2004年12月12日(日) |
『OPEN YOUR EYES』(内ヒナ) |
昔から廃墟となっている通称「お化け屋敷」 ここに、いつのまにか住み着いているものがいた。
「ええか、人間のは絶対手出したらあかんからな」 食卓を囲んでいる4人のなかで一番小さい、けれど一番態度のでかい男が、睨みつけるように3人に言いはなった。 「わかってるよ!手だしたらここにおられへんようになるし」 中間くらいに大きい、困り顔を浮かべた男がうんうんと頷くのに対し 「でも、人間のが一番おいしいねんけど」 一番大きい男が、不満をあらわにしながら呟いた。
「阿呆!手だしたらおしまいや言うてんやん!」 「けど、バレへんかったらええんちゃう?」 今までだって、隠れて吸ってたけど、ばれたことあらへんし。首筋に傷を残すなんて、昔の人のようなヘマもしないし。吸われた本人も「貧血かな?」くらいにしか思われないように、気をつけるくらいは出来るし。 「あからさまに証拠残して、いつばれるかわからん危険抱えるんが平気なんか?」 ものすごい形相で睨まれて、それ以上言うおきなくて、「ごめんなさい」と素直に謝った。
お兄ちゃんたちの会話をにこにこと聞いていた、末っ子(でも2番目に大きい)は、以前から生き血がおいしいと絶賛する大倉の言葉に、吸ったことのある大倉の自慢話にはいつも羨ましいと思っていた。 「生き血かぁ・・・・・」 「なんや、内。飲みたいんか?」 「ううん!そんなことあらへんよ!」 ぼそっと呟いた末っ子のつぶやきに、錦戸は聞き逃すことなく問いただそうとしたけれど。慌てて首をぶんぶんとふられ、それ以上追及するのをやめた。 「ええか。人間には、絶対手出したらあかんからな!」 「うん!」 錦戸の言葉に、ゲンキよく答えた残り三人。
しかし数日後。 この約束が破られることになるとは、そのとき誰も思っていなかった。 吸いたいと豪語してる大倉だけではなく、吸うなといっている錦戸さえも、破ることになるとは。 最大の誘惑の手がのびていることに、このときはまるで気づいていなかった。
世間知らずの末っ子を案じて、錦戸はよく買い物にいかせていた。 「はじめてのおつかい」という番組を見てひらめいたことなのだったが。この世界にはもう何年目かになる錦戸と、初めての内では問題が多く。とりあえずはこの世界になれなければならないということで、夕飯の買い物当番をさせていたのだが。生活習慣が全くない内には、買い物一つでも事件の連発で。毎回、どきどきしながらも楽しんでいた。 今日も、夕飯の準備をするために買い物を言い渡された。 いつもの道を歩き、いつものように鼻歌を歌いながら歩いていた。 あと数分で、家につく。そんなときに、事件は起こった。
スキップしながら歩いていたため、目の前にあらわれた人影をよけることが出来ず。あ、と思ったときには、相手にぶつかっていた。 「いたい〜!!」 勢いがありすぎたからか、鍛え方の違いか。勢いよくぶつかったはずの内のほうが、どんと、飛ばされていた。 いたいと泣き出しそうになりながら、座りこんでいると。
「ごめんな〜大丈夫か?」
声と共に、手が伸びてきた。 その手には、赤い液体が流れていて。ぶつかってしまった相手も、飛ばされてしりもちをついたのだろうということがわかった。 しかしそれよりもなによりも、内の心を掴んだのは、
赤い液体
「血・・・・」 伸ばした手をじっと見つめられ。相手はやっと、自分の手のひらに傷が出来ていることを自覚したらしく。苦笑いを浮かべながら、いつまでたっても手を掴んでこない内の前にしゃがみこんだ。 血が出てるので心配してるのだろうと思い、
「バンドエイドは持ってるんやけどな。薬はないからなあ・・・ん?」 手のひらを持ち上げられて。なにするんやろ、なんて思ったら。傷口を、ぺろっと 舐められた。 「え?」 驚いた表情を浮かべる相手には構わず、内は舐めた血の味を、噛み締めていた。 初めての、味。 生き血。 喉を通った途端、すーーっと流れる、甘い味。 もっと、欲しい。もっと。もっと・・・・・・
「ちょ、なにしてんねん!」
「やって、もったいないやん」 せっかくの生き血なのに。しかも、こんなにおいしいものなのに。流れるままなんて、もったいない。 今も流れ続ける、赤い血。 いろんなものを、飲まされてきたが。こんなにもおいしいと思ったことは、1度もなかった。 甘美な、赤い液体。 なによりも、甘い、甘い誘惑。
もっと、欲しい
誘われるままに、手のひらに唇をよせようとしたけれど。それよりも早く、手のひらを隠されてしまった。 「もったいないって、吸血鬼みたいやな」 「吸血鬼!?なんでわかるん?!」
