう。大好きな人にもらったものやから」 「大好きな人・・・・?」 「うん。やから、ごめんな?」 大好きなしんごせんせいの、だいすきな笑顔。やけど今は、嫌いや。 ぼく以外の人のこと考えて、笑ってる顔は、大好きやけど大嫌いや。 「いやや!」 「え?」 「大好きな人がおるしんごせんせいは、嫌いや!」 「内・・・・・」 あ、しんごせんせいが困ってる。きみくんとかすばるくんが悪いことしたときに見せる顔。してる。 あかんって思ったけど。嫌われてしまうって思う。やけど。だって・・・・・ 「うわーーん!」 泣かないって、あんなに誓ったのに。泣き虫って言われるから、しんごせんせいが困ったようにするから、泣かないって決めたのに。 悲しくて。我慢できなくて。でも、困ったようなしんごせんせい見たくなくて。 「内!」 しんごせんせいが呼ぶ声聞こえたけど、聞いてないフリして教室出ていった。
「また、内泣かしたんか」 「ヨコ」 教室の前で一部始終を見ていた横山は、内の泣いた声を聴いて。これは村上じゃダメだろうと入ってきたが、一歩遅かったらしく。泣きながら出て行く内とすれ違った。 「おまえなあ、ああいうときはうまいこと言うたらええやん」 「そうやけど・・・」 「いっつもうまいこと言うてるくせに。なんでいわなかったん?」 自分よりもよっぽどうまいこと言って。なだめたりするのが得意なはずなのに。今回のことも、うまく言いくるめるのだろうと見守っていたのだが。村上らしからぬ、きっぱりとした物言い。珍しいなあと思っていた。 「やって。この指輪だけは、嘘とか、そういうこと言うたなかったんやん」 大好きな人からもらったもんやから。村上が言うと、指輪をあげた当本人である横山は顔を赤くしながら、言葉を返すかわりに村上のカラダをぎゅっと抱きしめた。
(けど、内のご機嫌とるのどないしよ・・・・ちゅうでもしたろか?) 抱きしめられながらそんなことを考えてる村上。ちゅうするくらいなら嘘でもついてくれと、あとで横山は嘆くことになるのだが。
「ケーキ食べへん?」 ニッコリ笑顔なプリンスに、よく考えずに頷くと。内は嬉しそうに笑ったあと。小さな、箱を取り出した。 「俺に?」 聞くと、嬉しそうにコクンと頷くから。ありがとぉって答えて、受け取った。 中開けると、お決まりのショートケーキ。生クリームの上に赤い苺が乗ってるもので。 そして、その横には、小さな人形の形した、砂糖菓子。
着物と思われる恰好をした、髪の長い女の子のような、人形。
「お揃い」 言って、嬉しそうに自分の箱のなかを開けると。中には同じように着物を着た、男の子のような、人形。
「なんや、これ?」 「え?ヒナ祭のお祝いケーキです!」 「やから・・・なんで、これ?」
ヒナマツリといえば、女の子のお祝い。 華やかでかわいらしい人形を飾りながら、女の子をお祝いする日、のはず。 その、祝いのケーキを。何故、自分が持っているのだろう。嬉しそうに、渡されるのだろうか?
「ヒナ祭ですよ?」 「やから、わかってるって」 「わかってへんやん!ヒナ、祭ですよ?」 「やから、ヒナマツリやろ?」 「そうです!ヒナちゃんの、祭ですよ?」 「やから・・・・・」 わかってると答えようとして、ふと、気付いた。 内が、強調する部分。『ヒナ』という言葉。 あえて、ヒナ祭ではなく、ヒナちゃんの、祭だと言った理由。
ヒナというあだ名の、自分のお祝いだと。 内は、言いたいんか?
「はい!」 嬉しそうに、備え付けのプラスチックのフォークを差し出す姿は。かわいらしいけど。 そんなんで、ええのかと。ヒナマツリだからと自分のお祝いするために、嬉しそうにケーキを差し出すのは、ええのか? かっこいい、2枚目で売ろうという内には、そういうとこはあかんちゃうか? 阿呆な部分、少しでも隠さなアカンやろ?
なんて思うけど。
「村上くん、あ〜ん」 なんて、ケーキを目の前に、嬉しそうに差し出す内は、本当にかわいくて。 恥ずかしいわ。なんて思いながら、誘われるがままに、口を大きく開けた。
口のなかに広がる、甘い香り。 まるで、今の自分を表してるようだって、苦笑い浮かべた。
花屋を通った横山は、あるものを見て、立ち止まった。 鮮やかな色の、小さな、花というには小さな、蕾の、花。 今から咲き誇りそうな、それでいて、充分キレイな、鮮やかなピンクの花。 薔薇のように決して主役には慣れないけれど。小さいけれど。キレイで、自分を引きつける姿。 まるで、『彼』のようだと思った。
『ボロニア』
珍しく、横山からのお誘いに。断る理由もなく。誘われるままに、横山の車に乗りこんだ。 ご飯食べたり、映画みたり。いつもの、二人のデートのようでいて。 けれど。移動するたびに、香る。花のにおい。 助手席と運転席の間から香る、甘く、癒されるような香り。
「珍しいなぁ」 「なにが」 「ヨコの車に、花が置いてあるなんて」 いつも、車の匂い消しか、飲みかけのジュースしか置いていない、ドリンクホルダーには、鮮やかなピンクの花が置いてあった。 薔薇のように自己主張するでもなく。コスモスのように存在感をアピールするわけでもなく。 ただ、小さな花を開いて、咲き誇っている。その姿。 名前を聞いても、花に興味がない自分には、わからないけれど。 ピンクで、キレイで。かわいらしいその花が。 今、目の前に。自分の隣で咲いてることを、村上に教えたかった。
おまえに似た、小さな、キレイな花が。 とても、愛しく感じたから。
だから、ガラにもなく、買って、飾ってしまったのだと。 言おうとして・・・ヤメタ。
「キレイやなぁ」 呟いた村上のほうがキレイだと、思ったけれど。 本人に言えるわけがなく。 思った自分が恥ずかしくて。村上の顔を見ないようにして、笑った。
|