2002年03月31日(日) |
子供の領分(純アニ) |
<よくある「校内新聞」で、野球部が取り上げられることになった。 甲子園出場するということでロングインタビューをしたい、ということらしいけれど。 クラスのやつらは羨ましがるけど、オレにとっては特に感動なんてもんはまったくなかった。 毎年この時期は野球部の特集組まれるから今更だし慣れた。というより、いい加減ウザと思ってる。 夏に限らず春秋と試合あるたびに特集だなんだと質問攻めにあえばいい加減にしろと言いたくもなる。 きっとアニキとかならうまく答えるんだろうけど、オレは元々話すのとかあんまり得意じゃないから、こーいうのはホントカンベンしてほしい。 だから部活中、毎回聞かれるありきたりな質問にうんざりしながら受け答えていたけど。
「野球を始めたキッカケは?」
ありきたりで、普通の、まず最初に聞かれるような質問だけど。 そういえば、今まで聞かれそうで聞かれたことなかったな、なんて思いながら。 ぼんやりと、『キッカケ』となった時のことを思い出した。
幼稚園の頃、オレは兄貴が大好きで、誰よりも好きで誰よりも一緒にいたいと思ってた。 幼稚園でそれなりに友達もいたはずなのに、そいつらと遊ぶよりも兄貴と遊ぶほうを優先していた。 放課後遊ぼうと誘われても「兄ちゃんと遊ぶからダメ」なんて言って、誰よりも 真っ先に帰っていた。 小さなカラダで走って走って。 兄貴は小学生だったから、自分が帰るとまだ学校なのに、それでも一刻も早く帰りたかった。帰って、兄貴の帰りを玄関先で待っていた。
「ただいま〜」 「お帰り!」
玄関先で出迎えると決まって兄貴は「またかよ」とでも言いたげにイヤな顔を浮かべていた。 そりゃ、毎日待ち伏せされてたらウザイと思うだろうな。今のオレならそう思うけど当時の俺が思うはずもなく。 兄貴が帰ってきたのが嬉しくて、ニコニコしながら兄貴がカバンを置いて遊び行くのを待ってた。
「あ、兄ちゃん!」
嬉しそうに声をあげるオレとは対照的に、兄貴は困ったような、そんな顔を浮かべている。 いつもならイヤそうな顔浮かべたまま、文句言いながら靴をはき始めるのにその日は躊躇っていたりして。 いつもと違う兄貴に、小さな俺もさすがに変に思った。 そこで初めて、兄貴の格好がいつもと違っていることに気づいた。 いつもみたいに遊んでも大丈夫な格好ではなく、俺が見たことないもので。 白地に縦縞が入っていて、胸元には「キャッツ」の文字に背中には番号「5」が入っていた。 それは今となっては見慣れたものだけどそのときの俺は初めて見た、兄貴の「ユニフォーム姿」だった。
「純。今日は一緒に遊んでやれないからな!」 「え!なんで!!」
突然言われた拒否の言葉に、俺は泣き出しそうになりながらそれでも必死に兄貴に詰め寄った。
「兄ちゃんどっか行くんでしょ!?純も行く!」 「ダメ!兄ちゃんは今日から野球チームの練習行くんだから!遊び行くんじゃないからダメ!」 野球チームと言われて咄嗟に思いついたのは、いつも田渕さんたちと公園でやってる野球のことだったので、やっぱり遊びに行くんだ!と思った。
「野球チーム!?純も行く!」 「純はチーム入れないからダメ!」 「なんで!?なんで入れないの!?」 「野球チームは小学生からしかダメなの!だから純はダメ!」 「いやだよ〜!!兄ちゃん行くなら僕も行く〜!!」
小学生からじゃないとダメということは理解していたけど、そのときの俺はとにかく兄貴と一緒に遊べないってことが我慢できなくて、とうとう駄々こねて泣き出した。
「絶対行く〜!!」 「ダメなんだってば!」 「うわーーん!」 「っ・・泣いてもダメなもんはダメなんだってば!」
泣き始めたら最後、何いっても聞かない俺をわかってる兄貴は困り果ててしまい、兄貴まで泣き出しそうになってたそのとき。
「おい、何やってんだよ早くしろよ」 「ぶっさん!!」
田渕さんが、兄貴と同じユニフォームを着て玄関に現れた。 兄貴は助けがきたとばかりに田渕さんを呼び寄せて、今の状況を説明した。
「…・今日佐々木は欠席ってことで」 「やだ!俺も行くよ!」 「じゃ、純をどうにかしろよ」 「どうにかできてたらとっくにしてるよーー!ぶっさん助けてよ!」 「助けてって…」 「ぶっさん〜!お願い!」
半ば泣きつくように田渕さんに言うと、田渕さんは俺と兄貴の顔を交互に見た後ため息をつくと、泣いてる俺のそばにやってきた。 そして、しゃがんで目線を俺と同じくらいにして。
「純は野球チームに入りたいのか?」 「…・うん。兄ちゃんと一緒にいたい!」 「そっか。じゃあ一緒に来るか?」 「ぶっさん!」
慌てる兄貴に向かって「黙ってろ」と一言いって、田渕さんはまた視線を俺に向けた。
「でもな、そうすると兄ちゃんは練習できないんだよ。純の相手してたらな。」 「うん」 「練習できないと、うまくならないんだよ。わかるか?」 「…・うん」 「そうすると、兄ちゃんはみんなよりへたくそになっちゃうんだよ。それでもいいのか?」 「……・」 「みんなからへたくそって言われて、いいのか?」
田渕さんの言いたいことはわかったけどまだ諦めきれなくて。兄貴をチラっと見ると、兄貴は困ったように笑いかけた。 その顔を見た俺は、自分の中で何が1番大事か気づいた。
僕のせいで兄ちゃんが、みんなからいじめられちゃうかもしれない。
そんなの…・・やだ。
「じゃ、大人しく留守番してくれるか?」 「うん」 コクンと頷くと、田渕さんは笑いながら俺の頭を撫でてくれた。
「小学生になったら、兄ちゃんと一緒にいられるんだよね?」 「ああ。チームにいれてやるから」 「絶対だよ!兄ちゃんと一緒にいられるんだよね!」 「ああ。いつか、純が誰よりも野球がうまくなったら。そしたらずっと一緒にいてくれるってさ」 「本当!?」 「ちょ!ぶっさん勝手に約束しないでよ!」 「いいじゃねーかそれくらい」 「いいじゃんって…・・」
「約束〜!」と大騒ぎしてる俺に、兄貴は深いため息を洩らすと肩を落としながら。
「・・も、いいよ。約束してやるよ!」 「じゃあ、指きり!」
嫌がる兄貴の手を田渕さんが無理やり上げると、俺は大喜びで自分の小指を絡めた。
「約束だからね!」
「そーいや、そんとき約束したんだっけ」
帰り道、ぼんやりと思い出した約束。 いつのまにか自分の中で約束だけが残っていて、いつしたとかなんでしたのかは忘れていた。 家に戻ると、珍しくこんな時間から兄貴がリビングにいた。 いつもならとっくに飲みにいってるのにな、なんて思ったけど、ふとさっき受けた質問が頭を過った。 そういえば、兄貴が野球したキッカケって聞いた事ない。
「なあ、兄貴」 「なに?」 「兄貴が野球始めたキッカケって何?」 「ぶっさんが野球始めたから」
さも当たり前のように返されたその答え。 なんとなくわかってたことだけど。今も昔も、兄貴がなんかはじめるキッカケは「田渕さん」だし。 野球始めるのも、高校選ぶのも。就職するのも。野球部の監督するのも。 元をただせばすべて「田渕さん」に繋がってる。 兄貴が一番尊敬してるし頼りにしてるってのは、昔からだしそうさせてくれるくらいの人だから。 わかってる。 けど、納得はしない。 俺にとっては一番身近な先輩でお兄さん的存在で。
そして何よりも一番の「ライバル」である田渕さん。
田渕さんみたいになりたいって思ったこともあった。 けど、俺は俺にしかなれないから。俺が田渕さんになれないように田渕さんも俺になれないから。 それなら、俺は俺らしく、兄貴の心に入っていこうと決めた。 それに、『約束』もあるし。
「兄貴。約束守ってよ」 「だから!それはオマエが誰よりも強くなったらだろ!?」 「強くなったじゃん」
甲子園に出場決まったし。今じゃ中込さんよりも強いと思ってる。 木更津の中で、俺よりも強いやつなんて見当たらない。絶対の自信がある。
「誰よりも、だろーが!オマエイチローよりも強いのかよ!?」 「イチローって…・プロじゃん」 「プロだろーとなんだろーと!誰よりもって言っただろ?」
だから約束はまだ無効だと騒ぐ兄貴。 そんなこと言ったらキリねーじゃんかと思ったけど、あんまり必死になってるから言うの止めた。 必死になってる兄貴は見ててかわいいとか思うから。 それに、イチロー越えるって新たな目標できたし。
「じゃあ、イチロー越えたら約束は受理されるわけだ?」 「ああ、越えたらな!」
兄貴はきっと俺が越えられるなんて思ってないから、素直に認めてるんだろう。
けど、甘いよ。
俺が誰よりも「諦めの悪い男」だって、兄貴が一番よく知ってるのにな。
狙ったものは絶対外さないって、誰よりもしってるのにな。
「兄貴、指きりしよう」 「はああ?なんで」 「いいから」
嫌がる兄貴の手をとって、指を絡めた。 そしてお決まりの言葉を言ったあと、そのまま引き寄せて唇にも誓いのキスをした。
「純!」 「走りこみでもしてこよ」
兄貴の怒鳴り声を背中に受けながら、笑って部屋をあとにした。
まあ、後三年くらいで兄貴が手に入ると思えば、今の状態も軽いもんだって思える。 あんたが自由に田渕さんとか中込さんとかと遊ぶの許すのも、あと三年だからな。
2002年03月30日(土) |
ぶらんこ(ぶつアニ) |
「ぶっさん、ここ覚えてる?」 帰り道。ビールを買って帰りたいというぶっさんに付き合うためにいつもと違った道を通っていた。 ある公園の前を通ったとき、アニが懐かしそうに言った。 ブランコに滑り台。そして鉄棒しかない殺風景な公園。 けれど、二人にとっては思い出の場所でもあった。 二人だけど、秘密の場所。 「ああ。あんとき待ち合わせしてたとこだろ」 ぶっさんも懐かしそうに言った。
物心ついたときから、木更津では野球がブームになっていた。 なので、ぶっさん達も当たり前のように小学生の頃から野球チームに入っていた。 別に強制ではなかったが、ぶっさん自身野球が好きだったから入ったのだったけど。 その後を追うようにアニも入ってきた。 「だって、ぶっさん遊んでくれないんだもん」 だから、ぶっさんと一緒にいるには入るしかないんだもんと言われて、なんだその理由は、なんて言いながら本当は嬉しかったことを覚えてる。 家が近かったから、自然と一緒に遊ぶようになったアニは、ぶっさんにとっては『仲間』でいて、『手のかかる弟』のような存在でもあった。 一人っ子のぶっさんは、一生懸命自分の後を追ってくるアニがかわいくて仕方なかった。 だから、アニが野球チームに入ったときは、口ではなんか言いながらも歓迎していた。
自分だって、アニと一緒にいられるのは嬉しいから。
だけど、あの頃は周りより体格が小さめであまり運動神経もなかったアニは、練習についていくのが精一杯で。 気づけば、レギュラーのぶっさんとは離れて練習させられていた。 「ぶっさんと一緒がいい!」と駄々をこねてもどーにもならない現状に、アニは毎回拗ねた顔を浮かべていた。
(あ〜これはもう持たないかもなあ)
元々練習とか運動とかあまり得意ではないアニだから、いい加減嫌気がさして辞めるかもしれないとぶっさんは思っていた。 だから、練習後に呼び止められたとき「とうとう辞めるって言うのか?」なんて思っていたけど。
「ぶっさん!俺に野球教えて!」
真剣な表情を浮かべるアニを、ぶっさんは呆然と見つめていた。 練習とか面倒なことはすぐに放り投げるアニが、自分から練習したいと出だすなんて思わなかった。 しかも、うまくなりたいなんて。 だけど、自分はキャッチャーだから教えられることは少ない。 「バンビとかに教わったほうがいいんじゃねえ?」 そう言うと、アニは黙ったまま下を向いてしまった。 「・・・・・みんなには内緒にしたいんだよ!」 真っ赤になりながら、少し恥じらいながら言うアニ。 それがなんだかかわいくて笑みを浮かべると、アニは真っ赤になりながら睨んできた。 それに慌てて笑いを引っ込めると、半分拗ねてそぽ向いてるアニに問いかけた。 「じゃあ、練習ない日にこっそり特訓するか?」 「うん!」 ぱあっと笑みを浮かべて、嬉しそうに返事をするアニ。 「じゃ、どっかで待ち合わせしないとな。みんなに見つからないようにしないといけないし」 「じゃあ、あそこにしよう!外れの公園!」 外れのとは、商店街を少し歩いたとこにある、小さな公園。 遊ぶものが3つしかないので、今では子供も寄りつかなくて駐車場状態になっているとこのことだった。 あそこなら、同じチームのやつらには見つからないだろう。 「じゃあ、終ったらあそこに待ち合わせにするか」 「うん!絶対だよ!約束!」 「ああ、指きりするか?」 「する!」 冗談のつもりで言ったのに嬉しそうに返されて、ぶっさんは苦笑しながらアニが出した指を自分のを絡めた。
「しっかし、毎回ぶらんこんとこで待ってたよな」 「だって!ぶらんこ好きだし・・・・・・」
待ち合わせ場所に行くと、入り口のところにアニの姿はなく、不思議に思ったぶっさんが中に入っていくと。 アニは、ぶらんこを大きく揺らしていた。 それはもう楽しそうに乗っているから、声かけるのを躊躇ったほどに。 「なんかさ、漕げば漕ぐほど高く上がっていくのが嬉しくてさ。いっぱい漕いでいけば空に届くような気がしてたんだよ」 そうだなと、ぶっさんもぼんやりと思った。 あの頃の自分達は、自分の力で高く上がるなんてことは出来なかったから。 唯一上がる事の出来るのは公園のぶらんこだった。 漕げば漕ぐほど、目の前には空が広がってきて。 もっともっと漕げば、空にも届くんじゃないかって思うくらいだった。 「ま、馬鹿と煙は高いとこが好きだって言うしな」 「うっわ、ぶっさんひでぇ!!」 泣き真似するアニ。けれど、顔は笑っていた。
昔から仲間と一緒にいたけれど。 そのことは、二人だけの秘密の思い出。 唯一、二人だけの思い出。二人だけの内緒の待ち合わせ場所。
それは、なんとなく甘い思い出になって。 二人の心に残っている。
2002年03月29日(金) |
海行こうよ(バンアニ) |
「やっぱ夏と言えば!」 「海だよな〜!!!」
ぶっさんとマスターが大声で叫んでいる少し後ろを、バンビは「うるさいよ!」なんて言いながら立っていた。
いつものようにマスターの店で飲んでいたメンバー。 しかし、その日はその年一番の暑さで。 冷房が入ってるとはいえ所詮マスターの店。完璧な設備ではないため暑さがダイレクトに伝わってくる。 密室の中、風sがまったく入ってこないところで男四人で飲んでる姿はむさ苦しいことこのうえない。 見てるだけでそう思うのだから、本人達は余計思ってるだろう。 この暑さの中、ビールの冷たさの喉を潤してくれる・・・・・はずだった。 しかし、ビールを飲んでいても一向に冷めない熱気に、誰もがキれかかったそのとき。
「海だ!!!!」
ぶっさんが突然立ちあがり、半ばキレながら叫んだ。
そんなこんなで冒頭。 海だ!水着だ!なんて騒いでるぶっさん達とは対照的に、黙ったままのバンビ。 しかし、さきほどから落ちつきない態度をしていた。
「なあ、アニ遅くない?」 「あ〜ホントだ。なにやってんだよアイツ」
ジャンケンで見事負けて買出しに走ったアニが、さっきから戻ってこない。 コンビニから現時点まで5分くらいで着く場所にいるため、ここまで遅いのはありえないし迷子なんてありえない。 だけど、10分過ぎからバンビの態度はかわっていた。 そわそわと落ちつきない動きをし、辺りを見渡してはため息をついたり。 はたから見たらすごくわかりやすいくら、「アニが心配」というオーラを出していた。 まるで、はじめてのおつかいに出した親のような、そんな心境だった。
「ちょっとバンビ見てきてよ」 「うん、またなんかやったのかもだし」
ぶっさんの言葉に、仕方ねえなあって顔を浮かべながら歩き出すバンビ。 しかしその歩きはどことなく早いような・・・?
