観能雑感

アクセス解析

body{margin:0;}.NIN{padding: 0;margin: 0;position: absolute;width:100%;height:100%;background-color:black;color:white;}

観能雑感
INDEX｜past｜will

2007年06月30日(土)

第15回　テアトル・ノウ　東京公演

第15回　テアトル・ノウ　東京公演　宝生能楽堂　PM2:00～

　味方玄師のシテを東京で観る機会はほとんどなく、良い機会なため出かけた。指定席を購入したので無関係だったが、自由席は入場時に指定席が割り振られるシステム。荷物による席取りを防止するにはいいが、最初から全席指定のほうが手間がかからなくていいような気もするがどうなのだろう。ロビーは今まで遭遇したことのないような雰囲気で途惑った。見所はほぼ満席。正面席後列地謡座寄りに着席。

仕舞
『氷室』　　味方　圑
『班女』　　河村　晴道

舞囃子
『実盛』　　片山　九郎右衛門
笛　竹市　学（藤）　小鼓　成田　達志（幸）　大鼓　亀井　広忠（葛）

仕舞
『鵜之段』　　梅田　邦久
『柏崎』道行　　味方　健
『大江山』　　片山　清司

　本日最大の成果が九郎右衛門師の「実盛｣。長大な舞囃子だが一瞬たりとも眼を逸らさせない求心力と小柄な体に充満する強さがあった。世の流れに翻弄され続けた下級武士ではあるが、だからこそ我が身の誉れを尊び死んで行く老武者の悲哀と心意気があった。水音や飛び散る血まで感じさせる描写力と登場人物の心の動きを感じさせる抽象性の対比。

能　『融』舞返
シテ　味方　玄
ワキ　宝生　欣哉
間　茂山　千三郎
笛　竹市　学（藤）　小鼓　成田　達志（幸）　亀井　広忠（葛）　太鼓　前川　光範（春）
地頭　片山　清司

　前シテは尉だが、幕離れの瞬間から40代の壮年に見えてしまい、能という芸能の難しさを感じた。登場楽の一声はしっかりめだった。水汲みは目付柱で行われ、中入。間語は長く感じてしまった。狂言方の髪が疎らに茶色く見えたのは照明の加減ではないように思う。気になった。
　後シテは白い直衣に水色の指貫、黒垂に垂纓。面は中将。遊楽を強調した小書でシテの舞振りは優美ではあるが、何故か我を忘れて楽しんでいるという様子からは遠かった。急之舞は徒に速過ぎ。速ければいいというものでは決してない。昨今の神舞や舞働等、無闇に早くする風潮には賛同し難い。
　味方玄という役者は傑出した存在だ。これだけの技術と存在感を持つ同世代のシテ方を見つけるのは難しい。その舞台姿に難はないが、それが即心を揺り動かすことには繋がらない。美しくはあるが、それ以上のものを感じられなかった。そして自分が目にしたくないものは一切見ないというような、危うさも感じられた。これからどんな風に変っていくのかそれとも変らないのか、興味がある。
　地謡は京都在住かルーツがある若手で固められ、これだけの統一感と硬質な響きは東京の観世流では実現不可能であろう。
　吹く姿に難はあるものの、竹市師は今後に期待が持てる数少ない若い世代の笛方であると改めて感じ、東京での舞台も大分増えた成田師はその音と同様、間語の最中控えている姿の伸びた背筋が端正だった。

　音響は正面席がやはり良いと思った1日だった。

2007年06月28日(木)

