今日の日経を題材に法律問題をコメント

2010年09月30日(木) 金融ADR(裁判外の紛争解決)制度が始まる

 日経(H22.9.30)4面で、金融ADR(裁判外の紛争解決)制度が10月1日から始まるという記事が載っていた。


 金融ADRとは、紛争解決機関が金融業者と利用者の仲裁に入り、和解案を提示するという制度である。


 裁判をするより、安い費用で短期間に解決できるというメリットがある。


 すべてがこの機関で解決するわけではなく、過剰な期待はできないが、利用者にとっては使い勝手のいい制度であると思う。


 ただ、費用が安いといっても、日本貸金業協会や証券あっせんセンターでは、請求金額に応じて利用者に2千円から5万円の手数料を取る点は気になる(無料のところもある)。


 以前、証券あっせんセンターにあっせんを申し立てことがあるが、手数料として5万円請求され、費用が安いことを謳い文句にしているにしては高いなあと思ったことがある。


 もう少し手数料の上限を下げるなどの改善をすべきではないかと思う。



2010年09月29日(水) 検事たちが言っていることが違っている

 日経(H22.9.29)夕刊で、捜査資料改ざん事件で、検事正は「書き換えの報告を受けていない」と述べたと報じていた。

 
 この事件では、検事たちが言っていることはみんな違っている。


 前田検事の同僚は、「前田検事が故意に書き換えたことを認めており、特捜部長らにもそれを報告した」と言っているそうである。


 しかし、特捜部長は、前田検事から「誤って書き換えた」と言われたと話しているらしい。


 また、記事のように、検事正は報告を受けていないと言っているが、特捜部長は検事正に報告したと述べているそうである。


 これは、誰かがウソを言っているというのではなく、記憶のあいまいさを表しているということだろう。


 ところが、これまで検察庁は、一つのストーリーを作ってそれに合わせる供述を取ってきた。


 取り調べられる方は、記憶があいまいだから、検察庁のつくるストーリーに合わせざるを得なくなってしまう。


 今回、前田検事、同僚検事、特捜部長ら、検事正の言っていることがそれぞれ違っているが、検察庁があるストーリーをつくり、それに合わせる供述を取っていくとすれば、それは皮肉というしかない。



2010年09月28日(火) カメラ映像を渡しことは「公益目的」

 日経(H22.9.28)社会面で、ロス事件の三浦和義元社長が、万引きの様子を撮影した監視カメラ画像を、コンビニ店が取材記者に渡したのは肖像権侵害などに当たるとして賠償を求めた事件について報じていた。


 この事件で、東京地裁は、記者への画像データの提供は「公益目的で相当」として、同店への請求を棄却したそうである。


 世間を騒がせた三浦元社長だから、あまり問題視されないのかもしれない。


 しかし、監視カメラの映像を簡単に第三者に渡すというのは怖いことである。


 三浦和義元社長の万引き映像をマスコミに渡すことが果たして「公益目的」と言い切れるのかどうか。


 なかなか難しい問題のように思う。



2010年09月27日(月) 武富士が会社更生法を申し立てか

 日経(H22.9.27)1面で、消費者金融の武富士が、会社更生法を申し立てる方向で最終調整という記事が載っていた。


 会社更生法の申し立てによって、今後債権がどれだけカットされるかが焦点になるだろう。


 ただ、会社更生法は、少額債権などについて例外的に優先的に取り扱うことを認めており、武富士についても、少額の過払金債権についてはその適用が望まれる。



2010年09月24日(金) 尖閣諸島沖の衝突で那覇地検が中国漁船の船長を釈放

 日経(H22.9.24)ネットニュースで、那覇地検が尖閣諸島沖で日本の巡視船と衝突して逮捕された中国漁船の船長の釈放を決めたと報じていた。


 検察官は、証拠があったとしても、様々な事情を配慮して起訴しないことができる。


 起訴便宜主義といわれており、わが国は諸外国に例を見ないほど大幅にこの制度を取り入れている。


 起訴便宜主義に対しては、不当な政治介入の余地を残すという批判がある。


 今回、那覇地検は、釈放の理由として「日中関係への配慮」を挙げている。


 まさに政治判断であり、起訴便宜主義の弊害が出たという意見があるかもしれない。


 しかし、起訴便宜主義は実際にかなりうまく運用されており、比較的問題は少ない。


 今回も、釈放の理由として、日中関係への配慮だけでなく、計画性のなさ等も挙げており、穏当な判断ではないかと思う。


追加

 上記で検察官が起訴猶予処分としたかのように書いているが、これは誤りである。

 実際は、処分保留のままの釈放したようであり、起訴するかどうかの処分はしていない。

 もっとも、被疑者が日本にいないのだから、今後起訴猶予処分とすることは間違いない。



2010年09月22日(水) データ書き換えを大阪地検首脳部は知っていた?

