今日の日経を題材に法律問題をコメント

2007年09月28日(金) 年金分割制度がスタートしてから半年

 昨日の日経(H19.9.27)夕刊で、年金分割がスタートして半年経ったことから、熟年離婚の最近の流れについて報じていた。


 それによれば、年金分割制度が離婚の背中を押すケースと、現実を知り断念するケースとの2つの流れがあるとのことである。


 記事によれば、年金分割で専業主婦がもらえる額は、結婚期間が長い人でも月5万円から6万円程度である。(但し、人によってばらつきがある)。


 しかも、50歳で離婚する場合には、年金をもらえるまでに15年もあり、これでは離婚する際に、年金を生活資金の当てにすることはできない。


 実際、離婚事件の相談を受けてみても、以前ほど年金分割に対する期待は薄れているように思う。


 年金分割制度は、思ったほど熟年離婚を増加させる役割を果たしていないようである。



2007年09月27日(木) 母子殺害事件の弁護団による損害賠償請求

 日経ではなく、ヤフーニュース(H19.9.27)で、テレビ番組において、光市の母子殺害事件の弁護団への懲戒請求を呼びかけた橋下弁護士に対し、弁護団弁護士らが、業務を妨害されたとして橋下弁護士に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が開かれると報じていた。


 ネットでは双方の主張が公開されているようである。


 記事によれば、弁護団弁護士側の主張は次のとおりである。


「懲戒請求者は懲戒事由を裏付ける相当な根拠について調査、検討すべき義務を負い、これは懲戒を促した者にも適用される」「被告は十分な調査、検討を尽くさずに発言に及んだ」

「発言では懲戒請求をした者が弁護士会から資料の提出などを求められることに触れなかった上、多数の請求がされれば弁護士会が処分せざるを得なくなると視聴者に誤解させた」

「300件を超える懲戒請求を受け、弁明などの対応を余儀なくされて業務に多大な支障が生じたほか、社会的名誉や信用が損なわれた」


 これに対し、記事によれば橋下弁護士側の主張は次のとおりである。


 「弁護団の行為は懲戒事由に相当し、弁護団は懲戒請求を避けるために、社会に対して説明する必要がある」

 「懲戒請求を扇動したことと多数の懲戒請求が行われたことには因果関係がない。」

 「弁護団の社会的評価は以前から低下していた」


 以前、橋下弁護士の行為について、それ自身が懲戒請求の対象になるにしても損害賠償までは認められないだろうと書いた。


 しかし、原告の主張は説得力があるように思う。


 損害賠償請求は認められるかもしれない。



2007年09月26日(水) 「法務大臣の署名なしで死刑執行をする」ことの適否

 日経(H19.9.26)社会面で、鳩山法務大臣が、死刑執行について、「法務大臣の署名なしで死刑執行をすることについて勉強会をしたい」と述べたと報じていた。


 鳩山法務大臣は、同日午前中には「乱数表か何かで死刑執行を自動的に進めたらどうか」とも述べていたが、「乱数表とか言ったのは反省している」と軌道修正したそうである。


 死刑執行を「乱数表」で決めるというのはひどい話で、発言の撤回は当然である。


 また、「法務大臣の署名なしで死刑執行をする」制度に変える必要もないと思う。


 死刑というのは、国家が殺人を行うわけであり、極めて重大な行政行為である。しかもいったん死刑執行をすると、それを元に戻すことはできない。


 そうであれば、法務大臣が最終的に判断し、その署名によって責任の所在を明らかにするということは必要であろう。


 裁判所が死刑判決を下しても執行されない原因は、執行命令書の署名を拒否する法務大臣がいることなのであって、制度自体を変える必要はないのではないだろうか。



2007年09月25日(火) 離婚資金を貸し付ける新型ローン 需要はあるか

 日経(H19.9.25)5面で、大垣共立銀行が、離婚資金を貸し付ける新型ローンを販売するという記事が載っていた。


 年金分割制度が始まり、今後離婚が増えることが見込まれ、一定の需要があると判断したそうである。


 離婚に際し、自宅はあるが現金がないため財産分与することが困難なケースや、不貞行為をして慰謝料を支払わなければならないが支払い能力がないというケースはよくある。


 そのような場合、慰謝料や財産分与を受け取る側からすれば、「銀行から借りてでも支払え」という気持ちになる。


 ところが、支払う側からすると、銀行から借りて支払うということは、相手はそれにより満足するし、自分は長期間にわたりローンを支払わなければならないのであるから、感情的にはなかなか受け入れづらいのではないだろうか。


