観能雑感

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観能雑感
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2005年09月28日(水)

国家指定芸能　能楽　特別鑑賞会　東京公演

国家指定芸能　能楽　特別鑑賞会　東京公演　観世能楽堂　PM1：00～

　改めて見ると、何とも仰々しい公演名である。
　休みは確保したものの、当日の体調不良であえなく断念。実に豪華な番組ではあるものの、あまりにも詰め込み過ぎの感は否めず。終演は7時近いのではないかと予想された。さらに全席自由であるのも最終的に断念した大きな要因。開場前に並ぶような体力はないし、その時間も、そしてその後の時間も無駄となる。
　以下、番組のみ記載

能　『安宅』勧進帳　酌掛之伝（観世流）
シテ　野村　四郎
子方　小早川　康充
ツレ　岡　久広、五木田　三郎、田邉　哲久、上田　公威、関根　祥人、駒瀬　直也、関根　知孝、木原　康之、浅見、重好
ワキ　村瀬　純
アイ　山本　則直、山本　則俊
笛　一噌　庸二（噌）　小鼓　鵜澤　速雄（大）　大鼓　安福　健雄（高）　
地頭　角　寛次朗

舞囃子　『養老』（金春流）
シテ　本田　光洋
笛　一噌　仙幸（噌）　小鼓　観世　豊純（観）　大鼓　亀井　実（葛）　太鼓　助川　治（観）

一調
鐘之段　　金剛　永謹　　北村　治

仕舞　『松風』（金春流）　櫻間　金記

狂言　『呂蓮』（大蔵流）
シテ　大藏　彌太郎
アド　善竹　十郎、大藏　吉次郎

能　『羽衣』舞込　（喜多流）
シテ　友枝　昭世
ワキ　高井　松男
ワキツレ　梅村　昌功、則久　英志
笛　藤田　大五郎（笛）　小鼓　亀井　俊一（幸）　大鼓　柿原　崇志（高）　太古　小寺　佐七（観）
地頭　粟谷　菊生

仕舞　（観世流）
『花筐』狂　　小山　文彦
笹之段　　　北浪　昭雄

舞囃子　『忠度』（宝生流）
シテ　近藤　乾之助
笛　中谷　明（森）　小鼓　曽和　正博（幸）　大鼓　大倉　三忠（大）

仕舞　（宝生流）
『鳥追』　　　寺井　良雄
『天鼓』　　　三川　淳雄

一調　『六浦』　　粟谷　菊生　　金春　惣右衛門

能　『綾鼓』（宝生流）
シテ　髙橋　章
ツレ　朝倉　俊樹
ワキ　森　常好
アイ　石田　幸雄
笛　寺井　久八郎（森）　小鼓　幸　清次郎（清）　大鼓　亀井　忠雄（葛）　太鼓　金春　國和（春）
地頭　田崎　隆三
　
　『綾鼓』は未見であるし、髙橋章師がシテなので楽しみにしいたのだが、残念。

　観客に対する配慮には欠けた日程だというのが正直なところ。番組はあまりにも長大。どうせ平日の昼に行うならばせめて1時間開演を早めても良いのではないか。また、当代きっての人気役者が出演で全席自由というのも辛いところ。並ぶ時間は無駄になるし、遠方からいらっしゃる方々にはさらなる負担だろう。平日も休日も大差ない方々ばかりが観るわけでは、決してないのだから。
　
　

2005年09月25日(日)

宝生会　秋の別会　第1日

2005年9月25日（日）　宝生会　秋の別会　第1日　宝生能楽堂　PM12：00～

　不調が続いているので断念しかけたが、今日見逃したら二度と目にすることはなさそうな番組なので、結局出かけた。
　見所は満席。中正面前列に着席。
　気力体力ともに減少しているので、可能な限り簡素に。

能　『鷺』
シテ　髙橋　章
子方　近藤　颯一郎
ワキ　宝生　欣哉
ワキツレ　数名（番組に記載なし）
アイ　石田　幸雄
笛　一噌　仙幸（噌）　小鼓　北村　治（大）　大鼓　柿原　弘和（高）　太鼓　金春　惣右衛門（春）
地頭　今井　泰男

　白い装束に身を包み、鷺乱を舞うシテを観て、子供の頃に見た鷺の姿をぼんやり思い出していた。すんなり伸びた細い足を、不思議とはっきり覚えている。生々しさがなく、調度良い時期に勤められたのではないだろうか。装束同様、白いイメージが残った。

