-殻-

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1999年05月15日(土) 春の日

久しぶりの土曜休み。

昨夜は遅くまで飲んでたから、朝はちょっとだけつらい。
それでもカーテンから外を覗くと、やけに青い空が見える。

外に出なくちゃ。

一年で一番素敵なこの季節を、逃す訳には行かない。
まだ少し肌寒い風が吹くけど、窓を思い切り開ける。

溜まった洗濯物を少しだけ片付けて、熱めのシャワーを浴びる。
春だからね。真っ白なシャツで出かけよう。

雪の下で冬を越した自転車が軋むのも気にしない。
追い風が勝手に、緩やかに穏やかに僕を進めてくれる。

ジャンクフードを仕入れて、キャンパスの芝生へ向かう。
少しだけ遠回り。高校生を追い越す。
時間が随分流れたことに気付く。

人もまばらなローン。
日当たりのいい場所がやっぱりいいな。

小さな子どもが小川で遊ぶ。
どこからか、桜の花びらがちらりほらり。
よく見ると、まだ生え立ての芝生の中には、ピンクの点がそこかしこに。
ジャンクフードにかじりつきながら、ちょっとだけ周りを気にする。

あ、また風。また桜。

ガイジンさんが彼女と弁当を食べながら、「オゥ!グレイト!」って叫んでる。
いいじゃないですか。

日当たりのいい木は新芽が萌えて、新緑に染まっている。
仰向けになって太陽を浴びる。

結構じりじりするなあ。
日は一番高い時刻。
一年で一番いい季節の、一番いい時間を捕まえたことに満足している。

よし。

で、こんなところでぼへーっとしてる間にも時間はちゃんと過ぎてるし。
訳がわからなくなって病院のベッドに10年も寝てるばあちゃんをふと思い出す。

なんなんだろ。
時間ってなんなんだろな。

こうして何事もなく、
日々の雑事に煩わされもせず、
寝転がっていても勝手に流れてる。
頼みもしないのに。

そして僕もいずれ老いてゆく。

でもきっと、ここに芝生はあって、アリがちょこちょこしてて、
こんな風にメシを食いながら日向ぼっこするやつもきっといる。
いつまで経っても。

ガイジンさんが歌ってる。
気分よさそうだ。

家族連れ。
老夫婦。
学生の群れ。

僕はあそこにいた。
いずれああなる。
そして老いてゆく。

その時、隣に誰かいるかな?
隣にいるのは、誰?

シラカバの木は、きれいに若葉で覆われている。


そんなことしてる間にも、実験室では濾過されるのを待ってるパラジウムが、
ドラフトで不毛にカクハンされている。
分子のこと考えながら、マクロな自然の中にいる。
僕には分子は見えないけど、木を見ることは確かにできる。
ここにいるときは、これが何でできてるかなんて考えたくもないし。
これはこれ。それはそれ。

時々訳もなく泣きたくなったり、
ちょっとしたことで涙が出そうになるよ。

淋しいのかな?
よくわかんないけど。
何か欲しいのかな?
それもよくわかんない。

傷付くことはだんだん恐くなる。
ひとりになるのも、恐くて恐くて。
そんなことばかり考えて、
自分のことばかり考えて、
君の事を考えるヒマがないよ。

そーか、そういうことかな。
そーいうニンゲンなのか。

パラジウムはうまくできたかな。
コンサートにも行かなくちゃ。
腕時計を取りに行かなくちゃ。
洗濯もまだ残ってるしね。
コドモはかわいいなあ。
ワカモノは元気だし。
そういや、あの頃は俺も、
何も考えてなかったしなあ。

愚痴は言いたくないけどさ。
バカとワガママがばれるから。
誰かと笑ってみたいな。
くだらないことで笑いたいなあ。
俺は違うんだ なんて、
下手な意地は張りたくないなあ。
もっとフツーでいいのに。

でもフツーはイヤだよね。
やっぱりオレでいたいね。
なりたいオレになりたい。
そのためのムリはしたいけど、
でもやっぱりメンドーくさい。
ぐるぐるぐるぐる同じところで、
もう何年も回ってる。

日が翳ってきた。
ちょっと寒い。
アイスコーヒーのせいかな?

女子高生の短いスカートも、
なんだかシゲキ的だけどどうでもいいや。

明るいうちに外に出て、それだけで休日はOK。

もう少し楽しくなるかな。
もう少し楽しくできるかな。
誰かいれば楽しいかな。
それとも疲れちゃうかな。
今だって楽だよな。
楽しくはないかもしれないけど、
これって結構楽だよな。

それでいいのかな。
疲れちゃうのはイヤだしね。
先行きもわからないし。
付いて来られてもつらいかもしれないし。
そんな甲斐性ないし。
カネもないし。

そんなもん?
そんなもんでいいのか?

そんなもんかな。
まあ、そんなもんか。
なるようになるのか?
もっと考えたほうがいいのかな。

年取った?
そんなことないと思うけど。

でも、疲れちゃうよね。





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