長い長い螺旋階段を何時までも何処までも上り続ける
一瞬の眩暈が光を拡散させて、現実を拡散させて、其れから?

私は、ただ綴るだけ。
音符の無い五線譜は、之から奏でられるかも知れない旋律か、薄れた記憶の律動か。








2006年12月31日(日) おおつごもり

 大晦日。
 ――とは言うものの、現代では「ハレ」ではなく「ケ」と化しつつある年の暮れに改めて書くことなんて無い。そう思っているところに珍妙な100質発見。最近はバトンばかりが流行っているけれども、流行に反発して頑張ってみる。
 題して「答えられても困る100の質問」。

1.あなたの本名を教えてください。
 +意味は Ich habe Hoffnung.

2.たまねぎは好きですか。
 +熱を加えると甘くて美味しいよね。

3.ジャングルジムの魅力って何だと思いますか。
 +昇れる、潜れる、秘密基地みたい。

4.空母と水母だったらどっちがいいと思いますか。
 +どちらかと言えば、水母。

5.リンボーダンスは得意ですか。
 +苦手。

6.ココアにミルクは入れますか。
 +湯:牛乳=5:5でお願いします。

7.好きな呪文をひとつ。
 +クルシカ クルシカ ベサベサ。

8.消しゴムのカスとか、つい手で丸めてしまったりしません?
 +しません。

9.あなたの得意な戦術はなんですか。
 +一撃離脱。ヒットアンドアウェイ。

10.あなたのお父さん、どんな人?
 +甘さ:辛さ:苦さ=4:4:2な人。

11.綺麗な嘘は好きですか。
 +大推奨で。

12.心に残る名悪口を教えてください。
 +滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺(以下略)。

