妄想日記 

2003年02月17日(月) 『小さな嫉妬』(すばヒナ)

関西Jrとして、久しぶりにみんなで少年倶楽部に出演した。前回も村上一人で宣伝に来たが倶楽部ニュースだけの出演だったため、メインのJr以外に逢うのは久しぶりだった。
入れ替わり立ち代り村上を訪れるJr達。それに愛想よく笑いかけながら相手をしてる村上を、少し離れたところで見ていた渋谷はイラついた表情を浮かべていた。

なんや、あの顔は。 

次から次へと村上に話しかけるJr達。その半分は自分の知らない子ばかりで。それが余計苛立たせる。
自分達が離れていたことを、思い知らされるようで。
自分の知らない時間があることを、物語っているようで。
村上の笑顔は自分の知ってる顔なのに、何故かまるで自分の見たことない笑顔のようで。
苛立ちと、少しの胸の痛みを抱えながら。それでも目を離すことが出来ずにいた。





「何渋い顔してんですか」
他の楽屋に遊びに行っていたはずの錦戸が、何時の間にか横にいた。
そして渋谷の前の椅子に座ると、渋谷の視線を追うように辿っていき。村上を見つけてため息をついた。
「あれ、止めへんの?」 
自分がしたいと思ってたことを言い当てられて、渋谷は困った。他人が見てわかるくらい、見てたんかと。
けれどそれに気づいた風でもなく、村上を見ながら錦戸も自分と同じように渋い表情を浮かべていた。
「暴走させたままでええの?」
「暴走?」
「そう、あんな愛想笑いしまくって。暴走しまくりやん」
ああ確かに。と渋谷は頷いた。
村上の笑顔の大安売り状態は、言い方を変えれば「暴走してる」ようにも見える。機械が故障したかのように、まるで笑顔しか覚えてないロボットが故障して暴走してるようだと渋谷は思った。
「見ててイラチくる」
吐き捨てるように言う錦戸を見て、苦笑いを浮かべる。
村上に対してだけ何故か冷たい言いまわしをする錦戸を、最初の頃はただ単に嫌いだからかと思っていた。
けれど、一緒に行動するようになって。錦戸は自分を出すのが下手なだけなんだと言うことに気づいた。
本当は気になってるんだと。自分と同じような気持ちを抱えているんだと気づいてからは、まるで戦友のような気持ちになった。  
だから今の気持ちも、きっと同じなんだろうと。だから「イライラ」するんだろう。
「あれ、なんとかしてくださいよ」
「なんとか、言うてもなあ・・・」
「すばるくんが止めなかったら誰が止められるん?」
本当は自分も止めたいと思ってる。けれど自分で出来るわけがない。
村上に対して素直になれない自分にもイラつくときがある。けれどそんなときは決まって渋谷が自分のしたいことをしてくれていた。だから気持ちも晴れていた。
そう感じてるのは自分だけじゃないんやろうけど。
きっとここにはいない『彼』もそう感じているだろう。彼も同じように素直に表現出来ない人だから。
「さっさとあれ、回収してきてくださいよ」
言われて、「そうやな」と渋谷が返事をする。
錦戸からぽんと小さくだけれど背中を押されたように感じた。
昔から、アイツの暴走止めんのは俺の役目やったなと思い出す。いつもは自分の暴走を止めるのが村上の役目だけれど、こういう暴走を止めるのは自分の役目だった。

そうやって、一緒にやってきたんやったな。


「じゃあ、行ってくるわ」
ヒラヒラと手を振って、村上に向かってずんずんと歩いていく渋谷。
何時の間にか広がっていた輪の中に入っていき、村上の手を握るとそのまま引っ張って行く。
「ちょ、すばる!?」
困ったような村上の声が聞こえてきたけれど、無視して歩くと後ろから「ほな、スタジオでな!」と別れを告げる声が聞こえてきた。
それに満足げに笑いながら、さきほど自分がいた畳が敷いてある場所に連れて行く。
そして無理やり座らせると、自分もあがって寝転がり村上の膝にごろんと頭を乗せる。
「なん?なにしてんの?」
「うっさい、眠いんじゃボケ!」
半ば逆キレのように叫ぶと、そのまま目を瞑った。
村上の体温が伝わってきて、「そこにいる」と実感出来て安心する。
「しゃーないなあ」
観念したんかと思ってうっすらと少しだけ目を開くと。
自分の好きな笑顔を浮かべてる村上が見えた。







2003年02月16日(日) 『大好き』(内ヒナ)


村上くんのいいとこ。


ボケに必ずつっこんでくれて。
がんばりやさんで。努力家で。
みんなのまとめ役で。
しっかりしてて。でも時々おっちょこちょいで。
優しくて。
かわいくて。
誰からも好かれる、明るい人。



いっぱいあるけど。
でも、優しい人やかわいい人なんて他にもおる。
やっさんや丸も優しいし。横山くんもしっかりしてる。
いっぱいおるのに。
それなのに、『特別』だと思うのは村上くんだけなんは、なんでやろ? 



