妄想日記 

2003年03月31日(月) 『確信的な、それでも愛しいキミ』(斗ヒナ)

舞台見に来てよ、というメールをもらった。
前回の舞台は結局見に行けなかったから、今回こそは行こうと思ってた。高校も卒業して時間空いたしちょうどいい。明日さっそく行って驚かせよう。
なんて思いながら見た舞台上のヒナは、評判通りのもので。お父さんを思って泣く姿には不覚にも泣かされてしまった。

「良かった!」

終ったあと久々だしご飯食べようってことでレストランに入って。席についた途端「どうだった?」って聞かれたからそう答えると、ヒナは嬉しそうに笑ってくれた。
見慣れていたものなのに久しぶりに見たせいか、ヒナの笑顔にどきどきした。それを悟られたくなくて一気に感想を言い続ける。頷きながら、それでも時折嬉しそうに顔を綻ばせるヒナを見て。


やっぱり、スキだなあ。


今更なことだけど、思った。
一緒のレギュラー番組やラジオの撮りで一緒になってたりした前と違って、今はたまに一緒の仕事になったりするくらいで、会う回数も少なくなった。
お互い、忙しかったから。ヒナのこと考える時間も少なくなってた。一緒の事務所だから、今何やってるとか舞台良かったとか噂なんかはよく聞くけど。それでも、週に何回も会ってたときよりは格段に減ってた。
だから、もしかしたら・・・・昔ほどの気持ちはないかも。なんて思ってたりしてた。ヒナのことで頭いっぱいになったり、ヒナが他の誰かと一緒にいたりしただけでムカムカしたり。
・・・・・実るはずのない片思いに落ちこんだり。
そーいう気持ち、薄れたかもって思ってた。時間が、忘れさせてくれたかもなんて、思ってた。

だけど、ヒナを目の前にすると。
やっぱり、スキなんだと思ってしまう。ヒナの笑顔に、ヒナがスキなんだって気持ちを思い出だされてしまう。
「そういえば、高校卒業したんやって?」
「あ、うん。無事卒業しました!」
今浮かんだ気持ちを隠すように努めて明るく言うと、ヒナは「おめでとう」って笑顔を浮かべたあと「なんやお祝いせなアカンなあ」なんて言ってきた。
「え、いいよぉ」
「いや、こーいうのはちゃんとお祝いせなアカンやろ」
なんて言葉に嬉しく思ったけど。
「息子の門出やしな」
親子同盟組んだ仲やしな。笑いながら言ってくるヒナに、オレはズキリと胸が痛んだ。
昔ふざけて雑誌の取材で言った「親子同盟」滝沢くんが山下を子供のようだと言ってるのを聞いて、羨ましがったヒナがそばにいたオレに無理やり組ませたものだった。
ヒナが親で、オレが息子。それはつまり、ヒナにとってはオレは「子供」だと言われてるも同然で。そんなのはイヤだったからオレはずっと認めなかった。
子供だなんて言われたくない。ヒナに「男」として見てもらいたい。ずっと思ってた。
そのうち、身長も伸びてヒナと変わらないくらいになって。親子なんてことは言われなくなった。そのことにほっとしてたけど。
やっと学生から卒業したのに。世間から子供といわれることからも卒業したと思ったのに。


なんで今、そんなことを言ってくるんだよ!


悲しいというよりも、腹がたった。
いつまでも子供扱いしようとするヒナ。その無神経さに腹が立った。
なら、子供じゃないって認めさせたいって思った。


「ほしいものがあるんだけど・・・」
言うと、ヒナは「あんま高いもんは無理よ」なんて苦笑い浮かべた。
それに高くないよなんて呟きながら・・・・・オレにとっては何よりも欲しいもの。ずっと、欲しかったもの。
「ヒナの心が欲しい」
だけどそれは言えなくて。代わりに。

「一日、ヒナを一人占めさせてよ」

たった一日でいいから。他のことは忘れて。オレのことだけ見ててほしいって、思った。
だけど言ってみたはいいけど、やっぱり後悔した。
そんなこと言われても困るだけだろうって、わかってる。ヒナにはもうちゃんとした相手がいるんだから。ずっと一緒にいる人がいるんだから。
告白に似た言葉を言われたら困るだけだって。困らせるだけなんて、子供の証拠じゃん。そう思ったから。困った顔を浮かべてるであろうヒナを見ることが出来なくて、俯いてしまった。
きっと答えは「NO」だって。そう思いこんでたから。
「そんなんで、ええの?」
返ってきた答えに心底ビックリした。
だって、それってつまり、答えは「YES」ってことだよね?
信じられなくて、顔をあげると。
「ええよ」
なんて優しく笑ってるヒナがいたりしてさ・・・そーいう風に笑って許してしまうヒナはやっぱりずるい、なんて思いながら。
それでも、その笑顔がスキだと思う自分がイヤだと思った。
高校卒業して、一歩オトナに近づいても・・・いつまで立っても、追いつけない。そんな気持ちが浮かんできて。
そんな風に落ちこむ自分が悔しくて。