「行きたいなら最初から行けばいいのにな」 「バレてないと思ってるからなあ、アイツ」
曲がり角と共に見えなくなったバンビを見送りながら、マスターとぶっさんはため息をついていた。
(いない・・・・・まだコンビニ?) 途中辺りを見渡しながらコンビニまで歩いて(競歩?)いたが、それらしく人物は見当たらなかった。 そうこうしてるうちにコンビニに着いてしまい、こうなるとやっぱ荷物重すぎだから?と思いながら中に入る。
とにかく、トラブルに巻き込まれてなきゃいい。
願うような気持ちで店内を見渡そうとした。 が、お目当ての人物はすぐに見つかった。
・・・・なにやってんの。
ずっと探してた彼は、キレイな金髪を揺らしながら、笑顔を振りまいていた。 だけど、少し困ったような仕草をして、相手に話しかけてた。 目の前には、女の子2人。 明らかに色目を使ってるような仕草に、それがアニから声をかけたのではなく彼女達からなのだと気づく。 いわゆる、『逆ナン』という図なのだろう。 木更津では珍しいが、夏になると海が近いところになると千葉沿線から来る子も多くなるので、時々こーいう風景が見られる。 ナンパ目当て、逆ナン目当てのイマドキ風の子達が増える。 学生のときはぶっさん達もそれ目当てできたりしていた。バンビは嫌がるようなフリをしながらもついてきていたりもした。 だからそれについては文句どころか大歓迎なのだが。
しかし、今は現状が違った。
今は仲間で泳ぎにきてるのだ。 しかも、ぶっさん達待ってるし。 時間も時間だし、アニもそろそろ断ってくるだろうと思っていたけれど。 一向に引かない女の子にいい加減どうにしかしろと思っていたそのとき。
「え〜行っちゃうの〜?」
その場を離れようとしたアニにかける言葉と共に・・・・腕が絡まった。 それを見た瞬間、バンビの中で何かがキレた音がした。
「アニ!」
怒りながらもアニを呼んで、振り返ったアニがバンビのことを見てほっとしたような顔を浮かべた。 それに少し機嫌を直したけれど。
「え、友達?友達もどう?」
進みかけたアニが、バンビが登場したことによって動きを止めたのを言いことにさっきよりも深く腕を絡めてきた。 それを見た瞬間、バンビの行動は早かった。
「行くよ」 「え!?」
女を見ないようにして、絡めた腕をはずすようにアニの手をとって、そのまま歩き出す。 手は繋いだままで。 後ろから女達のブーイングが聞こえてきたが、そんなものは気にならないとでもいうように、店の外へと歩いていく。
「バンビ、どーしたんだよ」
繋いだ手をひっぱるようにしてバンビの歩きを止めたアニが、不思議そうな顔を浮かべていた。
「アニが遅いから様子見にきたんだよ」 「そっかーごめん」
しゅんとした顔を浮かべて素直に謝るアニ。 それを見て、少し落ちついたバンビは手を話そうとしたけれど。
「へへ、逆ナンされちゃった〜」 嬉しそうに笑いながら言ってくるアニを、バンビはただジロリと睨みつけた。
人の気もしらないで・・・・!
あんまり帰ってこないから「誰かに絡まれたのか」「荷物が重くて持てないのか」とずっと心配してたのに。 いてもたってもいられなくて、それでも心配してることをぶっさん達に気づかれたくないから平静を装いながら歩き始めて。 見えなくなったとこから急いで来たのに。 本当に心配で。 トラブルの耐えないアニだから、また巻き込まれたんじゃないかって心配したのに。
来て見ればノンキに女の子と話してて。 挙句の果てにそれを嬉しそうに話すアニ。
自分の心配も。 自分の気持ちも知らないで。
オレが、どんなに心配したか。 女の子と話してるアニ見てムカついたとか。 今、どんな気持ちで手を繋いでるとか。
全部知らないで笑ってるアニ見たら。 そーいうの、全部ぶちまけたくなった。
だけど、出来るわけない。 出来たら・・・・・・こんなに悩んでないっつーの。
「アニの馬鹿!」 「な、馬鹿ってなんだよ!」 「馬鹿は馬鹿なんだよ!」 「馬鹿なのがバンビに迷惑かけたかよ!」 「かけまくりだよ!」 「はあ?」
わけわかんないって顔を浮かべるアニ。 それを横目で見ながら、ぶっさん達の待ってる場所へ向かうバンビ。 そのときの二人は忘れていた。
二人の手が、ぎゅっと繋がっていることを。
「あ〜バカップルがきた」
遠くのほうで、タメイキを洩らすぶっさん達がいた。
2002年03月28日(木) |
悪あがき(バンビ片思い自覚?)バンアニ |
気付いてしまった事実。 別に、対したことじゃないけど。 だけど、気付いちゃったんだよ! 気付いたら、気になってしょーがないんだよ!
アニにとって俺はなんなのか。
「お腹すいた〜」と言いながら店に入ってきて、マスターが文句言いながらも作ってくれるとすっげ嬉しそうな顔して笑って。「ビールもほしい〜」なんて言って甘えて。 うっちーには「癒される」とかよくわかんない理由で抱きついたりして甘えて。(いや、気持ちわかるけど)
で、最後には必ずぶっさんの近くに座って。 なにかっていうと「ぶっさん」「ぶっさん」って話しかけて。 なにかっていうと嬉しそうに笑って。 ぶっさんに甘えるアニ。
「ぶっさん〜」
呼びかける声すら甘えてる風で。 全身で甘えてるって感じで。
それ見てたら、なんか。 ムカツク。
別にアニに甘えてほしいってわけじゃないよ?! 男に甘えられても嬉しいわけないし。 モー子になら嬉しいけど、アニなんかに甘えられてもウザイだけだし。 ワガママだしうるさいしすぐ泣くし。 そりゃ、甘えてるアニは・・・・他の男より少しは可愛げあるとか思ったりするけど。 でも、別に甘えてほしいとか甘やかしたいとか懐かれたいとか思ってるわけじゃない・・・・・・んだよ。
だけどさ。 マスターにもうっちーにもぶっさんにも甘えてるのに。
なんで、俺にだけ甘えてこないんだよ。
今日だけじゃなく。 振り返ってみると出会ってからずっと。 アニは俺にだけ甘えてこない。 ぶっさんに話しかけるときにする表情を、向けられたことなんてない。 あんな風に呼ばれたことなんて、ない。
アニが甘えた態度を示すのって、いろんな人に無意識にするんだけど。 だけど、本当に自分から甘えるのって仲間にだけだから。 だから余計、俺だけにしてこないのが気になった。 他の仲間にはするのに、俺だけしないのって。 アニにとって俺は『その程度』のヤツなの?
・・・・・え?
自分で思ったことに、びっくりした。 そんな風に考えてたつもりなかったのに、今するりと出てきたから。 『その程度』の関係。 だから、アニは俺にだけ甘えないの・・・・?
気になったらどんどん膨らんで。 もういっぱいいっぱいだってくらいに大きくなって。 俺の心はいつのまにか、そのことで占められてしまったかのように。 アニに占領されてしまった。
ぶっさんと楽しそうに話してるアニから目が離せなくて、じっと見てたら気づいたらしく振り返った。 「なに?」 「・・・・・別に」 目が合ったことに至極びっくりしたけど、それを出さないように落ちついて答えた。 だって言えるわけないじゃん。 「アニが俺の事どー思ってるのか知りたくて見てた」 なんて、仲間から言われたら少し薄ら寒い。 そんなこと考える俺もかなり不毛。
「またモー子のこと考えてるんだろ、エロ童貞!」 「違う。つーかもう童貞じゃないし」 「そっか。じゃあエロ元童貞!」
なんだよ、元童貞って。 みんな元童貞だってーの。 つーかいつまで童貞呼ばわりすんだよ。
いっつもアニは俺に対してはこーいう風。 からかうみたいに話しかけて、そう言われたらムっとするから言い返して。 で、喧嘩でもないけど言い合いみたいなことになって。 最後はマスターとか、時々ぶっさんが止める。 「アニ」 なんてたった一言だけ言って。 アニもさ、ぶっさんに名前呼ばれるとピタっと止めるんだよ。
この違いは、なんだよ。 ・・・・・・もしかして、頼りない、とか思われてるわけ!? だから甘えてこないのかよ!? 童貞だったからかよ! 童貞ってそんなに子供かよ!?
・・・・・そりゃ確かに子供かもしんないけどさ! だけど、今は童貞じゃないじゃん! なら、俺に甘えてきたっていーじゃんか! そりゃぶっさんには敵わないかもしれないけど。 だけど、マスターとかうっちーに甘えるみたいに接してくれてもいいじゃん。
「バンビ」 少し高めのトーンで、自分に呼びかけてくれたら。 それだけで嬉しいのに・・・・・・
・・・・・嬉しいって・・・・・・え?
「バンビ?どーしたんだよ?」
呼ばれて顔をあげると。 アニの顔アップ。
「わ!」
ドン。
「いって〜」
びっくりして、思わずアニを突き飛ばしたら、アニはそのままソファから落ちていた。 あっと思って手を貸そうと思ったけど、アニの顔がまともに見れなくてそのまま回れ右してしまった。
「おい!バンビ!」
背中からぶっさんの声がしたけど到底振り向けるわけがなくて。 そのまま店を出てしまった。
びっくりした。 びっくりした。
嬉しいって。 なんで?
「なんだよ〜!!わけわかんないよ!」
木更津の海に向かって叫んでみても、答えがかえってくるわけがなく。 その日はずっと考えて。 考え出したらキリがなくなって。 眠れなくなってしまった。
〜その頃のマスターの店〜 「馬鹿だよなあ、バンビ。変なとこ鋭いのに変なとこに鈍感でさ」 「なあ、あれも一種の甘えだって気付かないんだからな」 「アニがあーいう態度するの、バンビにだけなのにな」 「ま、気づいてたらもっと簡単なんだけどな」 「いや、逆に大問題になってただろ。今度は自分の気持ちで悩んだりしてさ」 「モー子もスキだしアニも好きだし・・どうしたらいいんだよ!ってキレてそうだよなあ」 「それはそれで楽しいんだけど。この分だと当分先になりそうだな」 「せめてぶっさんが生きてるうちに解決してるといいな。あと半年?1年延びたんだっけ?」 「・・・・・さりげにひどいねオマエ」
2002年03月26日(火) |
変わらない日々(バンアニで純アニ?ぶっさん語り) |
「うーっす」 猛暑が続く木更津で、相変わらずのメンバーが集まっているであろうマスターの店に現れたぶっさんは、掛けつけにジョッキを飲み干しながら、ふと周りが異常なことに気付いた。 「・・・なんか空気悪くねえ?」 「あれ」 マスターが指したのは、バンビの不機嫌な横顔だった。 いつからいたのか全然気付かなかったぶっさんは驚いたが、そのままバンビの視線を追っていくと。 「・・・・なるほどな」 ぶっさん達から少し離れた場所。奥の座敷のところにアニと弟の純がいた。 「さっき純がきてさ。なんだかんだ話してるうちにあーなったわけ」 「ふうん。で、それを何も言えないバンビが不機嫌な顔して見てるわけだ」 「ご名答」 えぜえよなあなんてマスターに先に言われて頷きながら、ぶっさんはタメイキをもらした。
純とアニが一緒にいて、バンビが不機嫌な顔を浮かべる。
それは今となっては見慣れた光景ではあった。
(コイツ、昔っから変わってねーよなあ)
昔。 出会ったばかりの頃から、バンビはアニのことが好きだった。多分、一目ボレとかそれくらいの早さで。 もっとも、本人は自覚がないけれど見てれば一目瞭然で。 アニが一緒に遊ぶとバンビは目に見えてご機嫌で張り切る。近所のやつらと野球するときなんかアニがいるといないじゃ勝敗が大きく変わるほどだった。 しかし、逆にアニがいてもすこぶる不機嫌な時があった。 それはたった一つ。 弟の純が一緒のときだ。 あの頃は弟がアニの後をくっついてきていた。自分達とじゃ対等に遊べないのにそれでもアニと離れたくないからか、一生懸命ついてこようとしていた。 だけど仲間に入れられるわけがなく、必然的にアニは純の面倒をみなければいけなくなる。 そうなるとアニは純にぴったりくっついてる状態だから、自分達とも遊ぶことが出来ない。 言わば、アニを一人占め状態の純。それをバンビがおもしろくないと思うのも無理はないだろう。 不機嫌な顔しながら遊んで。それでもアニが気になって気付いたらそっちを見てる状態で。 何度、うざいと思ったことか。 しかし、あの頃は逆に純がバンビに嫉妬しているときもあった。 アニだっていつまでも弟の面倒だけを見てるだけなのも嫌になり、最後には必ず弟をほっぽいて輪の中に入ってくるときがある。 その場合大抵バンビがなんだかんだと嬉しそうに構ったりして。 恨めしそうに見つめる純に向かって勝ち誇ったような笑みを浮かべる。 ガキ相手にムキになってるバンビも問題だけど。 何時の頃かバンビVS純の図式が成り立っていた。 アニを挟んでのトライアングル。 そうして、それはアニが高校を卒業するまで続いていた。
いつからだろうか。その図式が崩れたのは。 アニが監督になってからか? あの頃から純に余裕が出てきたような気がした。 アニがぶっさん達と一緒にいるとこを見ても、前のように睨んだり明らかな嫉妬の感情を出さなくなった。 今も、ここで飲んでるアニを咎めるでもなく普通に接していた。 (昔だったら馬鹿にしたような視線の一つでも送ってるのにな) しかし、かたやバンビはと言うと・・・・・
「アイツも、こんなとこまで押しかけてくるなっつーの」
相変わらず不機嫌な顔を浮かべてアニ達を見てるバンビ。 その顔は純よりも幾分年上であるはずなのに、純よりも子供のように見える。 オトナになった純に、子供のままのバンビ。
「いい加減アニ離れしろっつーの」 「だろ!ぶっさんもそー思うだろ!?」
ぼそっと周りに聞こえないくらいの小さな独り言を吐いたのに、バンビは素早く反応してきた。 ばっと振り返ると不機嫌な顔そのままに、あーだこーだと文句を言い始めた。 (あ〜うぜぇ) ぶっさんとしては「アニ離れしろ」とバンビのことを言ったつもりだったけれど、バンビは「兄離れ」と取ったらしい。 「アニ」と「兄」 言い方は同じだけれど、意味は大きく変わる。 しばらくずっと不機嫌なバンビにいい加減うざくなってなんか言おうとしたが、それより早く奥で純が立ち上がった。 靴をはき、こちらにぺこりと挨拶しながら店を出て行くと、それに次いでアニもカウンター前のソファに腰を下ろす。 偶然かわからないがバンビの横に座ったアニにバンビは嬉しそうにしながら。 しかし、表情とは逆のことを言っていた。
「こんなとこまで野球部のこと持ち込むなよな」 「いいじゃねーかよ。バンビにはかんけーねーんだし」
相変わらず素直になれないバンビは、アニが戻ってきたのが嬉しいのにこんなことしか言えなくて。 それにムっとしたアニが言った「関係ない」という言葉に傷ついてたり。 (あ〜あ。ったく) ぶっさんが苦笑いを洩らす。 昔から変わらず素直じゃなくて・・・不器用なやつだと思った。
ホント、かわんねーよな。
それに苦笑いしながら。 それでも変わらない彼らが嬉しいと、思った。
2002年03月25日(月) |
SO PURE(オカツカ) |
久々に准一くんと遊ぶことになった。 今クールはお互いドラマが入っていて忙しくて中々逢えなかったから、久しぶりに見た気がする。 ブラウン管越しなら毎週見てるけど・・・それでもこうやって逢うのとは全然違う。 「久しぶり〜」 「ん」 少し笑って返事する准一くんにドキっとした。 逢えなかったのはほんの少しの間だけど。なんか変わった気がする・・・かっこよくなったような・・・? ドラマの影響かな、リュージと目の前の准一くんがダブって見える感じがして。別人なような気さえする。 今までも充分かっこよかったけど、それとはまた違った雰囲気で。見たことない准一くんにドキドキした。 「痩せた?」 「え?!・・そうかな?」 ぼうっとしてたから返事に遅れたけど。俺の顔をじっと見る准一くんに、自分が今どーいう状況だったか思い出す。 そういえば今は「食べられない時期」だった。 毎年周期的にやってくるからあんまり気にしてなかったけど・・・・痩せたかな?
俺の答えに准一くんは考えるような仕草をしたあと、突然手を掴んできた。 「予定変更」 「え!?」 「今日は岡田家に招待する」 そう言って手を繋いだまま駐車場まで連れていかれて、そのまま准一くんの車に乗せられる。 急なことにさすがに驚いて戸惑ってる俺を余所に、准一くんは車を走らせる。 「タカシ」 「なに?」 「ご飯食べてないだろ?」 「・・・うん」 嘘言ってもバレると思うから頷くと、准一くんはタメイキをついた。 「やっぱりな・・・」 「だけど!今日1日遊ぶくらい大丈夫だよ?」 准一くんと久しぶりに会えるって、遊べるって。ずっと楽しみにしてたのに、俺のせいで潰れるなんてイヤだ。 「だけど、俺がイヤなんだよ」 苦笑いしながら俺の頭をポンとする。 「そんな状態のタカシほっとけないし。第一、俺がイヤだし」 「でも・・・・」 「タカシが元気になったらいくらでも遊べるだろ?だから今日は俺の手料理で我慢してよ」 「え!?」 思いがけない言葉にビックリした。 准一くんが料理するっていうのは、番組とかで見たことあったから知ってるけど。まさか、これから作ってくれるなんて思わなかった。 「この前長野くんに夏バテに効く料理教えてもらったからさ」 だから今日は俺の家で我慢してよ。 准一くんの言葉に頷く。 すると准一くんはホッとしたような笑顔を向けてくれた。 それがまたリュージと被った。けれど・・・それはきっと准一くんがリュージに被ったんじゃなく、リュージが准一くんに被ったんだろうなって思った。 リュージが持ってる優しさは、准一くんが持っているものだから。 だから、なんだろう。
「准一くんの手料理かあ。楽しみだなあ」 「あんま期待すんなよ?」
そう言って笑う准一くんは、俺の大好き笑顔だった。
2002年03月24日(日) |
Spiral(純アニ) |
それはまだ、アニが「佐々木」と呼ばれていた頃の話。 小さな兄貴と、小さな、小さな弟の話。
「母さん、ぶっさん達とプール行って来る!」 「あら、純は連れていかないの?」 「純は泳げないから邪魔なの!」
小学校に上がって三年目の夏休み。 アニは近所にたった一つだけあるプールで泳ぐ約束したぶっさん達との待ち合わせ場所に行こうと、母親にこっそり告げてそーっと出て行こうとした。 こそこそと、小さなカラダをさらに小さくさせて、辺りを見渡しながら歩き続けた。 忍び足で歩いていき、やっと玄関まで辿りついたのでホッと胸を撫で下ろした。 しかし、ホッとして安心しすぎて油断したらしい。 目の前にあった罠に気付くのが少し遅れてしまった。
「あ!」
ガン!ガラガラ!
