女の世紀を旅する
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2006年09月27日(水) 制裁拡大で北朝鮮が暴発するのは必至

制裁拡大で北朝鮮が暴発するのは必至


                    2006/09/27



人間の場合もそうだが,国家の場合も追い詰められると自暴自棄的な行為にでるものだ。北朝鮮の暴発は
早ければ年内にも起こりそうな気配である。国家体制の自壊を防ぐため,何らかの軍事行為に出る可能性が高い。

日本が北朝鮮に対する追加制裁を実施した。オーストラリアが続き、米も北朝鮮船舶の臨検などを含む大規模な制裁をまもなく打ち出すという。制裁によって、北朝鮮を6カ国協議に誘い出すことができるのか。それとも、追い詰め、暴発に追いやるか。岐路にさしかかったようだ。



●制裁拡大の動き止まらず



 日本政府は19日、国連安保理で可決した北朝鮮非難決議に基づく制裁として、スイスに本社があるコハス社や平壌の烽火病院など15団体と1個人の金融資産を事実上凍結した。オーストラリア政府も同日、12団体と1個人に対し、同様の制裁を実施した。これら団体と個人が北朝鮮の大量破壊兵器開発に関係しているという理由だ。米もすでに12団体と1個人に対する制裁を実施しており、日米豪3国が足並みを揃えた。今後、これら団体と個人が3国の金融機関を使って預金の引き出しや送金を行うことを禁止し、資産を事実上凍結する。

 日本はすでに7月5日、北朝鮮がミサイルを発射した直後、万景峰号の半年間の入港禁止、チャーター便の乗り入れ禁止、北朝鮮政府職員の入国禁止などの制裁をしており、今回はその追加措置。今後も北朝鮮が安保理決議に従わず、6カ国協議にも復帰しない場合、さらなる追加制裁を発動する予定。その対象として、万景峰号以外の北朝鮮船舶の入港禁止のほか、武器転用を疑われるハイテク製品の輸出をすべて許可制にして事実上禁止することなども検討している。

 一方、米も今後北朝鮮船舶に対する臨検などを含む追加制裁を検討中という。これに関連して、韓国の中央日報は、米国務省の関係者が9月18日、ワシントン駐在の韓国特派員団に対し、北朝鮮制裁を「94年の米朝枠組み合意以前の状態に戻す」と語ったと伝えた。米はクリントン政権時代、北朝鮮が核放棄を約束した94年の枠組み合意と、99年のミサイル発射凍結の約束のあと、経済制裁を段階的に解除。エネルギー支援や金融システムへのアクセス、船舶の寄港などを原則として認めた。ブッシュ政権はこれらをすべて取り消す計画というのだ。




●北朝鮮は追い詰められるか


 この日米などの動きに対し、北朝鮮は金正日体制の転覆をねらうものとの警戒心を隠さない。金永南最高人民会議常任委員長は9月16日、ハバナで開かれた非同盟諸国会議で演説し、「米は一方的な制裁で、状況を予測できない方向に追い込んでいる」と非難。さらに「われわれは核兵器を持つ必要はないが、今の状況では、抑止力として核兵器を持つ以外に選択肢はない」と主張した。また、北朝鮮の中央通信も16日、「米は、我が国の権威に泥を塗って、抹殺する積もりだ」と主張した。制裁が金正日体制を痛撃していることを認めたとも受け取れる主張である。

 北朝鮮が金融制裁に困惑していることは確かで、それを示す動きもある。米の金融制裁は昨年9月、マカオのバンコ・デルタ・アジア銀行から始まったが、その直後から北朝鮮は韓国と共同開発している開城工業団地内の韓国ウリ銀行支店に借名口座の開設を要求。同銀行は、借名口座は違法として断ったが、その後さまざまな手段を凝らし、これまでに4つの口座を開設したことがわかった。今のところ、これら口座がどう使われたのかはわかっていないが、北朝鮮が海外の口座を凍結され、苦肉の策として開城工業団地の銀行に目をつけたようだ。