「内、久しぶりやなあ」
久しぶりに訪れたテレビ局の楽屋で、村上くんに笑いながら言われて。
久々に見る、村上くんの笑顔を見て。
心のなかがあったかい気持ちでいっぱいになった。



そうや、この笑顔。
僕に気づくと必ず笑ってくれる。
とても優しく笑ってくれる。
この笑顔が好きなんや。


楽しくて笑ってるときも。
困ったように笑うときも。


どの瞬間も、大好きなんや。




誰よりも、誰よりもあったかい笑顔を持ってる人。





あったかい気持ちと、甘い気持ちと、ドキドキと。
少しの痛みを教えてくれる人。


誰よりも、誰よりも。
大好きな人。





「村上くん」
返事とともに顔をあげるとこを狙って、キスを落とす。
「大好きですv」
ニコって笑顔を浮かべると、「聞き飽きたわ」なんて言葉が返ってきた。
けど、キスを許してくれるとこや困ったような笑顔を浮かべてくれるとこ。
少し赤くなる頬。


そんなんされたら、うぬぼれてもええって思ってまうんやけど。
だけど、油断は禁物や。
誰からも好かれる人だから。僕と同じように村上を好きやって人はいっぱおるから。
いつか、言葉をくれる日がくるまで。



「大好きです」



いつかその笑顔が、僕だけのものになりますように。
願いをこめて、伝える。



2003年02月14日(金) 切ない恋に気づいて(純アニ)

真夜中に帰ってきた兄貴は、自分の部屋には戻らずに人のベッドに寝転がっていた。
机に向かってた俺は、ノックと共に入ってきて「あったけー」と言いながらベッドに横になった兄貴を見てため息をついた。
こんな光景は珍しいことではない。つうか、ほぼ毎回のことだったから今更なんだけど。
それでも、部屋の住人である俺をまったく無視してる状況もどうなんだよ、と思って。
「兄貴、部屋に戻らないのかよ」
なんとはなしに言うと。
「だって俺の部屋寒いんだもん」
ゴロンと転がりながら言う兄貴に、あからさまにため息をつくと拗ねたような表情を浮かべた。
「だって暖房入ってないんだぜ?めっちゃ寒いってーの!」
そんなの、今帰ってきたんだから当たり前だろう。
けど、それに気づいてない兄貴はベッドの上で幸せそうな顔を浮かべてる。
それ見たら「ま、いいけど」なんて思ってしまう自分に呆れながら、机に視線を戻した。




しばらくくつろいでた兄貴が、眠くなったらしくウトウトし始めた。
そのまま寝られたら自分の寝るとこがないと思って「寝るなら部屋戻れよ」と言うと。
「ここで寝ようかな」
なんて言い始めた。
「あったかいし、ここで寝てもいい?」
寝転がったままだったから見上げる視線は「上目使い」なわけで。
ベッドの上でそんなことされたら、思うことは一つ。
「それって、誘ってるわけ?」
「はあ?何言ってんだよ」
呆れたような兄貴の声を無視してベッドに近づくと、横たわるカラダの横に手をついた。
いわゆる「押し倒した」格好になると兄貴は慌てたように体を動かしてきた。けど、それぐらいで揺らぐような柔なカラダをしてるわけなく。そのまま顔を近づけると本格的に暴れ始めた。
「誰も誘ってねーってば!」
キスしようとしたら顔を背けるから、無防備になった首筋にキスを落とすと兄貴は泣きそうな声で自分の無実を証明しようとしてきた。


けど、さあ。

好きな人にここで寝たい、なんて言われたら。
誘ってるとしか思えないし。


しかも、無防備にベッドに寝転がったりされたら。
食べたくなるのが男ってもんじゃないの?


