A Will
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憧れの人が言っていました。
桜は思い出とともにある花だ、と。
わたしは、なるほど、と頷き けれども、と首を傾げるのです。
果たしてわたしは、一緒に桜なんて見たかしら?
共に過ごせた春は少なすぎて、そうして幼かったわたしたちが、あらためて見上げた桜も「桜が咲いたね」などと情緒溢れる会話も、記憶の中に存在しないのです。
それでも、咲いた桜の花を見ると、それが夜の桜なら尚更、 わたしは、その男の子の面影を重ねてしまいます。
いつも携えていた赤いパッケージのコーラ。 日に焼けない腕。 気難しく引き結ばれた口。 なのに笑うと驚くほどあどけないのは、まだ低くなりきらない声のせいだったのかもしれません。
ひんやりと冷たい手。
彼を想うときに、浮かぶのは淡い寒色でした。
桜色、と言えば淡いピンクを思うけれど、 夜の桜は更に淡くて、辺りの暗さに紛れて、それはもう昼間の桜色とは明らかに違いがあります。
夜の桜の色。
淡い淡い藍色。
思い出とともに咲く花、の色。
なるほど、それは確かに彼の色でした。
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