おちょこの日記
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2005年08月26日(金) 超えられない優しさ


初七日を終えて兄が帰った。
家の中が急に静かになった。

今日から母と二人。
新しい生活。

お、カズから電話来てた。

電話をした。
今、お兄ちゃん帰ったよ、
そうか。御疲れ。
今、どこ?

ん、帰ってきた。

また、内緒ですか・・・。
いつまでいるの?
教えない。

コイツ・・・。

どうやら夏休みをとって帰ってきてくれたらしい。
今日は家族といるから逢えないけど明日。

嬉しかった。
とても心細かったから。

次の日、3時頃に逢う。
今年も市職の試験を受けるので一緒に願書を取りに行った。
スーツ姿にうっとり(笑)  ← 盲目

その後で願書に貼る写真を撮りに行く。
1枚もらった(笑)
何故?


写真できるまで車で待機。
頭なでられる。泣きそうだったけどこらえた。

優しい。いてくれてありがとうって心底思った。


前日、カズ兄はお母さんと喧嘩したらしく
今日はお母さんとお兄ちゃんを仲直りさせるから、明日また逢う事に。

明日も逢えるんだ。
胸が温かかった。


帰ろうとした時、突然車の中で抱きしめられる。


よく頑張ったな、辛かったな?
逢ってそう言ってやりたかったんだ。
泣いてもいいぞ。


号泣した。その間ずーっと抱きしめながら頭をなでてくれた。
カズを好きでよかった。カズと出逢えてよかった、
ほんとにそう思った。
見事なタイミングで、見事なまでの優しさだった。
アタシはカズが誇らしい(笑)

たとえ人でなしな部分があっても
この瞬間の優しさはきっとこれから誰も超えられない。

アタシは安心してそれまでの心細さ、
葬儀が終わってから抑えていた絶望的な悲しさ全部を
カズの腕の中で子供のように声をあげて泣き吐き出した。

カズは黙って受け止めてくれた。

ひとしきり泣いた後でカズに言われた。

お前の泣き方だったらこれは誰でもつられて泣くわ(笑)
出し惜しみなく泣くんだねぇ、お前は。

うん、悲しいのも嬉しいのも全力。

さすがワンコだ(笑)


じゃあ明日ね。って車を降りた。


その、夕方の空は高くて、青くて、
まだまだ、アタシにこれからも見るべき世界の美しさがあると言ってるようだった。

まだ、涙は乾かなかったけど
その目で見る滲んだ世界はキラキラと光っていた。







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2005年08月25日(木) 飛ぶように


泣きながらもどうにか書くことが出来ました。
色んな人が支えてくれました。
どうもありがとう。


父が死んでしまってから今日でもう3週間以上たちました。
御葬式が終わってから思ったこと。

悲しみにどっぷりと漬かれるのは葬儀の日まで。

なんだか色々とやることがたくさんあった。
父の死亡に関する手続きや銀行関係、支払いや保険の事。
ずっと泣いてるわけにはいかなかった。

葬儀のときは兄たちは色々走りまわってたけど、
アタシは泣き係だと兄が言っていた。
その役目はきっちり果たしたと思う(笑)

中でも一番嫌だったのは病院にいくことだった。
父の死亡診断書がなぜか控えを貰っていて取替えにいくことになった。
なぜ、アタシなんだろうと思った。

病院に入って、父のいた病棟の詰め所に行った。
看護婦さんに名前を告げると
ほんとに残念です、最後まで頑張ってらしたのにと言われた。
詰め所のすぐ前の部屋が父の居た部屋。
ほんの何日か前にそこで寝てたのに。
今は空き部屋になったその部屋を見るのが辛かった。

病院を出て車に乗った途端に涙が出た。
あの雷の夜を思い出した。
ここで父は・・・。

早く此処から立ち去りたくて号泣ドライブ(笑)

初七日も無事に終える。
積み団子を作る係に任命された。
作るたびにどんどん上手くなっていく(笑)
兄ちゃんがお前こんなのプロ級に作れてもなぁ・・・。って
確かに。

それでも初七日、二七日、三七日、とアタシは気合を入れて作る。
声をかけてくれるな!という感じで(笑)

母は仕事に復帰。
日中1人か…なんて思っていたけれど
父の仕事の跡を継いだのでこれまた何故か仕事が立て込んでいた。

世の中ってうまく出来てる。

父の居なくなったこの世界はまた何事も無かったように動く。
その流れに組み込まれてアタシ達も流される。

あっという間に時間がたっていく。
悲しみは続いているけど毎日が飛ぶように過ぎる。
夢も見ない。

最初は夜、泣いてばかりいた。
カズから電話が来て喋っていて、胸が詰まって泣いたこともある。
鼻声で電話に出て、泣いてたんですか…。
頑張ってんです!って言って笑われたり。

