今日の日経を題材に法律問題をコメント

2007年11月30日(金) 被害者が少年審判に傍聴できるよう諮問

 日経(H19.11.30)社会面で、法務大臣は、法制審議会に、被害者が少年審判に傍聴できるよう諮問したという記事が載っていた。


 少年審判での被害者の傍聴について、日弁連は「少年が萎縮し、健全な育成という理念が堅持できなくなる」として反対している。


 しかし、被害者としては、少年の発言を直接確認したいという気持ちは当然であろう。


 また、少年を被害者から遮断したまま、健全な育成ができるのかという疑問もある。


 被害者が傍聴すれば少年審判の雰囲気は大きく変わることになるが、やむを得ないことのように思われる。



2007年11月29日(木) 守屋前事務次官の妻が収賄容疑で逮捕

 日経(H19.11.28)1面で、守屋前事務次官と妻が収賄容疑で逮捕されたと報じていた。


 妻は公務員ではないが、「身分のないものでも共犯とする」という刑法65条1項の規定を適用したものである。


 ただ、「身分と共犯」については刑法理論と絡んで、かなり複雑な学説の対立がある。


 私が受験生時代の受験界の通説は、収賄罪などの真正身分犯については、65条1項の「共犯」とは教唆犯と幇助犯のみをいい、共同正犯は含まないという解釈であった。


 この事件では守屋事務次官の妻名義の口座に入金があったようであるが、この見解によれば、守屋事務次官の妻は共同正犯ではなく、収賄罪の幇助犯ということになる。


 これに対し、判例は、65条1項の共犯とは「共同正犯」を含むという解釈である。


 したがって、守屋事務次官の妻と守屋事務次官とは共同正犯ということになる。


 妻名義の口座に入金があった以上、妻も収賄罪の共同正犯という見方が素直であろうと思う。


 したがって、65条1項の共犯とは「共同正犯」を含むという判例の解釈は今後も揺るがないだろう。



2007年11月28日(水) 借金の相続

 日経(H19.11.28)社会面トップで、香川県で祖母と孫2人の3人が行方不明になっている事件で、祖母の義弟が逮捕されたと報じていた。


 他の新聞では、義弟は、がんで闘病生活を送っていた妻(病死)の名義で、祖母の三浦さんが借金をしていたことに不満を抱いていたと書いていた。


 もし、妻の借金を犯人(義弟)が相続し、その返済に苦しんでいたことが動機だったとすれば、悲しいことである。


 借金も相続することは間違いないが、それは相続放棄すればいいからである。


 また、たとえ相続放棄しなくても、債権者に亡くなったことをきちんと連絡すれば、債権放棄する業者は多い。


 悪質な業者から借りていたのであれば、それは契約が違法なのだから、支払う必要はない。


 もっとも、動機の解明はこれからであり、相続放棄していれば犯行に及ばなかったかどうかは分からないが。



2007年11月27日(火) 「エル・アンド・ジー」の破産開始が決定

 日経(H19.11.27)社会面で、東京地裁は、架空通貨「円天」で問題になった健康食品販売会社「エル・アンド・ジー」の破産開始決定をしたと報じていた。

 しかし、代表者の破産決定は出されていないようである。


 この破産事件は、債権者申立てである。


 債権者申し立てての際に問題になるのは、債務超過であることの証明である。


 というのは、債権者申立ての場合には、その会社の帳簿等は知りようがないし、会社は破産に抵抗することが多いから、債務超過かどうかが分からないことがあるからである。


 ただ、会社の場合には、帳簿がなくても、他の資料から債務超過を認定できることは多い。


 また、債権者申立ての破産事件では、裁判所は、申し立てられた側(債務者)を呼んで、債務超過かどうかなどについて審尋を行うから、その結果、債務超過と判断できれば、破産は開始される。


 「エル・アンド・ジー」の場合には、詳しい事情は分からないが、会社については、様々な資料から債務超過と認定できたが、代表者については、審尋に来なかったため、破産開始決定ができなかったのかもしれない。