13.一日に何回くらい「ありえねえ」って言いますか。
 +0〜5回。

14.こういう官房長官はゆるせない!
 +自己保身に走る奴。

15.新着メール、来てます?
 +来てないと思われます。

16.好きな病原体を教えてください。
 +溶血性連鎖球菌。

17.最近警察の不祥事が多いですか。
 +らしいです。

18.あなたが首相になったとしたら、まずどんな買い物をしますか。
 +北の大地を独立国にする為の買い物。

19.ピンセットにまつわる思い出を聞かせてください。
 +細胞分裂研究用のプレパラート製作。私は理科少女でした。

廿.嫌いな記号をひとつあげてください。
 +@

21.現実逃避と権謀術数の違いは何だと思いますか。
 +前者は自身を欺くこと、後者は他者を欺くこと。

22.架空の大陸名を考えてください。
 +パシフィス。

23.いま暇なの?
 +全然。

24.友情ってなんだと思いますか。
 +あると嬉しいかも知れないもの。

25.一番美しいと思う体操は何ですか?
 +頭の体操。

26.今はまっている方言はどこの地方のものですか。
 +北海道と京都と沖縄。

27.黒板を爪でこするってのはいかがでしょう。
 +最悪。

28.いちばん嫌いな花はなんですか。
 +無花果。

29.子供は何人ほしい?
 +なければなくても。

丗.あなたの友だちが「自分は北京原人だ」と言い張ったらどうしますか。
 +「其れで?」

31.オードリー・ヘップバーンは好きですか。
 +好きです。

32.タイフーン(=台風)の語源って中国語・ギリシア語どちらだと思いますか。
 +中国語。

33.いま、一番最初に思いつく魚はなんですか。
 +出世魚、鰤。

34.N極とS極、どっちが好き?
 +N極。

35.ブルターニュ半島についてひとこと。
 +ケルト文化の名残。

36.アニメで一番好きな脇役を教えてください。
 +基本的に脇役好み。助演万歳。

37.1日何時間くらい独り言を言いますか。
 +鼻唄は少なくないけれども、其れ以外は音声化しない。

38.拷問で一番苦手なのは?
 +痛みが続く奴。

39.霊感はいいほうですか。
 +昔はね。

40.最近、気色悪いと感じたものは?
 +某先輩。

41.こんにゃくに対して憎しみを感じるのはどんなとき?
 +熱を加え過ぎて溶解していたとき。

42.黒ゴマ派?それとも白ゴマ派?
 +白ゴマ派。

43.誰かの受け売りをしてください。
 +愛情の反対は憎悪ではない、無関心である。

44.ノアの箱舟のなかで肉食動物に食われて絶滅した動物は何種類くらいだと思いますか。
 +ゼロ。皆仲良く、其れが究極の神話。

45.あなたのファンの名前をあげてください。
 +「  」

46.好きだけど恥ずかしくて言えないセリフはなんですか。
 +「オレ、お前のそういうところ、嫌いだ」

47.昆布茶好き?
 +昆布は嫌いじゃない。

48.中1のときの担任の先生のいいところは?
 +優しさと厳しさと積極的志向。

49.足首に自信あります?
 +ないです。

50.理想の離婚相手はどんな人ですか。
 +自分と一緒にいるより其の方がシアワセでいてくれる人。

51.シダ植物は好き?
 +初めて生で見たときは吃驚した。

52.ある日あなたが目覚めると、紫キャベツになっていました。そのときどう思いますか。
 +ちょっと苦そう。

53.普通のキャベツだったらどうですか?
 +自我があるなら、せめて腐る前に処分して下さい、と。

54. 嫌いな作家を一人あげてください。
 +笙野頼子。苦手なんです御免なさい。

55.最近、航海したことはありますか
 +眠りの中でも毎日でも。

56.何かえげつないことを言ってください。
 +二酸化炭素中毒。

57.「三色□順」の□に正しい漢字を入れなさい。
 +三色同順。

58.メグミルクが雪印だと知っていましたか。
 +知っていました。地元だし。

59.生きるとはどういうことでしょう。
 +命の役目。

60.自分は救世主であると思う?
 +なれないかな。

61.もし明日地球が滅亡するとしたら、何をしたくないですか。
 +敢えて特別なことはしたくないです。

62.これは王道だ、と思うものはありますか。
 +月に叢雲。

63.組織を裏切ったことはありますか。
 +胸中では常に。

64.貝とお豆、選ぶならどちら?
 +お豆。

65.生物兵器には弱いほうですか。
 +弱いのではないでしょうか。

66.ドラムはお好きですか。
 +あまり。

67.今のお気持ちは。
 +疲れてきました。

68.この世で最も大事な壁って何でしょう?
 +壊しても良いけれども壊されない壁。

69.邪馬台国って結局どこにあったと思いますか。
 +九州説に一票。

70.パジャマにはこだわりますか。
 +こだわります。

71.龍と竜、どちらがすきですか。
 +龍。竜は尻尾に毒針持ってそうです。

72.原作を読んで、アニメやドラマのほうがよかった、と思うことはよくありますか。
 +大抵は原作推奨。

73.うにゃあ?
 +みゃあ!