東京青雲会

東京青雲会　PM5:00～　宝生能楽堂

　水曜日まで職場が慌しかったため、この日は早めに退社させてもらって会場へ。中正面後列正面席寄りに着席。無料なこともあってか見所は7～8割程度の入り。

素謡
『黒塚』
シテ　宝生　和英
ワキ　小林　晋也
ワキツレ　辰巳　孝也

舞囃子
『右近』　　田崎　甫
笛　松田　弘之（森）　小鼓　住駒　充彦（幸）　大鼓　佃　良太郎（高）　太鼓　小寺　真佐人（観）

『芦刈』
東川　尚史
笛　栗林　祐輔（森）　小鼓　住駒　充彦（幸）　大鼓　國川　純（高）

仕舞
『八島』　　髙橋　憲正
『松虫』キリ　　和久　荘太郎
『鞍馬天狗』　　石黒　充

舞囃子
『龍田』　　境野　直美
笛　松田　弘之（森）　小鼓　曽和　正博（幸）　大鼓　佃　良太郎（高）　太鼓　小寺　真佐人（観）

『春日龍神』　　辰巳　大二郎
笛　栗林　祐輔（森）　小鼓　曽和　正博（幸）　大鼓　佃　良太郎（幸）　太鼓　小寺　真佐人（観）

能　『花月』
シテ　當山　淳司
ワキ　大日方　寛
間　山本　泰太郎
笛　栗林　祐輔（森）　小鼓　住駒　充彦（幸）　大鼓　國川　純（高）　
地頭　小林　晋也

　謡を練り上げるのには膨大な時間がかかる。とは言え、それぞれの年代に相応しい習熟度や魅力はあるはずで、それをごく一部の人以外に感じられなかったのが哀しい。現在地頭を勤めるような方々と中堅以降の世代に謡の価値観そのものに隔たりがあるような気がする。質実剛健と言われる宝生の謡だが、実は華やかで繊細だ。ヨワ吟の甲グリが生きるのもそうであってこそだと思う。現在の宝生の謡の良さというの失われつつあるのかもしれない。
　仕舞や舞囃子で、観る者にずっと舞手から視線を逸らせない力というのは大変な難事であることを思い出させてもらった。本日観た中でそれだけの力がある人は、和久荘太郎師ぐらいであろう。
　栗林師の笛を聴くのは4年振り。当時はまだ国立の研修生だった。残念ながらその後の成長が見られなかった。一言で言い表すならば、「ただ吹いているだけ」なのだ。音は出ている。しかしただ大きければいいというわけではなく、たとえ細くとも堅く引き締まっていなければならない。この方の音は大きいが中身が充実していない。そしていかなるアシライ、舞もすべてが同じような加減で吹かれている。曲によっての差もない。単に技術の問題ではなく意識の持ち用であろう。故田中一次師、松田弘之師の芸を継ぐのは能の囃子方としてはこの方のみ。プロの吹き手としての自覚を持って精進してもらいたい。もっとも当人にとっては聴く側のこのような想いは迷惑なだけなのかもしれないが。
　本日一番楽しめたのは『龍田』の囃子。笛、小鼓がそれぞれ名手でこの時間は幸せだった。

2007年06月17日(日)

オペラ　『ばらの騎士』

オペラ　『ばらの騎士』　新国立劇場　PM2:00～

　R.シュトラウスのオペラ作品として唯一の喜劇。とは言うものの、根底には哀愁が漂っている。
　前日よく眠れず不調。上演時間が長いのでつらいところだが仕方がない。3階席最後列若干上手寄りに着席。最前列の手すりに数箇所付いている黒い柵が視界に入って邪魔だった。客席は9割方埋まっていた。

『ばらの騎士』　全3幕

【作曲】リヒャルト・シュトラウス
【台本】フーゴー・フォン・ホフマンスタール

【指揮】ペーター・シュナイダー
【演出】ジョナサン・ミラー
【美術・衣裳】イザベラ・バイウォーター
【照明】磯野　睦
【舞台監督】大澤　裕

【元帥夫人】カミッラ・ニールント
【オックス男爵】ペーター・ローゼ
【オクタヴィアン】エレナ・ツィトコーワ
【ファーニナル】ゲオルグ・ティッヒ
【ゾフィー】オフェリア・サラ
【マリアンネ】田中　三佐代
【ヴァルツァッキ】高橋　淳
【アンニーナ】背戸　裕子
【警部】妻屋　秀和
【元帥夫人の執事】秋谷　直之
【ファーニナル家の執事】経種　廉彦
【公証人】晴　雅彦
【料理屋の主人】加茂下　稔
【テノール歌手】水口　聡
【帽子屋】木下　周子
【動物商】青地　英幸
【レオポルド】三戸　大久