 そのため、「一定の需要がある」のかなあと思う。



2007年09月21日(金) 「過払い金返還問題がカード会社の再編を迫る」

 日経(H19.9.21)7面で、三菱UFJがニコスを完全子会社化すると報じていた。


 記事によれば、「過払い金返還問題がカード会社の再編を迫っている。」「消費者金融やカード会社などは、過払い金返還請求が今年度後半には減少に転じると見ていたが、請求は高止まりが続いており、減少する兆しはまだ見えない」とのことである。


 確かに、過払い金請求はいずれは減少するだろう。


 しかし、請求権の時効は10年であるから、10年前に完済した人でも請求できる可能性がある(時効の起算点を完済時と考えた場合)。


 実際、私も、「10年前に完済したのですが、過払い金返還請求できますか」との相談を受け、現在、消費者金融会社と返還交渉中のケースがある。


 したがって、過払い金請求はまだしばらくは続くのではないだろうか。



2007年09月20日(木) 殺意の認定について

 日経でなく朝日ネットニュース(H19.9.20)で、沖縄県のタクシー運転手とその妻の遺体が見つかった事件で、福岡高裁那覇支部は、傷害致死罪を適用して懲役13年とした一審・那覇地裁判決を破棄し、「未必の殺意」を認めて殺人罪を適用、懲役16年の判決を言い渡したと報じていた。

 
 殺意があったか否かの認定については、司法修習でも勉強する課題である。


 例えば、心臓を狙ってナイフを突き刺せば殺意があったと認定されやすいだろうが、修習では、足を刺したというような微妙な事案が出されたように思う。


 記事の事件では、一審の那覇地裁は、被告人が殴った際、致命傷となる部位を狙っておらず、殺意はなかったと認定している。


 これに対し、控訴審では、上半身を連続的、集中的に強い力で複数回殴打したことをもって殺意があると認定した。


 判断が分かれるほど微妙な事案だったようであるが、ただ、一般的に言って、控訴審の判断は被告人に厳しいことが多いように思う。



2007年09月19日(水) 名誉毀損事件 通信社の責任は否定し、地方紙の責任は肯定

 日経(H19.9.19)社会面で、心臓手術を受けた女児が死亡した事故を報じた記事に対し、名誉を毀損されたとして、担当医が記事を配信した共同通信社と掲載した地方紙3紙に損害賠償を求めた事件に関する記事が載っていた。


 この事件で、東京地裁は、通信社への請求は認めなかったが、地方紙には計385万円の支払いを命じる判決を言い渡したとのことである。


 理由として、共同通信社については、記事は同病院の調査報告書や捜査本部の記者会見の取材などに基づいており、事実関係を誤信したのには相当な理由があったから責任はないとした。


 これに対し、地方紙については、通信社の配信というだけで内容を真実だと信じる理由になるとはいえないとした。


 最高裁は、ロス事件を報じた記事について、「通信社から配信を受けた記事をそのまま掲載した新聞社にその内容を真実と信ずるについて相当の理由があるとはいえない」と判断している。


 東京地裁の判決は、この最高裁判決を意識していることは明らかである。


 しかし、共同通信社については賠償責任を否定しながら、その配信を受けた地方紙は賠償責任を負うというのは違和感がある。


 これでは地方紙は、直接取材しない限り記事にできないことになってしまいかねない。



2007年09月18日(火) 奈良医師宅放火殺人事件で、少年の供述調書が漏示

 日経(H19.9.18)社会面で、奈良の医師宅放火殺人事件の犯人である少年の供述調書の相当部分引用した本について、一部の図書館が閲覧を制限したが、これに対し、司書の団体が批判する声明を出したという記事が載っていた。


 供述調書は精神鑑定した医師から漏れた可能性が高いようであり、そうであれば、その医師の行為は、少年保護への理解がまったくなく、医師の倫理性及び刑法にも反するものであり強く非難されるべきである。


 しかし、公的な機関であり、国民の知る権利に奉仕する役割を期待されている図書館が、知る権利を自ら縛ることは自殺行為であり、司書団体の批判声明は当然であると思う。



2007年09月14日(金) 東京地裁が、著作権侵害で2000万円の損害賠償を認める

 日経(H19.9.14)社会面で、インターネットに「デビルマン」などの作品を無断掲載した事件で、東京地裁は、著作権侵害を認め、掲載者に約2000万円の損害賠償を認めたと報じていた。


