-殻-

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2003年04月21日(月) 螺旋

巡り巡る日々は、
ぐるりと回ってまた元の場所へ。

いつか見た景色に辿り着く。
この風を知っている。

すぐに雨になりそうな、
重い、飽和した空気。
落日を見届けられない、
霞んだ山の稜線。

あの時感じた不安さえ、
鮮やかに刻まれている。
早まる鼓動がはっきり聞こえて、
頭の奥がぎしぎしと悲鳴を上げる。


なのに、

一体この景色を見たのがいつだったか、
全然思い出せない。

隣にいたのは君?
それともあのひと?

あるいは、誰もいなかったんだろうか。
僕は、誰かといたと思い込んでいるだけだろうか。

ひょっとして僕は、
ずっとずっとひとりだったんだろうか?


同じ景色だ。

もう、思い出せないくらい。

2003年04月03日(木) 続・あのことふたり

久しぶりに二人きりで会った。
僕は車なので、以前のようにぐいぐいと飲んだりはできないけど、
ノンアルコールのビールで、彼女のホットワインと乾杯した。

仕事の失敗でだいぶ参っている彼女は、
いつもは鬼のように厳しい先輩が今日くれたという、
励ましのメールをプリントアウトして持ってきていた。

「ねえ、読んでみてよ。すごい感動したー。」

まるで先生に褒められた小学生みたいに、
無邪気にそれを僕に見せて喜んでいる。

ほんのちょっとのアルコールが彼女の緊張をほぐしたみたいで、
疲れ切っていた表情がやわらかく緩んでいた。

彼女の愚痴も、少しずつ質が変わってきている。
幼い彼女も、いつの間にかちゃんと成長している。

でも僕と話すときはやっぱり子どもみたいにはしゃぐ。
「ねえちょっと、聞いて聞いて!」
とか言いながら僕の腕をぱんぱん叩き、
一気にまくしたてたりする。

でも突然静かになって、
浅くため息をついたかと思うと、
「がんばろーね」
と、ぼそっと呟いたりもする。


車で彼女の部屋の前まで送ると、彼女はとてもやさしい笑顔で、
「ありがとう。明日もがんばろーね」
などど言う。

そのちょっと照れくさい、でも真摯な言葉に触れると、
助けてあげたいと思わずにはいられないのだ。

「なんかあったら、いつでも呼んでよ。」
と、調子のいいことをつい言ってしまう。


あのこといると、昔のことを思い出す。
まだ若くて、小さな悩みをこの世の終わりのように抱え込んでいた、
もう忘れそうなくらい遠い自分を。
後先を考えずにあのひとに溺れられた、
不器用で無謀で愚かで、でも切なく愛すべき自分を。

その思いがあのこへの恋に変わることはない。
はっきりとわかっている。
ただ、どこかに置き忘れてきたあの頃の自分を、
満たされずに閉じ込めるしかなかった時間を、
許されるのならやりなおしたい。
そう思ってしまう。


僕は、あの頃に恋している。
彼女を通して、あの頃の憧れに、恋をしているのだ。





2003年04月02日(水) 逃げられない

心地良い依存と引き換えの息苦しさ。
僕は僕の存在を確かに感じながら、
同時にそこから逃れたくて足掻き続ける。

君の甘い声と仕草に、
繰り返す時間を思い知る。
同じところにいる。


僕は逃げ出して、ここに辿り着いたと思っていた。
でもそれはどうやら間違っていたみたいだ。
所詮、僕は僕でしかないのだ。




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