カズは優しかった。
毎日のように電話をくれた。
アタシは救われていた。
前に、カズと出逢った時に光がさしてるって書いた。

今もカズはアタシの光だ。
真っ暗な闇の中でアタシを引き上げてくれる光。
まっすぐにアタシだけを照らす光。

前はたまに消されたりしたけどね(笑)


支えてくれる人がいるってすごいってほんとに思った。
カズと終わらなくてよかった(泣)


明日はそのお話です。








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2005年08月24日(水) さようなら、お父さん。


朝から寝ていないせいもあってぼんやりしていた。
意識外で今日が始まっていた。
兄が複雑な顔をしていた。
ああ、今日は兄ちゃんの誕生日だったものね。

朝ごはんを食べて、喪服に着替えていたら
姪っ子がコーヒーをこぼして叱られていた。
普通の一日の始まりのようだった。

隣の部屋では年寄りたちが朝の連ドラ『ファイト』を真剣に観ている。


父がまた祭壇に移動されていった。


御葬式開始。
今日も続々と人が集まっている。

お経を聞きながらお腹が痛くなった。
吐きそうだった。


最後のお別れです


耳がキーンと鳴った。

花が手渡された。
父の棺に花が入れられていく。
白い百合で埋め尽くされていく。

父の教師時代に可愛がっていた若い先生が目を真っ赤にして
棺から一歩下がって、深く強くお辞儀をした。
その姿からありがとうございましたと言う気持ちが強く伝わった。
その姿だけは今も、強く心に残っている。

最後は家族の番だった。
母が声を上げて泣いた。

湯灌の時に入れた筆や、孫の描いた絵。
父は花に埋もれている。
まだ動いているような錯覚は消えない。
お願いだから目を開けて。
そう、願った。

棺の蓋がしめられた。
アタシは兄に支えられながら歩いた。
一歩一歩父の最期が近づいてる。

火葬場に向かうバス。
何処にも行きたくないのに。

大きな長いクラクション。
もう、アタシは泣きすぎてボロボロだった。

火葬場までの道、前を走る霊柩車。
母は何を思っているのだろう。
アタシは何を思えばいいのだろう。
この道が永遠に続けばいいのに。

火葬場は独特なにおいがした。
やけにキレイで明るかった。
小さな部屋で父の肉体と最後の別れ。

御別れの後は喪主と施主だけ残ってくださいと言われた。
母はそれをよしとはしなかった。
あんたたちも残んなさい。
最後まで一緒に。
火葬場の人は別にいいけどって顔をした。

そしていよいよ父を焼く時が来た。
父が燃えてしまう、
嫌だ!やめて!
泣き叫んだ。手を前に伸ばして。

次男がアタシを抱きしめて抑えた。
それでもアタシはものすごい力で動いた。
兄は120キロある、それをも動かした。
あわてて長男もアタシをおさえた。
アタシはやめて、嫌だ、お父さん!と泣き叫んだ。
父を燃やすのなら一緒にアタシも燃やしてと思った。

そして扉が閉まった。

アタシはあの瞬間を忘れない。
心臓が凍るような、止まるような光景を。

立っていられなかった。
あとはもうあまり覚えていない。

1時間後に父の骨を拾った。
ああ、もういない。
母から兄へそしてアタシへ父の骨が受け渡され箱に入る。



コトン。という小さな音がした。


骨になってしまった父の最初の声。


180センチの父が小さな箱に納まる。
嘘みたいだ。
みんながきれいに父を拾ってゆく。

父の腰の骨は癌が転移して色が変わっていた。
母は父のその部分を拾いたかったらしい。
これが…と母は泣きながら呟いた。

アタシはもう、そんなに泣いてなかった。
というより魂が抜けてしまったかのように立っていた。

骨になった父をまだ、現実として受け止めていなかっただけかもしれない。
扉が閉まったあの瞬間に、何かがアタシの中でも閉まったのだ。

最後に胸仏と喉仏を入れた。
母がその箱を持って、あーあという顔をした。

ただ、疲れていた。
もう、口を訊くのさえも。
家族みんなそんな感じだった。

式場に戻り繰り上げ法要をして、みんなを見送った。
そして、終わったんだ、長い1日がと思った。



今もアタシはその日の空や天気を思い出せない。




父がいなくなった日。
それだけが痛いほどに残る日。




さようなら、お父さん。









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2005年08月22日(月) 眠れない夜


葬儀の最中も泣いてばかりで声をかけてくれる人の顔も分からなかった。
ただ、頭を下げ続けた。

普通、葬儀では喪主と施主が前に出るが母は違った。
本当の家族だけで、つまり母と兄二人とアタシで前に出た。
兄のお嫁さんたちには申し訳ないが、母にとっては家族はこの形なのだ。
立ちながら足元が揺れていたが必死で立っていた。

何でこんな事になってるんだろう?
父が癌と判ってからまだ半年だ。
東京の病院から戻って2週間しか経ってない。
体力の回復のためって言って入院してわずか6日だったのに。

何故、アタシは此処に立っているの?
何故、なぜ、何故!

