今日の日経を題材に法律問題をコメント

2002年06月28日(金) 世田谷区がオウムに和解金を支払う

 日経(H14.6.28付)・社会面に、転入届不受理訴訟で、世田谷区がオウムと和解したという記事が載っていた。

 和解の内容は、世田谷区は転入届を受理し、和解金として1340万円を支払うというものである。

 敗訴に近い和解である。


 「裁判所はこのような和解を押しつけて、けしからん。」と思うかもしれない。

 しかし、居住の自由は、憲法が明文で認めている権利である。

 転入を受け入れないことは、原則としてできないのである。


 オウム真理教のこれまでの行状から考えて、信者らが近くに住むと不安になる気持ちは分かるが・・・。



2002年06月27日(木) 企業活動では、性善説は間違いかも

 日経(H14.6.27付)・7面に、証券取引等監視委員会委員長が、検査に入った証券会社の6割に何らかの違反行為があったと述べたと報じていた。


 その多くは軽微な違反なのであろうが、それでも、6割というのは大変な数字である。

 ほとんど法律無視の世界ではないかと思われても仕方ない。

 証券市場の信頼性を高めるためには、さらなる監視の強化が必要であろう。


 エンロンや、ワールドコムなどの粉飾決算問題でも分かることだが、企業というのは、儲けることに絶対的価値をおいている。
 そのためには違法すれすれなことも(場合によっては違法なことも)すると思っていた方がいい。

 それを前提に監査制度も考えるべきであろう。

 企業活動において性善説と唱えるのは、あまりに人が好すぎるだろう。



2002年06月26日(水) 消費者金融の利ざやが20%以上もある

 日経(H14.6.26付)・5面に、「惑うマネー」というコラムで、消費者金融が、いまや金融部門で唯一の成長分野であり、銀行や他業種が殺到して参入していると書いていた。

 なにしろ、武富士の法人所得は、ホンダ、東京三菱を上回っているのだから、すごいというしかない。


 そのからくりは、資金を2%くらいで調達し、25%の利息をとって貸していることにある。
 利ざやは20%を超える。

 それで、もうからなければうそである。


 法律で金利をもっと下げるよう規制せよという議論はある。
 しかし、それ以上金利を下げると、体力のない消費者金融会社がやっていけなくなり、ヤミ金に走ってしまうという反対があって、金利の引き下げはなかなか進まない。

 本当にそうだろうか。

 ヤミ金に走る連中は、どんな金利なっても、それをやるだろう。


 利ざやが20%も稼げる商売を国が認めているのは異常であると思う。



2002年06月25日(火) 帝京大学医学部で、裏口入学か−事前寄付疑惑−

 日経(H14.6.25付)・社会面にトップに、帝京大の医学部入試をめぐる事前寄付疑惑が報じられていた。

 記事によれば、受験ブローカーが暗躍し、「子息を医学部に入学させられるルートがある」などと持ちかけていたそうである。


 実は、2年前、知り合いの医者から、「3000万円で帝京大に裏口入学できると言われたが、本当だろうか。本当であれば、話に乗りたいのだが。」という相談を受けたことがある。


 私は、「騙される恐れが大きい。」「しかも、騙されたとしも表沙汰にできない。」「子どもにとっても、裏口で入学するということはよくないのではないか。」と言った覚えがある。


 そのときには、医学部の裏口入学というルートが今でもあるとは思わなかった(かつては、よく聞いた。また、うそを言って騙す手口は今でもある。)。

 ところが、帝京大学では本当にそのようなルートがあったようなので、少しびっくりした。



2002年06月24日(月) 貸渋り対策として融資した相当の部分が、不良債権に

 日経(H14.6.24付)・1面にトップに、銀行の中小企業向け融資のうち、不良債権となったものを整理回収機構に売却することについて、保証協会が難色を示していることが報じられていた。

 整理回収機構に売却されると、整理回収機構が新規融資できないため、当該企業が破綻する恐れがあることが難色を示している理由だそうである。

 記事の論調は、不良債権の処理を進める銀行行政と、中小企業保護を目指す政策との矛盾を指摘するものであった。


 その点は別にして、ここで問題になっている融資の多くは、政府が貸し渋り対策として1998年秋に導入したものである。

 このときの融資はむちゃくちゃなものであった。

 私が扱った破産事件でも、この特別融資がついた企業がたくさんあったが、その当時の企業内容からして、融資を受けても、返済は到底不可能と思われる事案ばかりであった。

 そして、案の定、その後、破産したわけである。


 この融資対策が実行されたとき、融資を受けるためにブローカーが暗躍したという事件もあったし、うわさでは、融資金のかなりの額が、ITバブルに湧いていた株式市場に流れたといわれている。


