女の世紀を旅する
DiaryINDEX|past|will
2006年01月30日(月) |
● 近未来の危機: アメリカ経済の衰退 |
● 近未来の危機:アメリカ経済の衰退で世界不況がもたらされる
国際派ジャーナリストのSakai Tanaka氏がアメリカ発の世界不況の可能性に言及しており,現実味がある内容なので以下に記載しておきたい。
日本の財政赤字もひどいが,アメリカの場合は財政赤字と貿易赤字の双子の巨額な赤字であり,しかも自動車などの産業の衰退も進んでおり,いずれアメリカ経済が破綻するときがくると,警鐘を鳴らしており,注目しておきたい。はたして,アメリカ発世界不況がおこるのか,興味がつきないリポートである。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
昨年12月27日、アメリカの債券市場で、関係者を騒がせる現象が起きた。この日と翌日、5年ぶりに、長期金利と短期金利の逆転が起きたのである。 世の中の先行きの不透明さを考えると、どこかに長期間お金を預けることは、短期間預けるよりもリスクが高いので、通常は、長期国債(10年ものなど)の金利は、短期国債(2年ものなど)の金利より高い。これが逆転して短期金利の方が高くなるのは異常である。12月27日、米国債の利回りは、10年ものが4・343%、2年ものは4・347%だった。
金利の逆転が騒がれるのは、不況の前兆であるという説があるからだ。 1996年にアメリカの連邦準備銀行(中央銀行)の経済専門家が書いた論文によると、第二次大戦後に起きたすべての不況は、発生から1年−1年半前に、金利の逆転現象が起きている。この論文では、金利が逆転すると金融機関が短期貸し付けをやりたがらなくなって貸し渋りが起き、経済が悪化するのではないかと考えられた。
この論文が書かれた後、2000年に金利逆転が起きたが、その後も、ITバブルが崩壊して株価が下落し、米経済が不況に陥っている。だがその一方で、1998年に起きた金利逆転は、不況の前兆とならなかった。この時は、東南アジアやロシアの金融危機の影響で、安全性が高い長期米国債に投資する人が増えた結果だとされた。
金融の国際化が加速したため、1996年に成り立っていた「金利逆転は不況の前兆だ」という定理はその後崩れた、という見方が専門家の間から出てきて、次の2000年の金利逆転は軽視された。
● 不動産市場を危険にする短期金利の上昇
昨年末に起きた金利逆転の原因の一つは、中国や日本といったアジア諸国など、アメリカに商品を輸出して経済を維持している国々の中央銀行が、長期の米国債を積極的に買っているため、長期金利が低下していることである。日本や中国は、輸出に有利なよう、自国通貨とドルの間の為替を一定にしておくため、ドルの外貨備蓄を増やしている。外貨準備の多くは現金ではなく、長期米国債の購入にあてられている。(債券は、買いたい人が多いほど低金利でも売れるので、債権の需要が多いと金利が下がる)
その意味では、昨年末の金利逆転は「金融の国際化」の結果であり、 1998年の逆転と似ており、前例に従うなら、発生しても軽視して良い現象であるといえる。連邦準備銀行のグリーンスパン議長は「逆転は、長期債が外国から買われて低金利になっている結果であり、米経済の好不況とは関係ない」という意味の発言をしている。
とはいえ「アジア諸国が長期米国債をさかんに買っているから長期金利が下がっている」という説明は、金利逆転現象の発生原因の半分にすぎない。残りの半分は、短期金利が上がっていることである。実はこちらの方が大問題で、金利が上がったことで、アメリカ経済の活況を支えている住宅市場のバブルが崩壊しそうになっており、このままバブルが崩壊すると、米経済は不況に陥る可能性が大きい。
アメリカの不動産市況は昨年6月に天井に達し、その後はしだいに住宅の売れ行きが悪化している。さる1月20日には、不動産価格の高騰が最も大きかった都市の一つであるニューヨークのブルームバーグ市長が「不動産市況は劇的に冷え込み始めている」と発言し、注目を集めた。
不動産市場は株式相場のように一晩で暴落するということはなく、売れ行きが悪くなり、やがて価格が下がるという、時間のかかる低下プロセスをとる。不動産市況の悪化の速さを考えると、このまま進むと「金利逆転から1年〜1年半後に不況に陥る」という、時代遅れになったはずの定理どおりの展開になる可能性がある。
● 日本の不動産バブルと似た感じ
住宅価格の高騰は、アメリカの東西の海岸部の人口密集地域で起きており、2000年からの5年間に、ニューヨークでは77%、マイアミでは96%、サンディエゴでは118%値上がりした。半面、平原地帯で土地に余裕がある大陸中央部のヒューストンでは26%、アトランタでは29%しか値上がりしていない。不動産バブルが崩壊するかどうかは、ニューヨーク、マイアミ、ニューヨークといった高騰地域の価格動向にかかっている。
これらの高騰地域では、平均的な住宅が、すでに人々の年収で買えない金額まで上がってしまった。カリフォルニア州の不動産協会が1月中旬に発表したところによると、同州では平均的な住宅を無理なく買える年収を持つ人の割合が、一昨年には人口の19%いたのに対し、今は値上がりの結果14%の人々しか買えなくなっている。(現在の平均的な住宅価格は54万8000ドル【約6200万円】で、これを無理なく買うために必要な年収は13万3000ドル【約1500万円】)