 また、口座の凍結が外貨不足を起こしていることを示す情報もある。20日の中央日報は、北朝鮮が国際保険会社に対し、巨大事故4件の保険金を受け取るため事故の内容を詳しく報告したと伝えた。事故は昨年4月元山―興南間の旅客船の沈没事故、咸境道で起きた2件の列車事故、民間ヘリの墜落事故の4件。旅客船の沈没事故では、100人以上の乗客が死亡、保険金は数百万ドルと推定されている。北朝鮮は、イギリス、ロシアの保険会社調査員が事故現場に入るのを認めたが、このように巨大事故の詳細を西側に公開するのは初めてだという。





●戦争の危険を指摘する声も増える


 米のカーター元大統領は17日、CNNテレビで、米が圧力を加え続ければ、北朝鮮は「韓国を攻撃する可能性がある」との見解を表明した。同元大統領は94年の核危機の際、訪朝して金日成主席と会談、米朝衝突の危機を回避し、枠組み合意成立に道を開いた。この日のインタビューで、同元大統領は当時を回想し、「米が北朝鮮を追い詰めれば、金日成主席は韓国を攻撃すると確信していた」と述べ、さらに「今も北朝鮮はそうする可能性がある」と強調した。

 カーター元大統領はまた、この訪朝前、在韓米軍のラック司令官から「北朝鮮が攻撃に出た場合、一夜にして100万人以上の市民が命を落とす」と聞いたことも紹介、現在の状況も同じと強調した。韓国内にも、危機意識は広がっている。22日の中央日報の世論調査によれば、「北朝鮮は戦争を挑発する可能性が高い」との答が57%。去年より15%も増えた。また、統一についても、20年以内に実現するという答が32%で、去年より22%も減った。制裁強化で危機感が高まり、一時の楽観論が影を潜めたことは明らかだった。

 盧武鉉大統領は14日のブッシュ大統領との会談で、米が制裁強化の構えを見せているのに対し、「今は制裁強化を話す段階ではない」と真っ向から反対した。盧武鉉大統領はまた、前日ポールソン財務長官と会談した際、米がマカオのバンコ・デルタ・アジア銀行に対して行っている調査を早く終了するよう要求したという。調査を終了し、同銀行に対する制裁措置を解除しなければ、北朝鮮は6カ国協議に復帰しないという理由からだ。韓国内には、この盧武鉉大統領の姿勢を北朝鮮寄りとして批判する意見も強い。しかし、この同大統領の姿勢には、制裁で北朝鮮の暴発を招くことを懸念する世論が反映していることも間違いない。





●暴発か6カ国協議かの岐路


 韓国が制裁反対にまわった結果、6カ国協議は制裁反対の中ロ韓、推進の日米に分裂した。各国とも、北朝鮮の6カ国協議復帰を促すことでは一致しているが、それを達成する方法で意見が分かれた。一方、北朝鮮は制裁解除を6カ国協議復帰の条件としているが、米は北朝鮮が協議に復帰しても、金融制裁を解除するとは限らないと主張している。むしろ、金融制裁の予想以上の効果を見て、北朝鮮をさらに追い詰めかねない気配さえある。追い詰められた北朝鮮が、金融制裁下でも6カ国協議に復帰するか、それともカーター元大統領の予見するように暴発し、韓国を攻撃することになるのか、岐路にさしかかったようだ


2006年09月12日(火) 中東に暗雲:イラン核問題と制裁決議の行方

《 中東に暗雲:イラン核問題と制裁決議の行方 》


ブッシュ・ブレア両首脳がイラン傘下の武装勢力ヒズボラの武装解除などを求める国連決議案提出で合意。これとは別に、安保理はイランに対し、ウラン濃縮中止を求める制裁決議を可決する。狙いは、ヒズボラと核という2つの武器をイランからもぎ取ること。イランの出方によっては、危機は深まる。


※ イスラム・シーア派の武装組織ヒズボラに武器・資金を支援しているのは,シーア派のイランであり,今回のレバノンの戦闘は米・イランの代理戦争ともいえよう。イスラエルを支援する米国としては,最終的にイランに制裁を発動し,場合によっては戦争も辞さない覚悟である。そうなれば,石油価格が再び高騰し,世界経済に打撃を与えることになる。中東からの石油輸入大国・日本にとってイランの核問題と制裁決議の行方は,経済上の死活問題であるだけに,最大限の注意を払う必要がある。