74.どうしても好きになれないおでんの具は?
 +変り種は嫌い。

75.自分は好きですか?
 +嫌いな時と許せる時と、ある。でも少なくとも好きではない。

76.そんな自分を自惚れだと思いますか?
 +多少ね。

77.なんで泣くの?
 +自己防衛。

78.例の件、どうなりました?
 +可能であればもう少し時間を頂きたいところで御座います。

79.三角フラスコとメスシリンダー、どっちが好み?
 +三角フラスコは洗い辛いので、メスシリンダーで。

80.「もけらもけら」は好きですか?
 +怖い。

81.トイレットペーパーは右巻き派?左巻き派?
 +別に。

82.あなたにとってカナブンとは何でしょう。
 未知。

83.私の願い事をひとつだけ叶えてくれるとしたら何?
 +私が生まれる前まで時間を遡らせて下さい。

84.預金通帳よりも大事な人って何人いますか。
 +比較対照にはならないと思います。

85.愛されてますか?
 +微妙です。

86.今一番ほしいシールは?
 +封蝋用の奴。

87.自分を電化製品に例えると?
 +電子メトロノーム。

88.屁理屈をひとつどうぞ。
 +世界なんて神様の気紛れで動いていますから、人間なんて何を遣っても。

89.絶滅危惧種の中で何が一番嫌いですか。
 +地球上のバランスを崩しそうに無い奴。

90.好きなキャプテンは?
 +宇宙船の奴。

91.なにがあなたをそうさせるの?
 +生まれ落ちた瞬間の冷たさが。

92.いますぐ何か挫折しなければいけないとしたら何にしますか。
 +言葉を喋ること。

93.山形県民にあるまじき行為とは?
 +さくらんぼを貶める行為。

94.関節技に対する熱い思いを聞かせてください。
 +小学校の時は女友達同士で痴漢対策によく訓練したものです。

95.めぐらせてみたい妄想は?
 +トンネルを抜けると別世界。

96.一番好きな誤変換はなんですか。
 +「ヒロシ前」→「広島絵」。先日の出来事。

97.ドイツに人工衛星が落下したらどうします?
 +取り敢えずニュースに見入ります。

98.もう一度人生をやり直せるとしたら、食べたい料理はある?
 +……ゲテモノ?

99.凡才を定義してください。
 +特別である事を望まない努力の人。

百.最後に、無関係の他人に対してひとこと。
 +御機嫌よう。


 火取蛾様。
 多謝。



2006年12月29日(金) 逃避願望

 旧友に会う。中学時の同級生で、忘年会というか、プチ同窓会というか。私が――多分、二十数年の人生で唯一 つるんでいた 時期の、同胞とでも言おうか。私だけは色々と都合があって、或いは毛色が違ってか、会うのは成人式以来だ。何と無く――避けていたのは、恐らく私の方だろう。彼らの方でもそうだったのかも知れないけれども、知る術は無い。
 地元で、イタリアンの店に。其れから私にとっては中学以来となるゲーセンへ。耳鳴りが収まらない感覚。然し、皆は慣れているようだった。……驚くべきことか、或いは当たり前の事か。
 クッションをひとつ、貰った。

 避けてきたのは私の方。中学卒業からは年月も経って、其の間にも様々なことがあって――私だけでなく彼らにも色々な経験があって――私は旧友に対して、同胞に対して、其れらに対する表現方法が解らなかったのかも知れない。少なくとも、恐れてはいた。私は純粋に怖かった。でも――若しかしたらもう大丈夫かも知れない。そんな風に、思ったのは何故だろう。まだ、或る種の恐怖は拭い切れていないけれども。
 羨ましい、と思う。私は大学生で、まだ学生の身分に甘んじようとしているのかも知れない。彼らは、既に働いていたり、これから働こうとしていたり、色々だけれども。遊ぶときに遊べるという当たり前の事が出来る――其れが、羨ましい。今の私には出来ないことだ。
 私は、唯、逃げたい。



2006年12月24日(日) 聖夜

 此の記録を生存の記録として消去せずに残し始めてから、今日で三年目。此の日記ツールを使い始めてからとなると六年近くが経過する――確か、二月頃から使い始めた筈だから。今はもう、昔のログは残していないけれども。消去するには其れなりの理由があったわけで、ログ消去に関して後悔はしていない。

 聖夜。私は基督教徒ではないけれども。

 信仰を持っているか。そんな問いを受けたことがある。貴女は信仰を持っていそうだね。其の時、そう、言われた。
 神。其れを God と訳する存在とするならば、よくわからない。自分自身がそういう信仰を持っているのかどうか、不明瞭だ。ただ――神なるものが、spirit と訳される存在ならば、私はきっと信じている。だから信仰を持っているというのは真実ということにもなるだろう。
 尊敬し敬愛する詩人先生の講義を今年も三日間受講してきて、まだまだ微熱を帯びたような感覚を忘れていない。人は生まれる時も死ぬ時も一人なんだよ――そう教えてくれた、先生。日本の神は God ではなく spirit かも知れないね――そう教えてくれた先生。以前は解らなかったこと、今だから解ること、今でも解らないこと、未来には解るかもしれないこと、――色々だ。

 一応、人並には基督生誕祭前夜をお祝いしている。
 手作りリースに手作りツリー、独逸の伝統的なクリスマス用菓子パンであるシュトレンを用意して、シャンパン(じゃないな、スペイン産スパークリングワイン)も捧げてみる。恋人と過ごすクリスマスイヴでも友人と騒がしく過ごすクリスマスイヴでもなければ、教会を訪なうクリスマスイヴでもないけれども。夜、眠る前には以前そうしていたように祈りを捧げてから眠ろう――ずっと、私がそうしていたように、また祈りの時間を始めようか。四方に祈りを捧げる、ノウィーナを。