「そんなつもりじゃねーよ・・・・」

泣きそうな声で訴えてくるけど、もちろん却下。
まだ何か言おうとする唇を強引に塞ぐ。






わかってる。
兄貴がそんなつもりはないってこと、わかってる。
けど、それじゃ嫌なんだ。
自分の前で無防備な姿をされるたび。意識されてないって思い知らされるようで。
『弟』という枠から出てないて感じて。




胸のドコか奥が痛くなった。



2003年02月13日(木) 『バレンタイン』(ヨコヒナ) 

横山と村上、二人のラジオが始まる前に待ち室でまったりとしていたら、村上がポツリと

「今年のバレンタインは変やなぁ・・・」

しみじみと呟いてるのを見て、横山は「まだ始まってないやないか」と呆れたように言った。
大変というけれど、今は13日なわけで。本番であるバレンタインは明日だ。まだ始まってもいないことなのに「変」だと呟く村上。確かに、バレンタイン前だということで、今日の待ち人はチョコを抱えた人で溢れていて、いつもよりも大変だったからかもしれない。
しかし、明らかにそれだけではない雰囲気に、「なんや、修羅場でもあったんか」などと思ってもないことを言うと即座に否定されたけれど。
それでも浮かない顔をしてるのに、「なんかあったんか」と聞くと。

「内が俺からチョコ欲しい言うたんよ」

だからチョコ買ったんやけど。男にチョコ渡すん初めてや。
なんて淡々と言われたけれど。聞いた横山は「あ、そう」といつも通り興味なさげに答えたけれど、内心(なんや、それ)という気持ちでいっぱいだった。


内が欲しい言うたんは百歩譲って許す。好きなんやったら欲しい思うんはしゃーないやろ。
けど、なんでこいつはあげたん?


仮にも自分という『恋人』がいるのに、他の男にバレンタインチョコを渡すというのはどういうことか。
横山の心の中は荒れていたが性格からか表には出せずに、気にならないフリをするのが精一杯だった。

「なあ、ヨコはチョコ貰ったら嬉しい?」

いつもより声低めに、自信なさげに言われて。いつもと違う態度に横山はいつものようにちゃかすことも逆キレで返すことも出来ずにいた。
なんで急に聞いてきたのか。明日がバレンタインだからだろうけれど。

「まあ、貰ったら嬉しいやろうな」

それが誰からであっても。どんな気持ちが込められていても。チョコが貰えるということは男としては嬉しいだろう。
だから至極当たり前のように答えると「そうかぁ・・・」と何故か悩んでる風な村上がいた。
なんやねん、なんか変なこと言ったか?自分の発言に少し不安に思うと、突然村上が立ちあがった。
そして、ドア付近にあった自分のカバンを漁り出すと、何かを手にとって戻ってくる。
少し俯いて、少し顔を赤らめて。横山の目の前に手に持っていたものを差し出した。
それは丁寧に梱包された手のひらサイズのもので。その日を考えると浮かんでくる答えは一つ。

「チョコ・・か?」

コクンと頷く村上。しかしそれを差し出したまま何もしようとしない村上に横山も反応に困っていた。
顔を赤らめてチョコを差し出して。


まるで、告白する前の女の子状態やないか。


即座に浮かんだことに「阿呆か」と打ち消して。これがどうしたと言うと。

「一応、バレンタインチョコなんやけど・・・」
「そんなん見ればわかるわ。貰ったことを自慢したいんか?」
「ちゃうわ!」

少し苛立ったような村上の反応に、横山は困ったような顔を浮かべた。
相方とまで言われるようになったけれど、たまに相手の考えが読めずに困るときがある。
いや・・・・たまに、ではなく。いつもわからない。
行動パターンというのは読めるようになったけれど。どれだけ一緒にいたって相手の心だけは読めない。
それをごまかすようにキレてみたりしてるけれど。こんなときはどうしたらいいのかわからずに困ってしまう。
それはきっと、村上も同じだろう。
だからずっと一緒にいられる。心が見えないから、相手がすべてわかるわけじゃないから、知りたいと思う。知りたいと思うから、そばにいたいと思う。そばにいて、見ていたいと思う。その心はずっと続いていくんだろう。