ニューヨークでも、少し前まで60万ドルだった家が80万−90万ドルに値上がりし、一般の人々の手に届かなくなった。建設資材も高騰し、 1立法ヤードのコンクリートの価格は04年の50ドルから、最近では75ドルに上がり、ニューヨークやマイアミでは、資材高騰のためマンションの建設計画を中止する業者が出てきた。
日本の大都市では1980年代後半に住宅価格が高騰し、東京では一般的なサラリーマンが2時間の通勤を覚悟しても家を買えないほどの高値まで上がったところで、バブルが崩壊して住宅価格が下がった。アメリカの沿岸大都市の住宅高騰は、完全にバブルの状態であり、いずれ崩壊する運命にある。
住宅価格が上がっても賃貸料は追いつかない現象も顕著で、サンディエゴでは、家を借りる人は買う人の4割のコストですむのに、それでも家を買おうとする人々が多く、昨年まで、即日完売の新築住宅が多かった。多くの人々が「まだまだ値上がりするから、高くても今のうちに買った方が良い」と考えている。これは、明らかに崩壊直前のバブルである。
● アメリカの不況は世界の不況
住宅価格が下落していくと、金融機関がローンを返せなくなった人から担保の住宅を取り上げて競売にかけても、貸した金の何割かしか取り戻すことができなくなり、金融機関も不良債権を抱え、相次いで破綻する懸念がある。
ここ数年の米経済の景気回復は、不動産の価格が上がることで、その信用力をテコに人々は金を借りて消費し、それが米経済を成長させてきた。日本や中国が作った商品がアメリカで良く売れたのも、不動産が牽引するアメリカの消費拡大があったからである。
アメリカの不動産市況が崩壊すると、アメリカの消費全体が冷え込み、もう日本や中国など世界からの輸出品を気前良く買ってくれる市場ではなくなる。アメリカが不況に陥ると、アメリカに輸出することで経済成長を遂げていた日本や中国など、世界経済の全体が悪化することになる。ニューヨークやマイアミでマンションが売れなくなることは、世界不況の引き金を引きかねない。
90年代の日本の不動産バブル崩壊と、今起きかけているアメリカの不動産バブル崩壊の重大さの違いは、世界への波及である。日本のバブル崩壊は、日本人を困らせただけだが、アメリカのバブル崩壊は、世界中の人々を困らせる。
アメリカでは、不動産の前には株式市場が好調で、1990年代には、人々は株を売買した儲けで消費を拡大していた。それを考えると、不動産の後に、何か別の新しい信用創造メカニズム(与信枠を拡大する仕掛け)が発案され、まだ米国民が消費できる状況が続くかもしれない。しかし、そのメカニズムはまだ見えていない。
米国民はすでに、5年間で住宅ローンの借り入れを80%増やし、クレジットカードの借り入れも60%増えた(この間に給料は34%しか増えていない)。クレジットカードの返済が滞っている人の割合は5%近く、史上最悪となっている。もはやアメリカは、国民も政府も消費しすぎて借金漬けである。今後、新しい信用創造メカニズムが発案されたとしても、延命できるのはあと何年かであり、いずれ消費できなくなる。
● ドル安でも米製造業は復活しない
アメリカで消費の勢いが減退し、日本や中国がアメリカに輸出できなくなると、日中の中央銀行が為替を維持するために米国債を買いまくる必要もなくなる。国債を買ってもらえなくなると、アメリカの長期金利が上がり、この要素も米経済の足を引っ張る。輸出国がドルを保有しなくなると、ドルの為替も下落する。
ドルが安くなると、アメリカの製造業が輸出を復活し、米経済は再生するという見方もあるが、これは間違いである。確かに、円とマルクを政治的に上げてドル安にした1985年のプラザ合意以後は、まだアメリカの製造業が強かったので、米経済は復活した。当時、たとえば自動車産業3社の中では、クライスラーは潰れかけていたが、他の2社は健全だった。ところが今は、GMとフォードという残りの2社も、潰れかけている。
アメリカが誇っていた軍事や原子力でさえ、ボーイングは不振だし、ウェスティングハウスは東芝に買収されようとしている。ITの情報産業も、発祥地のアメリカから、プログラマを安く雇えるインドや東欧など世界中に移転している。もはやアメリカの製造業は全体として壊滅状態で、今後復活できたとしても非常に長い時間がかかる。為替がドル安になっても、アメリカは世界に売れる製品を作れなくなっているので、輸出はあまり増えそうもない。
欧米の新聞やネット上の分析記事を詳細に読んでいくと「アメリカ発の世界大不況が起きる」という予測にときどき出くわす。その頻度は、イラク侵攻が取り沙汰されるようになった2002年夏ごろから増えたように感じる。これらの予測は従来、誇張された見方だとみなされることが多かった。
たしかに、ブッシュを嫌うようになった投機家のジョージ・ソロスは、04年初めには「米経済は今年は好調だが、来年には破綻する」と予測していたが、米経済は05年も破綻しなかった。ソロスは最近また「今年は良いが、来年は破綻する」と同じパターンの予測を繰り返している。
このような予測の繰り返しは「オオカミ少年」的であり、人々の信頼を損ねる。しかし、現実の米経済が、政府と国民の借金が消費に回って延命しているだけだと分かれば「もう長続きはしない」と考えざるを得ず、毎年「今は良いが、来年は危ない」という予測が出される背景が理解できる。
