2004年04月05日(月) |
『ラブラブSHOW・バージョン2』(横ヒナ) |
「ヨコ、また煙草?」 嫌そうに眉をしかめる村上を、黙って睨み返す。 いつのまにか「禁煙」に成功したらしい村上は、ここ数年、ずっと吸っていない。それどころか、禁煙者特有の、煙草の匂いすら駄目だという体質になったらしい。楽屋で吸う横山や渋谷を見つけると、嫌そうな表情を浮かべて、未成年の健康に悪いからとか尤もな理由をつけて、追い出していた。 「なんで俺らが気にせなアカンねん」 喫煙所で並んで吸っている最中、渋谷は毎回納得いなかいと嘆いていた。 喫煙者にとって、煙草が吸えないというのは深刻な問題だし。好きに吸わせてもらえないというのも、ツライ現状でもある。 仕事あとの一服なんて、とんでもなくうまくて。つい、楽屋についた途端火をつけてしまい、そのたびに村上に追い出されていた。 文句を言う渋谷とは違って、横山は今の現状を受け止めていた。 煙すら駄目だという人にとって、煙草というのはかなりキツク感じるから。外で吸ってほしいという願いもわかるから、素直に聞き入れていた。 喫煙所を探して吸って。たいてい自販機の隣にあるから自販機に他に誰かいたら非常階段等の外に出て吸って。
だけど。
どうして横山が煙草を吸うのか。 なんで、段々本数が増えていくのか。
すべて、村上のせいだということに、本人はまったく気付いていなかった。
会う回数は増えたのに、二人きりになる回数は減った。 キスする回数も減った。けれどキスしたいと思う回数は増えた。 だけど、出来ない現状。
「口が寂しいねん」 だから煙草を吸ってしまうんだと。キスしたいと思ったとき、煙草を吸って口元を押さえると同時に気持ちを落ちつかせてるんだと。そんな努力もしてるんだと。それくらい、口が寂しいんだぞと。遠まわしに、伝えても。 「飴でも舐めたらええやん」 自分の恋愛ごとには鈍感な村上が気付くはずもなく。検討違いな答えを返すだけだった。 「ちょうど、ここにあるやん」 誰が持ってきたのか(おそらく内だろうけど)、机の上に置かれた飴を、村上が差し出す。 いちごみるく味と書かれた、いかにも甘そうな飴。 それを持つ村上は、まったくもって甘くもないけど。 受け取った飴を口に含むと、想像通り甘くて。 「甘・・・」 甘ったるくて、煙草の味が一気に消えた。 「そら、いちごみるくやし。甘いの当たり前やん」 「わかってたんやったら、出すなや」 「やって、口寂しい言うから、ちょうど目の前あったから出しただけやん。舐めてみれば、なんて言うてへんよ」 差し出しておきながら、この言いぐさ。その言い方に腹がたって。
「ヒナ」 呼ぶと笑いながら振り返った。その顔を両手で掴んで、固定させる。 そして、口に含んだ飴を、村上の口元へ一気に押しこんだ。 「え、ちょ・・・ん・・・」 驚いたように目を見開く村上を無視して、少しの間、唇を塞いだ。 時折飴を出したいのか、背中を叩いて抗議するかのような仕草をしたけれど許さずに、しばらくそのままにした。 数分後、唇を離すと村上は荒い息遣いを繰り返していた。 「ちょっとは俺の苦しみがわかったか」 ホンマに甘かったんだぞと訴えると、村上は息も絶え絶えにしながら。「ホンマやったわ。ごめん」と言ったあと。「でも・・・」と続けた。
「なんか、内とちゅうしたみたいな気分やわ」 「はぁ?!おまえ、内とちゅうしたんか!?」 聞き捨てならない言葉に、慌てて聞き返す。自分とキスをしたのに、他の男を思い浮かべられるなんて。一番最悪だ。 しかも、浮気発覚疑惑。 「ちゃうって。甘いキスって、いっつも甘いの食べてる内っぽいなあ思っただけやって」 「ほんまか?」 その言葉だけでは納得出来なくて。さらに問いかけたら、力強く頷かれて。真っ直ぐに自分を見る村上の目は、嘘をついてるとも誤魔化してるとも思えない。 「ホンマやって。それに・・・」 無言で顔寄せて。目の前でにっこりと笑いかける。 「甘いキスよりも、苦い煙草の味するキスのが好きやわ」
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