 ITバブルで大損をしたのは個人投資家であり、売り逃げしたのは外資といわれているから、結局、日本の税金が、外資に流れていったようなものである。
(ちょっと強引な論法かも知れないが)。



2002年06月21日(金) 性同一性障害の男性の解雇は無効との判断

 日経(H14.6.21付)・社会面に、性同一性障害の男性が解雇された事件で、裁判所は解雇無効と判断したと報じられていた。


 その男性は、トイレも女子トイレを使うことを要求したと報じられていたように思う。

 そうなると、女性社員は嫌がるんじゃないかなという気がする。


 そうはいっても、性同一性障害は本人の責任ではないことなどを考えると、解雇するのは行き過ぎというのが裁判所の考え方なのだろう。


 ただ、新聞記事から推測するに、解雇理由は、「女装したりすることは、違和感や嫌悪感を抱くので、止めるよう説得したのに、止めなかった」ことであるように想像される。

 しかし、それは解雇事由として正直すぎたように思う。


 解雇する前に、弁護士に相談していれば、「顧客から苦情が出た。」「当該社員に本来期待されている業務を、女装しているために遂行できなかった」とか、具体的に業務に支障がある事情を探し、「業務ができないこと」を解雇事由にすべきであるとアドバイスしたのではないだろうか。

 つまり、解雇事由としては、女装したとかということには触れないわけである。

 なんか汚いなあという感じを受けるかも知れないが・・。



2002年06月20日(木) パートにも、労働者としての権利がある

 日経(H14.6.20付)・社会面に、パートの組合員うち、労働協約がパートに適用されない組合が1割あると報じられていた。

 パートと正社員の関係は、組合内部でも微妙な問題である。

 労働者という意味では利害は一致するはずであるが、他方、処遇において利害が対立する面もある。
 それゆえ、同じ組合員でも、正社員とパートでは、別の扱いになるところがあるのだろう。


 新聞記事とは少しそれるが、

 パートは、正社員と異なり、労働者としての権利はないとか、いつでも自由に辞めさせることができると思われがちであるが、そうではない。

 最近のパートの労働実態をみると、フルタイムのパートも多く、他方、正社員も終身雇用制が崩れつつあり、そうなると、労働実態において、正社員と違いがだんだんなくなって来つつある。

 それゆえ、パートにも、年次休暇も認められているし、解雇する場合は解雇予告手当が必要である(パートにはいろいろな形態があるから、一律にはいえないが)。


 したがって、パートだから、何をしても文句を言えないのだとか、いつでも辞めさせることができるという古い考えは止めておいた方がいい。

 そのような古い考えの経営者は、裁判を起こされて、痛い目に遭う可能性があるだろう。



2002年06月19日(水) 鈴木議員 逮捕

 日経(H14.6.19付)・1面に、「今日、鈴木議員逮捕」の記事が載っていた。


 昨日は、鈴木議員が、テレビの独占インタビューに答えていた。

 なかなかの迫力であり、インタビューアーもたじたじという感じであった。


 それでも、鈴木議員は、起訴されて有罪となるだろう。

 共犯者(贈賄側)が自白しているからである。


 日本の裁判では、共犯者が自白すると、罪を免れるのは難しい。
 
 共犯者の自白については、それを重視すると、他人に罪をなすりつけることが可能になるのではないかという疑問があり、随分議論されてきた。

 しかし、裁判所は、共犯者の自白を非常に重視する。


 鈴木議員の件でも、共犯者が自白している以上、その供述は信用され、鈴木議員がいかに争っても、むなしい闘いになるだろう。


 もっとも、このケースでいえば、金を渡したほうだって、何の見返りもなしに、500万円もの大金を渡すはずがない。

 それゆえ、賄賂であったという共犯者の自白が信用されるのは当然である。



 そもそも、見返りなしに政治家に金を渡す人はいないから、政治家に渡す金は、もともと賄賂性を含んでいるといえる。

 だから、一度検察に睨まれたら、なかなか逃げられない。


 政治家というのは、刑務所の塀の上を歩いているようなものである。



2002年06月18日(火) 甘い話にご注意

 日経(H14.6.18付)・社会面に、「出資金投資商法に注意喚起」という記事が載っていた。


 「販売代理店に投資すれば、元金が1年で2倍になる。」などと謳い、投資を勧誘したうえで、連絡が取れなくなるといった出資金投資商法の被害が増加しているそうである。


 この低金利のご時世で、1年で2倍になるという話があるはずがない。


 配当率10%を超えるうたい文句には、十分注意した方がいい(手数料などを引くとそれ程でもないことが多い)。

 配当率が20%を超える場合には、おかしいと思った方がいいと思う。
(そもそも配当を約束するうたい文句は、出資法に違反しているのだが)