玄関に置いてあったバッドを蹴ってしまい、途端に大きな音が鳴り響く。 慌ててバッドを拾い、「しー!」とバッドに向かって言ってみたりして、とにかく静かにしなきゃ!と思った。 (アイツが来ちゃう!) しばらく静かにしていたけれど、なんの反応もしなかったので安心して靴を履こうとしたら。 「兄ちゃん、どこ行くの!?」 後ろから自分よりも高い声が聞こえてきて、アニはあちゃあとと顔を歪ませた。 後ろを振り向くと、アニの弟の純が泣きそうな顔で立っていた。 その手にはさっきまで遊んでいたおもちゃが握られていたので、きっと大きな音がしたから慌てて走ってきたんだろう。 そして、玄関に自分を置いて出て行こうとするアニの姿があったから、泣きそうになってるのだった。 (コイツに見つかりたくなかったのに〜) 玄関出るまでの仕草は全部、弟に見つからないようにしようと思ったからだったのだ。 弟に見つかったら、この後絶対「連れていって!」って言われるのがわかってるから。 (おまけつきなんてジョーダンじゃないよ!) この頃は当然だが「純の兄だからアニ」とは呼ばれてなく、代わりに「兆のおまけの純」と言われていた。 アニと遊びに行こうとすると必ずおまけとして純がついてきて、しかし三年も離れているのだから純が一緒に遊べるわけがなく。 毎回足手まといの純に、いい加減アニはうんざりしていた。 しかも今回はプールだ。泳げない純はもちろん幼児用のほうでしか遊べないんだから、そうなると自分まで付き添いでそっちにいかなければいけないのだ。 (そんなの絶対ぶっさん達に笑われる!) 「佐々木は小便プールだな」 なんて言って笑ってる姿が目に浮かんだアニは、なんとかごまかそうと考えた。 けれど、それより早く純があるものに気づいた。 「プール行くの!?純も行く!」 アニが持っていたバッグをじぃっと見られて、アニはがっくりと肩を落とす。 「純は泳げないから無理だろ」 「やだーー!兄ちゃんが行くなら純も行くーー!!」 とうとう泣き出してしまった純に、うんざり思うアニ。 こうなると何言っても「行く!」と一点張りなのだ。 ここでいつもなら仕方なしに連れていくのだけれど、今回は絶対に連れていきたくなかったのだった。 「・・・・じゃあ、連れて行くから早く準備してきな」 「うん!」 アニが言うと純は嬉しそうに笑顔で返事した後、急いで準備しなきゃと走り出した。 純が見えなくなり「お母さん〜水着!」という言葉が聞こえてきたのを確認すると、そぅっと玄関のドアを開けた。 純が準備している間に出て行くことにしたのだ。 いつもなら黙って出ていっても遊んでる場所を知ってる純が後から来るのだけど、今回は純もあまり行った事ないプールだ。 きっと、今回は来れないだろう。 (・・・ごめん、純) 弟の嬉しそうな顔が浮かんで、罪悪感を感じながら、それでもそっとドアを閉めて走り出した。
散々遊んで家に帰ると、玄関で涙目で自分の帰りを待ってる純がいた。 自分の姿を見るなり「兄ちゃんの嘘つきーー!」と泣き始めた。 何言っても聞かないで泣き続ける純に困り果てていると、母親が顔を出した。 「あれからずっと泣いてたのよ」 嬉しそうに準備して玄関に兄の姿がないのを見て、泣き続けていたと聞いて。 「ごめん、純、ごめんね」 自分も泣き出しそうになりながら、小さな弟をそっと抱きしめた。
そして。 アニが「純の兄だからアニ」と呼ばれるようになり、そして「野球部の監督」と言われるようになった現在。 (そーっと。そーっと・・・・) 相変わらず忍び足で廊下を歩くアニの姿があった。 この頃付き合いが悪いアニにバンビから電話がかかってきた。 「今マスターんとこで飲んでるから。たまには来なよ」 そう言われて、今まで我慢してたんだし!と自分に言い聞かせて家を出ようとしていた。 玄関まで辿りついて、ほっと安心したからだろうか、目の前の罠に気付くのが遅れた。
「あ!」
ガラガラ。
玄関にあったバッドを蹴ってしまい、大きな音を響かせた。 ヤバイと思い慌ててバッドを拾い上げる。 そしてじいっと時が過ぎるのを待っていた。 (アイツに見つかったら絶対行けなくなる〜!) 待って、何も反応がないことに安心して立ちあがろうとしたけれど。 「兄貴、どこ行くんだよ」 後ろから不機嫌な声が聞こえてきて、がっくりと肩を落とす。 後ろみないでもわかる、弟の純がふてぶてしい顔で立ってるだろう。 野球部の監督になってからというもの、遊び行こうとすると何かにつけて文句言われて言い返しても無理で。 結局それからずっとまともに遊びに行ったことがなかった。 今日こそは!と思ったのに、結局みつかってしまった。 「どこって・・・どこでもいいだろう!」 「よくない。明日も朝練あんだから」 「だから〜それまでに帰ってくればいいんだろ!?」 「そう言って遅刻したのは誰だっけ?」 そう返されて、アニは何も言えなくなってしまった。 だけどこのまま泣き寝入りなんてイヤだ!と思ってなんか言おうとしたら、上から純の笑い声がした。 「なに笑ってんだよ」 「だって・・・兄貴ちっとも成長してないなあと思って」 「なに〜!!!」 「だって、そのバッド。必ずひっかかるよね」 そう言われて、今まで握り締めてるバッドを見つめる。
そういえば、昔から毎回これによって作戦が失敗に終ってた気がする・・・ このバッド、いっつも不自然な感じで転がってたよなぁ・・・・。
「って、まさか!わざとか!」 「やっと気付いたの?」 「やっとって・・・・オマエなあ」 さらりと言われて、アニは呆れと悲しみから何も言う事ができなかった。 「まさか、小さいときからやってたわけじゃねーよな?」 「さあ?」 (うっわ、コイツ絶対やってた!) あんな小さいときからあくどい作戦を考える純にも呆れたけれど、それにひっかかり続けた自分にも呆れてしまった。 「昔は泣きながら俺の帰りを待ってたのにさあ。どこで間違ったんだか・・」 「最初からじゃないの。まあ、今なら兄貴を泣かせられるくらいになったしね」 「はあ!?俺がいつオマエに泣かされたよ!?」 「今」 「はぁ?ッ・・・・!」 言葉と共にカラダを引っ張られたと思ったら。 あっという間に唇を塞がられた。 「ん〜!!!」 それから思う存分口内を探られて(ついでに舌まで絡まされて) 息苦しさと自分のカラダがヤバイ状態になりそうで。 純の背中を叩いて訴えた。 「・・・・っハアハア・・・・オマエ、イキナリ・・・・」 キっと睨みながら言うけれど、それをさらりとかわされて、純が頬に触れてきた。 「ほら、目」 「はあ?」 「泣かせただろ?」 言われて自分の目に触れると、涙が浮かんでいたことに気付いた。 それがなんで流れたのか・・・・そう思った途端慌てて目を擦った。 「こんなの無効だ!ずっりぃよ!」 「他の手もあるけど、どうする?」 「へ?・・・いい!やらなくていい!」 「じゃあ、今度にする?」 「今度もない!一生ないっての!」 「そう?」 ムキになって答えるアニを余裕の笑みで答える純。 この時点で結果は決まってるような気がするが。 「とにかく!今日は行くからな!」 「ああ、行ってらっしゃい」 反対されると思ったらあっさり許しが出て、アニは少し驚いた。 許しもなにも勝手にいけばいいのだろうけど、この弟がこうもあっさり言ってくると逆に何かあるんじゃないかと思ってしまう。 変に構えていると、純は苦笑しながら答えた。 「この頃がんばってるしね。今日くらいはいいよ」 「そ、そうか?」 「ああ。それに・・・・」 急に無言になった純を変に思い顔を見ると、また唇を塞がれた。 今度は軽く、触れるだけのキス。 「今日はずっと、このことしか頭にないと思うし」 「な、な!何いってんの!何やってんのオマエは!」 「ん?お呪い?戒め?印?」 「はあ!何意味わかんねーこと言ってんの!?」 「ま、いいから、行ってこいよ」 「オマエに言われなくても行って来るよ!」 純が笑ってるのを見て、むかつくのと恥ずかしいキモチから早くその場を去ろうと、慌ててドアを開けて外に出る。 「飲みすぎんなよ」 「言われなくてもわかってるよ!」 答えて、強くドアを閉める。
ドアを閉めて歩いて行こうとして。 ふと、さっきの純の唇の感触を思い出してしまった。 『今日はずっと、このことしか頭にないと思うし』 「うっわーー!!なしなし!!」 唇をごしごしを拭うと、早くその場を去りたくて走り出した。
けれど。
「なんか、今日アニ変じゃねー?」 「な、な何いってんの!?なんでもねーよ!」 「顔赤いし」 「なんでもねーってば!」
結局は純の思ったとおりになったのだった。
2002年03月23日(土) |
チャンス(オカツカで三宅さん視点で例のゲームネタ) |
「健くん」 「ん?なに?」 「あのさ・・・・なんかオススメのゲーム貸してくんないかな?」 「は?どうしたの急に」 「いや・・・共演者でさ、貸してほしいてやつがいるからさ」 「へええ」
岡田は今「キャッツアイ」っていうドラマを撮ってる。 あんまり人懐っこくないから、うまくやってんのかなあなんて心配してたけど。 その岡田から共演者の話が出たから意外で、だけどうまくいってんだなあって思うと安心した。 「じゃ。今度何本か持ってくるよ」 「ああ、ありがとう」 そのときの岡田の表情は、安心したような、嬉しいような。 いつもと少し違う、あまりみたことないような顔を浮かべてた。
「なんか、あった?」 「え?なんで」
なんでと聞かれても、俺もなんて答えていいのかよくわかってないからそのときは曖昧に流したけど。 だけどそんときの岡田の表情がなんかずっと覚えてた。 ゲームを渡したときも、そのときと同じような表情を浮かべてて。 なんか、変だよなあって疑問を残しながら、そのときはそれで終った。
その謎は数ヶ月後。 思ってもみないとこから判明した。
「三宅〜!!」 井ノ原くんが俺の顔を見るなり名前呼んできたので、俺またなんかしちゃったかなあなんて思った。 だけど井ノ原くんの顔はなんだか嬉しそうに笑っていたので少しホッとしながら、 「オマエ、この前岡田にゲームソフト貸してたよな?」 「うん」 なんでそんなこと聞かれるんだろうと思ったけど、あんときのことだろうと思って答えたら、その途端井ノ原くんはすごい笑顔になった。 笑顔っていうか、ニヤニヤした笑いっていうの?そんな表情を浮かべてた。 「やっぱりな〜」 一人納得して、笑いっぱなしの井ノ原くん。 質問するだけして説明なしだから、俺には何がやっぱりなんだか全然わかんないっつーの。 「よくやった!」なんて褒められても嬉しくないって。 「井ノ原くん」 「おお〜よくやったなあ三宅!」 「だから、なにが?」 ちょっとキレ気味に言うとやっと井ノ原くんは気付いてくれたらしく。 謝りながら、手のなかにあったものを差し出してきた。 なんだろうって見ると、なんてことはない井ノ原くんの携帯だった。 何が言いたいんだかぜっんぜんわかんないってば。 思いっきり顔に出すと井ノ原くんは少し慌てながら携帯画面を指差した。 「とりあえず、これ見てみ」 言われて、わけわかんないままを覗くとそこには文字が映し出されていた。 なんだろうなんて思いながら読んでいくと、見知ったメンバーの名前が出てた。
「岡田くんにゲーム借りた・・・・・って誰が?」 「いいから、下まで見てみ」
そのまま下をスクロールしていくと、ある名前が出てきた。 今俺らの中で最も有名な人物の名前。
「塚本高史」
岡田の思い人である、塚本の名前が出てきた。
「これさ、塚本くんの日記なんだよね」 「はあ?」 「塚本くんの公式サイトでさ、メールで塚本くんの日記が配信されるってのがあるんだよ。それがこれ」 これって言われても・・・・・ 色々ツッコミたいことはあるんだけど、とりあえず最初にこれだけは言いたい。
「井ノ原くん・・・・・なんでそれが井ノ原くんの携帯に送られてくんの?」 「え?登録したから」
いや、それはわかってるっつーの!!! とぼけたような顔(本人は真面目なんだろうけど)で的外れなこと言われて、叫びだしそうな気持ちを一生懸命抑えた。 短気は剛の専売特許だし・・・・・なんて自分に言い聞かせながら、もう一度聞いてみた。 「いや、塚本関連の情報って全くわかんねーじゃん。だからちょっとでもわかったらいいなと思ってさ」 まあ、確かに俺達はこれ関連に関してはまったく弱いってことがこの前の話合いでわかった。 岡田のために何かしようと思っても思いつかなくて、そんときはとりあえず情報を仕入れようなんてことで終ったんだけど。 それから俺も雑誌見るときはチェックしたりしてたけど。 まさか、井ノ原くんがここまでしてるなんて思わなかった・・・・・ だって、俺ら一応「アイドル」だよ? しかも「天下のジャニーズ」の一員だよ? それが男の俳優のファンサイトに登録って・・・・ありえねえ、ありえねえよ!
「すげえよ・・・・井ノ原くん・・・」 「は?何が?」 「いや、なんでもない」
本人なんも思ってないとこがさらにすげえよ。 ある意味目的を達成するために真っ直ぐにそれに燃える井ノ原くんの、こーいうとこ尊敬する。
「で、話戻すけど。岡田に借りたっていうゲームってもしかして・・・?」 「あんときのだろうな」
ああやっぱり。 なんか変だなあと思ったけど、こーいうワケだってんなら納得する。
「恋する男って変わるよな」 「ああ、あの岡田がだもんなあ」
岡田って、なんに対しても少し冷めてる感じがしてた。 いっつも俺らが騒いでると一歩後ろで見てる感じで。 だから、なんに対してもあんまり燃えないのかなあとか思ってた。 その岡田が、恋に一生懸命になってるなんて。 すげえなって思った。
「けど、これチャンスだよね」 「そう!これ貸してるってことは、返すために会わないといけないってこと。逢うキッカケがあるってことなんだよ!」 「だよね!しかもあっちが気にしてるっぽいし!あっちから電話くるってことじゃん!」 「そ〜なんだよ!だからよくやった!よくぞ貸した!」
一気にテンション高くなる俺と井ノ原くん。 幸先いいぞ!とか嵐に負けてらんないぞ!なんて叫んでたら。
「ストップ!」
いつのまに来てたのか長野くんが俺と井ノ原くんにストップをかけてきた。 「なんだよ〜水差すなよ〜」 俺達がブーブー言うと、長野くんは少し真剣な顔で重大な事実を告げてきた。 「よく考えてみ。オフ会があるんだよ?そん時についでに返そうなんて思われてたらどうすんの」 「・・・・ああ〜!!」
なんてこと!そんな盲点があったなんて!!