そのまま黙っていると、村上がポツリと呟いた。

「・・・・横山さんへのチョコなんやって」
「え?ホンマか?」

まさか自分へのチョコだとは思わなくて、驚いたような表情を浮かべたあとそのチョコを受け取る。
誰からでも、チョコ貰えるのは嬉しいことやなあ。なんて思ったけれど。村上に頼んだ相手というのが気になった。
村上に頼める相手。ならば業界の人か、あるいは共通の友人の中なのだろうか?思って問い詰めると、言いにくそうに表情を歪めたあと。

「あんな・・・村上さんて人からやねん」
「そうかあ」

村上ってやつからかぁ・・
目の前の真っ赤な顔をした村上に気づかないで、横山は村上という名の友人知人を一斉に探してみる。
地元の友達にはいない。業界の人にも・・・・チョコくれるような知り合いはいてへんなあ。
じゃあ誰や?そう思ったときにやっと目の前の「村上」に気づいた。

「ええ?」

予想もしてなかった展開に、横山は驚きの声をあげていた。
その反応に、横山がやっと気づいたと知った村上は「ニブいわ、あなた」なんて呟きながら苦笑いを浮かべた。

「内のチョコ買うついでにな、買ってみよかと思ってな」

ついでや、ついで。
照れくさそうに呟く村上を、気づいたら抱きしめていた。

「ちょ、横山さん。ここスタジオ・・」
「ええから。ちょっと黙っとけ」

「感動したんやから」言って、さらに抱きしめると腕の中のかわいい人はそっと横山の背中に腕を回した。






2003年02月12日(水) 『バレンタイン』(亮ヒナ)

楽屋に入ると、村上くんが一人でおった。台本に目を通してるからか、俺に気づかんと黙々と読んでいる。
そういえば、横山くんがマンガ読んでると呼びかけにも気づかないと怒っていたなと思い出しながら村上くんの斜め前に座る。
すると、俺に気づいたんんか村上くんが顔をあげて俺を見つめてくる。その真剣な表情になんだろうと身構えたら。「亮ちゃん・・」と呼びかけてくるのに「なんですか?」と返したら。

「俺からのチョコ、欲しい思うん?」

なんやのイキナリ。
チョコって、なんの話なん?なんでイキナリ「チョコ」で「欲しい?」になるん?
わけわかっらん、と混乱してると、村上くんがポツリと話しはじめた。

「いやな、内が俺からのチョコ欲しい言うんよ」

で、なんでかあげることになったんよ、と苦笑しながら村上くんが言うのに、「ふうん」なんて曖昧に答えたけれど。
心のなかは「なんや、それ」という気持ちでいっぱいやった。
内が村上くんこと好きやのは知ってる。ハっキリ言われたわけやないけど。内の態度みてたらわかる。
村上くんに話かけられただけで嬉しいと感じてたあの頃。先輩で、あの頃は滝沢くんやすばるくんと仲良くて、自分なんか話しかけるのも躊躇ってた頃。
あの頃の自分と同じ表情を浮かべる内。それ見てたら、あの頃感じた気持ちが蘇えってきたりした。

精一杯、村上くんが好きだと思う心。

あの頃は純粋に村上くんが好きやった。横山くんとも今ほどツーカーでもなくて、特別な存在なんて感じなかったから、自分が好きでいてもまだチャンスがあると思ってたあの頃。
そのときの自分の気持ちに似たような気持ちを抱えてるんやろうなあ。
経験者は語る、でもないけど。内見てたら少し切なくなる。
その内が「チョコ欲しい」言うんの、よっぽど勇気言ったやろうな。
ヤキモチというより「がんばれ」と応援する気持ちのが強く感じるのは、やっぱ「戦線離脱」したからやろか?
村上くんを見つめてて、あの人は特別な相手以外には同じように・・・言うなれば「どうでもいい」ような態度とることを知ってから。村上くんの『優しさ』を勘違いせんようにしようと思った。
誰にでもああいう態度とるんであって、自分にだけやないぞと。村上くんの言葉一つに揺れるこころを抑えようと必死になってた。
だから、今の村上くんの言葉に揺れるわけがないと。そう思ってたけれど。この心の『揺れ』は否めない。
チョコ欲しい?なんて聞かれて、「欲しい」と答えてしまいそうな心。心をくれると言ってるわけではないけれど。それでも、「女の子から告白」するという特別な日に特別な人から欲しいと感じるのはしゃーないやん。

ああ、俺もまだまだ修行が足りひんな。思いながらも
「まあ、誰からでもチョコもらったら嬉しい思うんちゃいますか?」
なんて当たり触りない答えを返すと「そうなん?」なんて不思議そうな顔浮かべたあと。