2002年06月14日(金) 池田小学校事件について

 日経(H14.6.14付)・社会面で、池田小学校事件の裁判について報じられていた。

 その記事の中で、遺族の1人が、「弁護の必要はない」と弁護団に詰め寄ったそうである。

 そのように詰め寄る遺族の方の気持ちはよく分かる。


 しかし、担当している弁護士もつらいと思う。

 弁護団ができているそうであるが、これは、被告人を弁護してやろうという弁護士が何人もいるから弁護団が結成されたのではないだろう。

 1人で担当することは精神的にも肉体的にも耐えられないから、何人かで担当することになったのだと思う。


 殺された子供たちの写真を見ると、涙が出そうになる。
 他方、弁護活動をしている弁護士たちにも同情するというのが正直な気持ちである。



2002年06月13日(木) インサイダー取引に対する誘惑は強い

 日経(H14.6.13付)・12面に、ジャック(中古車販売)が、資本・業務提携をしたと報じてられていたが、その記事の最後に、東京証券取引所が、ジャックの株式取引について、不正な売買がなかったか調査を開始したと書いていた。


 ジャックの会長は業務上横領で逮捕されているから、公私混同の激しい会社であったと思われる。

 今回の資本・業務提携は、その建て直しであるから、それ自体は何ら問題はなく、ジャックの株主や社員らにとって歓迎すべきことであろう。


 ただ、昨日のジャックの株価は11%以上も値上がりしており、インサイダー取引があったと疑われても仕方ないであろう。


 ジャックのケースは、調査を待たないと、インサイダー取引があったかどうかは分からないが、他にもインサイダー取引があったのではないかと疑われる取引は多い。

 しかし、インサイダー取引は、関係者だけ儲けるのだから(但し、法律上は、インサイダー取引の成否に、儲けたどうかは要件になっていない)、証券取引に対する一般投資家の信頼をなくすことになる。
 それゆえ、インサイダー取引に対しては、厳格に調査すべきである。

 ただ、弁護士でも、インサイダー取引で逮捕されたケースがあるから、インサイダー取引に対する誘惑というのは強いものがあるのだろう。
 「インサイダー取引のたねは尽きまじ」というところだろうか。



2002年06月12日(水) EB債販売で、証券会社に処分

 日経(H14.6.12付)・7面によれば、証券取引等監視委員会が、EB債の販売にからみ、コスモ証券に違法行為があったとして、行政処分などの措置を取るよう、金融庁に勧告したそうである。

 EB債とは、あらかじめ設定した株価よりも、その後の評価日の方が高ければ現金で償還されるが、低ければ株式で償還される仕組みである。


 新聞の報道ではいかなる違法があったかの詳細はよく分からないが、コスモ証券の販売の仕方に誤解を与える表示があったとのことであり、対象顧客は6000人、販売額は160億円と報じられているから、影響は大きいだろう。


