a Day in Our Life
今どきの男は料理上手であるべきだ。という訳で、カルボナーラを作ってみた。 食べると作るでは大違い、それでも持ち前のガッツで頑張って作った。見た目も悪くないし、上手く出来たと思うので、人に食べて貰おうと村上は思った。
「はい、どうぞ」
目の前に出されたほかほかのカルボナーラを前に、横山はふぅん、と小さな相槌を一つ。そして黙ってフォークを取った。横山の前の席に座った村上は、自分は食べずに頬杖をついて、横山がフォークに絡まったパスタを口に運ぶのをじっと見つめる。 もぐ、と口を動かした横山の反応が一瞬止まって、分からないくらいに僅か首を傾げた、気がした。それは本当に判らないくらいの微妙な動きだったので、村上は瞬きの一瞬に見間違えたのかと思って、その後の横山の動きを更にじっと見詰めてみたのだけれど、それ以上の反応を寄越さない横山は、ただ黙って口を動かす。 それは淀みない動きで一口、また一口。くるくると器用にパスタを絡めて、口に運ぶタイミングでたまに、見ている村上と目線を合わせる。結局、一言も発しないまま黙々と食べ終えた横山がフォークを置き、やっとグラスに手を伸ばしてお茶を飲んだ。 「どぅやった?」 横山が何も言わないので、村上は自分から聞いてみる。きっとキラキラした目をして感想を乞う、まっすぐな眼差し。その目線を受け止めた横山は珍しくじっと村上を見、それからぼそりと一言。 「まぁ、ええんちゃう」 あんまり端的だったので村上は、え、それだけ?と思ったのだけれど、それ以上を聞く前に、横山はさっさと席を立ってしまったので、追いかけて聞いても鬱陶しがられるだけかな、と主のいなくなった後の目の前の皿をじっと眺める。数分前までパスタが山盛りになっていたそれは、今やすっかり何もなくなって、がらんとした印象を与えた。
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「て、なぁ?何も言えへん割には全部食うとったし、よかったって事でええんかな?」 翌日、美味いも不味いもなかった横山の事を、村上はやっぱり気になって渋谷に話して聞かせた。すると渋谷は、うーん、どうやろ?と首を捻る。付き合いは長いけれどそれだけで横山の心情は判断しかねた。だから渋谷はふと、思いついて、 「分かった。ほな、俺に食わしてみろや」
かく言う訳で、今度は渋谷の為にカルボナーラを作ることになった。
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