「ヒナ!」

ヒナを驚かせようと思ったのもあったけど。それ以上に気持ちが沈んでて。ヒナが全部悪いんだ!なんて思いながらヤツ当たりのようにヒナにキスをする。だけどそれすら受け止められて、余計悲しくなった。



2003年03月27日(木) 『寂しい気持ち』(亮ヒナ)

「なんや、亮ちゃん変わった?」
歌取りが終って楽屋に戻る途中、偶然二人きりになったとこで村上くんが不思議そうな顔して言った。
「変わったって、何が?」
言うと困ったような顔を浮かべながら。
「あんな・・・・なんか、俺に対しての態度が変わった思うねん」
「そう?」
自分では意識したことなかったので別段気になっていなかったけれど、俺の言葉に村上くんは大きく頷いたから。そんなに変わったんか?と気になった。
別に、今まで通りやと思うんやけど。月に数回あるレギュラー番組の撮りをやって、たまに雑誌の取材を一緒に受けて。「久しぶり〜」なんて会話をしたりするだけやって。思うけど。
「絶対変わったって!」
断言するのに、身に覚えがまったくないのでなんとも言えなくて黙ってると。何故か村上くんは頬を少し赤らめながら。
「やって、この前もそばにいてくれたし。今日の歌のときやってこっち向いてくれたし・・・」
段々と消えそうになる声を必死に聞き取りながら。 自分のことを振り返ってみて。
確かに、この頃村上くんとよう目があうなあとは思ってた。
前もようあうときあったけど。この頃は気づいたら目があってたし。そういえば、ようそばにおるような気もした。
少し前の自分だったら、空いた時間などは丸やすばるくんとこ行ってるか一人でおるほうやったのに。今も楽屋に戻ってきてるし、そういえば空き時間も一緒におった。弁当広げて食べてた・・・・そう言われたら、変かもしれんって思った。
そのときふっと、先週のことが思い浮かんだ。



月に一度のペースになってしまった番組取りの休憩中。丸ややっさんや内などがいる楽屋で本読みながら時間を過ぎるのを待ってると。丸達がここにはいない村上くんの話をしてるのが聞こえてきた。
丸は声でかいんや。なんて思いながらも出てきた名前が気になってなんとはなしに耳を傾けていた。
「村上くん、忙しそうやなあ」
「休憩やってのにスタッフと打ち合わせしてるもんなぁ」
「なあ・・色々話したいことあったんねんけどなぁ・・」
どんよりとまるでお通夜状態な三人を見てうっとおしいわあと思った瞬間に「ウザイんじゃおまえら!」とすばるくんの鉄拳が飛んでるのが見えた。
それに少し笑いながら。渦中の人物であった「村上」くんのことを思った。


そうだ、そのとき思ったんや。
舞台続きでロケにもあまり参加出来ない人だし。ましてや今大阪を出て東京で暮らしてるもんやから滅多なことでは会えない。
レギュラー番組も司会してばかりでエージェントになったのなんてただの一回だけで。
それなのに寂しがりやの村上くんが「寂しいなあ」と甘えてる姿を一回も見たことなくて。代わりに丸や内が「寂しいわ・・」と泣きそうな声で言ってるのを聞いて。心のなかで小さく頷いてる自分がいた。


もしかしたら、自分も寂しい思ったのかもしれん。


だからたまに一緒になったときは村上くんのそばにいたいと思ったし。見てたいと思ったのかもしれない。



寂しいなんて、俺に合わへんなあ。
苦笑いを浮かべると村上くんが「なに?」って顔を浮かべたからなんでもないって返した。
そういえば、こんな風に考えたんは村上くんが言い出したからやったっけ。気になったんってことは、なんや思ったんか?
「気になるんやったら、直すけど」
言うと、村上くんは慌てたように首を横に振った。
「気になるとかやないよ!むしろ・・・」
「え?なに?」
消え入りそうな声だったせいで後半何を言ったのか聞こえなくて聞きなおすと、「なんでもあらへん!」と少し拗ねたような声が返ってきた。
そんなん態度されたら、余計気になってまうやん。やけど村上くんは頑なに口を閉ざすから、仕方なく諦めたけど。
どうしても気になったことがある。理由はわからへんけど、明らかに照れて赤くなってる頬。それはきっと、さっきの聞こえなかった言葉のせいなんやろうけど。
言うてくれへんからわからへん。やから、それだけでも聞こうかと思った。
「なんで顔赤いん?」
言うと、村上くんの顔は更に赤くなってしまった。
なんや、トマトみたいやなあなんて思ったら。
「亮ちゃん、イジワルや」
泣きそうな顔で言われて、いじめ過ぎたかと少し反省した。