「じゃあ、これ貰ってくれるん?」

言って、机の上に置かれたのは「チョコレート」
バレンタイン用に包装されたものではないけれど。この日にあげると言われたら立派なバレンタインチョコレートだ。
「なんやの、これ」
「ん〜?内用に買ったんやけど、一つだけ買うんも疑われそうやったから」
だから数個買ったから。亮ちゃんにもお裾分けしよう思った。
言われて、一瞬でも期待してしまった自分を馬鹿だと思いながら受け取る。
「くれるもんは貰いますけど」
自分への言い訳のように呟くと、「ありがとなぁ」と村上くんが呟く。
そして、「はい」と手にチョコを持って差し出す。
それに「はい」と素っ気なく言いながら、チョコを受けとる。



それは、かわいくラッピングされたものではないけれ。
今まで貰った何よりも『特別』だと、そう思った。



2003年02月11日(火) 『バレンタイン』(内ヒナ)

「バレンタインにはいい思い出ないんか、内は」

突然降ってきた言葉に台本を読んでいた顔をあげると、いつのまにきたのか村上が目の前に座ってた。
大好きな人がそばにいたのにも気づかないなんて。内が自分を戒めながら村上をゆっくりと見つめると、村上の視線は話しかけた自分にではなく手元にあったことに気づいた。
よくよく見ると、それは今月に発売したアイドル雑誌で。そういば各誌揃ってバレンタインのこと聞かれたなと思い出した。同じこと聞かれるたびに毎年のことだから話すこともあらへん、思いながら言った言葉は「いい思い出がない」だった気がした。
「内なら沢山もらったやろ」
「もらってませんて。モテなかったですもん、僕」
友達にモテるやつがいて、そいつを羨んでた思い出ならあるけれど。自分が貰った経験など毎年義理が数個くらいだった。この仕事をしてからは沢山貰うようにはなったけれど、それも義理に近いようなものばかりだし。
『本命』と呼ばれるものを貰ったのは、実は片手で足りるくらいの数だった。
「嘘やろ」
まったく信じてない風の村上に、「嘘やないですよ!」と少しムキになって答えた。
そのことについて誤解されるのは別にいい。けれど「嘘」だと思われるのは嫌だったから。だからムキになって内にしては珍しいくらい早口でしゃべると、村上は納得したような顔を浮かべたけれど。
「でも、信じられへんなあ〜」
「なんでですか?」
「だってこんなかっこええのに」
「え?」
「こんなオトコマエ、近くにいたら絶対チョコあげてると思うんやけどなあ」
不思議やわーと真顔で言う村上。しげしげと顔を見つめられて内は恥ずかしさと嬉しさから顔を赤らめた。


かっこええ、やって。
オトコマエ、やって。


関ジャニの間ではよく言われてることだ。ネタのように内をかっこいいと言いたてる年上組。
いつもなら恐縮したような表情を浮かべて笑うだけなのだが。誰もいない、カメラも回っていない二人きりの空間で言われると、本当に思ってくれてるんだと感じる。村上流のリップサービスなのかもしれないが、それでもほんの少しでも思ってなければ言わないだろう。


なんか、勇気わいてきた。


実は、内にはずっと言いたいことがあった。
いい思い出がないバレンタイン。本命チョコは中学のとき以来貰ってない。だけど今までは欲しいと思うものもなかったから、別にいいと思ってた。
けれど、今は大好きな人がいる。
大好きな人からの、チョコが欲しいと。例え本命チョコじゃなくても欲しいと。
そう思ってた。だから、今日、今がチャンスだと思った。