 日経(H22.9.22)1面で、郵便料金不正事件で、最高検は、証拠品として押収したフロッピーディスクの中身を改ざんしたとして、大阪地検特捜部の主任検事を証拠隠滅容疑で逮捕したと報じていた。


 朝刊で報道されたその日の夜に検事を逮捕というあまりのスピードにびっくりした。


 「最高検の危機感の表れだろう」というコメントがあったが、それだけでこんなに早く逮捕するだろうか。


 新聞報道されただけで逮捕することはあり得ない。


 逮捕するには、捜査をして、被疑事実をそれなりに裏付ける証拠を収集する必要があるからである。


 それなのに報道された日に逮捕したということは、大阪地検は、書き換えの事実を以前から把握していたのではないか。


 データの書き換え自体は、検察庁の体質が問われるとはいえ、一人の検事の問題ともいえる。


 しかし、大阪地検首脳部が具体的事実を把握しながら放置していたとなると、その方がより大きな問題である。



2010年09月21日(火) 検事がデータを改ざん?

 日経でなく朝日(H22.9.21)1面トップで、 大阪地検特捜部の主任検事が証拠のフロッピーディスクを改ざんした疑いがあると、驚愕の事実をスクープしていた。


 その検事は、「上村被告がデータ改ざんをしていないか確認するため操作した」「改ざんは認められなかったが、遊んでいるうちに書き換えてしまった」と弁解しているそうである。


 しかし、検事はデータ改ざんの有無に関しては素人だから、自ら改ざんの有無を調べることはあり得ないし、ましてや「遊んでいるうちに書き換えた」というのは、言い訳としてもひどすぎる。


 しかも恐ろしいのは、検察庁の思い描いている構図に合致するようにデータが改ざんされていることである。(証拠請求されていないので、実害はなかったが)


 おそらくその当時、厚労省の局長が不正を指示したという検察庁の描いた構図に合致する証拠が集まらず焦っており、そのような状況の中でデータの改ざんが行われたのだろう。


 データの改ざんは主任検事個人の行為と思う。


 しかし問題は、検察庁がいったん事件の構図を描くと、それに合致する証拠のみを集めようとし、それに合致しない証拠は排除しようとする心理状態である。


 それがデータの改ざんを引き起こし、また、厚労省局長に対する無理な起訴という検察の暴走につながったのではないかと思う。



2010年09月17日(金) 橋下弁護士に2か月の業務停止処分

 日経(H22.8.27)社会面で、橋下徹弁護士(大阪府知事)が、光市の母子殺害事件弁護団に対する懲戒請求をテレビで呼び掛けたことに対し、大阪弁護士会は、橋下弁護士を2か月の業務停止処分としたと発表したと報じていた。


 2か月の業務停止は「重いなあ」という印象であるが、橋下弁護士の発言はテレビ受けだけを狙ったものであり、懲戒処分自体は当然である。


 ただ、この懲戒請求は340人が起こしている。


 これは、「一斉に懲戒請求をかけてもらいたい」と呼び掛けた橋下弁護士と同じような懲戒請求の使い方であり、問題があるように思う。


 今後、懲戒請求できる者を制限することを検討すべきではないだろうか。



2010年09月16日(木) 「捜査は医療現場を萎縮させる」

 日経(H22.9.16)社会面で、全国医学部長病院長会議は、帝京大病院の院内感染で、警視庁が病院関係者を任意で事情聴取したことに対し、「刑事責任追及を目的とする捜査は医療現場を萎縮させる」「大変遺憾である」との声明を発表したという記事が載っていた。

 
 警察は、事件解明に必要と考えれば捜査する。


 本能みたいなものであり、それによって医療現場を委縮させるのではないかという配慮はあまりしない。


 それは捜査される側にとって迷惑であることは間違いない。


 もう少し捜査される側に配慮すべきでないかと思うことはある。


 ただ、この件で帝京大病院は感染を知りながら報告を遅らせている。


 そのような事故隠しを疑わせるようなことをしている以上、捜査を開始したことを非難できないのではないかと思う。



2010年09月15日(水) 郵便料金割引制度悪用事件の無罪判決に、検察は控訴断念か

 日経(H22.9.15)夕刊で、郵便料金割引制度の悪用事件で虚偽有印公文書作成罪等に問われ、大阪地裁が無罪判決を言い渡した村木被告について、大阪地検は控訴断念の方向という記事が載っていた。