「そうだよ、普通なら逢うってわかってんだからそん時に返そうって思うよな」 「わざわざ連絡とるよりいいもんな」 同時に叫ぶと、俺と井ノ原くんは頭を抱えた。 折角のチャンスなのに、ついでに使われたらもったいねえよ! だけど、どーすりゃいいんだよ! 「どーしよ、井ノ原くん!」 「どーしよって・・・どーしよ、長野さん!」 「えぇ、俺?・・・先に岡田から連絡取らせたほうがいいんじゃない?」 「なんて?!」 「久々にゲームプレイしたくなったから、返してほしいんだけどとか言ってさ」 「・・・・おお!頭いい!!」 「さすが長野くん!」 「そうと決まれば、岡田に連絡!」 「ラジャ!」 「いや、これから来るだろ」 「あ、そうか」
落ちつけよなんて長野くんからツッコミが入って。 俺達は岡田を待つ間、とりあえず落ちついて次の策を練ろうってことになった。
「結局塚本はゲームしてないんだろ?ならその辺ツッコンでゲームプレイさせれば?」 「そっか。わかんないとこ教えてやるからとか言ったりしてさ。そうすれば詰まるたんびに電話かかってくるし!」 「いいねえ、それ!それにしよう!」
こうして本人のいない間に次の作戦は早くも決まった。 『岡田の恋を応援しようの会』は着々と大きくなっていった。
2002年03月22日(金) |
電話しようかな(サクツカで松潤視点) |
ピピピ・・・・・ピ・・・・ブチ。
あ〜あ、また消してる。 翔くんが途中まで打ったボタンを消去する。 携帯片手にさっきからボタンを押しては途中で止まって、そのまま消すの繰り返しをしている。 電話を思いつめたように見つめて、やっと動いたと思ったらこうだ。
きっと、塚本くんに電話しようとしてるんだろうけど時間を気にして迷ってるみたいだった。 今の時間はAM0時を回ってる。 俺たちとしてはまだまだ全然イケル時間だけど、普通の人からみたら遅い時間ではあることは確かで。 もしかしたら寝てるかもしれないって、それを気にしてるらしい。 ただでさえ仕事時間がバラバラなんだから。 昼間に電話したって、もしかしたら9時に寝たばっかかもしれないし。 そんなのが当たり前になってるから、電話するタイミングって考えるとわかんなくなるんだよね。 ましてや、大好きな「塚本くん」のことだから。 ほんの小さなことでも気になっちゃうんだよね。 きっと翔くんのことだから、もし今電話して嫌われたらどうしようとか、そんなことまで考えちゃうんだろうな。
だけど。 俺だったら速攻電話してるのに。 声聞きたいって思ったら我慢できなくて、時間とか相手の事気になったりするけどどうしても声聞きたいって思って。 怒られるのはわかってるけど電話してる。 それが四時だろうとなんだろうと電話しちゃうから怒られちゃうってのはわかってるけど。 それでも例え不機嫌な声でも聞けたらすごく嬉しいから。 寝てても怒っても、それでも電話かけると絶対に出てくれるから。 そんな翔くんに甘えってるってわかってるけど、電話しちゃう。
他から見たら今度にすればいいだけじゃんって思うかもだけど。 本人からしたらかなり深刻なこと。 だって、電話するだけで幸せになるってことあるから。 声聞けるだけでホッとしたり、安心したり。 元気をもらえるってこと、あるから。
「あ〜!!!!クソ!」 翔くんが少しイライラしたように声を荒げる。 こんな時間だからとか、だけど声聞きたいからと思ってどうすればいいのかわからなくなってる感じなんだろうな。 いっそのこと、俺が変わりに電話できたらいいんだけどね。
「嵐さん、スタンバイお願いします」
タイムリミットを告げるように、スタッフに呼ばれてしまった。 翔くんは一度携帯をじっと見つめたあと、深いため息と共にカバンにしまった。 名残惜しそうにゆっくりとした動作は。 また出来なかったって、落ちこんでる感じで。 なんだか見てる俺まで切なくなった。
明日、俺から塚本くんに電話しようかな。 お節介って言われるかもしれないけど、元気ない翔くんを見てるのはツライから。 大好きな人には、いつもで笑っててほしいから。
明日こそは、笑ってる翔くんがみたいから だから明日は、お節介させてね。
2002年03月21日(木) |
帰り道(バンビアニで純視点) |
この頃、やたら中込さんに会う。 家の前で素振りしてるときや走りこみの帰りなんか特に。 走りこみの時なんかはに偶然駅前で逢うっていうなら、帰り道に偶然逢ったくらいにしか思わなかったけど。
走ってても、素振りしても、学校終った後でも。
決まって、家の前で会った。 帰り道というには不自然だし(駅からうちを通るのは遠回りする以外ない)。 本屋に用があるというには遅い時間のときもあった。
違和感を感じながら、今日も決まった時間に素振りしてると、神社の方から中込さんが来た。 やっぱり、本屋に用があるってわけじゃなく、みまち通りより先のところに用があったわけじゃないらしく、角を曲がって真っ直ぐこっちへ向かってくる。
「よう」
軽く手を上げられて、会釈する。 兄貴とよくツルんでいるけれど、俺自身は中込さんとあまり面識なかったから特に話すことなんてない。 家が近くて小さいときに遊んでもらった田淵さんと違って、中込さんを知ったのは兄貴が高校のときエースだったからってだけで。 だからこうやって会っても、ただ軽く挨拶する程度だった。 中込さんもそう思ってるらしいから、いつもはそのまま通りすぎるんだけど。 その日は立ち止まって話しかけてきた。 「毎日やってんの?」 「はい」 「ふ〜ん」 なんでもない会話を繰り返していた。 いったい何が言いたいのかわからなかったけど、中込さんはそのまま動こうとはしなかった。 だけどどこか落ちつきない感じで、辺りを・・家の上?を見たりして。
なんだろう。何かを待ってる?
そう思った時、上から声が聞こえてきた。 少し高めの、俺にとって馴染み深い兄貴の声。 「よう、バンビじゃん。今帰り?」 「ああ」 中込さんの声が聞こえたんだろう。部屋の出窓を開けて顔だけ出した状態の兄貴に、中込さんは一言だけ返した。 だけど、答える中込さんの表情が変わったのを感じた。
・・・・ああ、なるほどね。
待ち人は、兄貴だったわけだ。 いつも不自然な帰り道は、この偶然が欲しいためだったわけだ。 毎日必ず家の前を通れば、何回かは逢えるだろうし。 今日みたいに立ち話してれば兄貴が気付くのはわかるだろうし。 なんかなあ・・・・・ 好きな相手に対しての中込さんの地道な努力はすごいとか思ったりするけど、それとはまた違った気持ちが過る。 「来週試合あんの聞いた?」 「聞いてない。日曜?」 兄貴の言葉に平然を装いながら、だけどさっきより明るいトーンで話す中込さん。 二人だけの会話になって、なんか居心地悪くなった俺はその場を離れることにした。 「純!気をつけていけよ」 兄貴の言葉に片手を挙げて答えて走り出す。 途中笑い声に振り帰ると、笑顔を浮かべてる二人が見えた。 それは昔から見慣れた光景で。
なんとなく、モヤモヤした気持ちを抱えながら走り出した。
2002年03月20日(水) |
「日常」(沢黒内で遊んでるだけの小話) |
梅雨も明けて、そろそろ夏の太陽が照り出してきた7月。 俺たちは、いつものように三人で他愛もない話をしながら歩いていた。 「なあ、腹減ってねえ?」 「減ってる〜。ラーメンでも食う?」 「お!いいねえ。慎も行くだろ?」 「ああ」 慎の返事で決定し、行き先に向かって歩き出す。 ここのところ馴染みとなった、学校近くのラーメン屋。 値段も手ごろだし、量もそこそこあるってことで、よく行くようになった。 今日もそこに向かっていたが、ふと気付いたことがあった。 財布の中身。 確か、昨日ゲーセンで使いきって、そのままだったような気がした・・・・ 「ところでうっちぃ」 「あん?」 「・・・・いくら持ってる?」 「・・・・オマエは?」 黒も同じこと考えてたらしく。 お互い顔を見合すと。 「・・・せーの!」 声とともに出した手のひらを見る。 そこにはお互い、小銭が握られていた。 「なんだよ、368円って!」 「オマエだって191円しかねーじゃねーかよ!」 俺が368円。黒が191円。 二人合わせてもラーメン一杯に及ばない。 それでラーメン食おうとしてんだから、いい性格してるよな(お互いサマだっつーのBY黒) 「なんだよ〜せっかくうっちぃにおごってもらおうと思ったのによ〜」 「オマエ!そんな思ってたのかよ!」 さらりととんでもないこと言いやがったぞ、こいつは。 お金ないのを知っててラーメン屋行って、俺におごってもらおうって算段だったわけだ。 「いいじゃん、たまには」 「よくねえよ!ったく・・・油断もスキもねえな」 ホントに、コイツはかわいい顔して結構油断ならない。 「で、結局行くのかよ?」 俺たちのやりとりを黙って見ていた慎だったけど、いい加減呆れてきたらしい。 このままじゃ帰ってしまいそうだった。 だけどそんなことさせられない。 俺と黒がラーメンに辿りつけるかは慎にかかってるんだから。 そこで俺と黒は同じこと考えたらしく、一斉に慎を見た。 「慎〜お金貸して」 「俺も〜」 「いいけど・・・・これだけな」 慎の手のひらには200円。 俺たちの持ち金とあわせると、759円。 ラーメン一杯600円なわけだから・・・・・足りねえじゃん! 「なんだよ!これじゃ二人合わせて一杯しか食えねーじゃん!」 「一杯食えれば充分だろ」 「はあ?このうら若き男の子2人がラーメン一杯だけで足りるわけねーだろ!」 「そうだ!一杯だって足りないくらいだっつーの!」 俺達の言葉に、慎はタメイキをついた。 呆れてるとか、そんな感じで。 「お前等なあ・・そうやってこの前も持っていったじゃねーか」 「あ・・・・・」 覚えがあった。 前回も金がなかった俺達は、慎から借りたんだっけ。 そのまま一週間が過ぎ・・・・すっかり忘れてた。 それを覚えてたのかよ。 奢ってくれてもいいだろう。 金持ちのくせに、意外にケチだよな、ちくしょう。 「なら二人で仲良く食うからいいよ!なあ黒」 「なあうっちぃ」 固く握手を交わす俺たちを、慎は冷めた目で見ていた。 ほんと、バカにしてるって感じだよな〜ちくしょう!
なんだかなとラーメン屋について、ラーメン2杯を注文する。 沢田がゆっくりと食べてる横で、俺と黒はひたすらラーメンに没頭していた。 つーか、お互いどれだけ食べられるか競ってた感じか。 水も飲まずにひたすら食い続けて、最後のチャーシューが残った。 これは、公平にジャンケンだろう、と思ったとき、横から箸が伸びてきた。 それを慌てて止める。 「てっめー!最後の一枚食おうとしただろ!」 「なんだよ、うっちぃだって狙ってんだろう!」 「この前オマエが食っただろうが!」 こいつは・・・本当に油断も隙もねえな。 そのまま天罰というように、箸で黒の鼻をつまんでやった。 「イテーよ!」 そりゃ痛いようにしてんだから当たり前だろーが。 そんなことして揉めてると、黒の横からすっと伸びる腕が見えた。
「あ・・・・」 「ごちそうさま」
何事もなかったように澄ました顔で言われた。 だけど俺たちはただ呆然としていた。 目の前の器を見ると、そこにはスープだけが残されていて。 ・・・・チャーシューが消えていた。 俺たちの最後の晩餐は、慎に持っていかれた。 「慎ーー!何食ってんだよ!」 「俺達の最後の楽しみを・・・・・慎ーー!」 「泥棒ー!」 「元々俺の金だろーが」 うっわ、そーいうこと言うか? それ言われたらなんも言えねーじゃねーかよ。 「ク・・・うっちぃ!」 「黒!」 俺と黒は見つめ合ったあとがっしと強く抱き合う。 「強く生きような!」 「ああ、こんな人でなしに負けないようにな!」 「あのなあ・・・そーいうこと言うと2度と金貸さねーぞ」 「そんな〜沢田様〜!!」 「ったく・・いい加減店出るぞ」
帰り道。 俺と黒で「荷物ジャンケン」(負けたら荷物持ちってやつ)をしよう!なんて言ってたら、慎が「何歳だよ、お前等」なんて言ってきた。 「一緒にいる慎だって同類だと思けど?」 「そうだよな。慎だって結構バカやってるよなあ」 「お前等に合わせてるだけだって」 「その言い方って馬鹿にされてるようなんですけど!」 「気のせいだろ」 この態度! ぜってーそう思ってるよ、コイツ! だけど、そういえば最初んときはコイツ、すっげクールぶってたよなあ。 教室で一人でいてさ。ずっと寝てんの。 俺なんかは「つまんねーやつ」なんて思ってたけど。 黒が話しかけなかったら、こうやってツルんでなかったかもしれねぇ。 「だけど、良かったよな」 「何が」 「こうやって、バカ出来るようになってさ」 いや、いいのか悪いのかわかんねーけど。 でも、こうやってツルんでられるのは・・・・良かったと思うよ。 「俺も。あんときより今の慎のが好きだし」 黒の言葉に、固まる慎。 でたよ、黒の爆弾。 コイツはわかってないんだろうけど、無意識にこーいうこと言っちゃうからなあ。 慎も苦労するよな。 「あ〜熱い熱い」 「な、なんだよ、うっちぃ!」 「いや、急に熱くなったなあと思ってさ」 「なんだよ!別に変な意味じゃねーよ!」 「変って、どーいう意味なよ?」 「う・・・・・」 「うっちぃ」 あ〜はいはい。 これ以上いじめんなってこと。 ホント愛されてるよな、黒は。
そんな話をしてたら、いつもの分かれ道に辿りついた。 「じゃーな」 「ああ、明日な」 手を振って、黒と慎は同じ道を歩き始める。 黒の家はまったく逆なんだけど、決まってここで別れる。 その理由は一つしかない。
「あ〜あ、さっさとくっつけばいいのに」
つかず離れずな二人を見てると、時々もどかしくなる。 けど、俺がどうこうできるわけじゃねーし。 多分、そのうちなるようになるだろーし。
「俺も彼女ほしいなぁ」
俺にもきっと現れるだろう隣に並ぶ相手。 それまでは、こうやって三人でバカやってんのもいいとか思った。
2002年03月19日(火) |
夢のような日々(退学前の沢黒) |
「センコーなんて信じない」
あの頃口癖のように言っていた言葉。 センコーというより、オトナ自体信じられなかった。 昔から、なにかあると俺の顔を伺うようなことをする。 俺がどう思ったか。 俺が、どうなったか。 だけどそれは俺自身を気にしているわけじゃなく。 常に俺を通して後ろにいる親父の顔を伺っていただけにすぎない。
「だけど、さ」 学校帰り、いつものように俺の家にいる黒崎。 入るなり冷蔵庫からコーラを持ってきて、一口飲む。
「だけど学校には来るんだよな」 「それは・・・」
『オマエがいるから』
「なに?どうした?」 「いや・・・別に」
笑ってごまかしながら。 残り少なくなったコーラを一気に飲みほすと、少しぬるくなった感触が喉を通る。
ここに入ったのは、親父に反抗したかったからだった。 いい高校に行けと言い続ける親父の思惑通りになりたくなくて。 入試ギリギリで志望校を最低ランクだった白金に変えた。 合格発表のときの親父の驚きの表情に少し満足したけれど。 親父の希望する高校以外のところに入学するのが目的だっただけだったから。 その目的が達成されたあとはどうでも良かった。 高校入っても相変わらずセンコーの目は親父を見ていておもしろくなかったし。 なにがあるってわけでもなかったし何がやりたいなんてこともなかった。 だから、学校自体興味なかった。 学校にくることが、無意味にさえ思った。 そう思ったら、段々と来るのさえ億劫になっていた。
いっそ辞めてしまおうかと思い始めたとき。 黒崎が現れた。
「沢田」 呼ばれて、寝ていた顔をあげると。 そこには、見事なくらいキレイに染まった金色が目に付いた。 確か、同じクラスのヤツだった気がするが。 入学してから今まで、他の生徒同様コイツとも話したことはなかったけれど。
「沢田って頭いいんだよな?」 「・・別に」 「だけど成績発表でいっつも上位にいるだろ」
またか、と思った。 中学んときから、頭いいとか上位にいるからってだけで絡んでくるやつが多かった。 大抵のやつはこんなナリで、って思ったらしい。 不真面目なくせに、成績上位でおかしい。 実力のわけがない。 カンニングじゃねーの? クラス変えのたびにずっと、こうやって言われ続けていたからいい加減慣れたけれど。
「俺に勉強教えてくんねー?」 「はあ?」
また絡まれると思っていたのに、突拍子もないことを言われて面食らってしまった。
「今度のテストで赤点取ったらレギュラー外すとか言われてさ」 「レギュラー?」 「そ。バレー部の期待の星なんだよ」
サマになってるだろ? なんて言いながらアタックする動作をして後ろのヤツに迷惑そうな顔されてる。 しかし、イマイチピンとこなかった。 この、見るからに白金の生徒という感じのコイツが毎日部活に励んでるなんて、誰が想像出来るだろう。 目の前で言われても、想像出来なかった。
「だからさ、教えてくんねー?」 「・・・別にいいけど」 「マジ!?」
対したことじゃないと思って軽く返事をしたけれど。 黒崎はとても嬉しそうに笑った。 その笑顔が、何故か心に焼き付いて離れない。
・・・・あの時から、今でもずっと。
それから、俺と黒崎は一緒にいる時間が増えて。 元々黒崎と仲良かった内山が加わった三人でツルむことが多くなった。
思い出に浸っていたけれど、黒崎が俺の横に来るのを感じて意識が現実に戻った。 ソファに座っていた俺の真横にきて、コトン、と俺の肩に顔を預けてくる。 「まあ、俺としても慎が学校来なかったら辛いしな」 「え・・・・」 どきりとした。 期待するなという思いがあるけれど、それでも。 言葉が、触れた部分を通して直接響いてくるような気がした。
「慎がいなかったら、ノート写せるヤツいないし」
やっぱりな。 そんな理由だとは思ったけど。
「だから、学校辞めるなんて言うなよ?」 「・・・・ああ」
辞めないよ。
自分でも驚くくらいスっと出てきた。 辞めようと思ったことは何回もあったけれど、辞めないと思ったことなんてなかったはず。 けれど、黒崎の問いに出てきた言葉は「辞めない」だった。 さも当たり前のように。 ずっと思ってたことのように。 すんなり、口を出た。
「そっか」 黒崎は満足気に頷く。
ああ、と思った。 なんで辞めないと、思ったのか。 黒崎がそれを望んでるから、すんなり出てきたんだろうと納得した。
黒崎がいるなら。 あんな学校でも悪くないって思える。
そういうことなんだろう。
「なんだよ、ニヤニヤして」
「いや・・それより今日止まっていくつもりか?」 「ああ、明日も朝練あるからさ。こっからのが近いし」 面倒だという黒崎の表情は、言葉とは裏腹に嬉しそうで。 来週から始まる地区大会がよっぽど嬉しいんだろうと思った。