思いっきり泣いていた。
出し惜しむことなく、心から泣いていた。
目から血が出そうだった。

ようやく通夜が終わった。
アタシはかけてくれた声をほとんど覚えていない、今も。

お通夜の後、式場に泊まり込む遺族関係者たち総勢40人余り。
さすが、おちょこ親族、酒豪溢れるといった感じ。
早々に色んな種類の酒が足りなくなり、下戸の従兄が使いっ走っていた(笑)

父の親友が遠方から来てくれていた。
お通夜の後も泊まって父と酒を飲むと言った。
酒もすすみ酔いも回ってきた頃、大きな声で親友が言った。

おい!飲んでるか!俺はお前の分も飲んでるぞ!
お前、電話で大丈夫だって言ってたのに、あと10年は生きるぞって言ったのによ!
寂しいなぁ、嘘みたいだなぁ!聞こえてるか!何か言ってくれたらなぁ・・・。

すごく寂しい事だ。
人が死ぬって事は大きい。
家族じゃなくても、親しければなおさら。

お父さん、たくさんの人が来てくれたよ?
見てたよね?
すごいね、嬉しいね・・・。

少しだけ涙がおさまったのでカズに電話した。
大丈夫か?って言われた。
大丈夫じゃないけど大丈夫。
カズは笑った。
泣きながらでも頑張れ!と言われた。
今日が最後だろう?とも言われた(!)
少し意識が戻った気がした(笑)

側に居てやれたらいいけど、明日当直だ。電話してもいいからな、いつでも。
嬉しかった。
不器用な感じの優しさに安心した。

いてくれてありがとう。

その夜は結局、眠れなかった。
棺の中の父をずっと見ていた。
やっぱり笑ってる。
顔のところの窓は厚い透明のフィルムがあってもう触れない。
それでもそのフィルムに手を当ててずっと見ていた。

だいぶ酔っていたおじさんがそんなアタシを見て号泣した。
寝ていたおばさんがうるさい!と怒鳴った(笑)