● 住宅バブルを煽り,景気を回復させたグリーンスパンの退任
アメリカ経済は、住宅バブルという延命策で持続しているわけだが、住宅バブルの拡大は、金融当局が煽った部分がある。
金利連動型や利払い先行型ローンの急拡大についてはすでに説明したが、バブルの発生を防ぐのが任務である中央銀行総裁のグリーンスパン連銀議長は04年に、これらのローンに関して「住宅購入者にとって、ローンの選択の幅が広がることは良いことだ」とコメントし、バブルの拡大を煽っている。グリーンスパンはその後、多くの専門家が住宅バブルへの懸念を表明するようになった05年8月になって、ようやく曖昧な言い回しで住宅バブルの危険性を指摘し始めた。
経済学者のポール・クルーグマンMIT教授によると、連銀のグリーンスパン議長は、2001年には、危険な財政赤字拡大につながると知りながら、ブッシュ政権が打ち出した大減税を支持しており、巨大な赤字が専門家から批判されるようになった後に、ようやく大赤字の危険性について曖昧に語り始めるという経緯をとっている。
財政赤字の拡大は、911後のテロ対策で政府の出費が急増したためと説明されているが、全米各地の州や市町村が使ったテロ対策予算の中には、テロ対策とはほとんど関係ない設備の購入やイベント開催などが大量に含まれており、テロが起きそうもない地方の小さな町で巨額の予算が使われていたりする。テロ対策とは名ばかりの予算のばらまきになっており、この公的支出の増加が全米の経済を底上げしてきた観がある。
つまり、グリーンスパンは、政府がテロ対策の名目で政府支出を急増することを容認し、住宅バブルの拡大を扇動することで、アメリカ経済が何とか成長し続けられるようにした。これらの延命策の結果、今やアメリカでは、政府も国民も借金漬けだ。もう万策尽きてきた観があるが、グリーンスパンは2006年1月いっぱいで連銀議長の任期を終え、引退する。
歴史を振り返ると、1987年にグリーンスパンが連銀議長に就任した2カ月後、株価の大暴落(ブラックマンデー)が起きている。前任者のポール・ボルカーは、自分の任期が終わるまでは何とか株価を持たせ、つけを自分の任期後に回した可能性がある。グリーンスパンは、前任者の残した負の遺産を処理し、その後再び株価は上昇したが、彼自身が引退する今、再びつけを後任者に回すことが繰り返されているのではないかという疑いがある。 アメリカではかなり前から、中産階級が少しずつ没落して貧困層になっていく傾向が続いており、ここ数年、その動きが顕著になっている。
第二次大戦後のアメリカ経済の成長を、第一次石油ショックが起きた1973年を境に前後に分けると、1945年から73年までの平均成長が4・0%だったのに対し、73年から2002年までの平均成長は2・7%である。アメリカは70年代に経済が成熟し、成長が鈍化したことが分かるが、これを人々の所得の面から見ていくと、さらに興味深いことが分かる。
アメリカの全国民を所得順に並べた場合、そのちょうど真ん中に来る人の年収は、1945年から73年までを平均すると年率3・1%増えていたが、73年から2002年までの平均は、年率0・2%しか伸びていない(インフレ分を補正した統計)。
● ハイテク技術だけ維持するのは無理
1980年代以来、米政府は市場原理を重視する自由貿易の経済政策をとり続け、世界からより良い商品が安く輸入されたため、人々の収入が増えなくても、生活の豊かさは改善される傾向があった。だが同時に、アメリカでは市場原理が重視されて国内の産業があまり保護されなかったため、米企業、特に製造業は国際競争にさらされ、人件費の安いアジアなどの企業に勝てず、いくつもの業種が衰退した。生き残った企業も、国際競争に勝つためには人件費を増やせず、その結果、一般的なアメリカ人の収入が伸びないことになった。
1960年代まで、大手米企業、中でも製造業の社員の生活は、世界一豊かなものだった。「アメリカの豊かさ」を象徴するイメージとして、今でも 1950−60年代のレトロな商品が喚起されるのは、その時代が米国民にとって最良の時代だったからだろう。当時のアメリカは、国内で消費する商品の96%を自国内で作っていた。
ところが今や、アメリカは商品の多くを輸入に頼っている。繊維製品の 3分の2は輸入品だし、アメリカの製造業はテレビも冷蔵庫も自国では作っておらず、日本や韓国などのメーカーに頼っている。自動車産業も、ここ数年の原油高騰でガソリンの値上がりが続き、人々は燃費の良い自動車を求めているのに、GMとフォードは効率の良いエンジンを開発してこなかったため、売り上げを日本車や韓国車に奪われ、倒産寸前である。
米製造業の状況について「アメリカはハイテク技術の部分だけを国内でやり、他の重要でない部分はアジア諸国に任せたのだ」と考えられないこともないが、多分それは違う。製造業の技術の多くは、製造現場での試行錯誤の中で磨かれていくものであり、アメリカに工場を持たないで、アメリカの技術を高度化していくことはできない。工業用ロボットや半導体製造装置など、製造業関係のハイテク技術の多くは日本が持っており、アメリカが持っている産業技術は防衛や薬品などごく一部の分野に限られている。