【合唱指揮】三澤　洋史
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

　舞台は部屋と廊下を斜め上から俯瞰しているような設計。本来の時代設定は18世紀半ばだがあえて1912年に変更したそう。作品のテーマである時の移ろいをより強調するためで、登場人物達が繰り広げる生活や価値観は、間もなく過去のものとなる。元帥夫人が惜しむのは個人的な時間だけでなく、時代そのものなのだ。現代の演出によく見られる極度に簡素化した調度や衣装ではなく、当時の上流階級に相応しい豪華さを簡潔に表現していた。
　時代設定を変更せずとも舞台美術が現代的なのはよくある演出だが、そうすると作品世界にどうしても馴染まない部分が出てくる。今回は剣がそうだった。元帥夫人の部屋で朝（と言っても実際の時間は昼に近い）を迎えたオクタヴィアンが、召使達が部屋に入ってくるから隠れるよう夫人に言われるも、剣を置き忘れる場面があるが、20世紀の貴族が日常剣を携帯しているという不自然さはぬぐえない。このような細部を検証していったら、オペラそのものが成立しなくなるけれど。
　最も魅力的だったのは元帥夫人役のカミッラ・ニールント。この役には若干声が若いような気もしたが、歌唱そのものが安定しており、聡明さと気品を持って夫人の複雑な心の内を表現していた。また立ち姿が素晴らしく、第1幕終了間際、オクタヴィアンとのそう遠くない別れを予感しつつ窓辺で降りしきる雨を見つめる横顔、第3幕終了直前、若い二人の新しい恋を見守りながら、一度だけ振り返ってオクタヴィアンを見つめ立ち去っていく後ろ姿が実に雄弁だった。
　オクタヴィアン役のエレナ・ツィトコーワはすらりとした肢体と美貌でズボン役にはぴったり。声量は豊かだが高音がややヒステリックで、この役としては自分の好みではなかった。オックス男爵役のペーター・ローゼは得意としている役ということで余裕たっぷり。貴族という特権を振りかざして己の欲望にどこまでも忠実なとんでもな人物だが、今の世にもこういう輩が存在していることに変りはない。
　オケは弦が繊細な表現力を発揮して健闘した。

　登場人物達は時を止めたいと願うけれど、時間は流れていくからこそ良いのだと思っている。
　

2007年06月10日(日)

宝生会　月並能　

宝生会　月並能　宝生能楽堂　PM1:00～

　サイトのチケット申込みフォームから申し込んだが一週間経過後も返信なし。確認メールを送るも無反応。再度申し込みを行い電話で問い合わせてみようかと思っているところに「メンテナンスが遅れたため返信が遅くなり申し訳ございません」との申込み確認メールが来た。今年に入ってからシステム不具合のため申込み確認が遅れたことが既にあり、数ヶ月の間抜本的な改善策を取っていないことになる。システムの不具合を100％防ぐのは不可能なので致し方ないが、不具合があるという表示さえあったら最初から別の方法で申し込んだのにと思う。

　中正面脇正面寄り最後列に着席。見所は7割程度の入り。

能　『加茂』
シテ　武田　孝史
ツレ　野月　聡
天女　小林　晋也
ワキ　森　常好
ワキツレ　舘田　善博、森　常太郎
間　住吉　講
笛　一噌　幸弘(噌）　小鼓　大倉　源次郎（大）　大鼓　亀井　広忠（葛）　太鼓　金春　國和（春）
地頭　近藤　乾之助

　後シテである別雷は御祖神の子であると説明されることが多いが、詞章では天に昇った矢が別雷とされている。賀茂の祭神を外祖父、母、子から父、母、子とする女系から父兄への変遷を如実に感じる構成なので、この場合後シテは子ではなく父であると考えた方が相応しいような気がする。
　シテは殊更声量に恵まれているわけでも良く通る声でもないが、明瞭に聴こえて来る謡と気品のある立ち姿が印象的。後シテはもう少し力感があっても良かったか。後ツレは舞台に上がる水準に達しているとは思えなかった。地謡も地頭を除いた後列の面子を見ると致し方ないという出来で、シテを盛り立てるには到らなかった。

狂言　『水汲』
シテ　野村　萬
アド　野村　万蔵

　橋掛りを歩いてくる萬師の姿に年齢を感じたが、いちゃの背後に立って目隠しをすると若やいだ色香が香り立って、突然視界が明るくなったと感じる程。役者の凄さを感じる。以下の二人の掛け合いは修辞を理解できればもっと楽しめるのにと歯がゆい。最後に水をかけられて憮然とするところは萬師にしか出せない味わいで、舞台上の姿をぜひ長く観ていたいと願わずにはいられない。

能　『籠太鼓』
シテ　三川　淳雄
ワキ　工藤　和哉
間　野村　扇丞
笛　槻宅　聡（森）　小鼓　北村　治（大）　大鼓　柿原　弘和（高）
地頭　今井　泰男

　松浦の某が家人である関の清次を殺人の罪で入籠させているが、脱走したことが判明し、清次の妻に行方を問い質したところ、知らぬと言い張るため替わりに入籠させる。夫を慕うあまり変容する妻の姿を哀れに思い、松浦の某は籠から出そうとするが、妻はそれを拒み、時を知らせるためにと付けておいた太鼓を打って狂乱する。夫婦二人の助命が確約された後、妻は実は夫の居所を知っていることを明かし、旅立つ。一風変った女物狂い物。作者不明。今回初見。