「がんばれよ」 「ああ」
それはまだ、こんな結末になるなんて知らなかった頃の、幸せな日常。
「なあ、いい加減これ離さねー?」 黒崎の視線の先には、両手を塞がれた自分の手。 俺と内山が、それぞれ掴んでいた。 さっき、黒崎の涙を見たとき。 咄嗟に掴んでいた。
手が震えているのを見て。 その震えを止めてやりたいって思った。 気付いたら、その手を掴んでいた。 黒崎の手を俺が掴んで。 その上から内山が掴んで。 それを支えるようにヤンクミが掴んだ。
黒崎の、頼りない手。
あのときも、こうやって黒崎の手を繋げばよかった。 そうしたら、黒崎を見失わないでいたのに。 離れないですんだのに。
今となっては、後悔でしかないけれど。
「離すとまたどっかいきそうだから、家までこのまま!」 「ええ!?かなり恥ずかしいんだけど・・・・」 「俺だって恥ずかしいっつーの」 「じゃあ、離せよ!」 「い〜や!オマエは危なっかしいから、このまま」 「慎〜」 黒崎が困り果てて俺の名前を呼ぶ。 だけど、俺も内山の言葉に同感だから。 ただ苦笑してみせた。
内山の言葉じゃないけど。 黒崎がどっか行っちゃいそうで。 手を離せないでいる。
「こんだけ俺等を心配させたんだから、こんくらい我慢しろよ」 「・・・ごめん」
ひどく真面目に言われて。 俺も内山も少し困った顔を浮かべる。
謝ってほしわけじゃないから。 ただ、これからはずっと隣にいてほしいだけだ。
「ま、こうやって元に戻ったんだからいいけどさ」 内山が、少し照れながら言う。 それに答えるように、黒崎の手が俺達の手をぎゅっと掴む。
きっとこれからは。 何があっても一緒にいられるって。 そう思った。
「とうちゃーく」 俺の家の前に着くと同時に、内山は繋いでいた手を離した。 次いで俺も離そうとすると、慌てて止められた。 「慎はそのまま黒をお持ち帰りしろよ」 「はあ?何言ってんだよ」 「いーから。俺は退散するから」 「うっちー!」 去っていこうとする内山に、黒崎が叫ぶ。 「おまえら二人きりで話すこと、いっぱいあるだろ」 がんばれよ、慎。 俺の肩を軽く叩くと、内山は笑って去っていった。 その笑顔はすべてわかっているような、そんな顔で。 内山には特に何か行った事は無かったけれど。 俺達と常に行動を共にしていたから、きっといろんなことが見えてるんだろう。 俺の気持ちとか、黒崎の気持ちとか。 きっと俺達以上に、わかってると思う。
「なんだよ、あれ」 「さあ、な」
とりあえず、内山の好意を無駄にしないように黒崎の手を繋いだまま、俺の家へと向かった。
「お邪魔します・・・」 「どうぞ」 遠慮がちにかけられた声に、苦笑しながら答える。 久しぶりに来たからだろうか、黒崎はキョロキョロと部屋中を観察していた。 まるで、初めてきたときのようで。 なんとなく懐かしい気持ちになった。 「自由でいいなあ」と一人暮しが羨ましいと言うから遊びにくるかって言ったら喜んできて。 黒崎は何時の間にか毎日来るようになった。 そして、黒崎がこの家にいる空間が当たり前のようになっていた。 二人でいても居心地いい空気で。 そばに黒崎がいても気にならなくなって。 いつのまにか、黒崎がいることが自然に思えてきた。 黒崎のいる、自然な空間。 あの時以来だ。
「しかし、おもしろいセンコーだよな」 ヤンクミのことを話しながら黒崎が座ったとこは、黒崎が気に入っているソファで。 以前と変わらない仕草が、嬉しかった。 「あんなのいたっけ?」 「今年入ってきた」 「ああ、だから知らねえのか」 変なヤツだって思うけど、おもしれーから目が離せない感じで。 思えば。 今回もアイツのおかげなんだよな。 アイツがいたから、こうたって黒崎を取り戻すことが出来た。 やり方は無茶苦茶だけど・・・・って。 「黒崎、傷大丈夫なのか?」 「そういや・・・ッ」 「黒崎!」 思い出したかのように傷口に触れて、痛さに顔を顰めるのを見て慌てて近寄る。 「うっわ、腹も痣になってるよ・・・・・」 「冷やしたほうがいいな」 拳くらいの青痣が出来てるのを見て、救急箱から湿布と傷薬を出す。 とりあえず、腹のところに湿布を貼る。 「アイツ、センコーのくせに容赦ねーよな」 「ああ、あーいうヤツだからな」 「あれで女なんて詐欺だぜ」 ため息をついたのが伝わってきた。 まさか極道の家のヤツなんて知らないから、普通ならそう思うだろうな。 そもそも女とかいう前にセンコーなのに、なんかあると自覚なくなってるよな、アイツ。
「顔も、染みるけど消毒するぞ」 痣までなかったけれど、唇のところに切り傷が出来ていた。 消毒液をつけると、顔を顰めながらも黙ってされるがままになってた。 「慎・・・」 「ん?」 「ごめんな・・・ぬるい学生なんて言って」 手を止めて黒崎を見ると、少し俯きがちだったから表情はあまり見えなかった。 けれど、その声音から黒崎が落ちこんでるのがわかった。 「オマエも色々あるって知ってるのにさ・・・」 「別に。気にしてねーよ」 その言葉に嘘はなかった。 あの時は黒崎に言われた言葉より、黒崎の態度のほうが気になっていた。 俺達を拒絶していたことが。 あのまま黒崎を止められないんじゃないかって思ったことが。 ショックだったから。 「けど・・・・」 それでも納得できなくて塞ぎこんでる黒崎を、包み込んだ。 「慎・・・?」 「それよりも、オマエが戻ってきたことのほうが大事だから」 もしかしたら、2度とそばにいることが出来ないかもしれないと思ったこともあった。 もう2度と、あの時間は取り戻せないんじゃないかって思ったこともあった。 あの時の気持ちに比べれば、黒崎に言われた言葉くらいなんとも思わない。
今、こうやってそばにいて。 黒崎が腕のなかにいる。
それがなによりも大事だから。
「黒崎」 「ん?」 「お帰り」 「・・・ただいま」
黒崎が、前と同じようにキレイな笑顔を浮かべる見て。 やっと、取り戻せた気がした。
2002年03月17日(日) |
放映直後。再会した沢黒 |
街中で見つけた黒崎は、どうしようもない連中とツルんでいた。 あのとき浮かべた笑顔はまったくみせずに。 「ダチ」と呼んでるヤツラの前でも笑顔を見せない黒崎。 「黒・・・・アイツなにしてんだろうな」 「さあ」 内山の言葉に思いとは裏腹に、しごく冷静な声で答える。 「慎!なんでオマエそんなに冷静なんだよ!」 内山が怒りをぶつけるように言ってくる。 だけど、俺はどっか冷めてた。 「そう見えるか?」 俺が問うと内山は黙ってしまった。 冷静・・・・なわけない。 黒崎ことで、俺が冷静でいられるわけがない。 あのときだって今だって、俺は黒崎のために何も出来ない。 ただ黒崎を追うことしかできない。 一番守りたい存在である黒を守れなくて。 今だって黒崎がやりたいことを手伝ってやれなくて。 そばにいることも出来ない。 そんな自分に一番腹たててるんだ。
「黒崎・・・・・」
あんな、どーしようもないヤツラとつるんでて。 オマエは、今幸せなのかよ? いいのかよ、それで。 オマエが一番スキだったバレーを潰して。 誰よりもバレー部の気持ちをわかってるオマエが、そんなことして。 それで幸せなのかよ?
そんなわけないよな。 あのときのオマエはただひたすらバレーがスキで。 俺が嫉妬するくらい、バレー一筋だったんだ。 そんなオマエが、バレー部を潰すようなことして、幸せなはずないよな。
だったら。 俺はオマエがしようとしてることを全力で潰す。 あのとき、暴力事件を止められなかったときのような。 後悔はしたくない。 オマエはきっと、抑えられない気持ちを止めてほしいって叫んでる。 だから、今度こそ止めてみせる。 誰よりもオマエのために。
あのときの日々を取り戻すために。
俺の、黒崎を取り戻すために。
出会った頃は、バレー部で熱血してるヤツって印象だった。 髪の毛金髪に染めてるくせに、妙に体育界系なノリで。 体育だけはノリノリで熱血してて。 体育になると燃えるやつなんて思ってて。 俺とは反対なんだろうって思ってた。 あの頃から俺はオトナが信じられなくて。 何に対しても冷めて接していたから。 だから、黒の行動とか信じられなくて。 理解できなくて。 きっと、ソリあわないだろうって思ってた。
だけど、付き合って見ると。 黒崎は意外に付き合いよくて。 熱血っていってもバレーに対してだけで。 あとは、俺や内山とノリ一緒で。 気付いたら一緒に行動することが多くなった。
俺と内山と黒崎で。 ヒマ見つけては遊びいったり。 黒も適度に部活さぼったりしてたから。 日曜なんか遊びいったりして。
一緒にいる時間が増えて。 黒崎っていう存在が大きくなって。 そのうち俺にとって黒崎が「特別」な存在になった。 気付いたら、黒崎は誰よりも大事な存在になった。
内山と俺と黒崎。 三人で遊ぶことが多かったけど。 黒崎が部活終ったら俺の家で過ごすようになって。 二人きりの時間が増えて。
お互い、言葉にしないけど。 居心地よくて、一番大切な時間を共有するようになった。
親友というには大事な存在になった。 ある日、ふとした瞬間に、どちらともなく近づけた顔。 重なる唇。 目を閉じて受け入れてくれた黒崎。 その瞬間から、親友から恋人に変わった。
誰よりも大事な黒崎。
ずっと、一緒にいたいと願ったあの頃。
今も、ずっと願いは一つだけ。
きっと、取り戻してみせる。
「純、緊急事態発生だ!」
田渕さんからの電話で、急いで来てみれば。 ソファで寝ている兄貴の姿があった。
「お〜純。早いなあ」 「田渕さん・・・・・緊急事態って・・」 「ああ。これ」
店に入ったときから予想はしていたけれど。 田渕さんが指差したのは兄貴で。 『緊急事態』なんていうから、また兄貴がトラブったのかと思ったりしたんだけど。 小峰社長んときみたいに、とんでもないことになってるんじゃないかって、それが心配で走ってきたんだけど。 どうやら違うらしく、ほっと胸を撫で下ろしながら。 それじゃ、なんで俺が呼ばれたんだろうって思った。
「アニが潰れたから、こりゃマズイと思ってさ」 「それだけ・・・・ですか?」 「だけっていうなよ。アニが潰れるなんて滅多にないんだからさ」
確かに。 俺がみる限り、兄貴が酒によって潰れた姿なんて見たことない。 いつから飲み始めたのかわからないけど。 気付いたら兄貴はいい酒のみになってて。 しかも結構強いほうだったから、酔って寝てる姿なんて見たことなかった。 だけど、なんで今日に限って潰れたんだろう? こんな、寝ちゃうくらいに。 俺がそばにいることに気付かないくらい潰れるなんて。
「ここんとこ飲んでないからキたらしいんだよ」 「そう・・・ですか」
そういえば。 ここ数日は練習があったから兄貴には酒飲み行くヒマもなかった。 いや、ヒマはあったけど。 寝坊すると思ったから、飲みに行こうとすると俺が止めてた。 だから兄貴は数日ぶりに飲んだんだと思う。 それで、歯止めがきかなかったとか?
「あんまり、アニいじめんなよ」
田渕さんが、兄貴の髪に触れながら言う。 その視線は暖かくて・・・慈しむような。 兄貴を大事に思ってるんだって気付くくらいの表情を浮かべてて。
「じゃ、連れて帰ります」
それ以上田渕さんの視線に晒したくなくて。 田渕さんの手を払うようにして兄貴を起こす。
「兄貴。帰るよ」 「ん・・・泊まる・・・」
眠いらしく、目は閉じたままで。 だから多分、俺だって気付いてないんだろう。 兄貴は寝ぼけたまま、そんなことを言うとまた寝る体制に入ろうとした。
「兄貴!」 「ダメ・・・ 歩けない・・・」
そのままズッシリとソファに沈んでいくカラダを慌てて引き起こしたけれど。 意識は半分飛んでるようで、起こしても自分ではカラダを支えられないようだった。
「ん・・純・・・?」
どうやら兄貴が覚醒したらしく。 さっきよりは幾分ハッキリした口調で名前を呼ばれた。
「何・・・俺なんでおぶられてんの・・・」
イマイチ状況が掴めないのか、寝ぼけてるのか。 自分が置かれてる状況がハッキリしていないみたいだった。
「岡林さんとこで潰れたから俺がおぶってんだよ」 「ええ〜?俺潰れてないよぉ」
見るからに潰れてるし。 主張する言葉自体が曖昧なのに。 兄貴は「酔ってない」と言い張る。
「じゃ、下りる?」 「ええ〜!ラクだからこのままでいい〜」
後ろで駄々こねるようにジタバタされて。 「危ないって」と言いながら、そのままの姿勢で歩く。 ラクだからって言葉に引っ掛かったけど。 どうせ下ろしたところで歩けないのは目に見えてるし。 それならこのまま歩いていったほうがいい。
「小さいときはな〜俺がおぶってやってたんだぞ」 「覚えてねーよ」 「俺が遊びいってると必ず追いかけてきてさ〜。で、一緒に遊んでやると帰りは疲れて歩けないんだよ。だから俺がおぶって帰ってたんだぞぉ」
自慢げに言われても、俺はまったく覚えてないんだから。 だけど、兄貴の後を追ってたのは覚えてる。 気付いたら兄貴がいなくて、母さんに聞くと「遊びにいった」って言われて。 置いて行かれたと思って泣きながら兄貴達がいるグラウンドに行ったんだよな。 まだ三才かそれくらいだったけど。 家からグラウンドまでの道はしっかり覚えてたんだよな。
「けど、今弟におぶされてるほうが恥ずかしいんじゃないの?」 「うるさい!今日のはあの時の恩返しだと思え!」
そんな無茶苦茶な。 だけど、思った以上に背中のぬくもりは心地よくて。 俺は黙って兄貴をおぶって歩いた。
「しかし、純くんも成長したね〜」 「何が」 「お兄ちゃんをおぶって歩けるくらいっだからさ。大きくなったねえ」
イイ子イイ子と頭を撫でられた。
「だって、兄貴軽いし」 「軽くねーよ!これが標準だって!」 「いや、全然標準じゃないし」
練習で相手をおんぶしながら走るってのがあるから、おんぶとか慣れてるけど。 その誰よりも兄貴は軽かった。 おんぶしようと抱えたときにあまりにも軽くて。 俺はかなり驚いた。
「俺はいいんだよぉ。このプロポーションを意地してるんだから〜」
どんな理屈だ。 思ったけど口には出さずに、黙って歩いていく。
いつも兄貴が田渕さん達と飲みに行く度にむかついてたけど。 そのおかげでこうやって二人で帰れるんだから。 たまには、いいかもなんて思った。
2002年03月14日(木) |
今だから出来るごくせん9話捏造(沢黒) |
いつものように街中を歩いていると、前方に見慣れないグループがいた。
「ああいうヤツラって徒党組まないとなんも出来ないんだよな〜」 「そうそう」
野田と南の言う事に曖昧に聞き流していたけれど。
「あ!一人だけすっげ不似合いなヤツがいる〜!」 「どれ・・・ホント、掃き溜めに鶴って感じ?」 「ほら、慎も見てみろよ!」
無理やり顔を反らされて、仕方なしに前方を向くと。
その輪の中心人物には、見覚えがあった。 忘れるはずがない。
俺と内山の共通のダチで。 ・・・・俺にとってはそれ以上で。 後にも先にも、アイツ以上のヤツなんていない。 そう思えるくらい、俺の中ではもうずっとアイツがいて。
退学になってから、家にいってもいなくて。 いつもいた場所にもいなくて。 俺の隣から、突然消えてしまった。
ずっと探してた相手が。 今目の前にいる。
「慎・・・あれって・・・・」 「ああ」
内山が気付いたと同時に、アイツも俺の存在に気づいたらしく。 今度はハッキリと目があった。 サングラス越しだけれど、その目は真っ直ぐ俺を見て驚きの表情を浮かべていた。 俺は視線を外さずに、真っ直ぐとアイツに近づいた。
「黒崎」
久しぶり名前を呼んだ。 もうずっと、相手のいない呼びかけをしてきたから。 こうやって黒崎を目の前にして呼ぶのは、あのとき以来だ。
「黒崎。何やってんだよ」 「なにって関係ねーだろ」
そのまま去っていこうとする肩を無理やり引き寄せる。 関係ないだって? そんなこと言われて、黙ってるわけがない。
「黒崎!」 「なんだよ!ほっといてくれよ!」 「黒・・・」 「はい、ストップ〜」
俺と黒崎の間に、黒崎の仲間が数人割りこんできた。
「あんまりしつこくすると嫌われるよ〜」
ニヤニヤ笑いながら言われて、カチンときた。
「どけよ!」
そのまま殴ろうかと思ったが。
「行こう」
黒崎が去っていく姿が見えたので、慌てて引き止める。
「待てよ!」 「もう・・・・俺のことはほっといてくれ」
一瞬だけ真っ直ぐに俺を見て告げると、そのまま仲間と共に去っていった。 キッパリと拒絶するような態度に、俺は黒崎の後を追う事が出来なかった。
「アイツ、あんなヤツラと・・・・なにやってんだろーな」 内山の言葉が、重く圧し掛かる。
久しぶりに見た黒崎は、あの頃と違って1度も笑わなかった。 いつも俺の隣でキレイな笑顔を浮かべていたのに、今は暗く曇っていた。 一瞬だけ向けた表情は、どこか傷ついたような・・・・そんな気がした。
あんな顔されて、ほっとけるわけがない。 『関係ない』なんて言わせない。 黒崎をあいつらから取り戻してみせる。 あの頃のように。 黒崎の笑顔を取り戻してみせる。
「ちーっす」 久々にマスターんとこ顔出したら、珍しくマスターだけしかいなかった。
「お、バンビ。珍しいな、一人なんかよ?」 「ん〜モー子は今日バイト」 「だから一人寂しく飲もうってことか。」 「寂しくは余計!」
笑ってるマスターを睨みながらソファに近づく。 まあ、ヒマだからってのもあったけど だけど俺がモー子とつきあってから、仲間と飲む機会も少なくなったし。 みんキレなの顔見てないなあって思ったから、今日はきたんだけど。 今日に限って誰もいないし。 タイミング悪いの〜。 なんて思いながらソファに座ろうとしたら、そこには先客がいた。
「なに、どうしたの」
キイに染まった金髪の頭が、ソファに転がっていた。
「春の大会、優勝しただろ?」 「うん」 「それでアニの監督っぷりが認められたらしくてさ。ドラ猫が戻ってきたってのにアニ続投させられてるらしい」 「マジ?」
そういえば、春の試合終ったってのに姿見ないなあと思ってた。 マスターんとこくりゃ必ず揃ってたのに、アニの姿だけ見えなくて。 なんでだろうって思ってた。
「センコーは期待してくるは、純はうるうさいわで遊びにも行けないわでとうとうキレたらしい」 「そんで、逃げてきたってわけ?」 「そ。しっかしここじゃすぐ純にでも見つかるのにな〜」
ただでさえ「アニセンサー投入」なんて言われてる純だ。 こんな、誰でもアニの行き先の1番に思い浮かぶであろう場所に隠れても無駄だろう?