 では、コスモ証券を通じてEB債を購入して損をした人は、すべて損害賠償請求ができるのであろうか。


 結論からいえば、損害賠償請求はそう簡単なことではない。


 不法行為に基づく損害賠償請求をするためには、相手方に違法行為がなければならない。

 ところが、行政処分としての「違法」と不法行為における「違法」とはレベルが違うといわれている。

 つまり、不法行為の成否にあたっては、違法行為があったとして行政処分されたという事実だけでなく、それ以外の事情も総合考慮して「違法」かどうかが判断されるのである。


 それ以外の事情としては、販売するときに具体的にどのような説明をしたのかということが最も重要なポイントである。そして、これは人よって違うはずである。


 したがって、行政処分によって違法と認定されたとしても、コスモ証券からEB債を購入したすべての人が損害賠償請求できることにはならない。

 今日の新聞を読んで、EB債で損をした人が大喜びするのは早計ということになる。



2002年06月11日(火) 金融庁は、金融機関の主要株主として、投資ファンドを認めない方針

 日経(H14.6.11付)・1面で、金融庁は、金融機関の主要株主として、投資ファンドを認めない方針であると報じられていた。

 主要株主とは、銀行の20%以上保有する株主をいい、銀行法によって金融庁は規制できることになっている。

 金融庁は、投資ファンドが短期に収益を上げるために、強引に回収する「貸しはがし」や、「貸し渋り」することを懸念しており、それを規制することが目的のようである。


 銀行というのは、公共的性格が強いことはいうまでもない。

 それゆえ、投資利益だけしか考えない株主が主要株主となって、短期的な利益を上げようとするのは、銀行に期待されている望ましい姿とはいえない。

 その意味で、銀行の主要株主としては、長期安定的な株主が適切であり、投資ファンドが主要株主になる場合は慎重な審査をするというのは一応理解できる。


 それでも、私は、金融庁の方針に引っかかりを感じる。

 それは、金融庁が行ってきたこれまでの規制が、透明性を欠いてきたからである。

 したがって、かりに主要株主の規制をするのであれば、規制の方針を明確にし、規制する場合にはその理由を明示すべきであろう。


 それにしても、金融庁がこんな方針を打ち出したのは、これまで外資にいいようにされ、「外資憎し」という気持ちがあるからではないか。

 しかし、いいようにされた責任は、金融庁にあるのだし、仮に、そんな感情論で行政を行っているのであれば、なおさら問題であろう。



2002年06月10日(月) ネットで国債が買えるようになった

 日経(H14.6.10付)・15面で、小口の国債がネットで取り引きできるようになってきたと報じられていた。

 国債を買おうと思うと、従来は、一々証券会社に電話しなければならなかったのであるが、そのようなことなく、ネットで取引ができるようになってきたそうである。

 取引手段が多様することは喜ばしいことである。

 国債の個人投資家への普及を目指している財務省の思惑にも合致するであろう。

 もっとも、最近ときどき国債の大暴落という話が、小説になったり、雑誌に載ったりしている。

 本当に国債が大暴落するのかどうかはまったく分からない。
 ただ、ネットの利用によって国債の購入が便利になったとしても、そのこととリスクとは別問題であり、その点は自己責任であることは当然である。



2002年06月07日(金) 特許情報サービス

 日経(H14.6.7付)・15面に、特許庁の特許情報サービスに対し、民間業者が民業圧迫であるとして意見書を提出したことが報じられていた。

 民間の言い分は、「特許情報サービスによって、売り上げは3分の2になった。運営コストは官の方が2倍高い。」ということだそうである。


 この問題は、大げさに言えば、官と民の役割分担はどうあるべきかという問題であろう。


 思うに、官の持っている情報は、本来国民のものであるから、国民に提供すべき義務をを負っている。
 特許情報についても同様であり、国は、国民に特許情報を提供すべき義務があるというべきであろう。

 実際、この特許情報サービスは非常に便利であり、しかも無料なので、私もよく使っている。

ただ、運営コストが民間の2倍もかかっているのであれば、それは問題であり、コスト削減に努めるべきである。



2002年06月06日(木) 株式の売買手口の公表は妥当か

 日経(H14.6.6付)・16面で、運用会社9社が、株式の売買手口の公表の廃止を要請したとの記事が載っていた。

 売買手口とは、個別銘柄ごとに、どの証券会社がいくら売り買いしたかという情報である。

 運用会社が廃止を求める理由は、売買手口を公表すると、証券会社の自己売買部門が先回りして売買を行い、投資家の売買コストが膨らむ弊害が大きいということだそうである。


 これは興味深い問題である。

 運用会社の主張通りだとすると、なんでも情報を公開するとかえって弊害が起きることがあるということになる。

 確かに、一般論としては、情報を公開することによって、かえって弊害が生じる場合があるのかも知れない。

 しかし、この件についてはそうはいえないと思う。

 証券会社にアンケートをとった結果でも、廃止、完全公開、現状維持に意見が分かれたそうである。


 売買手口情報についていえば、私は、情報が一部だけに公開されることによる、一時的弊害ではないかと思う。

 一般投資家にも幅広く情報公開すれば、その情報はプラスにもマイナスにもならない、ニュートラルな情報になる。
 そうすると、運用会社のいうところの、証券会社の自己売買部門が先回り売買をするという弊害もなくなるのではないだろうか。  



2002年06月05日(水) 社外取締役について

 日経(H14.6.5付)・社会面で、雪印乳業が、社外取締役として、消費者運動家を起用したと報じられていた。

 社外取締役は最近の流行であり、他社の取締役や、元検事が就任することがときどきと報じられている。

 他社取締役が就任するのは、企業間のつながりを高めるためであろう。

 その場合、企業間のつながりを強めるだけであれば、銀行から取締役を受け入れるのとあまり変わらない。

 検事が就任するのも、その肩書きだけを利用するだけであれば、総会対策として元警察官を採用するのとあまり変わらないだろう。


 要するに、流行に乗って社外取締役に就任してもらっても、その意図は何かが問題である。
 本来の狙いである、外部からのチェックをきちんとしてもらおうと思うのであれば、社外取締役に対し、社内の情報を十分に伝えなければならない。

 そうでなければ、社外取締役は、単なるお飾りになってしまうだろう。


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