2006年12月17日(日)

 夢が、夢じゃなくなってゆく。――なんだ、正夢だったのか。そう気付くのは、当然ながら夢が現実となった後のことで、夢見た直後ではない。正夢だと解した時の――遣る瀬無さといったら。

 一体、私のことを「私」と知る人のどれくらいが此処の存在を知っているのだろうなぁ、等と考えつつ。
 中学時代の友人からメールがあったのは今日の夕方の事。在学中にはよくつるんだものだ。卒業後も暫くは年に二回ほど――必然的に夏休みと冬休みに、集まったものだ。高校卒業後は其の回数も段々と減ったけれども、今年の夏には集まった筈だ――何人集まったかは知らない、私は所用で行けなかったから。大体、このメンバー――最大9人――の中で時間的制約を異常に受けているのが私だろう。どのようなグループの中にいても、私は常にそう。時間的制約を誰よりも受けている。家を出たいと強く思うようになったのは、此の時間的制約が大きいんだろうな。
 会いたい気持ちと、会わない方が良いのではないかという躊躇い。どちらを尊重しても、きっと、私の中に幸せは残らない。



2006年12月15日(金) 「孤独」と「孤立」と

 孤独なのか、孤立なのか、――そんなことを考えていた。不意に得心がいく。つまり、私は「孤立」はしていないけれども「孤独」なのだ――と。其れは偶然とか必然とか運命とかそういうことではなくて、多分、私の選択の結果なのだ。私は、「孤独」であることを選んだ――。

 同級生とつるむことを好まずに今まで来たように思う。友達の輪の中に居ても、私は 一人 だった。そういう思いを拭い切れずにいた。其の、答。私は幸福であることに、決して「孤立」はしていなかったのだ。唯、「孤独」であっただけで。



2006年12月13日(水)

 不快な煙草の匂い。あれだけ煙草嫌いだった兄は何処へ行ってしまったのだろう――健康の為に禁煙した父と、何時の間にか愛煙家になった兄。鬱病診断は、きっと誤診だ――私は、鬱に関しての偏見は持っていないと思う、そうして肉親であるという穿った見方を取り除いても、きっと兄の鬱病は誤診だと私は疑っている。兄は、鬱病ではなく、鬱依存症だ。日がな一日オンラインゲームに勤しむ兄が、チャットを楽しんでいる兄が、如何して欝なのだろう。私でさえ――外界とのコミュニケーションを一切遮断する時期がある、のに。私は、何だったんだろう。
 紅く染まっているのは、私の腕だけではなくて。

 頭が痛い、なんていう一言は、私には許されない。先ず第一に、数値での証明。其れは体温計が表示する無機質名数字が表す、私の熱量だ。第二に、目に見える症状。其れは洟だの咳だの、或いは嗄れ声といった、下らない抗体現象だ。第三は無い。頭痛は数値で表されることがなく、目に見える症状もない、だから私は認められない、許されない。母だけが、許される。母は、絶対の存在だ――私が最も苦手とする人で、同時に私が最も嫌いたい人。其れは、遠い記憶の底からの願望で、何時か実現したら良いな、して欲しい――そういう曖昧極まりない願望だ。いつか、僕は、母を大嫌いだと言えるようになりたい。そういう、淡い、願望。
 許されていないのではなく、赦されていないのだ、私は。


 