2003年03月24日(月) 『感じやすい不機嫌』(ヨコヒナ)



「なんか怒ってます?」
舞台が終り、一緒にご飯でも食べようという村上に生ぬるい返事を返す横山に、不審に思いながらも車で来たという横山の助手席に座り数分。
その間、何も言わない横山に自分が一方的にしゃべるだけでなく、自分の質問にさえも「・・ああ」と歯切れの悪い返事しか返さないのにいい加減我慢が出来ずに聞いたのだが。
「別に、怒ってへんわ」
言葉とは裏腹にそっけなく返されて、村上の心の中でさっきの疑問が確信へと代わった。
自分は何かヘマをしただろうか。今日の行動を振り返ってみるが、これといって怒られるようなことをした覚えがない。見にくるという約束通りにきてくれたことが嬉しかったし。楽屋にきた横山に素直に「嬉しい」と伝えたら「そうかあ」と照れ笑いを浮かべてて。
そのあとは舞台が始まったから特に何もなかったし。で、舞台終って楽屋に戻るとすでに横山は不機嫌になっていた。
「なんで怒ってるん?」
「やから、怒ってへんって」
「じゃあなんで目ぇ見てくれへんの?」
楽屋に戻ってから今もずっと、決して自分を見ようとしてくれない横山に。村上は悲しくてたまらなかった。
せっかく、二人きりになったのに。久しぶりに一緒にいるのに。かみ合わない会話。すれ違う視線がとても悲しかった。
「・・・運転中やから」
それでも言い逃れしようとする横山に、カチンときて「じゃ、そこで止めて」とボーリング場横の駐車場を指差した。
「はあ?なんでこんなとこ・・・」 
「ええから!」
気迫に押されて渋々駐車場に入るこむと、適当な場所に車を止めた。
エンジンも切るべきかどうするか。思ったときに村上がじいっと顔を見ながら。
「今運転中やないから。目ぇ合わせられるんよな?」
言われて、やられたと思った。
視線を合わせない言ことへのい訳を封じられて、いよいよ言うことが何もなくなった。相変わらずじっと見つめてくる視線を感じるがそれに答えることが出来ずに。代わりに顔をハンドルに埋めてしまった。
はあ、とため息をつくと。ぽつりと。
「自己嫌悪してるだけやって」
「へ?」
ぽかんとしてる村上に苦笑いを浮かべながら、横山は自分の感情を思い返した。





この世界にいて、こーいう仕事してるのだから。
恋人が自分以外の相手に愛を囁くのとかキスをするのとか。ドラマや舞台でよくあるあるシーンに一々文句言うわけもなく。ましてや嫉妬するなんて持っての外だ。いい気分ではないにしろ、この世界で生きている自分達にとっては仕方ないことだとお互い割り切っている。

ただ、それは「芝居」の中だけの話である。
舞台での芝居なのだから、自分以外の相手を心配する顔も、自分以外の相手のことで嫉妬する態度も。例え、自分以外の男を思って涙する姿でも、平然として見れた。
泣きすぎちゃうかぁ?とも思わないでもないけれど。それでも、あの熱演っぷりは感心したし良かったと素直に思える。
ええ舞台に出させてもろたんやなあって思いながら、一度目のカーテンコールを見ていた。
役者紹介されて、後ろに控えてた人が紹介されて前に出てきたとき。父親役の人が前で一礼し、列に並ぶときに横にいる村上に笑ってる姿が見えて。うまくやってるんだと思った。人間関係を潤滑にするのがうまい村上だから、きっとうまくやってるんだろうと。思いながら見ていると。


父親役の人に笑いかける、村上の姿が目に入った。


それは単に共演者に「お疲れさま」の意味をこめての笑いだったのかもしれない。父親役の人が紹介されて村上の隣にきただけだったら、ここまで気になってなかったと思う。ただ笑っただけだったら。いつものみんなに安売りしてる表情だって思えただろう。
けれど、その笑顔は明らかにいつもと違うものだと思った。
身長から仕方がないのだろうけれど・・・・結果上目つかいで相手を見上げて。舞台上で一番ではないかって思えるくらいの笑顔を浮かべて、相手を見つめる姿。
それを見た瞬間沸きあがった感情。「嫉妬」という心に気づいたとき、子供じみた感情を浮かべてしまった自分は恥ずかしくて激しい自己嫌悪に襲われた。
・・・これこそホンマに「つまんない嫉妬」やな。