そのとき初めて。自分がぶつかった相手の顔を、まじまじと見つめた。 ところどころにこっと笑う仕草。じっと、自分をみつめるのは、身長のせいか、みあげる角度で。 こんな風に、視線を反らすこともなく、じっと見つめる人は。この世界にきてから1度も見たことなかった。 やから人間は、視線をあわせることが恐いのかと思っていた。目からなにかあるのかと、だから自分が吸血鬼だというのもばれてしまうんじゃないかって思って。そらしていたけれど。
この人は、視線をそらすことなく、見てくる。
「あ!!」 にこっと笑った瞬間見えた、もの。 自分がひたすら隠してる(みつかったらあかん!て亮ちゃんが術かけた)ものを、今、目の前の人にあることを見つけた。
「吸血鬼なん?」 「はぁ?きゅけつきぃ?」 「やって、それ」 「ん・・・・?ああ!」 内が指差したのは、村上の口元で。そこには普通よりも成長している、吸血鬼にかかせない牙のような「八重歯」があったことを思い出した。 「これなぁ。確かに牙っぽいもんな」 「っぽいやなくて、牙やん」 「・・・そうやな、牙、やな」 笑われて、なんで笑ってるのか内は気づかなかったけれど。牙だと言われた=仲間だと思った瞬間。嬉しくて、一緒に笑っていた。 やから、自分の視線そらすこともなかったんやって、一人納得して、仲間やって、この人、仲間やんって思った。嬉しかった。
なんで仲間やと嬉しいのか、なんて。 そのときは気づいてなかったけれど。
「ほんなら、吸ってもええん?」 「え?吸血鬼みたいにか?」 「うん、仲間やったら、問題ないって、亮ちゃん言うてたし」 「問題ない?」 「うん、同じなら、吸っても問題ないからええって、言うてたもん」 同じ血筋ならば、吸ったところでカラダがかわることもない。異変がおこることもないから。別にええよと。あまりにもたっちょんがおいしい言うから、僕も生き血が飲みたいと騒いだときに、錦戸が言い放った。あれ以来、仲間を必死に探していた。 怒られることもなく、問題なく吸える、パートナーを。
「う〜ん。でもなぁ、問題あんねん」 「なんの!?」 「あんな・・・・」 おもしろそうに笑いながら。おいでと手招きされて、されるがままに口元に耳を近づける。
「好きな人じゃないと、首筋は許してへんねん」
この子おもしろいわ〜なんて軽い気持ちで、おもしろがっていた村上は、真剣に聞いてくる姿がかわいく思えて。そのこの冗談に付き合うように、答えてしまったけれど。
「ほんなら、好きになってくれたら、ええねんな!」 「え?!」 「僕のこと、好きになってくれたら、吸ってもええってことやんな?」 「えーーー?」 「うん!僕、がんばるわー!」 「え、ちょお・・・」 「お兄さんに好きになってもらえるよう、僕、がんばる!」 にこにこきらきらとした顔で、嬉しそうに言われ。冗談だろうと付き合っていたはずの村上は、焦っていた。 「じゃあね!またね!」 「えーー?ちょ・・・」 またねって、なんやねん! つっこみ体質であった村上は、心のなかで叫んでいが声にすることもなく。ゲンキよく走って行く姿を見送っていた。 「・・・まあ、ええか」 もう逢うこともないやろうし。かわいい子供の話しにつきあっただけやしな。 気にすることもないやろって、のんびりと思いながら、角を曲がって帰っていった。
「亮ちゃん!仲間みつけた!」 「は?・・・仲間だぁ!?」 「うん、仲間!仲間やったら、吸ってもええやんな?」 「そら、ほんまに仲間やったらええけど。・・・何。吸いたい思ったんか?」
吸いたいという欲望もあるけれど。 ゲンキそうで、血の気多そうで、おいしそうだと、彼の顔をみたときに思ったのは、本当。 けれど、それよりも、彼を手に入れたいと。思った。 あの首筋に、牙を押し当てたいと。思ったのは、彼が初めてだった。
「ほんなら、1度連れてこいや」 「え?ここに?」 「そうや。ほんまに仲間かどうかわからへんし。1度連れてきや。俺が見定めてやるから」
阿呆の内のことやから、勘違いってこともあるし(100%そうだろうけど) それに、内がはじめて興味もった相手というのが気になった。 この内が好きになるん、どんな子やねんなぁ。内ににた、ぼけーっとした子かもしれんし。やったら連れてきても大丈夫やろ。
万が一ばれたとしても、記憶消せばええしな。
「ほんなら、今度連れてくるわ!」 「おう、待ってるからな」
この約束がかわされたことで。 錦戸にとっても運命の出会いをはたすのに、あと数時間になった。
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