「つーことで、アニのお守頼むな」 「はあ?」 「買いだし行きたいんだけど、アニがこれじゃん?だからさ」 「まあ、別にいいけど」 「そうか!?じゃ、頼むな〜。」
マスターはいそいそと出て行った。 残ったのは、俺とアニだけ。 二人きりになった。 二人だけって、結構久々な気がする。 いつもぶっさんとかうっちーがいたから・・・・それにマスターは必ずいたし。 それもいない、本当に二人だけの空間なんて、高校んとき以来じゃねえ? なんか、そう思ったら落ちつかなくなった。 アニと、二人きり。 しかも、相手は寝てる。 据え膳食わずは男の恥ていうし・・・・って据え膳ってなんだよ!? わ〜!!今のなし!
「ん・・・・」
ふいに聞こえてきたアニの声に、びくっと肩を竦ませる。 起きた・・・・? 顔を覗きこむと、アニはまだ眠っている。 すやすやとした寝息を聞いて、ホっとした。 別に起きてもいんだけど・・・・ だけど、勿体無いような・・・・
「あ〜・・・コイツまだ目冷めないのかよ〜。」
不意に思い浮かんだ気持ちを書き消すように、他のことを考えようとする。 だけどそれは余計アニのことを意識してしまうようで。 なんとはないしに覗いた寝顔に目を奪われてしまった。 まつげ長いよなあとか思い始めて、 段々と下へ下っていって、そして目についたのは、キレイな赤。
「相変わらず、唇赤いよなあ」
唇にリップをつけたわけじゃなく、口紅を塗ったわけじゃないのに。 アニの唇はきれいな赤に染まってて。 それが女の子みたいで、ドキっとしたりしたけど。 今思えば、あれは唇ってだけじゃなく、「アニの唇」だからドキっとしたんだろうって思う。 だって、他の人がどんなに魅惑的な唇の色してたって。 アニを見たときの思いには叶わないだろうって思った。 それはつまり。 唇の色うんぬんじゃなく。 アニだから、なんだと思う。 アニが関係してるなら、どんなものでも愛しいし。 大事にしたいって思う。
「あ〜あ。なんか末期って感じだよな」
寝顔を見れて嬉しいなんて思うんだから。 かなり重症だと思う。
そのまましばらくアニを観察してたけど。 不意に聞こえてきた寝言に、ショックを受けた。
「ぶっさん・・・ダメだよぉ・・・」 はあ!? ぶっさんって・・・ダメって何がだよ!? どんな夢みたんだよぉ!
アニの呟きに、一気にテンションが下がった。
そばにいるの俺なのに。 なんで、ぶっさんの夢なんだよ! 夢でさえ、ぶっさんに負けんのかよ、俺!
「おい、アニ!!」 今すぐ起こして真相を聞きたかった俺は、アニをゆすって起こした。 すると、何度か瞬きしたあと、ゆっくりと顔を上げた。 「ん・・・・なに・・・・」 「今なんの夢見てたんだよ!」 「は・・・夢?・・・・見てた・・・?」 「見てた!寝言言ってた!」 「寝言・・夢・・・なんだっけ・・・・」 まだ寝ぼけてるのか、ぽやんとした顔を浮かべながら答えるアニ。
あ〜かわいい・・・かも・・・・
なんてんじゃなく! 夢見たのにまったく覚えてないのかよ!! そりゃ、夢って忘れること多いけど・・・ だけど、今さっきまで見てたものなのにさ。
「なんでそんな気になってんの?」 「え・・・別に」 ぶっさんの名前呼んだからなんて、言えるわけないし。 仕方なしに、曖昧に答える。
「つか、喉渇いた〜ビール!」 「今マスターいないから、飲みたい放題だよ」 「マジで!?」 アニは飛び起きると、急いでビールをグラスに注ぐ。 俺も一緒にカラになったグラスにビ―ルを注ぐ。
「じゃ、かんぱ〜い!」 「何にだよ!」 「う〜ん・・・・童貞に?」 「もう違うっつーの!」 「じゃ・・・・脱・童貞にかんぱ〜い」 「なんだよ、それ!」
俺が怒ると「まあいいじゃん」なんて笑いながら言う。 納得いかないけど。 童貞うんぬんは置いといて。 こうやってアニを独占出来るなんて滅多にないから。 まあ、いいかな〜なんて思った。
塚本が、「ごくせん」にゲストとして出演することになった。 それに気付いたのは、台本貰ってからしばらくたってからだった。 今回のドラマはセリフや出番なんて限られてるから。 読まなくても撮影するときの雰囲気で出来るから。 それに覚える時間あったら寝てるし。
だから、それに気付くのが遅すぎた。 撮りの、前日に気付くなんて、さ。
塚本とは「バトロワ」以来の共演になる。 他の生徒役のやつとは何回も共演してるヤツもいたりするのに。 俺は、あの時だけだった。 まあ、学業専念してたからってのもあるけど。 それでも、あの時以来の共演。
正直。 また会えるってのは嬉しいと思うけれど。
だけど。 「キャッツアイ」に出演してから注目され始めて。 雑誌にもちょくちょく載ってて。 表紙飾ったりなんかもして。 今じゃ俺なんかメじゃないくらい大きくなった塚本。
今、逢っても。 あの頃のようには出来ない気がした。
なあ、覚えてる? あの時、命がけで守った男のことを。
撮影数日間を過ごした、あの頃。 撮影中は他の生徒の誰よりも一緒にいた。
あまりにも、遠くなった「過去」
「おはようございます〜」 あの頃と同じ、少し高めの声が響き渡る。 スタッフに挨拶しながら教室に入ってくる塚本。 どうしようか、と思った。 昔みたいに声かけるか? それとも、待ってるか?
だけどどうすることも出来なくて。 俺は何故か視線を合わせることが出来なかった。 だけど。 「松沢〜久しぶり〜」 俺を見つけた塚本は、嬉しそうに話しかけてきた。 その人懐っこい笑顔はあの頃と変わってなくて。 少し、ホッとした。
「じゃあ、後で!」 俺のそばを離れると、前に共演したことのあるヤツのとこへ去って行く。 そして、俺に向けたのと同じ笑顔を浮かべる。 俺の知らない相手と楽しそうに話す塚本。
あの頃は。 塚本が誰と話しててもソイツはクラスの生徒だったからすぐにわかった。 だけど、今は、それがどんな繋がりなのかわからない。 俺にはわからない世界。
やっぱ。 ・・・・遠い。
2002年03月11日(月) |
離さない(鷹さん事件後のバンビアニ) |
「バンビ〜?」 「・・・・・」
さっきからアニが呼んでるけど、無視。 なんでかって、コイツは気付いてないみたいだけど。 俺は怒ってるんだよ。
「バンビ!」 「・・・なに」 「手・・・・」
小さな声でだけど聞こえた、アニの呟き。 俺の手は、さっきからアニの手を繋いでいる。 これが言いたかったんだろうけど。 だけど、無視。
「なんなんだよぉ」
なんなんだって、こっちが聞きたいってーの!
氣志團の問題も解決して。 モー子の問題も解決して。 落ちついてビールでも飲むか!ってときに辺り見回したらアニがいなくて。 どうしたんだって探してたら道路の真ん中でへたり込んでるアニ見つけて。 また、なんか巻きこまれた!?って思って話聞いたら
「鷹さんに伝授されそうになった〜!」
そりゃいったいどういうことだって聞いたら。 鷹さんに襲われそうになったってんじゃんか!
ちょっと前に小峰に襲われそうになったてのにさ。 目を離すとすぐこれだよ。 日頃からバカだバカだと思ってたけど。 アニの無防備さにはいい加減呆れた。
「アニはもっと自覚持ちなよ!」 「自覚ってなんのだよ!」 「襲われる対象だっていう自覚だよ!」 「な・・・そんなの持てるわけねーじゃん!」 「なんで!?」 「俺男だぜ?!」 「男でも襲われてんじゃん!」 「う・・・」
あ〜もう!気付いてないし! なんでこんなに無防備なわけ? 男だからっていうけど。 今の世のなか男も女も関係ないし。 それに、2回もああいう目にあってんだから、いい加減気付いてもいいじゃんか!
「アニってホント、バカ!」 「バカって言うなー!」 「バーカバーカ!」 「なんだよ、童貞!」
苦し紛れのアニのセリフは、もういい加減聞き飽きたセリフだった。 それ関係ないし。 アニはバカっていうか、鈍感なんだよな。 昔から危ない目にあってるのに、全然気付かないし。 先輩とか近所のお兄さんとか。 危険なヤツラはいっぱいいるのに。 その度に俺とかぶっさん達が苦労してるってのにさ。 目を離すとフラフラ〜っとどっか行っちゃうし。
「とにかく、アニはもっと自覚を持たないと!」 「それはわかったけど。なんでバンビが怒ってるわけ?」
・・・・・言われてみれば、そうだ。 なんで、俺が怒ってるんだ? アニが危ない目にあうのなんて、自業自得だってホっとけばいいし。 アニがどーにかなるのだって、別に俺に被害あるわけじゃないし(時々あるけど) それなのに、なんでこんな・・・・・
小峰に襲われそうになったって泣きついてくるアニとか。 鷹さんにヤられそうになったって涙ぐむアニとか。
そーいうの見たらすっげ腹たってきたんだよ。 無防備なアニにもだけど。 アニを襲おうとした小峰にも、鷹さんにも腹たってた。
それはなんでなのか。 わからないけど。
「バンビ?」 「いいから!とにかくアニはもっと警戒心持ちなよ!」 「わかったかから、いい加減手・・・」 「放すとすぐフラフラするから、マスターんとこ着くまでこのまま!」
だから決して。 繋いだ手が暖かくて。 もう少しこのままでいたいなんて。 思ったわけじゃないからね。
2002年03月10日(日) |
三村生まれ変わりネタ(キャッツアイぶつアニ編) |
いつものようにマスターんとこで集まって。 キャッツアイとしての次なる活動を求めて、この前から導入されたパソコンで探してたりして。 そんな、いつも通りの光景。
だけど、その日は違っていた。
どこでどうして知ったのか。 うっちーはちょっとヤバめの機間に立ち入っていたけれど。 俺達も「すげ〜」とか言いながら見てたけど。 「ど、どうしよ」 その時、うっちーがパソコンでつまったとこがあって。 何をどーすればいいのかわからなくて。 このままじゃばれて捕まるかもしれない!ってピンチに陥ったらしく。 俺達はどうすることも出来なくてかなり慌てていた。 「どーすんだよ!」 「ど、どうしよ」 「どうしよ、じゃねーよ!どーにかしろよ!」 とにかくパニクってた俺達。 どーにかしないとと思いながら、下手に触ったらヤバイことになりそうで。 ただパソコンの前で騒ぐだけだった。 「うっちー、ちょっといい?」 「アニ・・・?」 こんなときに一番に騒ぐはずのアニが、ずっと黙ってるのが変だと思ったら。 イキナリうっちーを退かすと、そのままパソコンの前に座った。 その顔つきは、いつものアニと違う気がした。 どこか、何かが違う・・・・・なんか、そんな気がした。 「おい!何してんだよ!」 いつもと違うアニの雰囲気に気を取られていて、アニが何したのか一瞬わからなかった。 アニは、パソコンのキーボードをひたすら打っていた。 しかも、慣れた手つきで。 誰も触れることの出来なかったものを。 迷うことなく打ち続けるアニ。
「あ、も、戻った」 アニの行動を呆然と見ていた俺は、うっちーの言葉にはっと我に帰った。 「戻ったって・・・・大丈夫だってことかよ?」 「う、うん。見つかることなく、だ、脱出出来たよ」 「マジかよ・・・・・・」 危機を脱出したことに安心したけど。 落ちついてみると、さっきのアニの行動が気になった。 アニは、まだパソコンを見つめていた。 「なんだよ、アニもパソコン使えるのかよ!」 「そんなの一言も言わなかったじゃねーか」 「つかいつの間にだよ」 そもそも。 いつ。どこで覚えたんだか不思議だよな。 アニの部屋にパソコンなんてねーし。 高校んときの授業でなんてねーし。 バンビのとこにはあるけど、バンビもアニが使えるの知らなかったくらいだから。 触らせてるわけじゃねーみたいだし。 だけど、なんか慣れてる感じだったよな・・・・?
「・・・・あれ?」 やっと顔をあげたアニは、何故か、不思議そうな顔をしてた。 自分がやったことが信じられないような・・・・そんな顔。 「アニ・・・・・?」 なんか、変だよな。 俺達もアニがパソコン使えるの知らなかったし。 なにより本人がそれが知らなかったような感じで・・・・・ つーことは、アニ自身もパソコンを覚えた覚えがないってことか? でも、今の手つきはちょっと知ってるくらいのレベルじゃなかったぞ。 うっちーなんかよりすげえ感じで。 パソコンなんて知らない俺から見たってさっきのアニはすげえレベルだってわかるくらいだ。
それって、変じゃねー?