「んなことより飯!何がいいん?」
自分に対して苦笑いを浮かべながら、隣で心配そうに見ている村上の視線と合わせて言うと。安心したような表情を浮かべたあと
「そやねえ・・・たまには大阪らしくお好み焼きとか?」 
「じゃあ、あっこにするか。なんばのとこ」
「うん。ええよ」
いつも通りの会話に戻ったことにほっとしながら、再び車を発進させた。







その笑顔を独占したいなんて。叶わない夢だってわかってる。
だからせめて、特別な笑顔だけは。自分以外には見せないようにしてほしい。
これくらいは願わせてほしい。





なんてこと、本人には絶対言えへんけどな。



2003年03月14日(金) ハッピーホワイトディ(純アニ)

ランニングから帰ってきて、なんか飲むもんないかと思って冷蔵庫漁ってる間中、ずっとこっちを睨んでる視線に気づかないフリするのも限界で。

「何?」
「なんでもない」

なんでもないなんて顔してないのに。あきらかに怒ってるのに聞くとそっぽ向くし。
わけわかんねー。

「あ、そう」

このあとも延々とこの状態が続くのかと思ってうざりしたけど。
自分から口開くまで待とうと思ったら、案外早く開いた。


「バレンタイン、もらったんだって?」
「・・・はあ?」

やっと口を開いたと思ったら「バレンタイン」だって?
なんの話っつーか、今いつだと思ってるんだよ。

「シラ切るつもりかよ!?」
「そーいうわけじゃないっての。つうか、なんでそんなこと聞いてくるんだよ」

言うと、話しずらいのか口を開かなくなってしまった。
なんだんだよいったい。わけわかんないよ。
状況を把握してないから自分から何か言う事も、行動することも出来ない。
かと言ってこのままにしておくわけにもいかないし・と兄貴を見ると、言いにくそうに、だけど言いたげにそわそわしてるから。これは絶対言うなと思って兄貴の言葉を待った。
すると案の定、ふっと顔をあげると。

「昨日、駅前でホワイトディのコーナー見てるの見たやついんだよ」
「昨日?」

ホワイトディとか言われてもさっぱりだし。ましてやそのコーナーで発見した言われても、まったく覚えないし。
睨んだ目で言われても、まったく心当たりないし・・・あ。
ふと思い出して、自分の部屋に戻った。
机の上に置かれた小さな紙袋を開けて、中身を手に取る。
そしてふくれっつらしてる兄貴のもとへ戻ると。

「これだろ」

手にもっていたものを兄貴のほうに投げると、キレイな弧を描いて兄貴の手元に届いた。

「やっぱ買ってるんじゃん」

手のなかにある小さな包みを見て、兄貴は更に不機嫌になった。

「それ、兄貴へのなんだけど」
「・・・はあ?」

予想通りの反応に、俺は呆れた。
やっぱ忘れてるよ、この人。
バレンタインに酔っ払って「兄貴から純へのチョコレートだ!心して受け取れよ!」なんて偉そうに人にチョコを渡したことを、すっかり忘れてるらしい。
まあ、酔っ払いのことだからそうだろうとは思ってたけど。
それでも、律儀に返してる俺も同じようなもんか。

「そんなこともあったような・・・・」
「別に思い出さなくてもいいけど。とりあえず、それは兄貴へのだから」
「じゃあ、これ買ってるのを見られたわけ?」
「そういうこと」

兄貴はホッとしたようなため息をつくと。

「なんだ、本命もらってたわけじゃないんだ・・・」

その呟きは小さかったけど、しっかりと俺のもとに聞こえた。
つまりそれは。
俺がホワイトディのコーナーを見てたってことは、本命のチョコでももらったんじゃないかと思ったと。で、怒ってたってことなわけで。
それって、つまり。

「焼いたんだ?」
「なっ・・・違う!」

更に顔が赤くなるとこを見ると、図星だったんだって丸わかりだって。
自分にヤキモチ焼いたなんて、かなり・・・・


「馬鹿?」
「馬鹿って言うなー!」

顔を赤らめながら凄まれても、効果ないっての。
まあでも、それ見てかわいいとか思ってる自分のがよっぽど馬鹿っぽいんじゃないかとも思った。



2003年03月11日(火) 『イジワル』(内ヒナ)


村上くんの笑顔見たら、自然に笑ってるぼくに村上くんは「ニヤけるんやないの!」ってよく叱る。
「せっかくのオトコマエが台無しや」ってよく言う。
やって、村上くんの笑顔見たら、嬉しなるのはしゃーないやん。
スキな人の、大好きな顔見れたら、幸せや思うやん。
しかも、自分にだけしてくれた笑顔やったら、嬉しくなるやん。嬉しいて、ニヤけてしまうんも仕方ないやん。
そう言うと。村上くんはイジワルそうな笑顔浮かべながら
「やったら、内の前で笑わんようにしよ」
なんて言ってくる。
なんで!?と問うとキッパリと。
「俺が笑うとそんな情けない顔になるんやったら、笑わないでいればオトコマエをキープするんやろ?」
なんて言うから。
ぼくは悲しくて悲しくて。涙出そうになるのをじっと耐えてた。