2007年11月26日(月) 訪問・電話販売のクーリングオフの対象を全商品に拡大

 日経(H19.11.26)3面で、経済産業省が、訪問・電話販売のクーリングオフの対象を全商品に拡大する方針と報じていた。


 これまではクーリングオフの対象商品は個別に限定していた。


 そのため、規制を免れようと対象外の商品を販売し、問題になると、その商品を規制の対象とするということの繰り返しであった。


 全商品を規制の対象とすべきという意見はずいぶん以前からあり、経済産業省の対応は遅いといえるが、方針としては望ましいと思う。


 ただし、通信販売の場合はクーリングオフできないので注意すべきであろう。



2007年11月22日(木) 宇都宮地裁の所長が厳重注意処分

 昨日の日経夕刊(H19.11.21)で、宇都宮地裁の園尾所長が、破産事件の審尋に書記官補助者の名目で出席して、債務者に質問したとして、東京高裁は、所長と当該事件の裁判長を厳重注意処分にしたと報じていた。


 この所長は、東京地裁時代、破産事件手続きを、低額な費用で迅速に処理できるように劇的に変えた功労者である。


 また、その功績が評価されて新破産法制定手続きに関わったエリート裁判官である。


 しかし、破産事件の審尋に書記官補助者として立ち会い、質問までするのはまずいと思う。


 破産事件の第一人者という自負があり過ぎたのかもしれない。



2007年11月21日(水) 入国審査で指紋採取等が始まる

 日経(H19.11.21)社会面で、外国人の入国審査で指紋採取と顔写真の撮影を義務付けることが始まり、数件の不審なケースがあったという記事が載っていた。


 他の新聞では、5件がブラックリストと一致し、入国を認めなかったと報じていた。


 たった1日で5件もの不法入国をチェックできたということは、指紋採取の有用性を示しているといえる。


 問題は、採取した指紋情報をどのように管理するかである。


 プライバシー保護の見地からは、指紋情報の無制限の利用は問題である。


 指紋は、入国審査を目的として採取したのであるから、その目的を達した以上、早期に破棄すべきであろうと思う。



2007年11月20日(火) ツークリック詐欺が急増

 日経(H19.11.20)社会面で、「ツークリック詐欺が急増している」という記事が載っていた。


 利用料金、規約などを確認させた上で同意ボタンを押させるところが、これまでのワンクリック詐欺に比べて手が込んでいる。


 ワンクリック詐欺は、クリックした方に錯誤があることは明らかで、当然に錯誤無効を主張できる。


 しかし、法律上、重過失がある場合には錯誤無効は主張できないことになっている。


 そこで、利用料金、規約等を確認した上で同意ボタンを押したことが重過失にあたるかが問題になる。


 この点、意識的に錯誤に陥らせるような手口を考慮すると、クリックした側に重過失があるとまではいえないだろう。


 ただ、ツークリックした場合には、法律的に考えるよりも、とにかく無視することである。


 恥ずかしいと思って、料金を支払ったり、メールをしたりすることは絶対にやめるべきである。



2007年11月19日(月) 音の紛争は解決が難しい

 日経(H19.11.19)社会面で、公園で遊ぶ子どもの声を『騒音』と認め、噴水の停止を命じた東京地裁の判断が波紋を呼んでいるという記事が載っていた。


 この公園の音量は、訴えた女性宅で60デシベルもあったそうで、これは東京都の騒音規制基準の50デシベルをかなり超えている。


 これが司法判断に大きな影響を与えたことは間違いない。


 逆に、たとえ気になる音でも、騒音基準を下回っている場合には差し止め請求が認められる可能性は少なくなる。


 以前扱った事件で、一階が店舗になっているマンションに印刷業者が入り、低い音で印刷機を動かしたため、二階の住民が差し止め請求をしたことがあった。


 低い音で、一定のリズムで音がするため、聞いていると気持ち悪くなる、騒音基準に達していなかったため、東京地裁は差し止め請求を認めなかった。


 音は人によって感じ方がかなり違うから、騒音基準だけで規制することは本来であれば問題である。


 しかし、人によって違うからこそ、騒音基準という明確なものによって解決を図るしかないのが現状である。


 その意味で、音の紛争は適切な解決が非常に難しい問題である。



2007年11月16日(金) 最高裁が、住基ネットの違憲判決を見直しへ

 日経(H19.11.16)社会面で、大阪の住基ネット訴訟で、「最高裁は、大阪高裁の『違憲判決』見直し」と報じていた。