アメリカの雇用全体に占める製造業の割合は、60年代には30%以上だっ たが、最近では10%以下で、2000年からの5年間で18%も雇用が縮小した。アメリカの製造業はまさに死滅しつつあり、それは貿易赤字の増加につながっている。アメリカの貿易赤字の大半は、工業製品の輸入によって生み出されており、製造業が衰退しているので貿易赤字はドル安になっても減っていない。
● 「経済のサービス化」は言い訳
製造業は生産設備を持たねばならないので、サービス産業に比べて投資効率が悪い。アメリカでは80年代から「製造業はもう古い。経済をサービス業中心に転換すべきだ」というかけ声が強まり、金融業などが伸びた。アメリカの製造業の衰退は、経済が進化してサービス業中心になった証拠であるから悪いことではない、という考えもできそうだが、多分これも違う。日本を見ると、この20年ほどサービス業が伸びたが、製造業も衰退していない。アメリカで一時喧伝された「経済のサービス化」は、実は自国の製造業を保護しないための言い訳として発せられた観がある。
日本の消費者が買う家電品、自動車などの商品の多くは日本企業の製品であり、日本政府はいろいろな非関税障壁を設けて国内製造業を保護している。独仏や韓国なども、同様の傾向を持っているが、国民の雇用を守るため、各国の政府が国内市場で自国のメーカーの利益を保護したがるのは当然である。
むしろ、アメリカが戦後一貫して国内製造業を保護せず、国内消費市場を外国企業に気前良く開放し続けてきたことの方が「自滅的」であり、奇妙である。アメリカは、気前の良い市場開放の結果、現在の製造業の全滅と貿易赤字の増大を招いているからである。
アメリカの気前の良い市場開放の恩恵を最も受けた国の一つは日本である。ソニーのトランジスタラジオから始まって、パナソニックのテレビ、トヨタの自動車など、アメリカ市場がなかったら、戦後の日本の発展はなかった。西ドイツ企業も、フォルクスワーゲンなどの対米輸出で儲けたし、80年代以降は韓国、台湾、東南アジア諸国、中国などが、この恩恵を受けて経済発展している。アメリカの市場開放の気前良さがなかったら、戦後の世界経済の発展はなかったと言っても過言ではない。アメリカは、トヨタや現代を儲けさせ、その結果、GMやフォードが潰れかけている。
アメリカのすごいところは、この気前の良い市場開放の犠牲になったのが米国内製造業だけではなく、国内製造業が衰退した後、国民と政府に借金をさせてまで消費させ、海外から商品を買い続けている点である。住宅バブルによる消費熱のツケが、米国民に借金増としてのしかかってきているし、ブッシュ政権になってからの政府の借金(財政赤字)の急増も、国内消費の下支えのために使われている。アメリカは30年かけて、製造業を失った上に借金漬けになり、破綻しかけている。
2006年01月22日(日) |
ライブドアショックで株式市場大暴落 |
ライブドアショックで東証大暴落
2006年1月22日
以下の記事は,カブドットコムの「山田の直言」から引用 2006年1月20日(金)
●【今回の下げ相場について山田の見解】
〈 山田の直言〉 結論から申し上げますと、今週の急落相場はライブドアショックをキッカケとした信用需給の一時瓦解によるものに過ぎず、早晩株式相場は落ち着きを取り戻すと考えています。
★(1)「ライブドアショック」とは 1/16夕方に伝わった「ライブドア本社家宅捜索」、1/18新聞各紙の「ライブドア本体でも粉飾決算の疑い」 の与えたショックは甚大だった。
◎世間的には 一昨年のプロ野球参入表明、昨年のニッポン放送株争奪以降、その絶大なるプレゼンスから名うての「急成長の新興企業」「ニッポンを変えるヒルズ族の旗手」と見られていた。堀江社長はいわば経済界のトップアイドルとしてTV出演やホリエ本発刊などでも活躍。今、最も一挙手一投足が注目される一人だった。昨年には抵抗勢力への刺客として衆院議員に立候補まで。 株主総会などは個人投資家が何千人も詰めかけ熱烈な支持を得る、いわばカリスマ起業家だった。
◎ライブドア株について ライブドア(4753)株はそれまで時価総額7000億円見当の東証マザーズのトップ企業だった。株式分割を繰り返し時価総額極大化を志向、積極的なM&A路線を邁進。低株価で1株単位で売買できるため「ワンコイン(500円玉)投資」が可能、「最も敷居の低いフレンドリーな株」として、ここ数年来の経験の浅いネットの個人投資家に絶大なる支持を得ていた超人気株。時価総額の大きさからプロの機関投資家でも無視できず、小型株ファンドやIT関連ファンドなどを中心にポートフォリオに組み入れられていた。全市場横断型のインデックスである日経JAPAN1000(日本経済新聞社算出)にも組み入れ。 複数の証券会社からレーティングや目標株価なども出されていたこともあった。
〈山田の直言〉 粉飾等が本当なら「みんなが騙されていた」ことになる=「市場の失敗」の典型例なのでは。
★(2)なぜ、全般相場は大幅安したのか ・ そもそも8月以降の上げ相場、高値警戒感が高まっていた ・ 信用買い残も5兆7662億円(1/13現在)と91年6/14の5兆8465億円以来の高水準にまで積み上がっていた ・ 昨年12月以来の小型株フィーバーは限界が近かった(ジャスダック平均はそれまで18連騰していた)