●永続的な停戦にはヒズボラの武装解除が必要


 ブッシュ・ブレア両首脳は7月28日ホワイトハウスで会談したあと記者会見、レバノン危機解決のため国連安保理決議案を提案することを明らかにした。決議案の内容は明らかにしていないが、ワシントン・ポストは次のような主旨と伝えている。

1国際平和部隊をレバノン南部に派遣する。
2イスラエル軍と武装勢力ヒズボラの戦闘を中止、イスラエル軍は撤退する。
3ヒズボラを04年の国連決議1559に従って武装解除する。

 両首脳は記者会見で、決議案の内容を7月31日から安保理の各理事国に示し、可能なかぎり早く採択したいと述べた。また、ブッシュ大統領は、ライス国務長官を中東に派遣、イスラエルやレバノン各政府にも説明して支持を求める考えを示した。停戦と国際平和部隊の派遣については、EU諸国やアナン国連事務総長が戦闘の勃発直後から主張したが、ブッシュ大統領は、停戦は永続的なものでなければ意味がないとして反対してきた。

 この記者会見でも、ブッシュ大統領は「我々の目標は、永続的な平和の実現であり、一時的な停戦ではない」と述べて、性急な停戦に反対を表明した。そして、永続的な平和を実現するためには「ヒズボラを武装解除し、イランやシリアなど外国の介入を排除して、レバノン政府が全国土の治安維持にあたる力をつける必要がある」と主張。新たな安保理決議には、これらの項目を加え、国連憲章第7章に基づいて武力行使も可能な決議案にしたいとの考えを示した。





●イラン核問題でも制裁決議は必至


 レバノン危機で、イラン追求の動きが強まる一方で、米英など安保理常任理事国5カ国とドイツはイランの核開発問題でも安保理決議を求めることで合意。7月28日、フランスが各国を代表して決議案の原案を安保理各国に配布した。その主旨は、イランに対し、ウラン濃縮活動と再処理活動など、核関連活動をすべて中止することを要求するもので、早ければ、7月31日にも採択される。イランが8月31日までに従わない場合、国連憲章第7章に基づき経済制裁が科されることになる。

 イランの核開発問題では、米英など安保理常任理事国とドイツが6月初め、イランがウラン濃縮の中止をすれば、EUの軽水炉の提供や米の制裁の一部解除問題などで交渉を開始するとの提案をした。しかし、イランは8月22日に回答するとの立場を示しただけで、ウラン濃縮活動など一連の核活動をそのまま続け、米欧内に懸念が拡大。これを背景に、これまで制裁に反対していたロシアや中国も新決議案に同調する意向を見せ、採択は必至となった。

 これに対し、イラン政府専門家会議のハタミ議長は7月28日の全国向け放送で、「国連の力でイランの核活動を中止に追い込むことはできない」と主張、安保理が決議を採択しても拒否する考えを表明した。イランの核開発は、レバノンに布陣する武装組織ヒズボラとともにイランの対イスラエル戦略の柱であり、イランが中東の強硬派をリードする上でも不可欠の武器だ。ところが、今回のレバノン危機で、この2つをイランからもぎ取ろうとする動きがはからずも同時に表面化した。イランが今後どう出るかが、今後の中東情勢を左右することになりかねない。





●レバノンの戦闘は米・イランの代理戦争


 今回のレバノンの戦闘激化は、ヒズボラ側はまったく意図しないことだったというのが定説だ。APによれば、レバノン議会のキリスト教系政党のカーゼン議員も「ヒズボラが判断ミスをした」と語っている。戦闘の発端は7月12日、レバノン南部で、ヒズボラ部隊が国境を越えてイスラエル軍の歩哨所を攻撃、イスラエル兵2人を拉致したのがきかっけ。カーゼン議員によれば、拉致した兵士とイスラエルが拘束している政治犯の交換が目的だったという。ガザでは、6月25日、ハマスが同じ様にイスラエル兵1人を拉致、政治犯との交換を要求した。これを援護するねらいもあったようだ。