 住基ネットが完全に安全とはいえないし、デジタル化されているから、情報漏えいした場合の被害は甚大なものになるだろう。


 しかし、プライバシー侵害の差し迫った具体的な危険性がない限り、住基ネットがプライバシー権を侵害するとまではいえないのではないだろうか。


 違憲と判断した大阪高裁判決を最高裁が見直すのはやむを得ないと思う。



2007年11月15日(木) DVDによって、自白調書の任意性に疑いがあると認定

 日経(H19.11.15)社会面で、大阪地裁が、DVDによって自白調書の任意性に疑いがあると認定して証拠請求を却下したと報じていた。


 これまで、DVDは自白の任意性を補強するものとして使われることが想定されてきた。


 しかし、取調べ状況をDVDに保存しながら、検察官に有利でないため、証拠として提出されないこともあり得る。


 それが現実化したのが記事になった事件である。


 今後は、自白調書の任意性が問題になっているのに検察官がDVDを提出しない場合、DVDがあるはずだとして証拠開示請求するケースが増えてくると思われる。



2007年11月13日(火) 脱税で、社長と元弁護士を逮捕

 日経(H19.11.13)社会面で、アニメ商品製作会社の社長と元弁護士が脱税の疑いで逮捕されたと報じていた。

 
 この弁護士の経歴をみると、若くして司法試験に合格し、検事になった後、大手弁護士事務所のパートナーを務めているから、華麗な経歴である。


 それなのになぜ脱税まで指南するようになったのかと思う。


 あえて推測すると、弁護士の収入というのは、大手法律事務所事務所のパートナーでも、企業経営している社長の収入に比べると少ない。(平均値だが)


 そのため、その弁護士はより収入の多い企業経営に関わるようになり、脱税まで指南するようになったのだろうか。



2007年11月12日(月) 司法試験に出題される判例を教授が事前に教えたことの影響

 昨日の朝日(H19.11.12)1面トップで、新司法試験の出題を担当する元慶応法科大学院教授が、本試験で出題されることを知りながら、試験直前に出題される「重要判例」を学生にメールで流したと報じていた。


 この問題では、慶応の受験生の正答率が26.57%だったのに対し、慶応以外は22.05%と4.52ポイント下回ったそうである。


 つまり、論調としては、試験問題漏洩により、一部の受験生が不当に有利な結果になったおそれがあるというものである。


 この元教授の行為に同情の余地はまったくない。


 しかし、この程度のメールでは合格に影響はしなかったであろうと思う。


 流したメールには6つの判例を書いており、「重要判例」はその中の一つに過ぎない。


 しかも、その「重要判例」は受験生であれば当然知っておくべき判例であり、模擬試験でも何度も出題されたはずである。


 また、正答率についても、慶応受験生のレベルが高いことを考えると、全体の合格率と比較しても正確な比較はできないであろう。


 慶応と同程度の合格者を輩出している法科大学院と比較して初めて、教授の流したメールの影響が分かるのではないだろうか。


 私は慶応出身ではないし、この教授を擁護するつもりもない。


 また、適正に行われているだろうと思われていた司法試験が失った信頼は軽微ではない。


 ただ、教授のメールに影響があったかどうかとなると、影響はなかったと思われるのであり、批判の仕方があまり適切でないと思うのである。



2007年11月09日(金) インクカートリッジの再生品について最高裁が特許侵害を認定

 日経(H19.11.9)1面で、プリンターのインクカートリッジの再生品について、最高裁が特許侵害を認めたと報じていた。


 判決では、リサイクル品が特許侵害にあたるかどうかの基準ついて明らかにしている。


 この事件では、知財高裁大合議部でも特許侵害を認めていたから、最高裁はそれを追認するだけでもよかったはずである。


 ところが、最高裁は、この判決で、あえてリサイクル品が特許侵害に当たるかどうかの基準を明らかにしている。


 最近の最高裁は、基準を明確にすることによって、行為規範を定立しようという姿勢が顕著であり、望ましいことであると思う。



2007年11月08日(木) 元弁護士が多重債務者の債務整理をしたとして逮捕

 日経でなく朝日ネットニュース(H19.11.8)で、懲戒処分を受けて資格を失った元弁護士が、弁護士資格がないのに多重債務者の債務整理などをしたとして、弁護士法違反の疑いで逮捕されたと報じていた。