1/17の日経平均462円安 ・ 前日夕方からの家宅捜索で、ライブドア株には 2.5億株の売りが殺到、新興3市場は利益確定売りから全面安 。「ライブドアショック」の影響は前場は新興3市場に限られていたが、後場ツイラク。 ・ マネックス証券の「ライブドア株など代用掛け目ゼロ評価」、更に他のネット証券各社も追随か?の噂が広がった。 ヒューザーと後継総裁候補筆頭と目される安倍晋三氏との関係が取り沙汰された。 日経225先物の遅延、高水準に積み上がっていた裁定残の解消売りも。 1/18の日経平均464円安 ・ ライブドア株は「粉飾の疑い」で前場売買停止(後場再開)。 粉飾となれば上場廃止基準に抵触の恐れ、小型株ファンドが最悪に備えて新興3市場主力株に換金売りを急いだ。 ※全市場のS安は679銘柄と異常事態。 米ヤフー・インテルの決算は市場予想を下回り、夜間取引で大幅安。翌日のNY株安は必至の観測。 後場、東証「約定許容量を超えたら売買停止」アナウンス、売り急ぎに輪を掛けた(ザラバは746円安まで) ※この日、東証は14:40売買停止 1/19は売り一巡から反発へ 真空地帯を下げた反動高。日経平均は3日続落で1113円安、値幅も十分出した後だけにリバウンドへ。
〈山田の直言〉 悪材料が一気に噴出、「秘孔を突いた」かのように一時的に需給が瓦解しただけ
★(3)今後の見通し 信用需給に関しては一応リセットされたと見る(過剰だった分は解消されたか)。信用買い残5兆7662円は規模としては大きいが、東証1部売買代金3兆円ペースなら実はわずかに2日分、実は今回の急落も過剰な仮需(信用買い)の「ふるい落とし」の範疇、現物株ホルダーや懐の深い投資家なら耐えられる範囲 。 客観的に見て、ライブドアショックは実体経済へのダメージ自体はほとんどない。
結果として、全体市場の過剰な上げスピードは減速されたし、ややミニバブル気味にアクセルのかかってしまった小型株フィーバーもやり直しの過程に入りそう。この先は、一気の上値追いよりはもみあい底固めを経ながらのジリ高か。
丁度、決算発表時期だけに、一つ一つ吟味して行くのがサステイナブル(持続可能)で好ましい。個人的には、「市場の失敗」の反省や「システムリスク」警戒と共に、落ち着いた展開となろう。
秋以来、比較的簡単な(儲けやすい)相場で、株式投資というもの安易に考え過ぎてた個人投資家の方は、今回の急落を経て、より一層「株式投資」について考え、学んで、よりタフな投資家を目指していただければと思います。
但し、ライブドアショックで明らかになったのは「市場の失敗」、ここの克服が中長期的な株高には不可欠 。
〈相次ぐ失敗の挽回が緊急の課題〉 11月1日東証システムダウン 売買インフラは十分か?「いつでも」の流動性の確保が至上命題。 12月8日みずほ証券誤発注 取次業者の力量は十分か?不測の事態に陥った時の対応は? 1月17日ライブドアショック 1月18日東証全銘柄売買停止 。再びインフラ問題。大証の日経225先物も遅延が常態化
〈山田の直言〉 ライブドアショック=「市場の失敗」 ライブドア株の保有者の方と怒りや悔しさを共有します。 時価総額7000億円が溶けていく異常事態=正しく評価出来なかった市場の失敗
・ 粉飾決算なら監査は何をしていたの? ・ 偽計取引や自社株売買が「100億儲ける仕事術」であったなら、そんなイ カサマ経営がありえたのか? ・ マザーズ看板銘柄への東証の責任は? ・ レーティングや目標株価を付与した証券会社アナリストは何を分析したの か? ・ 株を組み入れた大手投資信託のファンドマネジャーは? ・ 投資家はちゃんと評価出来なかったのか? ・ 「ホリエモン」をヒーローとして持ち上げたメディアの責任は? ・ 箔を付けた格好のこの国のトップ政治家の責任は?
→ほぼ世の中,丸ごと騙されていた。耐震強度偽装事件以上の大がかりな「総無責任体制」が露呈したということ。 総無責任体質がアンタッチャブルなまでのモンスターを生んでしまった。
【ホリエモンの錬金術】
● 実は,ライブドアのインチキさは昨年春から盛んに警鐘が鳴らされていた。以下の記事は,粉飾決算を昨年春にズバリ指摘していた山根治のサイトの「ホリエモンの錬金術」から。こうした山師をヒーローとして持ち上げたテレビなどマスコミにも重大な責任があるだろう。そのおかげで,多くの個人投資家が被害をこうむることになったのだから。
※山根会計事務所 所長 ※税理士法人川村・匹野会計事務所 松江事務所 常任顧問
【ホリエモンの錬金術】 2005年03月15日
ホリエモンこと、ライブドアの堀江貴文さんは、このところフジ・サンケイグループの買収を仕掛けたことからマスコミの注目を浴び、連日連夜、各メディアから引っ張りだこの状態で、何とも賑やかなことになってきました。 堀江さんは、ベンチャー企業の雄であり、若くして巨万の富を手に入れた立派な成功者とされているようです。しかも昨年の球団買収騒ぎのときと同様に、今回も巨大な旧体制に敢然と立ち向かっていく新しい時代のヒーローとして一部でもてはやされています。 果して本当なのでしょうか。 実は昨年、堀江さんが近鉄バッファローズの買収に名乗りをあげたときに、堀江さんがオーナー的な存在として支配しているライブドアという会社は一体何者だろうと興味をいだき、少し調べてみたことがあります。 買収について競合していた楽天と比較してみたのですが、途中でバカらしくなって、調査を中断した経緯があります。 これといった会社の実態が見えてこないのです。