村上くんの笑顔が、見れなくなるん?
大スキな、一番大スキな笑顔が、見れなくなるん?
みんなには笑うのに、ぼくにだけは笑ってくれへんの?
そんなん、いやや。


また「情けない顔してる」って言われるからと思って。
一生懸命耐えてたけど涙が溢れそうになって、見られたくなくて下向いた。
そしたら。

「ごめん、内」

イジワルやったな、って言いながら村上くんが頭をゆっくりと撫でてくれたから、恐る恐る顔をあげると困ったように笑ってる村上くんがいた。
ぼくの大スキな、笑顔や。
思った途端、安心と嬉しさから耐えきれなくて涙出てきたら、村上くんは頬に手を伸ばして涙を拭ってくれた。
その手が暖かくて、また泣きそうになったけど。

「ほら、男の子なんやから泣くな」

言って、村上くんはぼくの頬にキスを落としてくれた。
ビックリして顔をじいっと見ると、真っ赤になって顔を逸らされてしまった。
それを見て、今してくれたことが現実なんやって思ったら、一気に涙が引っ込んだ。

村上くんからの、ちゅうや・・・!

嬉しくて笑いながら村上くんに抱きつくと「暑苦しいわ」と頭をはたかれた。
やけど、抱きついた手を離そうとしないことに気づいて、また嬉しなった。



2003年03月08日(土) 『ただいま』(ヨコヒナ)


村上は舞台が終り、いつもよりも素早く帰り支度をし、急いだ先は都内ホテル。
関ジャニ8ととして仕事をしていたメンバーが泊まっているホテルだった。
「終ったら行くわ」
昨夜、別れるときに言ったら「さっさとこいよ!」「待ってますから!」と様様な返事が返ってきた。
その言葉の通り、ホテルに着いた村上は、そのことを伝えようと渋谷に電話をした。

『今、飯食ってんねん』
「マジでか?」

タイミング悪いなあとうなだれると、それに慌てたような渋谷の声がした。

『おっちゃん!横山のおっちゃんが一人で部屋居るんよ』
「はあ?なんで?」
『誘おう思ったら気持ち良さそうに寝てるからな。起さんとこう思った!』
「そら正解」

誘わなかったことに怒るだろうけれど、きっと起こしたところで「なんで起こすんや!」と怒るに決まっている。それならば最初から起こさないでいたほうが気分もいい。

『やから、しばらくヨコのとこいてや』
「わかった」

すぐ戻るからな!と言いながら勢いよく電話を切られた。苦笑いを浮かべながら、。村上はホテルの中へ入った。



横山の部屋のインターホンを鳴らすと、思ったよりも早く返事がかえってきたことにホっとした。
「お疲れさん」
明らかに寝起きの顔に笑いながら、挨拶もそこそこに部屋の中に入った。
ベッドに腰掛ける横山に、自分はどうしようかと迷っているとソファを指差された。それに遠慮かちに座ると、ホっと息をつきながら、今日ずっと聞きたかったことを聞いた。

「少クラ、どうやった?」
「ん〜?まあおもろかったで、色々と」
「そうかぁ・・・」
「オマエはどうなん?」

返されて、一瞬言葉につまったけれど。すぐさま立ちあがって今日あったことを話はじめる。


「おもろかったでー。小芝居とかしてなー」

その日あったことを一通り説明していく。横山は表情は変えないでそのまま聞いていた。
そうやって、なんとなく話していたが。段々と村上のトーンが低くなっていった。
いつのまに持ってきたのかビールを片手に聞いていた横山はその異変に気づいて村上のほうを向くと。

「なんや、いったい」

まるでいじめられたかのように小さく俯いてる姿があった。
自分が何かしたのだろうか、横山は思い起こしてみたがそれといって理由も見つからず。困っていた。
それに気づかないで、村上は下を向いたままうなだれていた。
今日あったことを話してるうちに、自分だけ別行動だったという寂しい気持ちが蘇えってきたらしい。


今までだって一人で仕事する機会があった。10月の蒸気だってそうだ。あれこそ先輩も誰もいない一人の場だった。けれどここまでの気持ちにはならなかった。
何故だろう。今までより、一層寂しいというキモチに溢れているのは。
舞台に集中しているときはいい。他のことを考えずにいたから。けれど、昼と夜の公演の間。間が合いたときにふと一人になったとき。考えるのは、同じ地にいながら別々の仕事をしてるメンバーのことだった。
今頃、歌ってるんやろか。コントでもして会場を沸かしているんやろか。
自分の居ない関8のことを思うと、寂しくてたまらなかった。


