今日の日経を題材に法律問題をコメント

2007年02月28日(水) 思想・良心の自由も一定の制約は受ける

 日経(H19.2.28)1面で、君が代の伴奏命令を拒否して戒告処分された教師が処分取消しを求めた事件で、最高裁は、伴奏命令は合憲と初判断したと報じていた。


 この教師は、君が代の伴奏を強制されることは、思想・良心の自由を侵害すると主張していたが、最高裁はこれを認めなかったものである。


 思想・良心の自由というのは、表現の自由に比べると、内面に係わる問題であるが、絶対的自由とはいえないであろう。


 例えば、世俗的な政府は認めがたいという固い信念から、納税を拒否することは認められない。

 たとえその人に課税処分を課したとしても、思想・良心の自由を侵害したことにはならないのは当然である。(ちなみに、これは基本書に書いていた例である)


 あるいは、誰がみても死刑判決が間違いない事件で、死刑制度反対の考えを持つ裁判官が、「死刑判決を言い渡すことは思想、良心の自由に反するので言い渡さない」と言っても、それは許されない。


 このように、思想・良心の自由も、外部的係わり合いの中で一定の制約を受けざるを得ない。


 君が代の伴奏の強制については、他の教師に伴奏を命令するなどして卒業式を執り行うことは可能だったのではないかという疑問はある。


 しかし、伴奏を命令したことが思想・良心の自由を侵害したと考えるのは難しいのではないかと思う。



2007年02月27日(火) 弁護士になっても就職できない

 日経ではなく朝日(H19.2.27)夕刊トップで、軒先弁護士(通称「ノキ弁」)について報じていた。


 ノキ弁というのは、先輩弁護士の事務所の机だけを借り、事件を共同で受任したり、自分の事件を処理したりするものであり、固定給はない。


 今年の秋の修習修了予定者は2500人にもなるが、その受け皿がなく、400人以上が就職できないのではないかといわれている。


 その解決策の一つが、事務所の負担の少ないノキ弁の活用ということらしい。


 司法試験合格者は今後も増えるから、就職難は今年だけのことではないであろう。


 弁護士になっても就職できないという時代が到来したわけである。






2007年02月26日(月) 供述が具体的でも、信用性があるとはいえない

 日経ではなく朝日(H19.2.26)38面で、鹿児島の公職選挙法違反事件で全員が無罪となった裁判について報じていた。


 この事件では、自白調書もあり、「買収の会合では、テーブルに大きな盛皿があり、青っぽいトレーに魚の刺身が5切れ・・」などと供述していたそうである。

 
 それでも、その自白は信用できないとされ、全員が無罪となったのである。


 通常、供述証拠の信用性が問題となったときには、「供述は具体的で迫真性があるから、十分信用できる」というのが裁判所のお決まりの文句である。


 しかし、この事件は、供述が具体的でも、それだけでは供述に信用性があるとはいえない好例であるといえよう。



2007年02月23日(金) 株主に十分説明したかが問題

 日経(H19.2.23)3面で、東京鋼鉄の臨時株主総会において、大阪製鉄の完全子会社になるという提案を否決したことを報じていた。


 記事によれば、交換比率が低すぎたため、ファンド会社が何度も見直しを求めたが、経営陣は見直しに応じなかったようである。


 新聞記事には、「一般株主軽視に修正迫る」という見出しが付けられていた。


 提案した交換比率が適正であったかどうかは分からない。


 ただ、会社は、株主に対し、提案した交換比率が適正であることを、資料等を示すなどして十分説明したかが問題である。


 その説明が不十分であれば、「一般株主軽視」と批判されてもやむを得ないであろう。



2007年02月22日(木) 企業内弁護士は増えていくだろう

 日経(H19.2.22)社会面に、日弁連が企業などに対し、「企業内弁護士を採用する予定があるか」というアンケート調査をしたところ、9割が弁護士を採用しないと回答したという記事が載っていた。