結局、兄弟3人で朝まで起きていた。
アタシは父が亡くなった日から今日が来るのが怖かった。
起きていながらずっと夜が明けなければいいと思っていた。


それでもこの日が来るのは止められないんだ。




今日は父が肉体を失くす日。



もう、二度と父の姿を見ることができなくなる。








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2005年08月21日(日) お通夜


短い夜が明ける。
数時間、眠った。
目覚めると雨が降りそうな天気。
ふと、携帯を見るとメールが来ていた。

カズからだった。

新聞のお悔やみ見たよ。
今日はお通夜だね、悲しいときは思いっきり泣け。
一度お逢いしておけばよかったかな。
ご冥福をお祈りいたします。


逢って欲しかった、
父さんはカズの事に余り触れはしなかったけど
逢って欲しかったよ。
アタシの好きな人を見てもらいたかった。
号泣した、胸が痛くなった。


今日、父が家を出て行く。
肉体としてこの家に居れるのはあと数時間。
今日はお通夜。


朝から葬儀を手伝ってくれる人たちが忙しそうに動いてる。
アタシは髪を整えてもらうことになった。

喪服を着るようだ。
母が、

『お母さんはお嫁に来たとき、喪服無くてねぇ…。
         だからあんたには持たせてあげるからね。』

ってつくってくれたもの。
まさか、父の葬儀に着ることになるとは。
初卸が身内の葬儀は良くないんだけどね・・・。っておばさんが呟く。

結局、会場に行ってから着る事になった。


出棺の時刻が近づいてくる。
湯灌の儀が執り行われる。

何でこんなに物事は早く進んでいくんだろう?
時間の流れがすごく速く感じた。

案の定アタシは号泣。
誰の顔も見えなかった。
父を他の場所に運んでほしくなかった。

やっと帰って来たんだから。

父を5人がかりで棺に移す。
お棺の中で父は窮屈そうだった。

ゴメンね、お父さん。
こんな狭いところに入れて。
許してね。

父は笑っていた。


霊柩車が長いクラクションを鳴らしてゆっくりと走り去った。

もう、あの姿で父はこの家には戻れない。
頭が痛かった。泣きすぎて目が開けれなかった。

用意をして兄の車で葬儀場へ向かう。
大きなホール。
今日の葬儀は父だけらしい。

雨が降り始めていた。

祭壇はものすごい立派だった。
花輪も30届いていた。

家族ですごいねぇ、お父さんって、と呟いた。
そういえば家にも花がどんどん届いて断ったんだ。

父は愛されていた。色んな人に。

喪服に着替えた。
おばさんにすごく似合うわと言われた。
そんなん似合ってもな・・・。
兄ちゃんの嫁に、未亡人?って言われた。
結婚もしてないから・・・。

会社の人が葬儀に出られないからと先に来てくれた。
母とアタシは同じ会社で働いていた。
父の看護で辞めるまでは。

大丈夫?大変だったね?
涙が出た。
どうもありがとう、来てくれて。
ありきたりなことしか言えなかった。

葬儀の時間が近づいてきた。
会場はものすごい人の数で受付がテンパっていた。

300人の席を用意していた。
こんなに来るの?って家族は思ってた。
葬儀の直前に急遽、席が増設された。

あとで分かったが通夜、葬式で計600人余りの人が来た。
父さん、どこの著名人ですか?

父は教師だった、地域の文化活動にも力を注いでいた。
ジャズが好きで、演劇が好きで、絵を描くのも好きだった。
いろんな人を呼んだり(山下洋輔とか)東京の劇団を呼んだり、
個展を開いたり、何よりも人が好きだった。
だから、全国各地からたくさんの人が平日なのに父のためだけに来てくれた。


みんな父を大好きだったんだ。


アタシは一人娘で父の愛情を一身に受けて育ってきた。
父の愛情の純粋培養の中で育った。
どんなに期待に背いても父はアタシを可愛がった。
だから思春期とかにありがちな『父が嫌い』と思ったことは時は無い。
何時だって父と出かけた。飲みに行ったり、飲みに行ってるのを迎えに行ったりした。
他の人に羨ましそうにいいなあといわれて父は嬉しそうだった。
本当によかった、それが当たり前だった事が。
今はそれが辛いけど、最後まで仲良しな親子で本当によかった。


アタシは父を心から誇りに思う。







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2005年08月17日(水)


日記を書く時間はたくさんあるのに進まない。
毎回、泣きながらこれを書いてる。
生々しく思い出すたび心が張り裂けそうです。
でも、残しておきたいと思う痛み。
父の最期を記しておきたい一心で泣きながら書いてる。


目が覚めて下に行くとやっぱり夢じゃなかった。
横たわる父の顔に白い布がかけてある。

やめて、隠さないで!と涙が出た。

おはよう、お父さん。
布を取ると穏やかな父の顔があった。
あの、苦しそうな顔じゃない。

もう、お父さんはこの世界の美しいものを見てしまったの?