それはきっと、ユニットを組んだからなんやろな、そう思った。
以前は関ジャニという大きなくぐりに分けられていたから、メンバーというよりは仲間という意識のが高かった。ANOTHERも個々が集まって、やり遂げたような感覚だった。
しかし、ユニットを組んでから。仲間というキモチから「メンバー」というキモチが強くなった。
個々が集まったものではなく、関ジャニ8という一つのものになった。
だからきっと、今までとは違った感情が溢れたんだろう。
前日、一緒に過ごしたメンバーが、自分から離れていくのを見届けたとき。
置いて行かれたような気持ちになった。自分だけ、パズルから落ちてしまったピースのような、そんな感じがした。
ふと、この寂しさには覚えがあることに気づいた。

ああ、そうや。

あれは、家族と離れて一人暮らしをすることになったときの、家を出る瞬間に似ていた。


「自分でも阿呆やと思うけど・・・・」


話し終わってから、村上はソファに座ったまま俯いていた。
きっと呆れてるであろう横山の顔がまともに見れない。また怒られるかもしれん。「甘えんな」と喝を入れられるかもしれない。そう思って、俯いたまま横山の次の言葉をまった。
しばらくして、ベッドのスプリングが軋む音がした。横山が動いたんだろう、そう思ったとき、自分の横に人の気配がした。
いよいよなんか言われる。思って身構えてると、強い力で肩を掴まれた。そしてそのまま隣にいる横山のカラダへと引き寄せられた。
何がおこったん?理解出来なくて顔をあげると、少し頬が赤い横山の顔とぶつかった。

「家出たんやったら、帰ってくればええだけやろ」
「え・・・?」
「帰って、きたんやろ?」

俺のとこに。
なんてことは横山の性分から絶対言えないけれど。言葉の端にある意味に村上はちゃんと気づいたらしい。嬉しそうに笑顔を見せると。

「うん、ただいま。ヨコ」

そのまま横山の肩に頭を預ける。横山は言葉を返す代わりに、村上の肩をぎゅっと抱きしめた。





舞台が終って、真っ先に自分のとこへ来た村上。ドア開けた瞬間思ったことは「おかえり」というキモチだった。
自分のとこから出ていったわけでもないのに。今日の朝もバラバラだったからもちろん「いってきます」「いってらっしゃい」なんていう挨拶が繰り広げられたわけもない。
けれど、目の前にいる村上を見たとき、戻ってきたんやという感覚がした。

それはきっと、今日ずっと「村上不在」のままで仕事をしたからだろう。踊っているときも、話をしてるときも。楽屋にいるときも。「村上のいない関ジャニ8」を思い知らされていて。
なんとなくイライラして、逆に村上のことを出さないようにしていたけれど。


だから、「お帰り」なんだろう。



「あ、来たみたいやな」
村上の声に我に返った横山は、外の騒がしい話声に苦笑いを浮かべる。


きっともうすぐ、「だたいま!」とそのドア勢いよく開けてくる欠けたパズルのピース達が現れるだろう。そう思った。



2003年03月03日(月) 『メッセージ』(ヨコヒナ)

2月24日。
特別仕事が入ってるわけじゃなかったから、家でゴロゴロと過ごしていた。
溜まってるビデオ見て、途中でやめた「ドラクエ」に手を伸ばしたり。いつもなら買い物に出かけたり、ハマってるパチンコをしに行ったりするのに、何故かその日だけは家で過ごしていた。

いや、本当はわかってる。

ゲームしてても。ビデオ見てても。
壁に飾られた時計をチラチラと見てしまうわけは。ただ一つ。
今この時間に、仕事をしてるであろう相方のことだった。


グローブ座で、先輩が座長を務める舞台が本日が初日だということは、横山も当然知っている。
『フォ−ティンブラス』の。村上が出演している舞台の、初日だということは重々わかっている。



前回の舞台のときは、前日まで不安げな顔をしていたのが気になって初日終った頃に電話をしたりした。
自分らしくないと思いながらも、電話越しの声がホッとしたような、安心したような声だったことに、電話して良かったと思った。何を言ったわけでも何が言えるわけでもなかったけれど、自分が電話したことによって村上が安心したような感じがして、電話して良かったと思った。
優しい言葉などかけられる性格ではないけれど、それでも少しは支えになったのかと思って安心した。


しかし今回は、蒸気での評判が糧になっているのか。稽古中も自信に溢れていた。「どや?」と聞くと「行けるんちゃうかな?」と笑いながら言ってきて。
きっと今回は大丈夫だろうと思った。自分が心配しなくても、村上は大丈夫だろうと思った。