 大阪地裁は、元局長の関与を認めた供述調書の大半を「検事の誘導があった」などとして証拠採用していない。


 通常であれば、検察庁は控訴して、「検事の誘導ということはない」と主張し、供述調書の採用を求めるはずである。


 それが控訴断念ということになると、「検事の誘導」があったことを認めるに等しいから、本来であれば受け入れられないはずである。


 にもかかわらず控訴を断念するのは、検察庁に「検事の誘導」の自覚があるからかもしれない。


 ただ問題は、「検事の誘導は」この事件特有のことではなく、常態化していることにある。



2010年09月14日(火) 「給費制」は継続する方向

 日経(H22.9.14)社会面で、司法修習生に国が給与を支払う「給費制」については、廃止して「貸与制」になることが予定されていたが、民主党は今後も「給費制」を継続する方向で調整に入ったという記事が載っていた。


 すでに弁護士になっても就職できないケースが起き始めており、その上「給費制」が廃止されて「貸与制」になれば、貸与金の返済に困る弁護士が出かねない。


 私も司法修習生時代に「給費制」のおかげで助かったという思いは強く、もらって当然とは決して思っていない。


 国の財政難の中で、貸与制にせよという意見も理解できるが、給費制が存続することになってよかったなあと思う。



2010年09月13日(月) 医師によって救命確率が違う場合

 今日は休刊日。ネットニュース(H22.9.13)で、押尾学被告の裁判員裁判で、弁護側証人の救命救急医が、亡くなった田中さんについて「心肺停止前に病院搬送しても救命可能性は30〜40%程度だった」と証言したと報じていた。


 ところが、先日、検察側証人として出廷した救急医は「心肺停止前に病院搬送した場合、9割以上の確率で救命できた」と証言している。


 いずれが正しいのだろうか。(むしろ、そう簡単に救命確率を言えるのだろうかという疑問がある。)


 このような場合、従来であれば裁判官が決めた結論に都合のよい証言を採用していると思われるところがあった。


 しかし、裁判員裁判では、そのような思考方法はあからさまには取れないであろうから、どのような証拠の採用の仕方となるのだろうか。


 興味深いところである。



2010年09月10日(金) 新司法試験合格者2074人 政府目標の「合格者3000人」に満たず

 日経(H22.9.10)社会面トップで、法科大学院修了者を対象とする新司法試験合格者2074人を発表したと報じていた。


 政府目標は「合格者3000人」であるから、大幅に下回っている。


 読売新聞では一面トップで取り上げていたから、大きな問題なのだろう。


 日弁連は合格者の抑制を打ち出しているが、法務省がその意見を取り入れて、合格者を減らしたわけではない。


 政府目標で3000人合格を掲げている以上、役人はそれを忠実に実行しようとするだろう。


 それでも2000人しか合格しなかったのは、それ以上合格させると、法曹の資質に問題が生じるからである。


 2000人合格でも司法修習生のレベルが低下したと言われている。


 3000人も合格させると、残りの1000人のレベルがどんなものであるかを考えると、恐ろしい。


 新聞の解説記事では、合格者が増えない結果、法科大学院の合格率が低下しているとしていたが、それは法科大学院をつくり過ぎたからである。


 資質の維持のためには合格者2000人程度が限度ではないか。


 法科大学院の合格率の低下の問題については、法科大学院の削減こそ急ぐべきであろう。



2010年09月08日(水) 陸山会事件で審査補助員の弁護士を選任

 日経(H22.9.8)社会面で、小沢一郎前幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る事件で、東京第5検察審査会が、「審査補助員」の弁護士を選任したという記事が載っていた。


 審査補助員の役割は、審査員に法的な助言などをすることである。


 ただ、検察審査委員は法律の素人のため、審査補助員の助言が大きな影響を与えるのではないかという問題が指摘されている。


 その審査補助員の選任過程は詳しくは知らないのだが、弁護士会があらかじめ推薦者名簿を作成しておき、事件ごとに弁護士会がその名簿に基づき推薦し、検察審査会が委嘱するという流れだと思う。