 採用しない理由は、顧問弁護士で十分、報酬の問題、やってもらう仕事がないなどである。


 もっともな回答である。


 ただ、採用済み、採用予定、検討中を合わせると10%になることのほうが驚いた。


 今後も企業内弁護士は増えていくのだろうと思う。



2007年02月21日(水) のみすず監査法人が解体

 日経(H19.2.21)1面で、「大手監査法人のみすず監査法人が解体へ」と報じていた。


 監査法人が解体となると、監査を受けている法人の対応が大変のようである。


 ところで、法律事務所が解体したということは聞かない。


 かつて、ある大手法律事務所の有名パートナーが逮捕されたことがある。


 その法律事務所は、「山田=田中総合法律事務所」というように、弁護士の名前を頭につけていた。


 しかし、その弁護士を処分し、事務所の名称からそのパートナーの名前を取ったただけであり、事務所が解体かというようなに騒ぎにはならなかった。


 幸いにして、法律事務所全体が不正を疑われるようなはしないだろうという信頼があるからだろう。



2007年02月20日(火) ウィルスを作成しただけで犯罪となる

 日経(H19.2.20)11面で、コンピューターウィルスのうち、これまでの愉快犯型ではなく、営利犯罪型が急増しているという記事が載っていた。


 その記事の中に、現行刑法では、ウィルスを作成したこと自体では罪を問えないことから、作成しただけで犯罪とする刑法改正案を国会に提出していると書いていた。


 ウィルスは単なるソフトであるから、その作成まで規制するのは残念である。


 ただ、ウィルスによる被害の大きさを考えると、ウィルスを作成しただけで犯罪とすることもやむを得ないだろう。



2007年02月19日(月) 公判前整理手続きが1年以上も続く

 日経(H19.2.19)夕刊で、大阪地裁で公判前整理手続きが1年以上も続き、公判の期日さえも決まっていないと報じていた。


 長期化している原因は、本当の被害は2500万円と思われるのに、実際に特定できた被害額は数万円しかなかったので、起訴状(公訴事実)において、詐欺の被害者を不特定多数としたためのようである、


 記事だけではよく分からないが、「被害者が不特定多数」では弁護側は十分な防御活動ができないであろう。


 また、検察側としても、被害者を不特定多数とすると、被害についてかえって立証できないのではないだろうか。


 その意味では、検察側に問題があるように思う。


 ただ、迅速な裁判という趣旨からすると、公判前整理手続きを長期化させるのは望ましくないであろう。



2007年02月16日(金) 日弁連は、松本被告の弁護人を処分せず

 日経(H19.2.16)社会面で、日弁連は、オウム真理教元代表の松本被告の弁護人を処分をしないことを決定したと報じていた。


 理由は、「処置請求は裁判遅延の防止が目的であるから、すでに裁判が終了した後に請求することは不適法」ということである。


 そのような理屈はあり得るかもしれない。


 しかし、世間からの納得は得られないのではないかと思う。



2007年02月15日(木) 最高裁が契約書を日付をさかのぼらせる

 日経(H19.2.15)社会面で、最高裁が、裁判員制度フォーラムの事業を発注した契約書を日付をさかのぼって作成した可能性が高いと報じていた。


 しかし、契約は口頭でも成立する。

 
 そして、後に契約書を作成して、日付は口頭の合意が成立した日としても間違いとはいえない。


 最高裁もそんなことは分かっていると思う。


 ただ、敢えてそれを言わないのは、やぶ蛇となり、国会で叩かれることを恐れたのだろう。



2007年02月14日(水) 美容外科が診療報酬の不正請求

 日経(H19.2.14)社会面で、元厚生技官が経営する美容外科が、診療報酬の不正請求で保険医登録を取り消されたと報じていた。


 報道では、シミ取りを全額自費で支払わせたうえ、架空の病名を付けて診療請求をするなどの手口のようである。


 社会保険事務局は手口が悪質なため、詐欺罪で告発するとのことである。


 この病院は、私の事務所の近くにもある。


 以前、蜂に刺されたときに、念のために薬をつけてもらっておこうと思って、近くの皮膚科を探した。


 そのとき見つけたのがこの病院であるが、診療科目が、皮膚科だけでなく、内科、外科小児科、肛門科など異常に多かった。


 しかも、病院に行ってみると完全な美容外科であり、なぜそんなに多くの診療科目を掲げているだろうと不思議に思ったことがある。


 今から思うと、架空の病名をつけやすくするために、診療科目を増やしていたのだろうか。


 いずれにせよ、診療報酬の不正請求は、たとえ手口が悪質でなくても詐欺罪が成立するのが一般であるから、監督官庁は不正請求に対して厳しく対応すべきではないかと思う。



2007年02月13日(火) 過払い返還請求権の利息は年5%

 日経ではなく毎日ネットニュース(H19.2.13)で、最高裁は、消費者金融会社に対する過払い金返還請求権(不当利得返還請求権)の利息は年5パーセントと解すべきという初判断をしたと報じていた。