2006年12月09日(土) 曖昧過ぎる境界線

 進入。侵略。土足で上がり込んで来る人格達。――侵される。

 此処のところ、ずっと、夢の中で領域を侵されている。私の、部屋。
 最初は、私が部屋に入ると 人 が居て、家具の配置が微妙に――数十センチ単位でずれていて、私は 人 を追い出した後其れに気付き、必死で家具を元の位置に戻そうとするのだけれども、自分一人の力では到底動くものではなく、其の 人 は如何遣って動かしたのだろう――と思案しながら悔しい思いをしている。
 次は、私はベッドで眠っている。部屋着だ、午後の、束の間の転寝。 人 が、部屋のドアを開ける。そうしてベッドを覗き込むようにして、足元に何か――お菓子のようなものを、幾つか放り投げて去って行く 人 。私は、其れを拾い集めて枕元に置く。薄笑いが聞こえる。
 次も矢張り、私はベッドで眠っている。寝間着で、時間は朝方だ。不意に――大きな声が私の名を呼ぶ、否、叱るように叫ぶ。私は驚いて目を覚ます。其の声の 主 は、何度も私の名前を叫ぶ。私は恐怖で、起き上がることが出来ない。
 今日、私はベッドで眠っている。頭痛で起きていられないのだ、部屋着で、昼下がり――夕暮れ前。 人 が、突然部屋に入り込んでくる。ベッドを覗き込み、就職は如何しただの卒論は如何しただのと生々しいことを訊いて来る。訊問だ。熱に浮かされている私は、普段は使わないような言葉遣いで 人 を追い払おうとする。そうすると其の 人 は私の額に手を当て、熱なんか無いじゃないかと嗤う。後ろからは別の 人 。二人で冷笑を残して、部屋を出て行く。私は、涙を流している。

 全部、夢だ、そう思う。にも拘らず、何て生々しい。出て来る 人 は、全て私の身近な 人 だ――血統的に身近過ぎる、人。私の、何処かに潜む罪悪感の塊を露にされたような、不快な侵略。夢と現実の、狭間。境界線は何時しか曖昧になり――私は、自我を壊すのだろうか。
 夢は、何時もモノクロだ。今回だって、例に洩れずモノクローム。でも――人間は暗闇の中では桿細胞しか働かないのだから、色彩を感じなくて当然なのだ。詰まり、私の見ている夢は――カラーではないということは――単純に脳の作り出した幻覚ではなく――視覚野が現実状況を強く反映しているということにならないか。だって、私が見た夢の中の時刻は、現実の時刻とほぼ一致している。そうして、私のベッドの頭部は、窓からの光が遮られる薄暗い所に位置しているのだ。……ほら、夢と現実なんて、こんなにも、曖昧な境界線でしか区切られていない。私は、もう、何が夢で何が夢ではないのか、判じることが出来ない。



2006年12月04日(月)

 記憶。

 記憶に関して友人が記していたので、私も少し書こうと思う――。
 記憶。何度も此処にはきっと記して来た筈だ、様々な形を取って。今更言うまでもなく、記憶なるものには四つの過程があって、記銘、保存、再生、再認、此の中でひとつでも欠けたるものならば記憶は記憶として機能しなくなる。幸い、私の場合は全てが機能しているわけだ。忘却という行為は本来――脳としては在り得ない行為で、例えば抽斗の中に記憶を仕舞っておく、其の記憶を何処に仕舞ったかわからなく記憶を取り出せない状況が、忘却という概念になる。私の場合は、此の忘却概念も然程多くなく、傍から見れば 記憶力の良い ということになるらしい。私自身としては、他の誰よりも自分が 世間知らず だということを認識しているが故に努めて何でも無造作に取り込むような癖がついてしまっている為か、同年代の友人からは歩く辞書だの生字引だの呼ばれることも少なくないが、これらの呼び名は私から見れば甚だ的外れなものだ。呼ばれて決して嫌ではないが、快・不快で言えばどちらかと言うと不快に相当する。何故なら、先に述べたとおり、私は私自身が如何に世間知らずであるかを知っているからだ。

 記憶から少し遠ざかってしまったけれども。
 記憶分野は兎も角、――私は其の方面専門ではないし、専門書は山ほど出ているので多くは割愛するけれども、私としては、誤解されているというのが一番辛いところだ。私の世間知らずが――この 世間知らず という言葉さえ、きっと世間一般で言うところの 世間知らず とは少しずれたところに位置しているのだろうと私は考えているわけだけれども、其の私の世間知らずが、私の家庭環境にある、と言い切ってしまえるほどに、原因は判然としている。判然としているが故に、其処から抜け出せないことも認識している。私は、畢竟するに、演ずるより外の道は無いわけだ――そうして、歩く辞書だの生字引だの、そういうものを演ずることが容易いことではないということくらいは理解できる思考能力は持ち合わせているわけで。
 ……何、ということは無い。私は鏡に過ぎない。演じることさえ、鏡でしかない。










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