プロ野球の球団を買収しようというほどの会社なら、会社の本体がしっかりしていてそれなりの収益がなければいけないのですが、ライブドアの決算書をのぞいてみたところ、余りのオソマツさに呆(あき)れてしまい、会社の分析を途中でやめてしまいました。 そのライブドアが、今度はあろうことか800億円もの資金を用意してフジ・サンケイグループという巨大なメディアを支配下に入れようというのですから、これは又、一体どういうことだろうと気を取り直し、中断していたライブドアの分析を気合いを入れてやってみることにしました。 早速、ライブドアが証取法に従って、平成16年12月27日関東財務局長に提出した、第9期有価証券報告書(表示を含めて133枚。以下、有報といいます)をライブドアのホームページから引っ張り出して印刷し、分析開始。 同時に、一期前の第8期の有報も印刷して手許に。 その結果判ったことは、公表されている決算書ではもっともらしく利益が出たように繕ってはありますが、実際の業績は極めて悪く、いわば自転車操業に陥っているのではないか、ということでした。 私はライブドアの帳簿とか証憑などをチェックしたわけでなく、また堀江さん本人に直接問い質したわけでもありませんので、現時点では粉飾決算とまでは断定することはできません。 しかし、会社が公表している第8期と第9期の有報を私なりの方法で分析した限りでは、粉飾の疑いが極めて濃厚であると言えるようです。 これについては、その分析のプロセスと結果とを後ほど改めて公表いたします。 その前に、堀江さんが何故巨万の富を手にすることができたのか、ホリエモンとは何者なのか、彼が信奉するお金に焦点をあてて吟味してみることにします。 億万長者ホリエモンの資金のルーツ、辿ってみると驚くべきことが判ってきたのです。こんなことがなされていたのかと我ながらビックリしてしまいました。 株式市場の盲点を巧みにくぐり抜けていく手法は、今回問題となっているニッポン放送株の時間外取引と同工異曲のもので、奇策、あるいはトリックともマジックともいうべき奇怪なものでした。詐術といってもいいかもしれません。 以下、ホリエモンのいわば錬金術師としての実像を明らかにし、マネーゲームの実態を浮き彫りにしてみようと思います。 それにしても現在進行中の仁義なき戦いは、フジ・サンケイグループを昼寝をしているライオンとすれば、ホリエモンはさしずめ、あまり可愛げのないネコといったところでしょうか。なにせライオンに立ち向かっているこのネコ、どこかからチョロまかしてきたバズーカ砲を脇に抱えているんですから。
テレビに顔を出してはコメントしている大学教授、証券マン、証券アナリスト等、この人達は株とか企業の実態を本当にご存知なのでしょうか。疑問ですね。 マスコミのこのから騒ぎについてのとらえ方もピントが外れているようです。 たとえば、旧体制と新興勢力とのせめぎ合いととらえている向きもありますが、なに、日本の超優良企業グループ(フジ・サンケイグループ)に対して、ホリエモン率いるインチキ虚業集団(ライブドアとその関連企業)が、ハゲタカ・ファンド(リーマンブラザーズ)の手先となって、仁義なきケンカを仕掛け、一般投資家とフジ・サンケイグループを食い物にしようとしているだけのことです。 フジ・サンケイグループ側の対応もあまり芸がありませんね。ホリエモンも、リーマンブラザーズも、単なるゴマのハエなのですから、ハエたたきでも用意すれば十分でしょう。 ホリエモンは、口を開けばなんだかの一つ覚えのように、企業価値、企業価値と繰り返しています。オウムじゃあるまいし。 ホリエモンは、会社経営の基本は企業価値を高めることだ、というのですが、これについては全く異論はありません。ご説ごもっともです。 ところが彼の言っている企業価値とは、いったいなんでしょうか。どうやら株式時価総額と言われているものらしいのです。 株式時価総額とは、株価に発行済株式総数を掛けた金額のことですから、ホリエモンがあちこちで「ライブドアの企業価値は2,000億円」と臆面もなく喋っているのは、この株式時価総額のことだと判ります。 なるほど、ライブドアの株価を330円とすれば、発行済株式総数が606,338千株(平成16年9月30日現在)ですので、ピッタリ2,000億円という計算にはなります。 しかし、ここには大きなトリックがあり、ごまかしがあるのです。それは、企業価値イコール株式時価総額としていることで、この2つは似て非なるものなのです。このすり替えこそ、ホリエモン・マジックの中核となるものです。 この点では、ホリエモンだけでなく、現在マスコミを通してコメントしている有識者と言われている人のほとんど全てが間違っています。 私が目にした範囲で、時価総額のトリックを鋭く指摘しているのは、
●新規参入審査に落選したライブドアの『企業体質』「ライブドア落選、当然の理由」 −ALL About 2004/11/02 http://allabout.co.jp/sports/baseball/closeup/CU20041102C/
の記事と、一橋大学の伊丹敬之教授の
●ワールドコム事件と株式市場中心経営の弱点 −プレジデント、2002年8.12号 http://www.president.co.jp/pre/20020812/02.html
の記事、この2つだけです。
2006年01月11日(水) |