 利息が年5パーセントか、それとも商事法定利率と同じ6パーセントかについては、裁判所の判断が真っ二つに分かれていた。


 裁判官が研修などで集まると、利息が5パーセントか、6パーセントかの話題がしばしば出ていたそうである。


 それゆえ、最高裁の判断が待たれていた(とくに最高裁の判断を待っていたのは裁判官であろう。)。


 私は、過払い請求をする立場の代理人にしかならないから、6パーセントでなかったのは残念である。


 ただ、最高裁の判断により、今後は統一的解決が図られるという意味ではよかったと思う。



2007年02月09日(金) 個人情報流出 賠償額は3万5000円

 日経(H19.2.9)TBCの情報が流出したとして損害賠償を求めた事件で、東京地裁は1人3万5000円の支払いを命じたと報じていた。


 損害額について東京地裁は、情報流出により迷惑メールなどの被害を受けた人が3万5000円、そのような二次被害はなかった人が2万2000円と算定している。


 大量の個人情報が流失した事件の中で最も高額な金額である。


 しかし、情報が流出したのが5年前、訴訟提起が4年前であり、判決までに随分時間がかかっている。


 それで賠償額がこの金額では、これまでの中で最も高額とはいえ、訴訟提起の動機にはならないのではないだろうか。



2007年02月08日(木) 組織犯罪処罰法違反については無罪

 日経(H19.2.8)社会面で、弁護士の名義を貸したとして弁護士法違反などの罪に問われた西村議員に対し、大阪地裁は有罪判決を言い渡したと報じていた。

 ただ、違法な収益と知りながら収受することを禁じる組織犯罪処罰法違反については無罪とした。


 組織犯罪処罰法は「組織犯罪」を処罰するものである。


 それゆえ、弁護士の名義を貸したことについて組織犯罪処罰法違反を問うのは本来の法律の趣旨から外れており、筋が悪いように思う。


 組織犯罪処罰法違反については無罪とした大阪地裁の判断は適切であったと思う。



2007年02月07日(水) 公職選挙法は投票する人の立場に立っていない

 日経(H19.2.7)社説で、「首長選でのマニフェスト頒布解禁を急げ」と論じていた。


 公職選挙法では選挙期間中の文書配布を原則禁止しているから、マニフェストを配布することができない。

 そこで、4月の統一地方選挙においてマニフェストを配布できるよう早急に法律を改正せよという論旨であった。

 
 もっともな主張である。


 マニフェストをホームページに掲載するという方法もあるが、総務省の解釈では、ホームページは公職選挙法が規制する「文書」にあたるので、選挙期間中はそれもできないという理屈になる。


 公職選挙法は、規制でがんじ絡めにしており、投票する人の立場に立った法律ではないように思う。



2007年02月06日(火) 短大生殺人事件で、東京地検が『週刊誌の報道に、名誉毀損にあたるものがある』

 日経(H19.2.6)社会面で、女子短大生を兄が殺害した事件で、東京地検は殺人罪で兄を起訴したと報じていた。


 その記事の中で、「東京地検は、一部の週刊誌の報道について『名誉毀損にあたるものがある。犯行は性的興味や死体への関心が動機ではない』と否定した」と書いていた。


 検察庁が「名誉毀損にあたるものがある」と言えば、それは名誉毀損の裁判を提起した場合に、原告の主張を補強する材料になる(単なる評価なので、証拠価値としては低いが)。


 その意味では、検察官の発言は相当大胆な指摘である。


 よほど、一部週刊誌の報道が事実と異なっており、ひどいということなのだろう。



2007年02月05日(月) さっさと裁判を起した方が解決が早いことは多い

 日経(H19.2.5)19面で、「預金者保護法から1年 見えてきた課題」という見出しで、偽造や盗難キャッシュカードによる被害を金融機関が補償する預金者保護法が施行されて1年経った現状を報じていた。


 記事によれば、現在問題となっているのは、法律施行前の被害についてである。


 金融機関は、施行前でも2年以内であれば、ほぼ全額を補償する方針を示しているが、それ以前となると補償はまちまちなためである。


 ただ、裁判すれば、金融機関は相当程度補償に応じているようである。


 裁判すれば補償するのなら、最初から補償に応じた方が時間も費用も節約できていいのではないかとは思う。


 そうはいっても、金融機関としては、法律施行前の案件では「裁判で決まった」というお墨付きがなければ支払えないのだろう。


 それゆえ、このような案件ではさっさと裁判することが解決の早道ということになる。


 「裁判は時間も費用もかかる」と言って躊躇する人もよくいるが、裁判の方がかえって解決が早いということはよくある。



2007年02月02日(金) 資金洗浄防止法案で、弁護士等の報告義務を除外

 日経(H19.2.2)社会面で、犯罪収益移転防止法案で、警察庁は、マネーロンダリングが疑われる取引の報告義務から、弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士を除外する方針と報じていた。


 弁護士に報告義務を課した場合、マネーロンダリングが疑いがあるだけで報告しなければならない。


 これでは確かな証拠もなく依頼者を密告することを強制するようなものである。


 私のこれまでの業務で、マネーロンダリングが疑われる取引はなかったし、今後もそのようなことはないと思う。


 それでも、報告義務から弁護士等が除外されてホッとしている。


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