-殻-

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2002年11月19日(火) 息抜き

今日は退屈なデスクワークに丸一日費やしてしまった。
しかも4時間の残業というおまけつき。
当然、この不景気に残業代など付くわけもない。

しかし、ほんの少し前までは僕は学生で、残業代どころか給料だってろくにもらえもせずに毎晩日が変わるまで働いていたのだ。奨学金があっただけ、僕は恵まれている方だった。

一度慣れると、この程度の仕事で金が手に入るという世の中の仕組みに迎合してしまう。そして、役に立たない6割の人間に仲間入りしてしまう。

そうはなるまい、と思っていたはずだし、今でもそれではいけないとわかっている。だがしかし、いつもいつもやる気に満ち満ちてばかりもいられない。

やりたくもない仕事を片付けるとき、僕はとにかくコーヒーを飲みまくる。
飲み終われば次、空になればまた次、冷めれば一気に飲み干して次、と、一日でインスタントコーヒーが一ビン空になりそうな勢いだ。
最近はこれに紅茶も加わる。
トワイニングのLADY GRAYというやつがお気に入りだ。

そのせいか、妙に水分の代謝がよく、何度もトイレに立つ。
しかしこれが思いの外、いい刺激になる。

仕事に没頭してしまうと、全く席を立たなくなってしまう僕にとって、強制的な生理欲求は大事な息抜きになるのだ。
そして、小用にも関わらず個室に閉じこもり、こっそりと彼女にメールを打ったりする。


そのぐらいのことは許されてもいいではないか。

と、今日も僕は自分に言い訳をしつつ、コーヒーをがぶ飲みしてはトイレに立つ。


2002年11月14日(木) 君は時間さえも残してくれなかった。

僕等の時間が止まったのは、4年前の10月だった。
些細なことだったけど、君の警戒水位をついに越えてしまったんだ。

訳がわからないままに僕は飛行機に乗り、帰ってきた。
きっといつもの喧嘩みたいに、すぐ元通りになるさ。

ところが、だ。

どう取り繕っても君は聞く耳を持たなかった。
今思えば、きっと君はとっくに決断していたんだろう。
ただ、その結論に一歩踏み出すために、僕の一言が必要だっただけなんだ。

11月10日、君の誕生日に、僕は以前からの約束通りに、
壁掛けの時計を贈った。
君から電話があって、ちゃんと部屋に飾ってある、とだけ言った。

僕は、11月の末にもう一度君の街へ飛んだ。
君は、僕が贈ったアクセサリーを何一つ着けずに現れた。

帰りの飛行機の時間ぎりぎりまで、僕は話した。
君をつなぎとめたかった。

君は、僕を見送りもせずに、駅であっさり別れた。

僕はひとり空港に向かい、飛行機に乗った。

空港は雪とのアナウンス。
着いてみると、僕の街はすっかり白く染まっていた。
僕は真っ白い雪を踏みしめながら、冷え切った部屋のドアを開けた。

明かりをつけ、ふとベッドの脇に置いた目覚まし時計を見た。
それは、いつかの僕の誕生日に、朝が苦手な僕のために君がくれたもの。
時計は、電池が切れて止まっていた。

今朝は動いていた。今朝もこの時計で起きたのだから。

僕は、そっとその時計を手に取った。
時計の針は、午後4時を差していた。

それは、

さっき君が最後の言葉を発した時刻。



2002年11月10日(日) 埋没

「満たされよ」という声。

それは誰の声?


おそらく、僕自身だろう。




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