 裁判所は、賠償額を算定するに際しては閲覧件数を基準としたようである。


 有料サイトだったらそれだけの閲覧数があったかという疑問もある。


 しかし、閲覧されたことによって精神的苦痛を被ったと考えるならば、閲覧件数によって算定することは当然といえる。


 ただ、この事件はすでに刑事事件になっているため、捜査によって閲覧件数が判明していたのではないだろうか。


 それゆえ、刑事事件になっていない場合には、損害賠償額の算定には苦労するということになるのだろう。



2007年09月13日(木) 取材を受けた側に期待権があるか

 日経(H19.9.13)社会面に、香港の投資家が、取材した日経ビジネスに対し、取材時に説明した趣旨と違う記事を掲載されたとして訴えた事件で、東京地裁は、請求を棄却したという記事が載っていた。


 この裁判で、原告は、取材を受けた場合、説明した内容が掲載される期待権が生じ、これが侵害したと主張したようである。


 確かに、取材で説明した内容と異なる趣旨の記事が掲載されることはしばしばある。


 ただ、言論機関には表現の自由があるから、取材で説明を受けた内容どおり記事にする義務はなく、独自の評価で記事にすることが認められるべきであろう。


 したがって、話してもないことを記事にされた場合はともかく、取材を受けた側に、説明した内容どおりに掲載されるという期待権があるとすることは難しいだろう。


 期待権を認めなかった東京地裁の判断はやむを得ないと思う。



2007年09月12日(水) 余罪もできるだけ起訴する傾向

 日経(H19.9.12)社会面に、「覚せい剤欲しさに280件もの窃盗を繰り返した」という記事が載っていた。


 覚せい剤を買うためだけに窃盗を繰り返すことはないとは思うが、それはともかく、280件も窃盗をしていても、これまでは、起訴する件数は多くても10件もなかったように思う。


 それは、件数が多いと被告人が犯行をよく覚えておらず、証拠が不十分な場合が多いこと、件数がある程度以上になると、刑の重さにはあまり影響しないこと、すべて起訴しようとすると捜査の負担が加重になること、捜査が長引き裁判が長期化することは望ましくないことなどの理由からである。


 しかし、そうすると、被害者によって事件処理の結果が違ってくることになる。


 また、弁護人としては、少しでも刑が軽くなるように、被害弁償して示談してもらおうとするのであるが、その際、被害者すべてに被害弁償して示談すべきではあるが、用意できる示談金が限られているため、起訴された事件だけ被害弁償することが多い。


 しかし、これでは不公平であるし、とくに最近は被害者保護の要請が強い。


 そのため、最近は、被害届が出ていて、かつ証拠がはっきりしている事件は、できるだけ起訴しようという傾向になっているようである。



2007年09月11日(火) 和歌山県前知事に執行猶予付き有罪判決

 日経(H19.9.11)社会面に、大阪地裁は、官製談合事件で、和歌山県の木村前知事を執行猶予付き有罪判決を言い渡したという記事が載っていた。


 この裁判で、木村前知事は犯罪事実を認めており、また、有罪判決に控訴しない方針とのことである。


 ところが、記事の中で、判決後の記者会見で木村前知事は、「談合は全然知らなかった」と釈明したと報じていた。


 しかし、「全然知らなかった」のであれば、裁判で無罪主張をすればいいし、有罪判決には控訴すればいいではないかと思う。


 もっとも、共犯者が犯罪事実を認めているから、無罪主張をしても、それが認められる可能性は少ないだろうし、無罪主張すると、「不合理な言い訳に終始し、反省していない」と判断され、実刑判決になることもあり得る。


 そのため、「不本意ながら犯罪事実を認めた」と釈明するのであれば、まだ理解できる。


 しかし、判決直後に「全然知らなかった」と釈明するのでは、単なる開き直りとしか聞こえず、知事まで務めた人の態度とは思えない。



2007年09月07日(金) ヤミ金が再び増加?