　「どうせ最後まで観られないんだからここでいいよね」という不穏な呟きとともに祖母、母、孫の3名が同じ列に座った。孫はどう見ても3歳より上には見えず、もとより長時間じっとしてられるわけもない。孫の声とそれを諌める二人の声、がさがさという物音で落ち着かず。結局母が孫を連れ出し一安心かと思ったのも束の間、孫の声ともに戻ってきてまた同じことの繰り返し。食べ物を与えようとしているよでフィルムを開けるかさかさという音がし続け、鬱陶しいことこの上ない。孫はまた連れ出された。周囲やこちらの視線を感じてはいたようだが、だからどうということもないらしい。どうも本人達は後ろの席だから構わないと思っているフシあり。過去の経験から、こういうことをする人達は本来の席は大抵正面席にあって、それ以外の席での多少の無理は問題ないと思っているようだ。どの席もすべて有料で舞台を観るための席である。自分たちさえよければそれでいいのか。このような蛮行が放置されているのが能の見所の現状であり、この客席における他のジャンルでは考えられないストレスに、耐え難さを感じ始めて大分経つ。
　残念ながら舞台を楽しむには最悪の状況だったけれど、演能そのものは良質だったと思う。シテは登場から一筋縄ではいかないという凄みと品位があった。物狂いという点から見れば我を忘れた様子がいささか不足していたようにも思えたが、本曲のシテは佯狂である可能性が高いので、夫救済のためにあくまでも冷静な妻の姿と見えなくもない。小品だが変った味わいの面白い曲。
暫く見ない間に北村師が大分年取っていて少し驚いた。

能　『来殿』
シテ　髙橋　亘
ワキ　高井　松男
ワキツレ　井藤　鉄男、御厨　誠吾
間　山下　浩一郎
笛　一噌　隆之（噌）　小鼓　森澤　勇司（清）　大鼓　柿原　光博（高）　太鼓　助川　治（観）
地頭　佐野　萌

　他流の『雷電』と異なり、後場は菅公が狩衣、指貫姿で天神として登場し、国土安穏を言祝ぐ。前場の内容は基本的に同じなため不自然極まりなく唐突な印象。舞入りの小書きとして上演したものを定番化したそうだが、これを改悪と言わずして何と言おう。前シテの面は怪士系統だと思われるが不明。朽葉色の水干に錆青磁の大口で、零落した様子が表れていた。

　6月8日に観世榮夫師が亡くなられた。享年79歳。
　ここ何年かは闘病を続けながらの舞台生活だったので大きな衝撃はなかったが、前月の事故が心身ともに影響しているとは思う。
　この方は、特に能楽に興味がない人にも最も名前が知られていたのではなかろうか。能楽師としては波乱が多く、他ジャンルの活動では一時的ではない実のある成果を残したと思う。後進の育成にも熱心だった。シテとしては個人的には積極的に観たい人ではなかったが、文字通り一曲の内容を凝縮し、その場の空気を変える力のあった仕舞は強く印象に残っている。業績を云々できる立場にはないが、この方にしかできないことをやり続けてこられたと思う。
　とある能楽師の方の追悼文に1994年に開催されたフランスの演劇祭のことが書かれていた。日本のTVでもごく一部ではあるが放映されて、観た記憶がある。出番を待つ榮夫師の周囲にはいつも地元の少女バレリーナ達が群がっていたそうだ。季節やその情景から文字通り『真夏の夜の夢』のようで、「そうか、榮夫ちゃん（なぜか心の中ではこの方をずっとこう呼び続けている）はオベロンだったのか」と、妙に納得したのだった。
　心よりご冥福をお祈りいたします。

2007年06月05日(火)

今そこにある危機

笛の練習は屋外で行うのが理想的である。反響のないところで吹いた方が本来の音を聴く事ができるからだ。
しかし都会生活を送っていると限りなく実行不可能に近い。ゆえに野外で笛を吹いたことはなかった。この日までは。
職場に近接している公園は丘陵部があり木に囲まれている。楽器の練習にはうってつけだ。
この時期は夕方でも明るいため、退社後足を運ぶ。目的地までは3階～4階分くらいの階段を上る感覚。
下はまだまだ明るいのにうっそりと暗い。人影は部活の練習なのか男子高校生が時折駆け上がって来るくらいである。
適当に座るところを見つけ、吹き始めたが、すぐに異変に気づいた。

蚊の大群襲来・・・。

何せ両手がふさがっているため追い払うこともできず、瞬く間に刺されまくり。沢山の草木に囲まれた場所でこの季節ではさもありなんである。
結局、お調べと序之舞の序の部分のみ吹くに止め、退散。
こうして初めての屋外練習はあっさり終了した。
大量の虫刺されの痕は、非常に痒い。

こぎつね丸