格言の花束 〈人生について〉 |
格言の花束 〈人生について〉
● 生きる技術とは,一つの攻撃目標を選び,そこに力を集中することにある。(アンドレ・モロア)
● 人生の最初の40年は私たちにテキストをあたえてくれる。それからの30年はテキストについての注釈をあたえる。(ショーペンハウエル)
● 宴会からと同じように,人生からも飲み過ぎもせず,のどが乾きもしないうちに立ち去ることがいちばんよい。(アリストテレス)
● 長生きするためには,ゆっくりと生きることが必要である。(キケロ)
● 人生における大きな喜びは,君には出来ないと世間がいうことをやることである。(ウォルター・パジョット)
● 生まれたときは泣き,生きているときは文句を言い,死ぬときは絶望する。(不詳)
● 人生は,それがどんなものであるかを知らないうちに半分過ぎ去ってしまう。(俚言)
● こちらで一日,あちらで一日といった人生は,まことに空虚な人生である。見聞することはほかでもない,自分が知りたくもないこと,そればかりだから。(ゲーテ)
● 生が夢で,死が目覚めであるならば,私がじぶんを,他のいっさいから別個に画された存在と観じているというその事実もまた夢幻にほかならない。(ショーペンハウエル)
● 人生――二つの「永遠」の間のわずかな一閃。(カーライル)
● 人生はそれを感ずる人間にとっては「悲劇」であり,考える人間にとっては「喜劇」である。 (ラ・ブリュイエール)
● 人生とは,くたびれていくひとつの長い過程である。 (サミュエル・バトラー)
● 人は多くを願うが,かれに必要なものはごくわずかである。人生は短く,人間の運命には限りがあるから。 (ゲーテ)
● 男は人生をあまりに早く知りすぎ,女は人生をあまりに遅く知りすぎる。 (ワイルド)
● われわれの人生の前半は親によって,後半は子供によって台無しにされる。(クラレンス・S・ダロウ)
● 会って,知って,愛して,そして別れてゆくのが,幾多の人間の悲しい物語りである。(コールリッジ)
● いかにして年をとるかを知ることは,知恵のうちの最大の仕事であり,生きるという偉大な技術におけるもっとも難しい数章である。 (アミエル)
● 疑う余地のない純粋な喜悦のひとつは,勤労のあとの休息である。 (カント)
● もっとも卓越した天分も無為徒食によって滅ぼされる。 (モンテーニュ)
● 人間はただ労働によってのみこの世におちついて暮らすだろう。 だから労働しないものは,おちついていない。 (アウエルバッハ)
● いつもなぜ遠くへばかり行こうとするのか。見よ,よきものはかく身近にあるのを。ただ幸福のつかみかたを学べはよいのだ。幸福はいつも目の前にあるのだから。 (ゲーテ)
● 人生における無上の幸福は,われわれが愛されているという確信である。 (ヴィクトル・ユーゴー)
● 幸福というものはささやかなもので、そのささやかなものを愛する人が、本当の幸福をつかむ。 (亀井勝一郎)
2006年01月08日(日) |
北朝鮮の偽ドル札事件と6カ国協議の危機 |
《 北朝鮮の偽ドル札事件と6カ国協議の危機 》
米朝関係を揺るがす火種がまた発生した。 以下は東洋学園大学教授(マスメディア論、国際関係論)・持田直武氏のレポート。今回の北朝鮮の偽ドル札発覚事件が新たな米朝関係の対立激化の要因となることを報告しており,日本にとっても重大な影響を及ぼすことになるかもしれず,事件の推移から目が離せない。
米朝が偽ドル札をめぐる制裁で対立、6カ国協議の根幹が揺れている。制裁解除を要求する北朝鮮に対し、米は偽ドル制裁をテロ戦争の一環と位置づけ、金正日(キムジョンイル)政権の本丸を狙っていることを隠さない。今後の成り行きによっては、6カ国協議は崩壊。北朝鮮は核に体制生存をかけて対決することになりかねない。
● 制裁はテロ戦争の一環
米ブッシュ政権が偽ドル札(スーパーノート)の製造元を北朝鮮政府と断定、その取引銀行、マカオのバンコ・デルタ・アジアに制裁を課したのが9月15日。以来、米朝の対立は激化、6カ国協議の根幹を揺さぶっている。北朝鮮の労働新聞は1月3日、「制裁で我々を圧殺しようとする相手と向き合って座り、体制守護のために作った核抑止力の放棄を議論することはできない」と主張。中国が提案した1月中の6カ国協議再開を拒否。再開の条件として、米の制裁解除を要求した。
これに対し、米国務省のマコーマック報道官は3日の記者会見で、「6カ国協議と制裁は別々の問題、関連させるべきではない」と主張。再開の条件として制裁解除を要求する北朝鮮に反論した。同報道官によれば、制裁は9・11テロ事件を機に制定した愛国法(Patriot Act)に基づく措置。米の金融システムをマネーロンダリングなどのテロ関連行為から護る、いわばテロ戦争の一環という。従って、米政府が6カ国協議再開の条件として取り引きすることはないという立場なのだ。
この米朝の動きに対し、6カ国協議の議長国、中国が傍観しているわけではない。共同通信によれば、武大偉外務次官は12月21、22の両日、北朝鮮の金桂寛外務次官と瀋陽市で会談、仲介をした。この席で、金次官は打開案として「米が証拠を示し、違法行為が明白なら、我が国の国内法で(関係者を)処罰することも検討し得る」と述べたという。米がこの案にどう答えたか明らかではない。しかし、「国内法で処罰する」という解決方式は、末端の者に責任を負わせ、政府は関与していないことを表明するもの。日本人拉致事件の責任問題で、北朝鮮がとった方式だ。ブッシュ政権がこの手に乗るとは思えない。