「じゃあ、村上くんくださいよ」
「はあ?何が」
「チョコ。僕、村上くんからのチョコ欲しいです」
なにいうてんの。そう言って笑おうとしたけれど真剣な内の視線を受けて笑うことが出来なかった。
「なんや、罰ゲームかなんかか?」
男の自分から欲しがるなど、よっぽどチョコに飢えてるのか罰ゲームくらいしかないだろうと思ったが、力いっぱい否定されてしまった。
じゃあなんやねん。なんで俺のチョコ欲しいなんて思うねん。
そもそも、俺がチョコ渡すのなんて想像できひんわ。
ふと、さきほど自分が読んでた雑誌の1文を思い出す。
『顔真っ赤にさせて。女の子ならかわいいやん?』
そう、女ならばかわいいだろう。どんな子でもチョコ渡しにくる子はかわいく見える。しかし・・・・
「俺が頬染めてチョコ渡しにきてもかわいくないやろ?」
「いえ、かわいいですよ!」
「・・・いや、そこつっこんでくれなアカンとこやろ・・・」
否定の言葉を期待していたのにあっさりと肯定されてしまい、肩を落とす。自分の予想もつかない返しの応酬に、いい加減ネタも尽きてきた。
どうしようかと悩んでいると、目の前のオトコマエな顔が一瞬にして曇り始めた。
「やっぱ、アカンですか・・・?」
しゅんとうなだれる様は、まるで捨てられた子犬のようで。そう思ったら耳と尻尾がうなだれてるように見えてきた。
(なんや、俺がいじめた気分になるわ)
そこまでチョコが欲しいのかと不思議に思ったけれど。どうしてかはわからなかったけれど、これ以上言うと本格的に凹みそうで、諦めにもにた表情を浮かべると。
「俺のでええんなら、別にかまへんけど」
「ホンマですか!」
「ああ。けどバレンタイン用のチョコなんてあげられへんからな。その辺のチョコやで?」
「充分です!!」
元気よく返事をする内に、ほっとしながら。今日中に買わないとあと残り3日はチョコなんて誤解される時間やと焦ったりもした。
なんで俺がこんな焦らなあかんねん。我に返って思ったけれど。




まあ、しゃーないか。
子供と動物には優しくせなアカンからな。



そんな風に思われているなんて思いも知らずに、内は「やったー!!」と大喜びしていた。



2003年02月04日(火) 腕枕(純アニ)

日課となった走りこみを終えて家に戻ると、リビングから光りがもれていた。
結構遅くまで走ってたから、日付変わるくらいの時間なのに誰が起きてるんだ?と思ってリビングを覗くと。

「お帰り〜」

ソファに座ってテレビを見てた兄貴がゆっくりと振り返った。
明日は朝練あるからって早く寝るとか言ってたのに、結局起きてるし。
しかも、いつものようにビール飲んでるし。

「ちょうどいいとこにきた」

言って、兄貴が手を振ってくる。
近寄れってことなんだろうけど、以前酔っ払いに絡まれて大変だったことを思いだし躊躇すると。

「いいから、ちょっと来いって」

何がいいんだと思ったけど酔っ払いに言っても無駄だろうからと諦めて、ソファに近づく。
ソファの背もたれのとこで「何?」と聞くと何故か不機嫌な表情で見上げてくる。

「ここ座って」

自分の隣をポンポンと叩いて指し示す。
何がしたいんだかわからないけれどとりあえず言う事聞いておこうと思い座ると、左腕をぐいっと持ち上げられた。
そして、ソファの背もたれの上の部分に腕をおかれた。
ちょうど、兄貴の背もたれの部分に置かれた、手。

「なに?」

わけがわからずに腕を戻そうとすると「そのまま!」と言われた。
仕方なくその状態でいると、腕に兄貴の頭が置かれた。
いわゆる「よりかかり」状態。
腕に兄貴の頭。そんで見下げると兄貴の顔。
何がしたいんだってのと兄貴が至近距離にいるってことで混乱してるとポツリと「やっぱわかんねー」と叫んだ。

「わかんないって、何が」
「これ!この番組で「腕枕は気持ちいい」って言われてたから試した」

テレビを見ると、数人の女の子がトークしてる。よくある女の子が質問に答えていく番組みたいだった。
きっとその解答で「腕枕は気持ちいい」とか言ったんだろう。それ見てこの酔っ払いは試してみたくなったわけだ。

「全然理解できないっつーの」

言いながら、ビールを一口飲む。
しかし態勢はそのままだったから、喉を伝う感じが腕に伝わってきた。
ゴクっと飲むたびに響いてくる。
しかも、上目使いで見つめてきたりして。
無意識のことなんだろうけど。その視線は心臓に悪い。

「兄貴」
「ん〜?」
「ベッドの中だったら理解出来るかもよ?

売れない脚本家みたいに安いセリフをはく。こんなんで釣れるなんて思ってなかったけど「そうかな?」なんて返ってきて焦った。

「レッツトライ!」
なんて言いながらリビングを出て行く。
酔っ払いの悪い癖だ。なんて思いながらも据え膳はしっかりいただこうと後に続いた。

 


 < 過去  INDEX  未来 >


薫 [MAIL]

My追加