 なお、推薦者名簿の作成の仕方は弁護士会によって違うと思う。


 ある弁護士会では審査補助員を広く募集しているようであるが、私が所属している弁護士会では、そのような募集はなかったからである(見逃したのかもしれない)。


 いずれにせよ審査補助員の選任過程をはじめ、検察審査会の実態はあまり世間に知られていないようである。


 しかし、検察審査会は強制起訴できるという大きな権限を持ったのであるから、可能な限り、積極的にその実態を明らかにすべきであろうと思う。



2010年09月07日(火) 「グリーンピース・ジャパン」のメンバーに有罪の判決

 日経(H22.9.7)社会面で、調査捕鯨船の乗組員が自宅に送った鯨肉を運送会社から盗んだとして、窃盗と建造物侵入の罪に問われた事件で、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡したという記事が載っていた。


 被告人らは環境保護団体「グリーンピース・ジャパン」のメンバーであり、船員が鯨肉を無断で持ち帰る『横領行為』を告発するための正当行為であったと主張したが、認められなかった。


 この事件について、国連人権理事会は「メンバー2人の逮捕・勾留は人権侵害」とし、また、国連人権高等弁務官が「言論と結社の自由の問題だ」と懸念を表明したそうである。


 しかし、被告人らは運送会社の配送所に入って段ボール箱を盗んだのであり、これが無罪になったのでは運送会社としては納得できないだろう。


 欧米でも、この事案で、目的が正当であるとして無罪にはならないと思う。先の国連人権理事会も、逮捕したことを問題にしているだけで、無罪とは言っていないようである。


 いずれにせよ、日本の法的感覚でいえば、有罪は当然の結論であろう。



2010年09月06日(月) 企業不祥事の際の第三者委員会に日弁連がガイドライン

 日経(H22.9.6)16面で、企業の不祥事で設置されることの多い第三者委員会について、日弁連がガイドラインを公表したという記事が載っていた。


 ガイドラインでは、(1)株主や顧客などすべての利害関係者に説明責任を果たす、(2)経営陣にとって都合の悪い情報も報告することなどを求めている。


 これまで、会社の不祥事の際に設置された第三者委員会は、経営者を弁護するために設けられたのではないかと思われかねないものがあった。


 そのような第三者委員会の報告書は信頼性に欠け、かりに裁判になった場合、裁判官は、その報告書をほとんど考慮しないだろう。


 日弁連のガイドラインは、それに沿って報告することで信頼性を確保できる。


 また、ガイドラインという指針があるため第三者委員会の調査活動も容易になるだろう。


 日弁連が久々に存在感のある仕事をしたなあと思った。



2010年09月03日(金) 浜田幸一元衆院議員が保釈

 日経(H22.9.3)社会面で、背任罪で起訴された浜田幸一元衆院議員が、千葉刑務所内の拘置施設から保釈されたという記事が載っていた。


 たまたまその日に千葉刑務所に行ったのだが、刑務所の前でテレビ局のスタッフがテレビカメラの準備をしていた。


 担保株を売却して融資元に2億円の損害を与えたという容疑であり、実刑の可能性が高いので、保釈は認められにくいだろうなあと思っていた。


 あっさりと保釈が認められたのは、浜田被告が81歳という高齢のうえ、健康面にも不安があったようなので、その点が考慮されたのだろう。



2010年09月02日(木) 東京地裁の刑事部の数を削減

 日経でなく朝日(H22.9.2)夕刊で、裁判員裁判の事件数が当初の想定より少ないため、東京地裁は、審理を担当する「部」の数を現在の20から17に減らす方針という記事が載っていた。


 これで一番がっかりしているのは、裁判官ではないだろうか。


 東京地裁の部長(裁判長)といえば裁判官の花形であり、新任の裁判官の多くは、いずれは東京地裁の部長になりたいと思っているはずである。


 それなのに、部が減れば、部長になる機会も減るのだから、残念に思っていることだろう。


 別に裁判官を揶揄しているのではなく、裁判所も組織である以上、考えることは会社組織などと同じであるということである。
 

 もっとも裁判官はプライドが高いから、そのように思っているなどとはおくびにも出さないが。



2010年09月01日(水) 刑事補償法による補償決定の公示

 日経でなく朝日(H22.9.1)社会面の下の広告欄で、東京地裁が、無罪が確定した被告人に対し、刑事補償法により補償を決定したという公示を掲載していた。


 補償金額は25日分で31万2500円であった。


 刑事補償法では、1000円以上、1万2500円の範囲で裁判所が補償額を定めることになっているので、最高の補償金額である。


 おもしろいのは、刑事補償法では、補償が決定したときは、官報及び申立人の選択する3種以内の新聞紙に各1回以上掲載して公示するとされていることである。


 名誉回復のための措置である、補償を受ける側が新聞紙を選択できるというのは珍しいように思う。


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