だから、今回は初日に電話したりしない。
どうだったか気にはなっていたけれど、次に会ったときにきっと自信に満ちた声で
報告してくれるだろうから。
その報告をいつも通りの表情を浮かべながら聞こう。そう思った。



けれど。
日にちが変わる直前に携帯の液晶に出た名前は、今日ずっと思っていた人だった。



時刻は午後22時。
舞台も終って、帰ってる途中ではないかと思われる時間。
そんなときにかかってきた電話。
もしかして、何かあったのではないだろうか。そんな不安にかられながら電話に出ると。

「あ、ヨコ?」


予想に反して明るい声音に拍子抜けしながら、しかし言葉は裏腹に冷たい態度をとってしまう。
「なんや?」
「え・・・・今、舞台終ったんよ」
そんなもん、言われなくてもわかってるわ!言いたかったけれど、それでは今日気にしていたことがバレてしまうようで、言わずに「なんか用か?」と冷たく言うと。
「や、横山さんは今何してんのかなと思って・・・・」
「なんもしてへんわ」
「そうですか・・・・」
「用件はそれだけか?」
歯切れの悪い言い方に少しイラつきながら、明日も舞台があるんやからさっさと寝ろ!というキモチもあって、話しをまとめようと要件だけを聞こうと思った。

「やって・・・さっきまで舞台やってて、みんなで話したりしてて。そんで帰るときに一人になったら・・・・なんか急に寂しなったんやもん・・・」
「阿呆か。そんなん今までもそうやったやんか」
「やけど・・・なんか、寂し思ってまったんやもん」
「子供か、オマエは」

いつまでたっても「甘え」が直らないような言い方に、苦笑いを浮かべながら聞いていた。だけど、そんな甘えたのとこも好きなんやけど。決して口に出せないから、心の中で呟いてみたりして。
次に出る村上の言葉を待った。

「やって・・ヨコの声聞きたいって。思ったんやもん・・・」

  

村上の甘えたなところを直さないといけないと思っている。
けれど、こーいう甘えられ方が好きな自分もいて。多分それを知ってて自分に甘えてくるのであろう村上に「ずるい」と感じる。

ホンマ、タチ悪いわコイツ。

深くため息をつくと、自分の言葉を待ってるであろう村上に心のなかで悪態をつく。

「・・・どうやった、舞台」
「ん。ええ感じやったと思うで。長野くんも満足そうやったし」 

話しを続けると、村上は嬉しそうに答えた。





なんだかんだと言いながらも、結局は甘やかしてしまう自分が一番タチ悪いと、そう思った。



2003年03月01日(土) 『しつけ』(内ヒナ)

「甘い!甘すぎる!」


突然叫んだ渋谷に、楽屋で準備したり寝ていたりした面々は何事かと目を向けた。
渋谷の隣に座ってメイクをしていた村上は、大声に驚いて声をあげていた。
「なん、なんやの?」
驚いた表情のまま渋谷のほうを向くと、肩をがっしと掴まれた。そして真剣な表情を浮かべられて何事かと構えると。
「オマエの内への態度は甘すぎる!」
「・・・・はあ?」
言ってる意味がわからないという風なリアクションを返す村上。それに苛立つような表情を浮かべる渋谷に焦りながら「そんなことあらへんよ」と答える。
「じゃあさっきのはなんや!?夢か幻か!?」
言われて、先ほどまで撮っていたものを思い出す。
一度間違ったら最初からというルールの時代劇に挑戦した。そこで内は長セリフが言えなくて悪戦苦闘していた。
最後には横山・村上二人が内のセリフを覚え、それを伝達するようにまでなっていた。
「やて、あれは甘やかしちゃうやん・・」
「はあ?あれが違ういうんかおまえは!?」
テイク13までした男を「ええよ」と慰めるオマエの態度が甘やかしてるちゃうんか!?とキレ意味に言うと「手助けしただけやん」とのんびりした返事が返ってきて、渋谷は更に険しい表情を浮かべた。

コイツは、甘やかしてる自覚ないんか?

タチ悪いやんか・・・・とがっくりと肩を落とすと、それに気付いた村上が「なんやの?」とすっとぼけたことを言うのに「オマエのせいじゃ!」と返すことも出来ずに苦笑いを浮かべていた。