● ブッシュ政権の狙いは金正日政権
今回の偽ドル問題で、ブッシュ政権が狙いを付けているのは、金正日政権の本丸である。それは、ブッシュ大統領はじめ政権幹部の最近の一連の発言が示している。同大統領は12月12日、フィラデルフィアでの演説で、「北朝鮮は核保有を宣言し、その一方では、偽ドル札を製造、国民を飢餓に追い込んでいる」と非難した。これに先立って、バーシュボー韓国駐在大使もソウルの記者クラブで、金正日政権を「犯罪政権」と罵倒。また、ジョセフ国務次官はバージニア大学の演説で、金正日政権は「長続きしない」という厳しい見方を表明した。
このブッシュ政権の強硬な立場は、英警察が10月7日、アイルランド労働党のガーランド党首をスーパーノートの頒布容疑で逮捕したことと無関係ではない。ワシントンの米連邦大陪審はすでに5月19日に同党首を起訴。司法省は同党首逮捕後の10月12日、起訴状の内容を公表した。それによれば、罪状は「偽100ドル札スーパーノートは北朝鮮政府の指示のもと、同国内で製造、政府職員が世界に頒布した」と断定。「ガーランド党首は仲間6人とともに1997年から2000年にかけて、スーパーノート約100万ドル分を英国などで頒布、同時に北朝鮮政府の関与の証拠もみ消しを謀った」となっている。
ガーランド党首は逮捕後、無罪を主張、病気治療を理由に保釈されたが、いずれ米国に引き渡され、裁判が始まる。そして、法廷の場で、検察側はブッシュ政権の立場を代弁し、北朝鮮政府の犯行を証拠に基づいて立証することになる。スーパーノートは、推定では現在1億ドル相当が出回っているという。その製造と頒布、マネーロンダリングなど、一連の犯罪行為に関わった関係者も膨大な数に上るはずだ。裁判の判決が有罪、つまりブッシュ政権の主張を認めて、北朝鮮政府の犯行と断定する判決が出た場合の影響は計り知れない。
● 6カ国協議の根幹が崩れる危機
米が、偽ドル製造やマネーロンダリングを外国政府の犯行と断定して裁判するのは初めてだが、それに近い例はある。1988年、連邦大陪審がパナマの最高指導者ノリエガ将軍を麻薬取引とマネーロンダリングで起訴した例だ。当時のブッシュ(父)政権は翌年、パナマに米軍を派遣、同将軍を逮捕して米に連行。裁判で懲役40年、その後30年に減刑したが、今も拘束している。今回の偽ドルの場合、北朝鮮政府と政府職員は偽ドルを製造し、頒布したと断定されたが、起訴はされていない。しかし、今後ガーランド党首の裁判の過程で、新たな証拠が出れば、北朝鮮の政府関係者が起訴される可能性も排除できない。
去年7月まで、国務省上級調整官として偽ドル事件を担当したアッシャー国防分析研究所研究員は、「ノーチラス研究所」(電子版)への寄稿文で「偽ドル製造は米国に対する戦争行為」と次のように指摘している。「北朝鮮は偽ドル製造、麻薬密売など、違法行為を国家の外交、経済政策に取り入れているマフィア国家だ。偽札製造は国際法上の戦争行為に該当する。こうした国家の外交官に外交特権を認めるべきではない」。北朝鮮は6カ国協議再開の条件として、ブッシュ政権に対し、制裁の解除を要求しているが、米国内の雰囲気はそれを許すようなものでないことがわかる。
6カ国協議は02年10月、北朝鮮のウラン核開発疑惑が浮上したあと、ブッシュ大統領が提唱。05年9月19日の第4回協議で、北朝鮮の核放棄と軽水炉提供の検討を盛り込んだ共同声明に合意した。だが、すぐに米朝は軽水炉提供の時期で対立、協議の先行きに暗い影を投げた。偽ドル問題の深刻化は、その直前、ブッシュ政権が北朝鮮の主要取引銀行、バンコ・デルタ・アジアに制裁を発動したのがきっかけ。背景には、ガーランド党首逮捕が象徴的に示す米司法当局の動きがある。今後、同党首の裁判の成り行き次第で、米朝の対立激化は確実で、ブッシュ大統領の6カ国協議戦略も根幹が崩れることになる。
● 北朝鮮は核に体制の生存をかける
北朝鮮は、米の追求を「北朝鮮圧殺政策」と反発、対決姿勢を露わにしている。12月23日には、朝鮮人民軍の金永春総参謀長が平壌の軍関係の集会で「米は6カ国協議の裏で、我が国の制度転覆を狙い、制裁に固執している。この敵視政策が続く限り、我々は軍事的抑止力を数千倍に強化して対抗する」と強調、核開発促進を主張した。冒頭部分で引用した1月3日の労働新聞が「体制守護のために作った核抑止力の放棄を議論することはできない」と述べたのは、核兵器が体制守護の武器であることを明確にしたものだ。状況によっては、核に体制の生存をかけることを示している。
日本は1月下旬、北朝鮮と3年ぶりに国交正常化交渉を再開するが、偽ドル問題が今のような展開を続ける限り、交渉には限界がある。北朝鮮は米との対決は深刻だが、中国、韓国との関係は進展している。韓国統一省の発表によれば、05年の南北貿易は前年より51%増えて10億ドルを突破した。北朝鮮は、この関係を日本にも広げ、米を孤立させることを狙うだろう。しかし、日本は拉致と核開発問題の解決を関係改善の前提としている。万が一、拉致問題に解決の兆しが見えたとしても、核問題は米朝関係が好転しなければ、解決しない。現状では、日朝の関係改善は、米朝次第ということにならざるをえない。
|