観能雑感

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観能雑感
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2010年01月30日(土)

国立能楽堂特別公演

国立能楽堂特別公演　国立能楽堂　PM1：00～　

　決して体調は良くないが、出かけられるだけまだまし。中正面後列やや正面席寄りに着席。満席。

能『咸陽宮』
シテ　近藤　乾之助
シテツレ　金井　雄資、渡邊　茂人　髙橋　憲正
ワキ　宝生　閑
ワキツレ　大日方　寛、工藤　和哉、則久　英志、御厨　誠吾
アイ　茂山　千三郎
笛　一噌　隆之（噌）　小鼓　大倉　源次郎（大）　大鼓　安福　建雄（高）　太鼓　梶谷　英樹（春）
地頭　田崎　隆三

　燕の太子より始皇帝暗殺の命を受けた荊軻と秦舞陽は罪人の首を見せ宮廷内に入り込み、始皇帝の至近距離に近づくことに成功する。剣を付きつけられ観念した始皇帝は、最後に最愛の后花陽夫人の琴の音を聴く事を所望し、受け入れられる。始皇帝は夫人の歌から暗殺者より逃れる術を見つけ、暗殺者は殺される。四、五番目物。今回初見。ワキの重習いとのこと。
　狂言口開で開始。続いて皇帝と大臣、侍女達が入場してくるのは定型だが、暗殺者2名の登場は能としては写実的。緊張しつつも任務を果たそうとするワキと、窮地に陥っても威厳は失わないシテ、緊張が高まる。この状態で夫人の歌を地謡がしっとりと歌い上げ、一旦静まったところに立ち回りの急展開。優れた構成だと思う。シテ、ワキは名手どおしのいずれ劣らぬ対決だったが、長老がいない地謡は力なく、これからどうなるのだろうと心配は尽きない。

狂言　『右近左近』
シテ　茂山　あきら
アド　茂山　千五郎

　狂言では珍しく、妻の浮気がはっきり描かれている。和泉流では観たことあり。
　妻の勢いがとにかく凄くて、夫はまともに話せないほど。その場に登場しない左近の存在が二人にとっていかに大きいかを感じさせる。終曲間際に妻の不貞を暴き、笑えと言って自嘲する夫。和泉流では笑う箇所はなかったように記憶している。内面をじっくり描くというよりは、ひたすら外に発散させる演技。

能『碁』
シテ　金剛　永謹
シテツレ　種田　道一
ワキ　高安　勝久
アイ　茂山　七五三
笛　松田　弘之（森）　小鼓　幸　清次郎（清）　大鼓　石井　喜彦（石）
地頭　松野　恭憲

　旅僧が三条京極を訪れ、源氏物語の『空蝉』に思いを馳せていると、尼僧が現れ宿を供する旨を告げる。尼僧は己が空蝉その人であることを暗示させつつ、消える。僧の回向に導かれ、空蝉と軒端の荻が登場。古を懐かしむように碁を打つ姿を見せ、舞を舞い、再び消え失せる。近年復曲され、何度か上演されている。三番目物。今回初見。
　永謹師はさらに太られた模様。花帽子をかぶり女面をかけているけれど、残念ながら女性に見えない。後シテ、ツレは緋大口に大壷折。正先に装飾的な碁盤が出される。碁を打つしぐさはごく短い間。序之舞は、大鼓方が関西の方であるせいか、思ったよりしっかりしていた。
　金剛永謹師の芸は、よく言えばおおらか、悪く言えば大雑把である。残念ながら今回は否定的要因となって作用してしまった。
　空蝉は源氏物語の中で極めて特異な地位を占めている。源氏と本人の意思にかかわらず関係し、その後再びまみえることはない。己の意思で源氏を拒絶した克己の人である。作者はそんな空蝉の題材にした能を創作したいと思ったのかもしれないが、そもそも縁の場所に霊として現れる動機が希薄で、詞章は囲碁の概略を示し、源氏物語の巻名を挙げるという凡庸なもので、作品としての魅力に欠ける。そう何度も観たくなる曲ではない。
　空気が乾燥しているため、笛の音がやや出しにくそうであった。