アタシ以外の家族はバタバタしていた。
仮通夜の準備、死亡広告、葬儀の段取り。
その速さにアタシは一人ついていけなかった。

死んだのは解っていた。
でも、認めてはいなかった。

父の顔は寝ているようで、今にも目を開けそうで
もう一度アタシの名を呼ぶような気さえしていた。

仮通夜が始まる。
親戚や親しい人が集まってきた。
お坊さんがお経を読んでいる間も涙は止まらなかった。

いったいどれだけの水分があるんだろう
泣いても泣いてもとめどなく溢れる涙
息をすることさえつらいほどに

夜、眠れなかった。
兄と母は寝てしまった。
アタシは父のそばに居たかった。
兄嫁の父と泣きながら父の事を話した。
飲んでもお酒の味さえわからない。

父の顔ばかり見ていた。
ドライアイスですっかり冷たくなった父。
癌のせいで黄疸になっていたから黄色っぽい肌の色。
でも、笑っていた。

ありがとうなんて言わないで。
もういいなんて顔しないで。

死ぬと思っていなかったから何も言わず死んでしまった父

だから今、その顔をするの?
誰よりも優しい、穏やかな顔で笑って。

何度も父の髪をなでた。
顔に触れた。



嫌だ、逝かないで。

まだ、何もしてあげてない。

治ったらやろうって言ってたことだって・・・。



けれど、父はもう何も言わずただ穏やかな笑い顔で眠ってる。
いくらアタシや母や兄が呼ぼうとももう、戻らない。

もう、二度とあの声を聴けないんだ。








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2005年08月12日(金) おかえり


父の無言の帰宅。

家で兄の嫁や子どもが目を真っ赤にしていた。
布団を敷き、父を運んだ。
包んでいたタオルケットをとると少し口が開いていて笑っているようだった。

鼻血が出ていた。
生きているんじゃないかとさえ思えた。

まだ、温かい。

父に死に装束を着せた。
昔はよく着物を着ていたのを思い出した。
兄もアタシも母も着せながら泣いた。

父は笑っていた。


お父さん、家に帰ってきたのが嬉しいの?
みんなそばにいるからね。
おかえり、おとうさん。




長男が葬儀の日取りを葬儀屋と相談していた。
次男がコンビニにいってご飯を買ってきた。
そういえば父が昏睡に入ってから何も食べてなかったんだ。


でも、さすが、おちょこ家だけになぜかビールも買ってある。
飲むか・・・。って兄ちゃん。
お父さん、って泣きながら献杯。
父の死を憂い全員で飲む(笑)
飲んだくれの貴方の子供と妻は最後の最後まで飲んだくれなんだなぁ。

今日は仮通夜だから少しでも眠ったほうがいいぞって事で
朝の4時半に眠る。
1時間ごとに飛び起きた。
父が呼んでる気がした。いつものくせだ。
ああ、もう呼ばないのに。

目が覚めると雨は上がり快晴。
抜けるような青空。

昨日のことが嘘のようだった。







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2005年08月10日(水) 家へ帰ろう


父の呼吸が、心臓が止まった。
延命処置はしないと決めていた。
医者が静かに時刻と死亡を確認した。

心電図のモニターは0
ドラマのようにピーっという音はせず
ただまっすぐな線と0の文字が画面映っていただけ。
研修医がパチリと電源を切った。


最愛の父が逝ってしまった。
なんてあっけないんだろう。
ただ泣く事しか出来なかった。
吐くように泣いた。


看護婦が父を拭いてくれた。
アタシも泣きながら拭いた。
穏やかな顔だった。寝ているようだった。
父は浴衣のような病院の服を着ていたのでパジャマに着替えさせるという。
父のお気に入りのパジャマ。
アタシが4月の誕生日にプレゼントしたものだった。

もう苦しくないんだ、もう痛くない。
そう思っても死んでほしくなかった。
死んだなんて思いたくなかった。

父の身体はまだ温かいのに。
もう、命が消えてしまったなんて。

病院の裏口から葬儀屋の車で父を家に連れ帰ることになった。
雨はまだ激しく降っていた。
看護婦、研修医、医者が並んで見送ってくれた。

車椅子でもいい、裏口でもいいから
生きて帰りたかったね、お父さん。
もう一度ただいまって生きて帰ってきてほしかったよ。


お父さん、家へ帰ろう。
はやくみんなで家へ帰ろう。


泣いても泣いても涙は止まらない。


雨なんていらない、
雷なんていらない、
もう、やめて。

この夜が、この嵐が父を奪っていった気がした。












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2005年08月07日(日)  死



父が死んだ。


雨と雷の夜だった。

何も言わなかった、
だって父も死ぬなんて思っていなかった。
あっという間だった。
入院した次の日に医者からあと10日の命と言われた。

そんな筈はと思っていた。

でも2日後、家族のことが解らなくなった。

いびきのような呼吸、閉じない瞼。

昨日はアタシの名前を呼んだのに。

何時、心臓が止まってもおかしくありません

医者が言った。

ソンナハズハ・・・。


地方にいる兄に電話した。
父さんがもう危ない。

兄は夕方に帰ってきた。
兄ちゃんが帰ってきたよって言ったら反応した。
ハッキリとおぉ!って言った。

アタシの事も母のこともわかった。
お父さん、わかる?って言ったら、うん。と言った。

それが最後。

後はいびきのような呼吸になった。

父の眼は何かを追いかけるようにギョロギョロと動いていた。
必死で息をしていた。

この世界の見納めるかのように。
何かを伝えるように。

7月31日、23時、心拍が乱れた。
必死で父を呼んだ。
父は応えた、アタシの声に、母の声に、兄の声に。
返事はしないけれど聞こえているんだ。

苦しいね、お父さん、
ありがとう、お父さん、こんなにも頑張ってくれて。
もういいって言ってあげたいけどどうか死なないで。

外は叩きつけるような雨、稲妻が絶え間無く光り続けている。

8月1日になった。
父の呼吸が静かになった。
心拍も落ち着いた。

朝まで持つかもと兄が言った。

30分後、父が大きな息をした。

パクッと音を立てて口が閉まった。






そして、もう開かなかった。





まるで、もう、止めた。と言うように。







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