 ところが、これに対するイスラエルの反撃は予想外に激しいものだった。ヒズボラの拠点一掃を掲げ、イスラエル軍部隊がレバノン南部に攻め込むと同時に、空軍、海軍も連日攻撃を加え、ヒズボラの拠点と見られる一帯を徹底的に破壊した。ブッシュ政権もこれを容認、アナン国連事務総長の停戦提案も一蹴した。英紙ザ・タイムズなどによれば、同政権は開戦後、複数の大型チャーター輸送機に武器や爆弾を満載し、英国経由でイスラエルに送り込んだという。イランはヒズボラに武器と資金を提供しているが、米もそれに劣らすイスラエルに肩入れしたことになる。

 レバノンの戦闘が長引き、犠牲者が増えるに従って、停戦を求める国際世論が高まっている。しかし、ブッシュ政権はレバノンの戦闘もイランの核問題も国際テロ戦争の一環と位置づけ、強硬姿勢を崩さない。同政権が今後ヒズボラとイランを追い詰めれば、イランは再三予告しているように石油などを武器に反撃しかねない。そうなれば、日本にも大きな影響が出る。中東という油田の上での、この危険な駆け引きが、何時まで続くのか、終わることはありそうもない。





★《 米国はイラン制裁を発動するか 》2006年9月11日 


イランがウラン濃縮を続け、核兵器開発の疑惑を深めている。これに対し、米は9月中にも制裁を発動する構えで、関係国に働きかけている。中ロやEU内には、交渉を優先するべきだとの主張が強いが、イランが今後も濃縮を続ければ、米の強硬論が有利になる。レバノンの戦闘がようやく終わり、原油価格も落ち着いたと思った矢先、また暗雲がひろがる気配だ。



●現在は制裁慎重論が支配的


 ブッシュ大統領は9月6日中間選挙の応援演説で、イランの指導者を「暴君」、「テロ組織アル・カイダと同じように危険」と決め付け、彼らに核兵器を持たせてはならないと強調した。国連安保理がイランに対し「8月31日までにウラン濃縮の中止を要求、中止しない場合、制裁を検討する」と決議した。しかし、イランは従わず、濃縮を続けている。ブッシュ大統領の厳しい調子は、この国連決議に従って制裁に持ち込もうとする米の強硬姿勢の表明だった。

 だが、国連安保理は米の思惑どおりに必ずしも動かない。このブッシュ演説の翌日、安保理5カ国とドイツの代表がベルリンで会合。イラン制裁の検討を開始した。APによれば、この席上、米のバーンズ国務次官は「国連決議に従って、9月中に制裁を開始するべきだ」と主張した。しかし、中国とロシアは「性急すぎる」として、この提案には同調しなかった。また、英仏独3国はEUのソラナ外交代表がイランの核交渉責任者ラリジャニ最高安全保障委員会事務局長と会談する機会を探っているため、この結果を見守る姿勢を示した。

 こうした各国の動きと並行して、国連のアナン事務総長も2日発行のフランス紙ル・モンドとのインタビューで、「制裁がすべての問題の解決につながるとは思わない」と述べ、米の強硬論を牽制した。また、IAEA(国際原子力機関)のエルバラダイ事務局長も8月29日、外務省の金田副大臣との会談で「イランが濃縮活動を完全に停止することは内政的に困難」との見方を示した。そして、「NPT(核拡散防止条約)脱退や査察官の追放に至った北朝鮮のような事態の再来を招かないよう対応するべきだ」と述べ、制裁には慎重な姿勢を示した。





●イランの動き次第で強硬論にも出番


 慎重論の一方で、イランの非協力的な姿勢に不満を持つ国は多い。ドイツのメルケル首相は6日議会で、「イランが安保理決議を無視するのを黙って見てはいられない」と不満を表明。また、ロシアのラブロフ外相も6日、「制裁を支持することも考えている」とイランを牽制する発言をした。安保理常任理事国とドイツが6月、経済支援などを含めた包括的解決策を提案したのに対し、イランは満足な回答をしていない。ラリジャニ事務局長がソラナ代表と会談を約束しながら直前にキャンセルを重ねたなどの不満があるのだ。不満がさらに広まれば、米の強硬論の出番になる。

