A Will
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2006年05月21日(日) 理解範囲なんてあったんですか。

疑問文にしようと思ったのに、語尾はあっさり下がった。
別に何を演出したかったわけでもないけれど、
そちらのほうが、余程感覚的には疑問文であった、とか思いつく。

まったく。どうでもいいことではあるけれど。



電話越しの彼は笑顔だ。きっと。
相変わらずの優しさを湛えて、堪えきれないくらいの悪意で以って。


憎まれているのでしょうか?

何故か敬語で聞いて、しばらく待ったけれど返答はなかった。




憎まれていない、はずがない。
あぁ、ごめんごめん。ちゃんと考えてモノしゃべるよ。




「どうせ、なんて言葉は嫌いだけどね。それでも、どうせお前には理解しきれないよ」

柔らかな声が、耳元で響いて、直感的に機嫌が悪いなぁと思った。
理解範囲外、なんだって。


なにそれ。






大丈夫だよ。
わたしは、今もこれからだって、きっと思う存分、1人で泣くもん。

ご心配には及びません。




だから、君はいつだって傍観者でいてくれて結構よ。







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2006年05月06日(土) 優しい記憶。

「雨、落ちてきた!」
と窓の外を指差したら、こーちゃんは笑った。

「なに?」
首を傾げたら、なんでもないってまた笑った。

「うそ。なぁに?ねぇなぁに?」
何度も聞いたら教えてくれるのを、知っているから何度も聞いた。
こーちゃんは、一人でこっそり笑ったあと、小さい声で言った。

「雨は、落ちるじゃなくて降るって言うでしょ」


あぁ、そんなこと。と頷いたら、
そんなことだよ。と、また一人で笑った。



あの日以来。
わたしは、雨が落ちる、とは誰にも言ってない。


*****************


こーちゃんが、うなされてたから、とりあえず起こしてみたら、
ぬっと伸びた手に髪の毛を掴まれた。

「痛い」
「・・・ぇ・・?」
「え、じゃなくて。痛いから早く放してくれる」

溺れる夢を見た、とこーちゃんは言った。
こーちゃんの指には、わたしの髪の毛が何本か絡まってた。



理由はない。
ただ、なんとなくホッとした。

こーちゃんが起きてくれて良かった、と心から思った。


寒い寒い冬の夜。
暖かいこーちゃんの両足は、それだけで宝物だった。


******************

長ったらしい数式の書いてある本を、こーちゃんは読んでた。
「楽しい?」って聞いたら「九九やってるときよりは」と、
楽しいんだか楽しくないんだか、解んない答え。

いんいちがいち。いんにがに。いんさんがさん。

隣で騒いだら、こーちゃんは本を閉じた。

溜息。眉が数ミリ上がる(呆れてるサイン)また溜息。


「にゃこちゃん」
とこーちゃんしか呼ばない呼び名で(ていうか原形留めてないよ。全然)
ちょっとだけ怒られた。


沈黙の中で、こーちゃんはひたすら本を読んでた。
ものすごく難しい顔して。

こーちゃんですら難しい本ってどんなだろうと、わたしもつられて難しい顔になった。


この5分くらいあと。
こーちゃんから「ごめん。まだ怒ってるの?」と聞かれて爆笑した。


****************

起きたら、こーちゃんがいた。

なんとなく、赤ん坊の気持ちが解った。


「起きてこーちゃんがいると、うれしい」
「そら良かった」

****************


溢れかえるほど、こーちゃんの記憶は嫌味なく優しい。

あんなに傷つけて、傷つけられて、
それでも、多分、わたしのほうが多く傷つけたはずだったのに。



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ありがとう。
何食わぬ顔で生きていけるわ。


2006年05月03日(水) 依存症。

子供が泣くのは知ってるからだよ。

唇を尖らせて、あの人は言った。
何を?とわたしは聞いたような気がする。

何を知ってるの?

庇護者が自分のそばにいること。



泣くのをバカバカしいと思ってた。
泣いたって変わらない現実と、
泣くことでしか表現できなかった自分自身と、

どうしようもなくバカバカしくて、だから泣きたくなんてなかった。





家族の死を神様に願いながら眠りについたことのあるわたしを、
現実に殺すために包丁を握ったことのあるわたしを、

あの人は、軽蔑に値すると、笑って言った。


『俺が欲しいって思ってるものを、壊したいって思うお前ってすげー』

分かり合えることはない、と言われる。
分かり合えちゃダメだ、とも。



愛せない、とわたしは泣いたんだと思う。
どうしても愛せないと思って、どうしてもいなくなってほしくて、

それがどうしても悲しかった。


どうしようもなかった。




愛せないことは、悪いことじゃないよ。


紛れもない優しさが声になって響いて、
ただ、安心をした。

分かり合えることはなくても。
同じ気持ちの子供がここにもう一人いた。


嬉しかった。






愛せなくても大切にはできるでしょ。

あの人の弟が、同じようなこと言って笑ったの。
まったく兄弟ね。似てるのね。



掬い上げられる感覚。






最近はまた泣いてない。けれど。
もう殺したいなんて思ってない。

痛みも、何もかも。







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