　帰り、駅のホームで七五三師らしき人が近くにいた。千葉方面の電車に乗っていたけれど、乗り間違えたのだろうか。

2010年01月10日(日)

宝生会　月並能

宝生会　月並能　宝生能楽堂　PM1：00～

　体調が悪いのは相変わらずであり、視覚に関連する不調なので、できる範囲で記録を残していきたい。せめて番組、プログラムの内容ぐらいは・・・。
　見所はほぼ満席。中正面後列脇正面寄りに着席。

『翁』
シテ　髙橋　亘
面箱　炭　哲男
三番叟　野村　祐丞
千載　佐野　弘宜
笛　寺井　宏明（森）　小鼓　曽和　正博、住駒　充彦、曽和　伊喜夫（幸）、大鼓　安福　光雄（高）
地頭　髙橋　章

　残念ながら、千載、翁、三番叟いずれも神性に乏しかった。様式を獲得しきれていない身体の表現には、おのずと限界がある。
　伊喜夫君は今年が翁、三番叟の披きらしい。後半は鼓が鳴らなくなってしまったけれど、最後まで懸命に勤めていた。

狂言　『文蔵』
シテ　野村　萬
アド　小笠原　匡
　主人に無断で京見物に出かけた太郎冠者。主人の伯父に振舞われた料理の名前が思い出せず、主人が語る「源平盛衰記｣を聴き手がかりを探る。文蔵という人名に反応するが、温糟粥（うんぞうがゆ）の間違いであった。今回初見。
　シテによる語りの芸に主眼が置かれた曲。シテに力がないとやや退屈な内容になりそうだが、今回は楽しめた。

能　『胡蝶』
シテ　三川　泉
ワキ　工藤　和哉
アイ　新居　亮吉
笛　一噌　仙幸（噌）　小鼓　大倉　源次郎（大）　大鼓　柿原　光博（高）　太鼓　金春　國和（春）
地頭　今井　泰男

　この曲、初面を除き観る機会は以外と少ない。儚い蝶の精を表現するのが困難であるためと思われる。その点泉師には正にうってつけの内容。面は小面。前シテの下居姿が実に引き締まっており、見事。このように座れる人は少ない。念願かなって梅花の周りを飛び回る後シテ、嬉しそうに微笑んでいたが、「あ、笑ってる」と思った瞬間、なぜか急激に悲しくなった。
　副地頭は乾之助師で、この贅沢な地謡がいつまで聴けるのかと思うと気が重い。

能　『鞍馬天狗』
シテ　當山　孝道
子型　波吉　敏信
花見　植嶋　幹登、山内　晶生、髙橋　希、渡邊　真之介、水上　達、小倉　寛之、和久　凜太郎、鶴田　航己
ワキ　野口　敦弘
ワキツレ　野口　能弘、野口　琢弘
アイ　小笠原　匡、野村　太一郎
笛　藤田　次郎（噌）、小鼓　鵜澤　洋太郎（大）、大鼓　亀井　実（葛）、太鼓　観世　元伯（観）
地頭　亀井　保雄

　花見の稚児の数が多い。中にはまだオムツ着用ではないかと思われる子もいた。本人たちより父上らの方が緊張したであろう。
　子方は頑張っていたのだが、宝生流特有の子方の謡で今ひとつ趣に欠ける。なんといってもシテは牛若に恋をしてしまうのだから。
　前場は充実していが、後場は雄大さに欠け、少々残念。太一郎君の声は亡き万之丞師によく似ている。ところであの頭髪は何とかならないか。くせ毛でまとめ難いことを考慮しても舞台に上がるのにふさわしいとはいい難い。それにしても當山師は鬘物が回ってこなくて気の毒である。

　

こぎつね丸