 米は11日にも、国連安保理で制裁決議案の作成に入るべきだと主張しているが、今のところ他の理事国の反応は鈍い。このため、米財務省はこうした安保理の動きとは別に、独自の制裁に向けて動き出した。同省のレビー次官が8日明らかにしたところによれば、財務省はイラン国営のサデラト銀行関連の業務を米金融システムから排除する措置を取った。イラン政府が同銀行を通じ、レバノンのヒズボラやパレスチナのハマスなどに活動資金を送ったという理由だ。米財務省は今後、イランの核開発やミサイル開発でも、関係銀行や企業にこうした措置を取るという。

 レビー次官は11日からヨーロッパを訪問、各国の金融機関に対しても、イランとの取引を停止するよう呼びかける。レビー次官は、昨年9月から北朝鮮に対して発動した金融制裁の責任者としてよく知られている。同次官がイラン制裁にも登場したことは、ブッシュ政権が同次官の対北朝鮮金融制裁を如何に高く評価しているかを示している。しかし、年間貿易額が数十億ドルの北朝鮮に較べ、イランは石油輸出大国。金融制裁によって如何なる影響が出るか、無関心ではいられない。





●国際世論は外交解決を期待


 ロシア原子力庁のキリエンコ長官は9月8日、ロシアがイランのブシェールに建設している原子力発電所が来年9月に完成すると発表した。イラン念願の原発1号基だ。当面、核燃料はロシアが供給、使用済み燃料棒は灰とともにロシアが引き取る。しかし、イランはこれに不満で、独自に核燃料を作ると主張し、その一歩としてウラン濃縮を続けている。自前の核燃料を使用する段階になれば、密かに一部を核兵器に転用する機会も増えることになり、米欧に焦燥感が増すのは間違いない。

 米の世論調査機関ドイツ・マーシャル基金が6日に発表した調査結果によれば、米欧の市民の大多数はイランの核問題は外交で解決するべきだと考えている。調査は6月6日から24日まで、米国とヨーロッパ12カ国の市民1,000人を対象に電話と聞き取り調査を実施した。その結果、外交で問題を解決するべきだという答は、ヨーロッパでは84%。米国では79%に上った。もし、外交で解決できなかった場合、どうするかという質問では、力を行使するべきだという答が、米国では45%。ヨーロッパでは37%だった。

 ブッシュ大統領は今後の方針として、外交解決を目指すが、軍事力の行使も選択肢の1つという立場を変えない。政権内では、空爆によってイランの核施設を破壊する計画を立案中などの情報も絶えない。しかし、軍事行動に出れば、イランは反撃し、石油ルートが混乱。世界経済は麻痺し、イランも大打撃を受けるだろう。経済制裁の動きが出るだけでも、原油価格が高騰しかねない。


2006年09月01日(金) 理想的な死に方 : 堺屋太一

理想の死に方:堺屋太一


堺屋太一(さかいやたいち)  昭和10年生まれ(71歳)

元官僚、作家、評論家、政治家、内閣特別顧問。早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、東京大学先端科学技術研究センター客員教授。財団法人2005年日本国際博覧会協会顧問。

大阪市生まれ。本名は池口 小太郎。大阪府立住吉高等学校を経て東京大学工学部入学後、経済学部へ転入し卒業。その後通商産業省入省。「堺屋」の由来は、先祖が大阪府堺市から谷町筋に移住し、屋号とした商店に由来する。

通産省時代に万博開催を提案、1970年の大阪万博で成功を収める。その後、沖縄開発庁に出向、沖縄海洋博も担当した。1978年に退官。退官した後も、イベント・プロデューサーとして数々の博覧会を手掛る。愛知万博でも最高顧問であったが、お祭り色の強い博覧会を考えた堺屋と長期的計画を望んだ地域の意図が合わず、2001年6月28日に辞任した。

近未来の社会を描いた小説『油断!』で小説家としてデビュー。他に有名な著作として小説『団塊の世代』がある。この作品より、1940年代後半のベビーブーム世代が「団塊の世代」と呼ばれるようになった。また、『峠の群像』『秀吉』は大河ドラマの原作となった。

東郷青児美術館大賞の受賞歴を持つ池口史子(ちかこ)は妻。「もう一人の愛する家族」はシーズーの“悟空”。趣味は女子プロレス観戦で、草創期からの熱心なファン、特に尾崎魔弓のファンとして有名である。