「なんか・・・・なんだろ?」 「なんだろ?じゃねーよ。わけわかんねーよ」 バンビはちょっとムッとしてる。 アニの行動に面食らって、混乱してる感じか? それとアニがパソコン出来るの知らなかったのが悔しい感じか? ・・・アニのことで知らないことがあったのがショックなのか。 コイツはアニのことになるとホントわかりやすいよな。 「俺・・・パソコンなんて触ったことないんだけど・・」 「はあ?」 なんじゃそりゃ。 思わず三人ハモっちまったじゃねーか。 「触ったことないやつが、スラスラと出来るわけねーだろ!」 「だ〜か〜ら〜!それが不思議なんだろ!」 「不思議って・・・オマエ、自分のことだろ」 「そうだけど!けど・・・・・」 戸惑いながら、自信なさげな表情を浮かべるアニ。 その、らしさに少し苦笑しながら、アニが言いやすいように少しトーンを下げて声かける。 それでやっと、ぽつりと呟いた。 「画面見てたら、なんか・・・わかるんだよ」 「なにが?」 「全部!今何やってるとか、次何するとか。で、うっちーがつまったとこもわかって、どうやるのか頭に浮かんでて・・・・」 「で、やってみたら思った通りになったと?」 コクンと小さく頷くアニ。 その様子から、アニが嘘ついてるわけじゃないってわかる。 じゃ、アニの言う通り「触ったことないけど使い方わかった」ってことか? けど、それは簡単には信じられないことだ。 そんな都合のいいことあるか? 「なんか、一気にぶわっと頭に浮かんだんだよ」 「ホントかよ〜・・・っておい!泣くなよ!」 「え!?」 マスターの声に驚いてアニを見ると。 その頬には涙が流れていた。 「あれ・・・」 アニ自身、泣いてることには気付いていなかったらしく。 頬に触れて涙の跡を確認すると、戸惑っていた。 「おいおい!なんだよ、もう」 「泣くことないじゃんかよ」 「これじゃ俺達が悪いみたいじゃねーかよ」 「ご、ごめん」 「いや、謝るとこじゃねーし」 アニの泣き顔なんて見慣れてるけど。 こう、わけもわからずに泣かれると困る。 どうしたらいいのかわかんねーし。 つか、なんで泣いたんだ? 俺達が言ったからってのは、いつものことだろーし。 「なんか・・・すっげここが痛くなったんだよ・・・」 アニの手は、胸を指していた。
「うっちーがパソコン開いたとこから、なんか急にいろんなことが頭に浮かんで。 うっちーがやってる事なんて初めて見ることなのに、見覚えがあって。 そのやり方とかも理解できて。 昔、誰かに教わったような・・・・ ギリギリまで、誰かのそばでひたすらキーを打ちつづけてたような・・・・」
まだ呆然とした風に、言葉を吐き出すアニ。 それは全然意味わかんねーけど。 だけど、その時のアニが、まるで別人のような気がした。 どこか遠くを見てるような。 どこか遠くにいってしまうような。 アニが、消えてしまうような。 何故かそんな風に思った。 「アニ!」 だから慌てて声をかけると、いつものアニの表情に戻った。 「なんだろうなあ?」 「あれじゃねー?昔親戚のお兄ちゃんとかに教わったとかさ」 「そうそう。アニ馬鹿だから覚えてねーだけでさ」 「ありえる」 「なんだよ!馬鹿っていうなよ!」 いつものやりとりに戻って。 ほっとした。 俺達が知ってるいつもの、馬鹿で単純なアニに戻った。
それからは、いつも通りの日常に戻った。 アニもあれ以来パソコンには触れないようにしたらしい。 それに少しほっとしながら。 あの時のアニが気になったけど。 あんまり考えないようにした。 あれがどういう意味なのか。 消えてしまうってのはどうして思ったのか。 そんなの関係ねーし。
今目の前にいるのが。 俺の知ってる、昔からずっと一緒の。 佐々木兆なんだから。
2002年03月09日(土) |
あいたいよ(ハワイ行ってる櫻井さんの独り言・サクツカ) |
ハワイイベントも残りあと1日となった。 相葉の病気の心配とか天候の心配とかあったけど。 始まってみればそれは杞憂に終った。 まあ、相葉はあまり無理出来ないから残念がってたけど。 それでも俺達もファンも、楽しいって思うし。 成功したって思ってる。
だけど。 一つイベントが終って落ちついてしまうと。 俺の心はあることでいっぱいになる。
日本に置いてきた。 俺の最愛の人。
『早く逢いたいね』 高史からのメールに、俺はどうしようもなく心が揺さぶられるのを感じる。 俺だって逢いたいよ。 ハワイとか嵐とかファンとか関係なかったら。 飛行機飛び乗って。 逢って、顔見て、声聞いて。 そこにいるって感じたい。 触れたいよ。 高史の温もりを感じたい。 今すぐ、抱きしめたいよ。
たった3日、逢えないだけなのに。 もう全然耐えられない。 こんなにも飢えてる。 心がカラカラに渇いてる。 このまま。 栄養足りなくて死んじゃうかもしんない。
「あ〜声聞きてー逢いてー」 だけどどうすることも出来なくて、携帯見ながら呟く。 「俺も逢いてーよー高史ーー」 「翔くんうるさい」 大野さんが本を読む手を止めて俺を睨んでくる。 『我関せず』な大野さんが怒るくらいだから、よっぽどうるさかったのかもしんないけど。 でも、メンバーがこんなに悩んでるのにその反応はどうよ? 「大野さん冷たい〜!仲間が悩みを持ってるってのにさ〜」 「あのねぇ。翔くんのは悩みとは言わないし」 冷たく言い放つ大野さん。 それはいくらなんでも失礼じゃない? 高史に逢いたいのに逢えないってのは俺にとっては重要なんだよ? 「声聞きたいならさっさと電話すればいいことでしょ」 「それが出来ないから悩んでるんだろー」 そりゃ声聞きたいって思うよ。 せめて話だけでもしたいって思う。 だけど。 1度電話したらきっと逢いたくなるから。 声聞くだけじゃ足りなくなるから。 「だから我慢してんだよー」 「あ、そう」 呆れたような顔を浮かべると。 大野さんはまた本に視線を戻してしまった。 ホント冷たいよね、大野さんは。 「だって俺にはなんも出来ないし」 ま、そうだけど。
「あと1日か・・・」 明日になればイベントも終る。 イベントは楽しかったし成功したし満足だし。 だからそれはそれで寂しいんだけど。 だけど、今は。 高史に会えるって思うと嬉しいて気持ちのが強い。
『明日には逢えるよ』
今伝えたい気持ちはこれだけ。
あしたになったら。 真っ先に高史に電話をしよう。
2002年03月08日(金) |
RING(サクツカではなく翔くんポエム) |
ドラマも終ってしまい。 なんとなく気が抜けた感じがする毎日が続いた。 朝起きてもなんとなくぼうっとしてたりして。 時間に縛られないはずが逆に落ちつかない気がする。
そりゃそうか。週に5日通い続けてたんだもんな。 朝から行って。帰ってくるのは夜中だったり。 下手したら泊まりだったりして。 学校の友達なんかには「考えらんねえ」とか「よく耐えられるよな」とか言われたけど。
そんな働き通しでも耐えられたのは。 あのメンバーだったからだろうって思う。 キャッツのメンバーと一緒にいるのはホント楽しかった。 ドラマの中でもノリがいいメンバーって設定だったけど。 普段でもあのまんまで。 最期のほうでは撮りなのか休憩なのかわかんないくら、ハマってて。 マジ楽しかった。 毎日仕事してんのに、こんな楽しくいいのかよ?って思うくらい。 ドラマの現場って慣れてないし、人見知りするから苦手とか言ってたのが嘘みたいだよな。 スタッフも共演者も、みんな楽しくて。 まるでずっと一緒に仕事してた仲間のような気がした。 嵐とは違う、仲間。 キャッツという名の、メンバー。
キャッツに出会って。 バンビになった三ヶ月間。
ほんの三ヶ月間だったけど。 俺にとっては大事な宝のような思い出になった。 もしかしたら。 この20年間で一番の思い出かもしれない。
今でも時々夢に見る。 俺がバンビで、キャッツのメンバーの中にいて。 いつものようにユニフォーム着て、野球して。 それが当たり前のように生活してる。 何故か周りには嵐のメンバーもいたりして。 いつのまにかキャッツVS嵐&Jrで試合してんの。 キャッツのメンバーはかなりうまいけど。 嵐メンバーはボロボロで。 松潤なんかエラーばっか。 それをアニとぶっさんは爆笑してて。 うっちーも笑ってるけどマスターに「うっちーは人のこと笑えねえだろ」とかつっこまれて落ちこんでたり。 それを笑いながら見てる、俺。
そんな。 本当に夢のような、時間。 現実には絶対ありえないけど。 それでも、もし。 そんなことがあったら、なんて思った。
嵐がいて、キャッツがいて。
だけどバンビになった。 あの日々には戻れない。
けど・・・・・
『PiPiPi』
電子音が告げる、メッセージ。
『Mステみたよ〜。かっこよかった(^O^) タカシ』
アニこと、タカシからのメッセージ。 こうやって。 ドラマが終っても、メールやりとりしてるし電話で話すし。
1度出来た絆は消えない。 自分が望めば、ずっと繋がりをもっていられる。 そう思ってる。
約束なんかなくても。 大丈夫。
2002年03月07日(木) |
「おやすみ」(純アニ) |
高校野球の監督になってから数日が過ぎた。 ぶっさんに紹介されたときは戸惑ったけど。 始めてみれば、結構楽しかった。 好きな野球やってりゃいいし。 生徒も素直ないいやつばっかだし(それは下心ありなのだが、当然気付いていない) なにより、初めて人の上にたってるっつーのが、気分いいし。 まあ、朝早いってのはあるけど。 それでも毎日充実してるしなんの不満もない。
ただ一つ。 ある事のを除いては、だけど。
俺が受け持ってるのは「高校野球部」の監督なわけで。 そこには当然エースであり弟である純の姿もあった。 それが嫌ってわけじゃない。 気まずいかもとか思ったけど、今じゃ普通に話せるし。 昔みたいに比べられることの少なくなった今では、純に対してなんか思うことも少なくなった。 コンプレックスも感じなくなった。 アイツはアイツだし、俺は俺。 周りがなんか言ってても、別にいいや〜なんて思った。 だから、今では普通に話せるし一緒にいても別にいいと感じる。 けど。 監督になってから・・・純はすっげうるさくなった。 今までも「煙草吸うな」だのちょっと騒いでると「うるさい」だの言ってきたけど。 それは自分に対してのことだった。 純個人に迷惑なことだとすっげ口うるさく言ってきた。 けど、俺が監督になってからというもの。 「夜更かしするな」だの「遊ぶな」だの。 俺に対してのことを言うようになった。 まあ、夜更かしするなっていうのはわかるよ。 朝練があるんだから早く寝ろってことなんだろうし。 監督自ら寝坊すんなんて純にとっちゃ許せないことなんだろうし。 だからまあ、それはしょーがねえって思った。 けど、「遊ぶな」ってのはさあ。 俺には絶対無理! そりゃ野球好きだけど、野球一筋で生きていけるほど熱血してるわけじゃないし。 つーか、いくらなんでも遊びまで控えなくてもいいんじゃねー? 練習サボったりしなけりゃいいわけじゃん? 休みの日とかなんかは別にいいじゃん。 「兄貴は遊びすぎなんだよ」 普通だろ?とか言うと「兄貴の仲間が特別なんだよ」と返された。 それはそうかもしんねえけど。 だけど言い方が呆れてる感じでむかつく。 そもそも兄貴の俺に向かって命令するなっつーの! ・・・・うちじゃ歩合制だから純のが立場上かもしんねーけど。 だけど俺はあくまで「純の兄貴」なんだ。 それをあーだこーだ口うるさく言ってくるし。
「あ〜あ。こんなことなら監督引きうけんじゃなかった」 今日も俺の部屋には純がいる。 「見張り」とか言って夜は俺の部屋で寝ることが多くなった。 俺が寝るまで待ってるみたいだし、朝は俺より早く起きてる。 俺が目を覚ましてるときは純はそこに必ず居る。 監視されてるみたいで嫌だって言ったら 「兄貴は目を離すと何してるかわかんないから」 「なんだよ、それ!」 「小峰社長にヤられそうになってるし」 「う・・・・・・」 あの時のことは結局純にも伝わってて(ぶっさん辺りがおもしろがって言ったんだろうけど) なんかあるとすぐ言ってくる。 そりゃあんときは・・・・色々あったけど・・・。 直接的には純に迷惑かけてないんだし。 それにもういい加減時効だと思うんだけど。
「ほら、時間」 そう言われた途端、あくびが出てきた。 時計は0時を指してる。 前だったらまだまだ全然寝る時間じゃなかった。 けど、この頃は純に見張られてるせいでこの時間に寝るようになってたら。 いつのまにか習慣になってた。 「あ〜あ。この頃飲んでねーし遊んでねーし。 欲求不満だっつーの」 このまま大人しく寝るのは純の言う事聞いてるみたいでイヤだから。 文句言いながらベッドに横になった。 すると、イキナリ視界が塞がれた。 「俺が解消してやろうか?」 「いい!」 速効返事したら純はすぐに俺の上から体を退かした。 なに考えてんだかわかんないけど。 目の前で意地の悪い笑顔を浮かべる純を見たらロクなことじゃないって思った。 「なんだ、残念」 何がだよ! 聞きたいけど声に出したらなんかヤバイことになりそうで、言葉を飲みこむ。 「もう電気消すよ」 「ああ」 途端に真暗になる部屋。 いつも一人になる瞬間。 けど今はそこには俺だけじゃない。 「誰か」がいるって思うと、なんか不思議だったけど。 今は隣に純がいるのにも慣れた。 「おやすみ」 「ああ、おやすみ」 最初はなんか照れてた「おやすみ」って言葉も慣れた。
ホントはさ。 純が心配してくれてるのはわかってる。 だって。 遊んでて遅くなっても叩き起こせばいいだけじゃん。 それをこうやって言ってくるのは。 俺のこと、心配してるからなんだって。 ちゃんと気付いてる。 だけどそんなこと、言えないし。 「心配してくれてありがとう」なんて絶対言えないけど。 心の中ではいっつも言ってるよ。
赤の他人じゃない、小さいときからずっと一緒にいる弟。 大きくなるにつれて離れていたけど。 こうやってずっと一緒にいて。 純のそばは、意外と心地よいって気付いた。
桜が散って、春も終わりを告げる季節になった。 春の大会は、監督のせいなのかはわからないけれど、悲願達成を果たした。 「俺の指導がいいからだよな!」 そう言う兄貴の目には、涙が浮かんでいた。
泣き虫な兄貴は泣いてばかりで。 感動したとかむかつくこと言われたとか・・・悲しいことがあったとか。 俺の前でも平気で泣き顔を晒す。 その度に俺は嫌な気分になってた。 兄貴の泣き顔なんて、みっともなくて・・・・見たくないって思ってた。 心が、揺さぶられる。 ざわざわと落ちつかない気分になる。 それが嫌でどうにかしたくて、止めたくて。 だけど何も出来なくて、俺はその場にいることしか出来なかった。 見たくないのに。 こんな気分になるのは嫌なのに。 それでも、兄貴のそばを離れることが出来なかった。
だけど。 この時は不思議と嫌な気分にならなかった。 むしろ・・・・気分が良かった。 見慣れた兄貴の泣き顔。 だけど泣いてるのは、嬉しいから。 今までは理由なんてわからなかったしわかってもどうしようもなかったから嫌だったけど。 今は、どうして泣いてるか知ってる。
優勝したから。 試合に勝ったから。 俺が完投したから。
だから、兄貴は泣いてる。
それはつまり。 うぬぼれじゃなく俺が泣かせたも同然で。
俺のせいで泣いてる兄貴ってのは。 すっげ気分良かった。
「よくやった、純!」 昔よくやったように、俺の頭を撫でる。 前は子供扱いしてるようでむかついてたけど。 今はそれすら嬉しかった。
けど。 「おまえらもよくがんばった!」 そう言って、他の部員にも同じことをしてるのを見て。 いい気分だったのが一気に悪くなった。 「兄貴、みっともないからヤメロよ」 俺の言葉に兄貴は止めたけど。 周りの残念そうな顔を見て。 さらにむかつく気分になった。 それに 兄貴の泣き顔晒したくないって思った。 「ほら、行くよ」 戸惑う周りや兄貴に構わず、兄貴の手をとってそのまま歩き出した。
後ろからブーブー文句言う兄貴を無視してたら。 いい加減諦めたらしく大人しくされるがままになった。 「なんだよ、もうちょっと感動に浸ってもいいんじゃねー?」 「兄貴は感動しすぎなんだよ」 つまんねーとかいう声があがるけどあえて無視。 だけどあんまりうるさいからその口を塞いだ。 「ちょ・・・な・・・・」 「優勝したくらいで一々騒ぐなよ」 文句を言われる前に、こっちから言うと兄貴は文句を忘れて呆れている。 「優勝くらいって、オマエなあ・・・」 「これからあと何回もあるんだぜ。そのたびに泣くつもりかよ」 夏には大会控えてるし。秋もすぐだ。 俺がいる限り、優勝以外ありえない。 「何度でも兄貴泣かせてやるよ」 「泣かっっ・・てその言い方ヤメロよ!変に聞こえるだろーが!」 「でも事実だろ」 しれっと言うと、兄貴は深いため息をついた。 呆れてる感じがしてムカツいたけど。 でも今は気分いい。
これから先、何度でも。 ずっと。 俺のための涙は。 嬉しいときにしか流させないって。 心のなかでそっと。 誓った。
2002年03月05日(火) |
トラブル(バンビ→アニ?ぶっさん視点) |
「バンビ」 「なんだよ」 「モー子とうまくいってる?」 「はあ?何急に」
バンビはわけわかんないって顔してる。 まあ、当然か。 普通に飲んでるとこにイキナリ聞いたんだしな。 けど急にってわけじゃない。 実はかなり前から思ってた。 ここ数日毎日のようにモー子とデートしてるバンビ見てりゃ、うまくいってるのはわかる。 ここでも人のことお構いなしにイチャイチャしやがってるし。 付き合い初めってこともあるんだろけど、ラブラブそのもので。 そんでついでに童貞卒業したから余計。 見てるこっちが胸焼けするっつーの!ってくらいだ。
けどなあ?
「オマエってさ、馬鹿好きだよな」 「はあ?モー子が馬鹿だっていうのかよ」
いや、それは否定しねえけど。 モー子もかなり馬鹿だと思うし。 それをコイツは「俺が直す!」とか言ってたし。 けど結局振りまわされてるだけじゃん!とか思ったり。
「モー子もだけど。もう一人、とんでもない馬鹿いるだろ」 「はあ?誰・・・・」
誰って、一人しかいないだろ。 どーしようもなく馬鹿で、阿呆で。 いっつも面倒おこしては泣きついてくる馬鹿。 それで落ちこんでもすぐ立ち直っておんなじことする馬鹿。 呆れるくらい、どーしようもないヤツ。 そんなの一人しかいないだろ。 金髪の、見た目軽そうな。 ギャンブル好きで、トラブルメイカー。 そんで泣き虫で、人一倍人の気を使うやつ。
「アニ?」 「そ、アニ。好きだろ?」 「はあ?何いってんの?」
気づいてないのか、それともとぼけてるのか。 どっちかっていうと気づいてないのかもしれない。 だからモー子と付き合うし、アニとも普通に顔合わせてんだろう。 けどなあ。 傍からみてりゃ、一目瞭然。 わかりやすいんだよ、バンビは。
「俺がアニを?はあ?」
本当に気づいてないのな。 つーことは、無意識だったってことか? あんだけあからさまなのになあ。
最初は偶然だと思ってた。 アニといると視線を感じることがあって。 コイツ意外とモてるからなあとか思ってたけど。 それが何回か続くと変に思って。 ま、純のアニキってことでコイツも少なから注目浴びてるからなあ。 そう思ったけど、マスターの店でも視線感じるから変だと思って振り向いたら。
バンビと目が合った。
いや、バンビは俺を見てないから目が合ったっていうか視線の相手がわかったっていうのか。 とにかく、バンビはアニを見てることに気づいた。 それこそずっと、いつでも。 モー子といても、ふとした瞬間にアニを見てるんだよな。 オマエ見すぎだろ!と思うくらい、視線はアニを追ってた。 追いすぎっつーか。 あれって一種の『視姦』ってやつじゃねえ? どーみてもタダ見てるってわけじゃないだろうしなあ。 しかも無意識ってのは、余計タチ悪いだろ。
「オマエ、本当に気づいてねえの?」 「何を」 「自分が誰を見てるかってこと」 「誰を・・・・?」
あ〜あ〜悩みはじめちまったよ。 コイツはホントにダメだわ。 ここで気づかせて良かった。
自分があと半年で死ぬって知ったとき。 何が出来るんだろうって思った。 自分のこともだけど。 コイツラに、俺は何が出来るだろうって思った。 マスターはしっかりしてるし心配ないからいいけど。 問題はバンビとアニだった。 1番安定してねえは心配だわ。 悩みもあるし。 けど、バンビは無事童貞卒業できたしアニも監督業について純とうまくいってるし。 な〜んだよ、万事オッケーってやつ? とか思ったとこに、これに気づいちまったんだよな。 自分でも気づいてないから、どーすることも出来ないだろうし。 思いは溜まっていくだけだ。 ただ見てるだけで終ればいいけどさ。 けど、アニに近づくやつらをみる視線に気づいて。 バンビ見てたら、いつか爆発すんじゃねえかって思った。 ことがことだから、早々に解決しないとヤバイと思った。 ここで気づかせて釘打っとけば、コイツも自粛するだろうしなんとかするだろ。 そう思って、今日ここにきた。
けど、実は。 コイツの気持ちもわからないわけじゃねえんだよな。 ついアニ見ちゃうってのは、わかる。 俺もそうだしな。 危なっかしくって、何すっかわかんねえからってのもあるけど。 それでも、ほっとけなくて。
いつでもどこでも。 気づいたら見つめてる。 何をしても目の前に誰がいても。 視線を向けてしまう。 そこにいるだけで、どうしようもなく心が高ぶって。 落ちつかなくなる。
「ぶっさん?」
・・・・おい! 俺、何思った? ヤバイ。毒されてる気がするぜ・・・・・危ネエ。
「とにかく、二兎追うものは一兎も・・・なんだっけ?」 「・・・・」 「だから!くれぐれも両方ゲットしようなんて思うなよ?」 「・・・・・」
おいおい、なんで無言なんだよ。 なんで悩んでるんだよ。
「わかんないよ・・・」 「おいおい!しっかりしてくれよ〜」 「だって!無意識なんだから仕方ないじゃん!」 「いや、そりゃそうなんだけど」 「それに、止めようとしても止まらないもんだろ!」 「いや・・・・けど・・・」 「だから・・・・わかんないよ!」
そのまま、走りさってしまったバンビ。 俺はただ、呆然とするしかなかった。 もしかして。 俺って、余計なことした? 最悪な方にさせた?