狂言　『鈍太郎』
シテ　野村　万之介
アド　深田　博治、高野　和憲

　3年間振りに都に戻ってきた鈍太郎だが、妻も愛人からも門前払いを受ける。髻を落として出家を装うと、今度は二人とも本人だと認めた。二人に手車をさせて自分の言う通りに囃させ、満足する。
　決してつまらない話ではないのだが、冗長であることは否めなかった。

仕舞
『加茂』　　佐野　登
『雲林院』キリ　　水上　輝和
『歌占』クセ　　前田　晴啓

能　『姨捨』
シテ　佐野　萌
ワキ　宝生　閑
ワキツレ　工藤　和哉、大日方　寛（番組に記載なし）
アイ　野村　万作
笛　藤田　大五郎（噌）　小鼓　鵜澤　速雄（大）　大鼓　安福　健雄（高）　太鼓　金春　國和（春）
地頭　三川　泉

　幕内からの呼びかけはしっかりと、そして現れた姿もどこか近寄り難いような張り詰めた空気が漂っていた。人恋しいという様子ではなかった。送り笛の醸し出す風情に秋風を感じた。
　後シテ、白橡の地に金糸で薄が縫い取られた長絹、青磁色の大口。面は老女。面の眼は底なしの闇のようで、いったい何を見つめているのかと思った。佇む老女の姿にはあらゆる同情を拒絶するような、ある種の崇高さが感じられた。この後とうとう眠気が炸裂し、後は半覚醒状態のままぼんやりと観続けた。
　ワキが退場する時シテは後見座でくつろぎ、扇を再び杖に持ち替え、常座で留める。観世流ではそのまま大小前に残っているので新鮮だった。流れが途切れるのが気になりつつも、ひとり残されるという印象はより強くなる。
　大五郎師のアシライは言葉で表現するのが憚られるほど。この音が聴ける喜びを享受した。

仕舞
『班女』クセ　　小林　与志郎
『松虫』キリ　　塚田　孝太郎
『敦盛』キリ　　宝生　和英

能　『小鍛冶』白頭
シテ　金井　雄資
ワキ　森　常好
ワキツレ　森　常太郎　(番組に記載なし）
アイ　高野　和憲

　前シテは黒頭に童子の面、絓水衣着流し。妖しくも精気漲る美少年。後シテは半切、法被、肩上側次に至るまで白が基調。面は泥小飛出。勿論白頭。重厚であってもきちんと獣性を内包しているのがいいと思った。キビキビと演じられて、見ていて気持ちが良かった。

　とにかく最後まで観ていられてよかった。こういう日もある。

2005年09月23日(金)

楽劇　『ニュルンベルクのマイスタージンガー』

2005年9月23日（金）　楽劇　『ニュルンベルクのマイスタージンガー』　新国立劇場　PM2：00～

　口唇ヘルペスが出て体調悪し。発熱、リンパ節腫脹、全身倦怠感を伴うのはいつものことだが、今回殊更喉が痛い。長丁場なので諦めかけていたが、なんとか出かけることができた。
　休日のせいか、開場は9割方埋まっていたように思う。3階センター下手寄りに着席。
　この作品を契機に、オペラに興味を抱くようになった。勿論実際に劇場で観たわけではなく、公共放送を見て。今から20年近く前のことで、なかなか感慨深い。
　いろいろ書きたい事はあれでも、不調が続いているのでできるだけ簡単に（と言いつつ長くなった）。

『ニュルンベルクのマイスタージンガー』

作曲・台本：リヒャルト・ワーグナー

指揮：シュテファン・アントン・レック
演出：ベルント・ヴァイクル
美術：フランク・フィリップ・シュレスマン
衣裳：メヒトヒルト・ザイペル
照明：磯野睦
舞台監督：大澤裕
合唱指揮：三澤洋史
合唱：新国立劇場合唱団
管弦楽：東京フィルハーモニー交響楽団

ハンス・ザックス：ペーター・ウェーバー
ファイト・ポーグナー：ハンス・チャマー
クンツ・フォーゲルゲザング：大野光彦
コンラート・ナハティガル：峰茂樹
ジクストゥス・ベックメッサー：マーティン・ガントナー
フリッツ・コートナー：米谷毅彦
バルタザール・ツォルン：成田勝美
ウルリヒ・アイスリンガー：望月哲也
アウグスティン・モーザー：高橋淳
ヘルマン・オルテル：長谷川顯
ハンス・シュヴァルツ：晴　雅彦
ハンス・フォルツ：大澤　建
ヴァルター・フォン・シュトルツィング：リチャード・ブルナー*
ダーヴィット：吉田浩之
エーファ：アニヤ・ハルテロス
マグダレーネ：小山由美
*トルステン・ケールが来日できなくなったため、代役。