小渕恵三政権・森喜朗政権の時代に経済企画庁長官を務めた。インターネット博覧会(通称インパク)の発案者としても知られる。

2006年現在、日本経済新聞でチンギス・ハーンを描いた小説「世界を創った男 チンギス・ハン」を連載中






堺屋太一の「理想的な死に方」


●「面白い人生」といいたい 


 「おもしろい人生でした。喜劇もあった,悲劇もあった。スリルも,アクションも,スペクタクルもありました。ないのはメロドラマだけですよ」

エリサベート・マイジンガーさん(通称ベート)が楽しそうな笑顔でいった。1986年5月末,場所はドイツ,ハルツ山塊の西南麓の山村,時刻は午後8時近いが,「鉄のカーテン」の彼方に沈む太陽はまだ残照を放っていた。ベートさんの顔は痩せこけていたが,知的な美貌の昔を偲ぶことができた。腰掛けた椅子の背に吊るされたモルヒネ点滴の瓶が,彼女の死期が近いことを示していた。ベートさんは既に十年近くも脳腫瘍と戦い,自らも「私の寿命はせいぜいあと百日」といい切った。

ベートさんと知り合ったのは私が19歳の時,彼女は31歳だった。それから32年間,はじめの6年半はベートさんが日本にいたのでしばしば会えた。残りの25年間は手紙と電話と相互の旅行の度にお目にかかった。

ナチスの戦犯の娘だったベートさんは,様々な苦労をした。
「私の人生は苦労の百貨店みたいなものです。貧困,孤独,身内の死,周囲の憎悪,苛め,屈辱,何度もの失望。それに今の病苦。でも,これだけ経験できたのはおもしろかった。いい方も沢山あったから」

 ベートさんはいつも,自分の人生をおもしろく語ってくれた。
終戦直後は進駐軍のメイドをしながら砂糖とペニシリンの闇で稼いだ。朝鮮戦争(1950〜53年)では英豪軍に志願して軍医の資格を得た。私と知り合った頃には赤坂に土地を買って儲けた。ドイツに帰ってからは山村で病院を営みながら金相場やアフリカの油田取引で財をなした。そして最後には金融デリバティブで巨富を築いた。自分用のお金儲け金言集を作って教えてくれたが,実によく当たった。

 ベートさんの人生にメロドラマがなかったかどうかは分からないが,いつも自分を,もう一人の自分の目で眺め楽しんでいた。

「私の遺産管理する財団法人には,こういっておきます。私の死後1年以上2年以内に株を売って国債にしなさい。多分その頃が天井一歩手前です。もう一つ鉄のカーテンが消えて,ここも賑やかになるでしょう。東ヨーロッパの社会主義政権は,すでに文化的崩壊過程に入っています。この二つ,当たるかどうか楽しみです。」

ベートさんの予言は二つとも当たった。ただ,彼女の死は予言より二カ月ほど遅かった。


人間にとって,「理想的な死」などありえない。敢えていえば,「理想的な生の終わり方」だろうか。

人生は老いると共に「夢」は限られる。子供の頃には,限りない可能性があり,将来の夢を様々に描くことが出来た。私の場合も,プロボクサーから建築家まで考えた。ベートさんとはじめて出会った頃は受験浪人で,うまくいかなければ,材木屋をやろうと考えていた。それが大学を出て官僚になり,40歳で作家になった。子供の頃にも思いつかなかった職業である。

年とともに「夢」の範囲は縮まるが,それに併せて心配の幅も減る。子供の頃は試験の成績から両親の顔色までが心配だった。

過ぎし日を振り返ると自分の顔が見える。つまり自分を観る観客になれる。だから思い出は美しい。人は喜劇に笑い,悲劇に泣き,スリラーにどきどきし,アクションにハラハラする。だが,どれもおもしろい。

「死」を悲劇でなくするためには,自分の人生を徐々に客観的に眺める位置を創るべきだと思う。自分が自分の人生の観客だったら,「おもしろい人生だった」といえる。

 私のような,まだまだ夢も心配も多い未熟者が,「おもしろい人生だった」といえるまでには,あと何十年もかかることだろう。


カルメンチャキ |MAIL

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