「じゃあな、例えば丸山が抱きついたとする」

言って、いけと指示する渋谷に訳分からないまま村上に抱きついた。
「何すんねん!」とすぐさま鉄拳が返ってきて「痛いですよ〜」と嘆く丸山がいた。その光景を見ていた渋谷は、やっぱりな・・と肩をすくめながら
「丸が抱きついたら殴ったな、おまえ」
「やって、デカイ図体して邪魔だったんやもん」
藪くんとかなら小さくてかわいくてオッケーやけど。言う村上に「してやったり」という顔を浮かべる渋谷。
「ほんなら、内はどうや?」
「内?」
「そうや、内やってデカくてうっとおしいやん」
「まあ、確かにデカイなあ」
だけどうっとおしいと思ったことないなあ。いつも内が抱き付いてくるのを思い出しながら言った瞬間に渋谷から指差さされた。
「そこや。そこが甘やかしてるんよ、おまえは」
「どこが?」
「そこやって!丸なら殴ってるのに内ならされるがままにしてんやろ?」
「そう・・・やなあ」
「そこが甘やかしてる言うてるとこや!内だからて甘やかしてるんよ、おまえは!」
ふんぞり返って偉そうに指摘してくる渋谷に、なんやねんと思ったけれど。いつもの内とのやり取りを思い浮かべて、確かに自分は甘やかしてるんじゃないだろうかと思った。されるがままになってるし、失敗したらフォローするし。夜中だろうと電話がかかってきたら聞いてやるし。
眠い思っても、必ず付き合ってやってる自分を思い浮かべて「確かに甘やかしてるかもしれん・・」と思った。
「やっと気づいたんか!」





それからというもの、村上による「内スパルタ教育」がスタートした。
自分を見つけるなり抱き付いてくるのを「重い」と一蹴したり、甘えてくるのを「うっとおしい」とはねつけたり。
村上曰く「ひたすら厳しく」接するようになった。
ただ、はたから見たら「今までが変やったんやって!」とツッコミを入れてしまいそうなことだけれども。
それでも、村上にとっては「心を鬼にして」ひたすら接してきた。
そうして数日が過ぎた今も、抱き付いてくるだろうと思い身構えていたが、いつまでたっても重みが伝わってこない。
おかしいと思い内のほうを見ると、いつも自分に見せる笑顔が消えていた。それどころか、目があった瞬間に俯いてしまった。
どうしたのか。何かあったのか聞こうとしたけれど。これも甘やかしてるってことちゃうか?と思いなおして手に持っていた台本に目を通そうとした。
「村上くん、俺のこと嫌いになったん・・・・?」
「はあ?」
なんでイキナリ「嫌い」になったと言われるのか。さっぱりわからないと思ったけれど。
「やって、この頃僕のこと避けてるん思うし…」
言われて、やっと飲みこめた。嫌いになったんだと思った訳は、村上の「スパルタ教育」によってなのだろうと。
そら、わざと避けてるんやもん。しゃーないやん。そう思い「そんなことあらへんよ」と言おうとしたけれど。
「嫌いに、なったん…・?」
痛々しいくらいに悲しみに満ちた声音で言われて、村上は内の顔を見上げると。
目に涙がたまるんじゃないかと思うくらい、傷ついた目をじいっと向けられていて。
いつも嬉しそうな表情で飛びつく内の姿が、まったく見えなくて。
大きなカラダをめいいっぱい小さくして、しょんぼりと落ちこむ姿はまるで飼い主に冷たくされた犬のようで。
「村上くん・・・・」
名前を呼ばれて、村上は「アカン・・・」と呟いた。
「アカンわ、これ以上できひん!」
言って、内の頭をガシガシと撫でる。
「ごめんな、内」
ぎゅうっと抱きしめてやると、途端にぱあっと笑顔になってぎゅうっと抱きしめ返してきた。
そのぬくもりに安心しながら、「ごめんな」と呟いた。



「やっぱダメやったみたいですね」
少し離れたところで一部始終を見ていた錦戸は、予想通りの展開にため息混じりに呟いた。
そして、同じように見ていた渋谷を見る。きっと怒ってるんではないだろうかと思ったけれど、予想に反して渋谷は笑っていた。
「アカンやろうとは思ってたけどな」
「そうなんすか?ま、俺も内が耐えられるわけないやんとは思ってましたけど」
言うと、「違うねん」と返ってきた。
「あいつ、めちゃ辛そうな顔すんねん。冷たくされてる内よりもしてるヒナのが傷ついてる顔すんねん」
「すばるくん…・」
「あんなん見せられたら、なんも言えへんようになるっちゅーねん」
苦笑いを浮かべながら呟く渋谷に、錦戸は何も言う事ができなかった。
「ヒナのこと言えへんよなあ。俺かて、どんだけ甘やかしてるんか」
それは誰へのことなのか。聞かなくても渋谷の今の視線を見ればわかる。

ホンマに、甘すぎやん。

けれど結局は、それを黙認してる時点で自分も甘やかしてるんやろなとは思った。
村上の笑顔が戻ったことにほっとしてるキモチは、結局は渋谷と同じことなんだろう。

「ま、俺らだけでも内を鍛えてやろやないか」
「そうやね」
お互い笑って、まだ村上に抱き付いてる内を離しに立ちあがった。


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薫 [MAIL]

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