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■ 九龍⑩
■カレーパン
階段の途中で先に気付いたのは葉佩の方だった。
「あれ、どこ行くの?」 「……見りゃわかんだろ」
だるそうにいつものアロマを咥えて、皆守は僅かに眉を上げる。のろりと階段を上る足は止めない。 葉佩の方は足を止めて、上ってくる皆守を待ち構えているようにもぼんやり見ているようにも見えた。 それ以上葉佩が何も言わず自分を見ているだけなので、皆守は興味なさそうに彼から視線を逸らして通り過ぎようとした。そう思って5段程彼より上に上ったとき。
「…じゃ、僕も行こうかな」 「………」
鼻歌でも歌いかねない声で、葉佩はくるりと向きを変えた。勿論皆守の方にだ。そのまま4段程上って、皆守のすぐ後ろにぴったりとくっついてくる。
「…さ、屋上屋上」 「……授業はいいのか?」 「たまにはね」
何が『たまには』なのだろうか。 最近の葉佩は知らず知らずのうちに皆守の後ろにくっついていることが多い。猫のような身のこなしを持つ転校生は、たまに音も立てず気配も消して、気付けば後ろで「やあ」と笑っているのだ。心臓に悪いからやめろと言っても、楽しそうな笑みを消すことなく「いやだ」と答えるので、いい加減皆守も最近は諦めることにしていた。
「甲ちゃん、午前の授業はあと2時間です。お昼まで屋上で寝てるつもり?」 「…当然」
皆守の短く完結な返事に、葉佩は大袈裟に首を竦める。 暫く屋上でだるそうに寝転がっていた皆守だったが、4限も終わろうという時間になって、腹の虫が気弱に鳴き始めた。「ぐう」と大きな音をたてた皆守の腹を、葉佩は体を起こして不思議なものを見るような
目でまじまじと凝視する。
「あー、腹へった…」
購買のカレーパンが食いたいな、と正直なところそう思った。思ったが、それは購買まで買いに行くのが面倒だとか、今日は財布に幾ら入ってたっけというのの延長線上でだ。 それらを丸々ひっくるめて「腹が減った」と口にしただけに過ぎない。 まさか、目の前の転校生が制服のポケットから、カレーパンを出すなんて思わなかったので。
「じゃあこれをあげよう」 「……何だこれは」 「カレーパン」 「じゃなくてだな…聞きたいのは、どうしてそれがお前のポケットから出てきたのかってことだ。俺は頼んでないぞ」 「頼まれてないからね」 「……」
皆守は頼んだ覚えはないといい、葉佩も頼まれた覚えはないという。簡単な論理だ。つまり導き出される答えは「葉佩自身が食べたかった」というものだが、昨日カレーを食べすぎた(と朝騒いでいた)葉佩が、わざわざ昼用にカレーパンを買うとは考えにくい。 ならば何故カレーパンなんかを持っているのだ、この男は。 その答えは、すぐ彼の口から語られることになったので、皆守は頭を抱えずに済んだ。
「やっぱりさ、たまには甲ちゃんたちにもお礼しないとって思って。クエストにも協力してもらってるし」 「……それは殊勝な心がけだな」
カレーパンを受け取りながら、それでも皆守は一瞬怪訝そうに眉を顰めた。
「でもお前、昨日のクエストの報奨金、確か20万越してたよな…?」 「………男が細かいこと言うと嫌われるよ」
返事の前にある間が大層気になる皆守だった。
「皆にも勿論買ったんだよ。ほら、全部カレーパン。甲ちゃんも好きなだけ食べていいから」
後ろ手に隠していた(と思われる。そんなもの持っているなんて気付かなかった)古風な風呂敷を広げると、更に30個ほどの包みが転がり出る。 カレーパン一個120円×30個として、しめて3,600円也。安い礼だ。
「まあ、気持ちはもらっておく」 「『は』っていうのはヒドくない? 誰かにお礼をあげるのなんて初めてなのにさ」 「…そうか、じゃあその心がけだけは褒めてやるよ」 「だから『だけ』って何…」
つれないなあと泣き真似をしている葉佩を無視して、皆守は重い腰を上げた。付き合うのも疲れるが、最近根気よく付き合っているなあと自分でも思う皆守だった。
「あれ、カレーパン食べないの」 「昼飯、マミーズ行くけどお前も来るか」 「……何で?」 「…昨日の今日で、お前カレーパンなんか食えないだろ。食うってんなら別だが」 「すごーい、僕がカレー食べ過ぎたってこと、何で知ってるの」 「朝っぱらからあれだけ騒いでればな…」
大袈裟に溜め息を吐いてやると、それでも葉佩は感動したようにこくこく頷いている。そして皆守の気が変わらないうちに…と思ったかどうかは分からないが、いそいそと風呂敷包みをまとめると同じように立ち上がった。
「安心しろ、それはちゃんと貰っておく」 「……甲ちゃんって、案外ちゃっかりしてるよね」 「人様からの礼は、ちゃんと受け取らないと失礼だろ?」 「御尤もで」
そう葉佩は、嬉しそうに笑った。 わざわざ皆守が好きなカレーパンを礼として買ってくるあたり、葉佩の皆守に対する印象(それは時に信頼とも言い換えることができるのかもしれない)は、プラスの方向なのかもしれない。
それは何だか嬉しいような奇妙なような、不思議な感情を皆守に齎した。
--------------------------------------------------------------- 本日も凶悪に眠いです。九龍の寝顔は凶悪だと思う。皆守は勿論ダントツでかわいいと思うけど、九龍も負けてないはず。
……だから何が言いたいんだと聞かれましても(汗)。
今日はカレーパンに愛を注いでしまいました。皆守に引かれました(笑)。携帯サイトの方は感情入力が4つしかないので、意外と困る…。かまちが登校していなかったので八千穂に話しかけてみましたが、「友」入力がしたい…どうして交流を深めるのに友がないんだよう…。仕方ないので「燃」を入れたら熱血だとか言われるし。まあいいんですがね。
何か九龍もつらつら書きっぱなし話がとうとう10に達成しましたよ…おおお…。毎日書いてるなんて信じられない。そろそろサイトを改装したいところです。パソ買い替える前にやろうと思ってたのに、全然やってる時間がなかった。いらないところとかリンクとかあるので、整理しなきゃと思ってたんですがね。この土日で触れたら触りたいなあ。 もうよろずサイトにしてもいい頃合だと思います(笑)。
そういえば年明けインテはまるマで出るのですが、もう2回目だというのにサイトに全くもってまるマコンテンツありませんね。それどころか全然関係ない本を作る気があるのかどうかもわからない(笑)九龍話ばっかり書いてるというのもどうなのか。まるマスペで九龍本置いてもしょうがないよなあ…騎士スペだったら同じゲームジャンルだしまだいいかもだけど(それにしても余りにも違いすぎる)。萌えの神様は今だけなんだろうか、九龍の萌え神様。どうなんですか(聞くな)。
バッテリー5を読みながらうとうとしてました。この土日で読んでしまいたい。あ、土日やることたくさん有りすぎだよ…珍しく仕事が入ってないのでちょっと気が楽です。新聞だけ日曜くらいにやりに行こうかな。面倒。
2004年12月03日(金)
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