　序曲は速めのテンポでレガートかつソステヌートで演奏された。もっと重厚な方がこの作品には相応しいのではないかと思う。
　第一幕、ヴァルターにダーヴィッドがマイスタージンガーの歌に求められる様々な形式について長々と説明する。残念ながら長時間のソロに耐えうる程の力量が歌手になく、少々辛かった。演技は悪くなかった。
　第二幕、逡巡しつつもエーファの態度から本心を読み取り、彼女への思いを諦めるザックス。ベックメッサーの歌が元で騒動が巻き起こる。
　第三幕、口ではエーファを罵りつつも、その実二人を応援する気持ちがあることを理解し、ザックスに感謝の気持ちを表すエーファ。ザックスにとっては、それがまた切ないのではないか。ヴァルターの歌はマイスター達に認められ、人々はザックスを讃える。
　衣装は19世紀末くらいをイメージしたものだろうか。マイスター達の正装はテールコートだった。

　熱っぽいところに眠気を催す薬を飲んでいるので一幕、二幕はところどころ半覚醒状態になってしまった。ザックス役のペーター・ウェーバーの歌は堅実で温かみがあり、また恐らく190cm近いのではないかと思われるくらいの長身で、確かな演技力とともに大変舞台映えした。エーファ役のアニヤ・ハルテロスも180cmくらいありそうな長身。立ち姿が美しく、歌も良かったと思う。ベックメッサーは悪役かつ物語を牽引する重要な役どころ。歌手の健闘が光った。

　前作の『トリスタンとイゾルデ』が疾走する若い魂の物語であるのに対し、こちらは成熟した大人の物語である。トリスタンとイゾルデは己の心の赴くままに行動し、それにより周囲に混乱と悲しみをもたらしただけではなく、自分たち自身も破滅する。一方ザックスは理性により諦観を受容し、周囲も、そして自分自身にも幸福を呼び込む。彼にとってエーファは娘のようであり、同時に女性として愛情を感じる存在でもある。己の年齢を意識し、若い二人を結びつける役を自ら選び取る。パンフレットに「ワーグナーの恋はいつも一目ぼれである」という一文があり、なるほどまさしくその通りだと思った。エーファとヴァルターは教会で出会った途端に惹かれあう。そこには相手の人間性の有様など介在する余地がなく、またはたから見るとヴァルターは気位の高い、領地を維持できなくなった零落した騎士としか映らない。人間としては、ザックスの方が遥かに魅力的だ。

　終演間際のザックスの演説は、この作品がナチス・ドイツに都合よく利用されてしまった過去を想起させる。今回初めて知ったのだが、この部分、当初ワーグナーの構想にはなく、コジマの強い要望で付け加えられたそう。ここだけ取り出すとドイツ人、ドイツ文化の称揚と他国排斥に聞こえるが、作品の舞台となった16世紀当時の事情を考慮すれば決してそうだとは言えない。全体からすると、蛇足であることは否めないが、それがこの作品の価値を損なうことには決してならない。他国排斥と自分を育んだ文化に誇りを持つことは、同じではない。忌まわしい過去を払拭するかのように、城壁から「芸術と自然」と書かれた幕がおろされ、全員がそれを敬意を持って見上げたところで、終了となった。

　オケに対しては不遜な物言いながら、だいたいこんなところだろうと思いつつ、簡素な中にも時代を感じさせるセット、大方の出演者の好演と、概ね満足した公演だった。

　開演前のロビーには「日本ワーグナー協会」がスペースを持っていた。活動内容はどんなものなのだろうか。気になる。
　

2005年09月10日(土)

NHK交響楽団定期公演

NHK交響楽団定期公演　NHKホール　PM6:00～

　NHKホールは遠い。距離そのものよりも、雑踏を抜けていかなければならないのが恨めしい。暑い季節ならなおさらのこと。
　開演前の恒例になっている室内楽の演奏を、階段の踊場から聴く。といいつつ、実際に聴くのはこれが初めて。前に人がいるため小さな舞台はほとんど見えないが、音楽を聴くぶんには問題なし。曲は日本の現代作曲家（名前は失念）の作品で、トロンボーン四重奏曲。珍しい。『夢』と題された、夢の中の出来事と覚醒までを描いた音楽。トロンボーンの音はこうして改めて聴くと意外とまろやか。こちらも恒例となっている、退団する団員の紹介。定年退職だそうで、良い演奏へのお礼とお疲れさまでしたの意味を込めて拍手を送った。