 日経(H19.9.7)首都圏経済版で、千葉県が、多重債務者を支援する対策本部を設置して、市町村、弁護士会、警察などと一体となってヤミ金の撲滅などを目指すと報じていた。


 ヤミ金は、一時相談件数が減少していた。


 そのときは、ヤミ金をやっていた連中が振り込め詐欺に流れたのではないかと言われていた。


 しかし、再びヤミ金が増加しているように思う。


 ただ、かつては暴力団関係者と思われる連中が多かったが、最近は、以前よりは普通に近い若者がやっているという印象である。



2007年09月06日(木) 婚外子の国籍要件について、最高裁が憲法判断の可能性

 日経(H19.9.6)社会面で、婚外子の国籍要件の規定について、最高裁大法廷に回付され、憲法判断される見通しと報じていた。


 婚姻関係のない日本人の男性と外国人の女性との間で子どもを生み、その後、認知したとする。


 そのとき二人が結婚していれば、子どもは日本国籍を取得する。


 ところが、二人が結婚していなければ、国籍法の規定では日本国籍を取得できない。


 これを不合理な差別と考えるのか否かが問題となったのである。


 また、かりに現在の国籍法が無効だとすると、その子どもはいかなる規定によって日本国籍を取得するのかという問題もある。


 価値判断と法律問題が絡み、難しい問題である。


 ただ、国籍は国家の構成員が誰かを決めるものであるから,国籍取得の要件を定めることは国家の固有の権限である。


 そのため、最高裁は、立法の広い裁量を認める傾向にあるから、国籍法が違憲とまでは判断しないのではないだろうか。



2007年09月05日(水) 日航機ニアミス事故の控訴審で、管制官らは改めて無罪主張

 日経(H19.9.5)社会面で、2001年に起きた日航機同士のニアミス事故で、乗客にけがをさせたとして業務上過失傷害罪に問われたが、1審で無罪判決を受けた管制官2人について、その控訴審が開かれ、管制官らは改めて無罪主張したという記事が載っていた。


 昨日の日経では、日航機が乱高下して客室乗務員を死亡させるなどしたとして、事故機の機長が業務過失致死罪などに問われたが、一、二審とも操縦ミスが否定されて無罪になった事件に関する記事が載っていた。


 航空機事故は、複合的な要因で起きることがほとんどであり、機長や管制官など特定の個人の責任に帰することができない場合が多いようである。


 しかし、マスコミの論調は、事故があると誰の責任かを明確にさせないと許さないという雰囲気である。


 そのような論調を無視できないことから、検察官が少々強引に起訴に持ち込み、その結果、証拠不十分で無罪になるという構造なのかも知れない。



2007年09月04日(火) 司法修習の卒業試験で71人が不合格

 日経(H19.9.4)社会面で、司法修習の卒業試験で71人が不合格になったと報じていた。


 記事では、「卒業試験に合格できなかった修習生が過去最多だった昨年(107人)より、36人減少した。」としていたが、昨年までは追試があったので、最終的な不合格者は16名である。


 それゆえ、卒業できなかった人数としては過去最高ということになる。


 原因は、修習生の質の低下というしかないだろう。


 司法修習に関わっている弁護士に聞いても、すべての人が修習生の質が明らかに低下しているという。


 大量に司法試験合格者を増やして、果たしてよかったのだろうか。



2007年09月03日(月) 光市事件の弁護人らが、「TVで業務妨害」として橋下弁護士を提訴

 日経でなく、朝日ネットニュース(H19.9.3)で、山口県光市の母子殺害事件の弁護士4人が、テレビ番組内で懲戒処分を視聴者に呼びかけられて業務を妨害されたとして、橋下弁護士に対し、損害賠償を求める訴訟を起こすと報じていた。


 訴える側の弁護士らによると、橋下弁護士は、テレビ番組で、懲戒処分を弁護士会に求めるよう視聴者に呼びかける発言をし、その後、広島弁護士会に4人の弁護士の懲戒処分請求がそれぞれ300通以上届き、対応に追われるなどして業務に支障が出たとのことである。


 しかし、母子殺害事件の弁護活動に批判があるのは事実である。


 それゆえ、懲戒処分を視聴者に呼びかけたとしても、それが違法であるとまではいえないだろう。


 したがって、損害賠償請求は認められない可能性が高いと思う。


 ただ、懲戒処分を申し立てるように視聴者に呼びかけることは極めて問題がある行為である。


 そのようなことが今後続発した場合、多数の意見に押しつぶされて、少数者の人権を保障するという弁護活動に支障をきたす恐れが生じかねないからである。


 視聴者に懲戒請求をするように呼びかけることは懲戒制度の濫用的使い方であり、視聴者に呼びかける行為自体が、懲戒の対象になるのではないだろうか。


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