前日に東京での仕事だったため、珍しく一緒の入りとなった横山と村上。 ドラマのせいでレギュラー番組すら不参加という状況になっていた村上と、昨日今日と一緒にいることが出来て、横山はご機嫌だった。 仕事をしている時間が主だったが、それでもホテルへと向かうタクシーの中や大阪へ向かう新幹線の中などで、二人だけの時間もあって。 久しぶりにゆっくりと話が出来た。仕事の話ばかりだったけれど、離れていた間に自分の知らないことが増えていて。増えた分、今の二人の距離を物語っているようだと思ったけれど。久しぶりに村上の笑顔を見れたことが、なにより嬉しいと。幸せな気分になっていたから、幾分気にならなかった。
しかし、そんな些細な幸せも。 テレビ局に入った途端、壊れてしまった。
入口からスタジオまで、15分くらいの距離である。 着いたのが14時過ぎだった。時計を見ると、現在20分を指している。 いつもならば、スタジオについていてもおかしくない時間。しかし、二人はスタジオにはたどり着いていなかった。 3階奥のスタジオを目指しているのだが、今だ1階にいる。 理由はなんなのか。考えただけで腹たつと、横山は不機嫌を露にしていた。
廊下を進むたびに、村上は呼び止められ。それに答えてから数分立ち話を始める。最初の3回までは、村上はスタッフなどに知り合いが多く。声をかけられたれら性格上答えてしまうのもわかるから。せっかくの二人の時間を、などと思っていたが我慢して、終わるのを待っていた。 個人仕事も増えたし、知り合いのスタッフが多くなるのも無理ないと、思っていたけれど。 それが4回。5回。ワンフロア上がることも出来ないくらい呼び止められたら。 元々短気な性格である横山が我慢できるわけもなく。
「なあ、ヒナ・・・・」
呼びかけても返事がなく、振り返った先に何回目かになる光景を目の当たりにした横山は。 頭の中で、なにかがキレる音を感じた。
不機嫌そのままで村上達に近づく。「ヨコ?」呼びかける声を無視して、相手に軽くお辞儀すると、村上の手を掴んだ。 「え・・・」 そしてそのまま、村上の身体ごと引っ張るようにして、その場から歩き始めた。 「ヨコ?どないしたん?」 困惑する声も無視して、前だけを見て歩く。 エレベータに乗り込んだとこで、横山は安心したかのように、ためいきをついた。「ヨコ?どないしたん?」 「おまえが話してばっかいたから時間なくなってもうたんやろ」 「え?ホンマ?」 そんなに長いこと話をしていたかと、慌てて時計を見たが。 「・・・まだ余裕ですやん」 集合時間には、まだ20分余裕あった。 けれど「うっさい」と一言だけ言って、不機嫌な顔している横山の姿と。さっき言葉から。横山がなにに対して怒ってるのか、どうして自分を引っ張ったのか。 自意識過剰でなければ、答えはひとつ。
いまだ繋がれたままの手。 照れやな彼からの珍しい行動に、村上は嬉しさから、こらえきれなくて、笑った。「なに笑ってんねん」 「ん?なんでもないよ」 けれど笑った表情のままの村上。なんやねんおまえ、と言おうとしたけれど、やめた。
再び訪れた、残りわずかな幸せな時間。
繋いだ手を。より一層握り締めた。
|