「ああ、やぶへびだ」
マスターがぽつりと呟いた。
それから俺は、バンビが暴走しないことをただひたすら祈るのだった・・・・
2002年03月04日(月) |
歌(ウルルン見る嵐さん。珍しい大野視点) |
前に松潤が騒いでたから、今日のことは予想してたけど。 扉を開ける瞬間とか、こうなるってわかってたけど。 今年に入って、こんな状況なのは数知れず。 もう、いい加減慣れたけど。
だけど、不思議でしょうがないよ、俺は。
「塚本くん、髪切ったんだね」 「かわいくなってたね〜。ね、翔くん」 「・・・・・・」 「あ〜ダメだ。もう入りこんでる」
休憩になった途端、スタッフの目を気にせずに走り出した四人。 時計を見ると21時57分。 「何、なんかあるの?」 残った俺はスタッフに質問攻めにされたけど、笑ってごまかした(っていうか、笑うしかないでしょ) 言えるわけないじゃん。 「「世界ウルルン〜」を見るためです」なんて。 それに出演する、翔くんを始め四人が大好きな「塚本くん」を見るため、なんて。
言えるわけがない。
「わ〜!!!お風呂入ってるよ!」 「これヤバイでしょ〜!!・・って翔くん!顔真っ赤だよ!」 「意外に純情?」 「うっせーよ!」
さっきからテレビの前を陣とって騒ぐ四人。 いっつも思うんだけど。 翔くんが騒ぐのわかるよ。 ドラマで共演したし、好きな人らしいし。 けど、後の三人が騒ぐのがわかんない。 翔くんとドラマで共演した人ってだけで、なんであんなに好きになれるかね? 確かに、顔はいいほうだと思う。 スタイルもいいほうだと思う。 けど、うちの事務所にはいっぱいいる。 別段珍しいわけでも特別なわけでもないと思う。 何がそんなにいいのか、よくわかんない。
まあ、わかろうとも思わないけど。
そこで興味が失せて、読みかけの本に没頭してたら、ふいに聞こえてきた。
歌?
聞こえるほうを見ると、テレビで塚本くんが歌ってるシーンが見えた。 珍しい、彼の歌ってるところ。 独特の声が歌い上げる、歌。
意外。
俳優のわりに、うまかった。 それだけじゃなくて・・・・なんか不思議な歌声で。 しばらく聞いていたい気になった。
ふうん。
歌ってる声と、姿を見て。 ずっと不思議に思ってたけど。 ・・・・なんとなく、みんなが好きになったのがわかる気がした。
少しだけ、だけどね。
それから終るまで、なんとなく視線がはずせなくなって結局最後まで見ていた。 こんな風に見てるのは多分、今回が特別だと思う。 歌を歌ってたから、だと思う。 明日になれば、いつも通りの風景になるだろう。
けどまあ、時々はみんなのついでに見てるかもしれないけどね。
☆なんか、なんでもない、何がいいたいんだかわからない話になってしまった・・・ しかも、歌ってるとこ見てないですあたし(爆)
2002年03月03日(日) |
サクツカと不機嫌な松潤とニノアイ【電話編】 |
楽屋に入った途端立ちこめた異様な雰囲気に、俺はうんざりした。
「おはよう、ニノ」 「おはよう。何、また?」 「そう」
相葉ちゃんが指差した先には、楽しそうに電話してる翔くんとそれを不機嫌な顔で見てる松潤の姿があった。 この頃お馴染みになりつつある光景に、俺はまたうんざりした。
「相手は塚本くん?」 「当たり」
当たったというよりわかってたことだから驚きもしない。 だいたい、あんな風な表情で電話してる翔くんなんて滅多にないし。 あんな、満面の笑顔浮かべて、声はずませる翔くんなんて超レアだ。 つか、塚本くん限定だろうし。 恋すると人はかわるっていうけど、翔くん見てるとそれがすごいわかる。 今までの頼れるアニキを演じてた翔くんはどこへ行ったんだか・・・・
「しかし、松潤の考えることはわかんないよ」
相葉ちゃんがため息混じりに言うのに、俺は耳を傾ける。
「散々塚本くんとくっつけるようにしたのに。その為に翔くんけしかけたりしてたのに」 「本人以上に一生懸命だったよね」 「そう!なのにいざくっつくとなると不機嫌な顔してるし。どっちなんだって!」
相葉ちゃんの疑問はもっとも。 自分で仕向けたのに、ああやって雰囲気悪くされたらたまったもんじゃない。
けど、松潤の気持ちもわかるんだよね。 この前あんまりウザイから松潤に言ったら
「塚本くんとくっついたのは嬉しいよ!翔くんも幸せそうだし!」 「じゃあ、いいじゃんか」 「けど!嵐の中にいるときは「嵐の翔くん」でいてほしんだよ!」
そう言われて、それ以上何も言えなかった。 その気持ちは痛いくらいよくわかるから。 つい最近の俺も、そーいう気持ちを抱えてたから。 相葉ちゃんがドラマ撮ってて、長瀬さんの話するたびに嫉妬してた。 ドラマしてても何しても、嵐にいるときは嵐のモノでいてほしい。 相葉ちゃんは、特にね。
「あ〜そういう気持ちはわかる気がする」 「相葉ちゃんも?」 「うん。俺も翔くんがドラマの話するたびに寂しいって思ったし。翔くんラブな松潤なんか余計そう思うんだろうね」 「うん、だろーね」
塚本くんに翔くんを全部持っていかれたようで、寂しいと思う気持ちはみんな一緒だと思う。 俺だって、寂しいと思ってた。
けど、いい加減あの雰囲気が続くとうんざりする。 なんとかしてほしいよ。
「多分翔くんがなんとかしてくれるよ」
言ってるそばから電話が終った翔くんが、ウザイと言いながら松潤に蹴りをいれてた。 それでも構ってもらえて嬉しそうに笑う松潤。
「松潤、単純」 「ホント」
苦笑しながら、けどいつも通りの嵐に戻ってホっとする。 いつも通りのやりとり、いつも通りの嵐の楽屋。 それが、1番いい。
「まあ、今はしょーがないよね。ラブラブだし」 「そうだね」
二人はまだ出会って四ヶ月しかたってない。 それに、ドラマが終ってバラバラになっちゃったから、寂しいと感じる時だろうし。 俺と相葉ちゃんみたいにいつでも会えるってわけじゃないから、せめて電話はしたいって思ってるんだろうな。
「当分の間、松潤には我慢してもらおう」
なんだかんだいっても、翔くんが楽しそうで幸せそうなのが1番だし。 そんな風に珍しく暖かい気持ちのまま終わろうとしたとこに、やはりというかなんというか。 本日の爆弾は投げられた。
「それに翔くんの幸せがいつまで続くかわかんないしね」
あ〜あ・・・ 相葉ちゃん、それ禁句だよ・・・・・・
2002年03月02日(土) |
キミといた季節。(ぶっさんアニ)(ラブラブですご注意) |
春の甲子園も無事終わり、夏の大会に向けて毎日練習に明け暮れていた。 そんなある日、校庭の隅で知ってる人影をみつけた。
「ぶっさん!」
俺が叫ぶとぶっさんも気づいたのか、手を振ってくれた。 ここしばらくいろんなことがあってぶっさんと会ってなかったから、久しぶりに会えて嬉しかった。 それに、こうやって会いにきてくれたのが、すっげ嬉しかった。
「ぶっさん、どうしたの?」 「ん〜ちょっとな。練習何時に終る?」 「もうそろそろ終るよ。何、どっか行くの?」 「どっか行くっていうか、ちょっと付き合ってほしいとこあってさ」
少し照れくさそうに言うぶっさん。 なんだろ?どこに行くつもりだろ? ぶっさんの態度が気になったけど、わざわざ俺を誘いにきてくれたことがすっげ嬉しくて、残りあと少しだった練習をその時点で切り上げてしまった。 純がすっげえ目で睨んでたけど。 だって、この頃真面目に練習つきあってたし。たまにはいいじゃねーか。 せっかくぶっさんが来てくれたんだ。練習してる間も勿体無いっつーの。
「相変わらずだな、不良監督」
二人で歩いてたら、ぶっさんが笑いながら言ってきた。
「その呼び方やめろよな〜!これでも最近は真面目にやってんだぜ?」 「そうかぁ?」 「そうなの!」
俺が強く言うと、ぶっさんはニヤニヤ笑ってる。 ああもう!全然信じてねえって顔だよ〜。 ホント、マジでちゃんと練習参加してるのに。 朝練なんてもんにも参加してるし。 ・・・・・まあ、同じ屋根の下に野球部のエース様がいるからなんだけど。 朝は純が起こしにくるし出掛けようとするとチェック入るし。 帰ったら帰ったで「明日も早いんだから寝ろよ」って無理やり寝かされるし。 つーか猫田が戻ってきたんだから俺は用なしなはずなんだよ。 それをみんなが頼むから仕方なしに続投してるってのにさ。 それなのにぶっさんには不良とか言われるし・・・・・
「おい、拗ねるなよ」 「拗ねてねーよ!・・・・で、どこ行くんだよ」 「あ〜もう少しで着くはず・・・・・あ、あれ見ろよ」
ぶっさんが指差したほうを見ると、そこは一面ピンク色をしていた。
「あ、桜・・・・・」
桜が満開に咲いていた。 いつも通ってる道なのに、今まで気づかなかった。
そこは桜の木がずらっと立っている公園で、毎年そこで花見してた。 まあ、花見っていっても、それを理由に飲んでるだけだけど。 学校帰りによく通るとこだから、毎年満開になると気づいてたのに。 だけど、今年は全然気づかなかった。 辺り一面咲いてるのに、気づかなかった。 桜が咲くことさえ、気づかなかったくらい忙しかった? ・・・・・いや、違う。
桜が咲く季節になってほしくなかったから?
なんでだか、そう思った。 理由はわかんないけど、ずっとそう思ってた。
「なんか、さ」 「ん〜?」
しばらく二人で桜を見上げてたら、ぶっさんが呟いた。
「オマエとこうやってまた桜見れるとは思わなかったと思ってさ」 「ぶっさん・・・?」
いつもより少し落ちついた物言いに、珍しくぶっさんがシリアスにしてるんだってわかった。 桜見てシリアスになるなんて、ぶっさんらしくねえじゃん? そう言ってからかってやろうとしたげど、振り向いた先にあった顔があまりにも真剣で、俺は何も言えずに黙ってしまった。
「余命半年だったしな。もう桜拝めないだろうって思ってたし」 「ぶっさん・・・・」 「だから、またオマエと桜見れて嬉しいとか思っちゃってるわけよ」
ああ、そうか。 俺も、ぶっさんと同じ気持ちだったんだ。 余命半年と言われたぶっさんは、桜が咲く季節にはきっといないんだろうって思って。 だから、その季節になるのが怖かったんだ。 怖くて、春になるのを・・・・桜が咲くのを無意識に考えないようにしてたんだ。 ぶっさんが、消えちゃうから・・・・・・
「あ〜あ〜すぐ泣く」
言われて初めて気づいた。 何時の間にか泣いてたんだ、俺。 泣いた理由が理由だから、なんか恥ずかしくてぶっさんの顔まともに見れない。 けど、ぶっさんが困ったように笑うから、俺は慌てて涙を止めようとした。
「オマエ、ホントよく泣くよな」 「だって、仕方ねーじゃん!ぶっさんが変なこというからさ!」 「変なことってなんだよ!だいたいなあ、男は泣くのを堪えるのもんなんだよ!」 「なんだよ!ぶっさんだって翔さんの映画見ていっつも泣いてるじゃんか!」 「馬鹿、それはしょーがねえだろ?翔さんの映画見て感動してんだから」
なんだよ、その理屈! だいたい俺を泣かしたのはぶっさんじゃん!
そう言ってやろうかと思ったけど、止めた。 せっかく楽しい気分なんだし。 それに、今年もぶっさんが隣にいてくれたから、いいや。 満開の桜を、ぶっさんと見れたから、それだけでいいや。
ねえ、ぶっさん。 こうやって、来年の桜も一緒にみたいよ。
2002年03月01日(金) |
真夜中の嵐(サクツカ+松潤) |
高史とキャッツ最終回を見て、今までの思いでとか語ってるうちに眠くなってベッドに入ったのが夜中二時。 隣に高史の温もりを感じながら眠りについたのが三時。 明日(もう今日か)はレギュラー番組の撮りがあるからあんまりゆっくり出来ないとか思ってた。 だから、眠れる時間はきっちり眠りたかった。
ちゃらら〜ちゃちゃちゃららら〜ら〜
そんな些細な願いをぶち破る訪問者。 無視しようとしても、無情にも携帯は鳴り響いていた。 あんまうるさくすると隣の高史が起きてくる。
つーか、マジぶっ殺す。
携帯画面は見てないから誰からなのかわからないけど。 今この時間にかけてくるやつなんてロクなやつじゃないに決まってる。 というより、こんな時間にかけてくる阿呆は一人しか知らない。 むかつくキモチを抑えながら携帯の通話ボタンを押す。
「あ、翔くん?松潤です」
ああ、やっぱりな こんな阿呆は一人しかいなかったということだ。
「もしもし?翔くーん!」 「・・・・・・殺すぞてめぇ」 「わ!びっくりした」 「びっくりしたじゃねえよ!何時だと思ってんだよ!」
思いっきり怒鳴って切ってやりたかったけど、高史が起きてしまうから小声でけどドスの入った声で言った。 前にもこんなことがあって、むかついて番組の中で説教した。 コイツはその時多いに反省したはずだ。 あれ以来夜中に電話してくることはなくなったから安心してたけど。 ・・・・よりによってこんな日にしてくんじゃねえよ!
「ごめん〜!でもどうしても言いたかったんだもん!」 「何がだよ。くだらないことだったらマジ殺すぞ」 「う・・・だって、今ドラマ見て、翔くんに「お疲れ様」って言いたくなったんだもん」 「オマエなあ、そんなの今日の撮りの時言えばいいだろう?」 「だって・・・・そんな会ったついでみたいじゃなくて、ちゃんと言いたかったんだよ!翔くん毎日眠いっていいながらがんばってたから・・・言いたいなって思ったんだもん・・・・」
怒られると思ったけどさ・・・ そういう声が段々小さくなっていく。 きっと、受話器持ちながらしゅんとうなだれてんだろうな。
ホント、バカだよコイツ。
怒られるのわかってんなら電話しなきゃいいのにさ。 けどまあ、そこが松潤らしいといえば、らしいんだけど。 今回だけは、そのキモチに免じて怒らないことにしてやるか。
「で、その言いたいことってのまだ聞いてないんだけど?」 「あ!そうだった!翔くん、三ヶ月お疲れ様でした!」 「ああ」
それで終りかと思った時、隣で動く気配がした。
「ん・・・・・」 「ごめん、起こした?」 「ううん・・・・電話?」 『あ!塚本くん起きたの?!翔くん、塚本くんに代わって!』 「オマエはうるせえよ!」
高史と話してるとこ邪魔するわ、挙句の果てに「代わって」だあ? なんで高史と代わらなきゃいけないんだよ! コイツといいにのあいといい、ちょっと高史に馴れ馴れしくないか?!
「代わってくんないとニノに塚本くんと翔くんが一緒に寝てたこと言うよ!」
・・・・コイツ俺を脅す気かよ? ニノに言ったところで俺は別になんとも・・・・・・
『その時、ニノアイの楽しそうな顔が思い浮かんだ』
・・・コイツ今日無視決定。
「ごめん高史。うちの松潤が代わってって」 「え?松本くん?」
驚いた表情のまま、受話器を受け取る高史。 俺は何話してるのか気になってずっと見てたけど、高史が楽しそうに話してたから少し安心した。 それから数分、やっと電話は終ったらしい。
「お疲れ、だってさ」 「なんだ、高史にも言いたかったのかアイツ」 「うん、そうみたい・・・・かわいいよね、松本くん」 「はあ?ナマイキで邪魔なだけだよ」
俺が言うと、高史は笑顔を浮かべてた。 その笑顔がかわいくて、思わずぎゅうっと抱きしめた。
だって、高史が1番かわいいと思うし。
声に出してなんて言えないけど。 高史が1番かわいくて、キレイだと思ってる。
まあ、高史にはてんで敵わないけど、その次の次くらいに松潤もかわいいと思うときもあるか。
「そいえば、お互い言ってなかったね」
そうだ。松潤に先越されたけど。 終ってしまうことに気を取られてて、1番大事なこと言ってなかった。
「三ヶ月間、お疲れ様」 「お疲れ様」
お互いに言って、抱き合ったまま眠りについた。
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