弁護士も資格を失うと、悲惨である。


 それにしても気になるのは、この元弁護士が、多重債務者から依頼を受けたのが法律事務所であるという点である。


 そうなると、その法律事務所の弁護士の責任も問題になってくるのではないだろうか。



2007年11月07日(水) NOVAが事業譲渡して、本体は清算

 日経(H19.11.7)1面で、英会話学校のNOVAは、名古屋の企業に事業譲渡して、本体は清算する方向と報じていた。


 この事件で最も重要なことは、事業継続をして、受講生・講師・従業員の保護を図ることであった。


 そのためには事業を継続できるスポンサーを探すことが重要になる。


 このような大きな事件では保全管理人にはベテランの弁護士が就任するが、ベテラン弁護士だからといって、スポンサー探しに特別の人脈があるわけではない。


 NOVAの事業譲渡を受ける企業は、M&Aで短期間に急成長した会社で、傘下企業には使途不明金の発覚などで倒産し上場廃止になった会社も含まれているようであり、適切に運営できるのだろうかという懸念はある。


 しかし、保全管理人としては、譲受を希望する企業の中から一番いいと思うものを選ぶしかないのであり、やむを得ない選択だったのだろう。



2007年11月06日(火) 東京高裁が、区に住民票作成義務なしとの判断

 日経(H19.11.6)社会面で、東京高裁が、住民票の作成義務を認めた一審を取り消し、作成義務はないとする判決を言い渡したと報じていた。


 この事件の経緯は次のようである。

 事実婚の夫婦が、子どもの出生届に「嫡出でない子」と記載されるのは差別であるとして拒否し、そのため書類不備で出生届が受理されなかった。


 夫婦は、生まれた子どもを住民票に記載するよう求めたが、区が出生届の提出がないことを理由に住民票の作成を拒否した。


 そのため、区に住民票の作成を求めて訴訟提起したものである。


 しかし、東京高裁は、「出生届を出そうと思えば出せるのに、自己の個人的信条で手続きを拒否している」と判断して訴えを認めなかった。


 要するに、住民票が作成されないのは自分のわがままのためであるから、それによって受ける不利益は甘受すべきということのようである。


 しかし、住民票が作成されないと、小学校入学などの各種手続きでその子どもが受ける不利益は大きいだろう。


 それぞれの価値観によって結論が分かれる問題であるが、区は住民の保護という役割があるのだから、条理上、住民票作成の義務を認めることが適正ではなかったかと思う。



2007年11月05日(月) 自治体が弁護士会と提携して法的トラブルに対応

 日経(H19.11.5)19面で、自治体が弁護士会と提携して法的トラブルに積極的に対応する動きが広がってきていると報じていた。


 東京都江戸川区では債権回収まで委託しているようである。


 望ましいことだと思う。


 ただ、東京では弁護士会が3つもあるため、東京の自治体ではどの弁護士会とお付き合いしていいか困っているように思われる。


 外部からは、東京だけ弁護士会が3つもあるのは理解しがたいであろうが、三会に分かれた歴史的経緯があり、合併まですることはなかなか難しいようである(一時は三会合併運動が盛り上がったが、いまは尻すぼみになっている)。


 しかし、せめて自治体との提携など、対外的な場面では三会で共同の窓口をつくり、交渉にあたったほうがよいと思うのだが。



2007年11月02日(金) 深夜、長時間の取調べを原則禁止

 日経(H19.11.2)社会面で、警察庁は、取調べの適正化を図るために、深夜、長時間の取調べを原則禁止する方針と報じていた。


 重大事件で、一日中、取調べをすることはよくある。


 検察修習のときにも、検察官が夜12時くらいまで取調べをしていたことがあった。


 しかし、深夜や、長時間の取調べは、冤罪の温床となるだけでなく、被疑者の人権をあまりに無視している。


 深夜、長時間の取調べを原則禁止することは当然と思う。



2007年11月01日(木) 賃金不払いは刑事罰を受ける

 日経(H19.11.1)社会面で、東京ムツゴロウ王国の運営会社と社長らが、賃金不払いの疑いで書類送検されたという記事が載っていた。


 労働者の賃金ができるだけ確保されるように、賃金に先取特権という優先権を与えるなどの民事上の保護を図っている。


 それだけでなく、不払いがあった場合に刑事上の責任を問うことができるようにもなっている。


 刑としては罰金刑だけであるが、罰金刑でも前科はつくので、注意すべきであろう。



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