　座席は2階席センター後列。座席は7～8割方埋まっていた。本日のコンサートマスターはマロさん。

指揮　ピンカス・スタインバーグ
ピアノ　コルネリア・ヘルマン

モーツァルト　セレナードニ長調　K.239「セレナータ・ノットゥルナ」

　モーツァルト20歳頃の作品。弦楽とティンパニーという珍しい構成。2楽章で弦楽四重奏が組み込まれるのが面白い。曲名からはぴんとこなかったが、聞き覚えはあった。楽しい小品で、良い時間が流れていった。

モーツァルト　ピアノ協奏曲　第23番　イ長調　K.488
　
　モーツァルトの作品数は多いので、このように数字だけで示されている曲はピンとこないが、聴き始めると確かに聞き覚えあり。ピアノは正確なタッチで音色も決して悪くはないが、音の輪郭がやや不鮮明。大満足するまでには至らず。そもそもモーツァルトの曲は技術的に困難を極めるということもなく、構造はいたってシンプル。だからこそ人の心を動かす演奏は難しい。

ベルリオーズ　幻想交響曲　作品14

　ロマン派の先駆けとなった記念碑的作品。私の好きな曲である。第一楽章は若干早めのテンポで演奏され、自分の好みからするともう少し粘着感が欲しいところ。先行き不安になったが第二楽章のワルツは秀逸。心躍るなかみも不安が見え隠れする。第三楽章の牧歌的な情景の中に忍び寄る疑惑、そして第四楽章の処刑台への行進へと続く。この行進曲に肝要なのは、疾走するヤケクソ感だと日頃思っているのだが、やや物足りないなさを感じる。第5楽章のサバトはしっかりとしたリズムの中に猥雑さが混入されて、これまた秀逸。全体として満足の行く演奏で、拍手をする手に力がこもった。

　周囲に様々な雑音があって、残念。音楽を聴きに来ているのに、何故騒音を立てられるのか？謎。

　

2005年09月03日(土)

青陽会大会

青陽会大会　観世能楽堂　AM10：00～

　柿原崇志師、弘和師、光博師親子の社中合同発表会。松田師の笛聴きたさに足を運ぶ。朝一番の見所はさすがに空席の方が多かった。正面席後列に着席。
　演者は玄人のみ記載。地謡は省略。

一調
『籠太鼓』　　田崎　隆三　　柿原　崇志

　田崎師の謡は個人的にどうもなぁと思っているので、今回もやはりそういう感想。

囃子
『笠之段』（観世流）
小野寺　竜一　（噌）　幸　信吾（幸）

『玉之段』（観世流）
小野寺　竜一　（噌）　大倉　源次郎（大）

『東北』クセ　（宝生流）
松田　弘之（森）　大倉　源次郎（大）

『船弁慶』　（観世）
小野寺　竜一（噌）　幸　信吾（幸）

　ここで電話をするために一時退席。一番抜かす。

『羽衣』キリ（宝生流だったかもしれないが失念）
笛　小野寺　竜一（噌）　小鼓　幸　信吾（幸）

『花月』（観世流）
笛　松田　弘之（森）　小鼓　幸　信吾（幸）　太鼓　梶谷　英樹（実際は金春惣右衛門師のお孫さんだった）（春）

『忠度』（観世）
笛　小野寺　竜一（噌）　小鼓　大倉　源次郎（大）　

『遊行柳』（宝生流）　神主　弌二
笛　松田　弘之　小鼓　大倉　源次郎（大）　太鼓　金春　惣右衛門（春）

　小野寺竜一師の笛を聴くのは今回が初めて。笛の当て方、息を吹き込むときの姿勢、音色等、師匠の一噌隆之師によく似ている。音が細く、力感も不足していてあまりいただけなかった。舞になるとそれが顕著。今後の精進に期待したい。
　松田師のアシライは同じ種類のものを吹いていても、その曲に相応しい音がする。勿論舞も同様。
惣右衛門師の太鼓は改めて素晴らしいと思った。

　あと1、2番観ていようかとも思ったが、私よりも大分後からやってきて隣に座られた高齢の御婦人が、私をどかしたいらしくしばしばこちらに視線を送ってきて鬱陶しかった。後の会話でやはりそうだと判明し、当初の目的を果たしたので退出した。お友達の分も席を確保したいのだったら、正面席以外はまだまだ空席がほとんどなのだからそちらに座ったらいかがだろうか。どうしても正面席に一列にならんで座りたかったら、早めに出てくれば良いだけの話である。
　
　源次郎師と松田師はこの後横浜能楽堂の公演へご出勤。この種の仕事で忙しいのは良い事であるし、お二人にとっては掛け持ちなど日常茶飯事だろうが、くれぐれもお身体おいとい下さいと思うのであった。

こぎつね丸