2004年03月20日(土) |
『指輪』(しんごせんせいとひろきくん(ヨコヒナ)) |
「しんごせんせい〜!これ見て!」 言いながら掲げた手には。赤いガラスがついた、指輪がはめられていた。 「キレイでしょ!?」 「ああ、キレイやな。おかんに買ってもらったんか?」 「うん!」 お出かけしたときに、おもちゃやさんで売ってた。キラキラと輝いていてきれいで。しんごせんせいの目みたいやって思って。おかんに買ってもらった。 「キレイやな」 ニコニコと笑うしんごせんせい。
「結婚式しよう!」 「結婚式?」 「うん!「ちかいのことば」言うて、そんでせんせいの指輪と、僕の指輪交換すんねん!」 大きくて大好きなしんごせんせいの指に、いつもはまっているシルバーの指輪。 アクセサリーとか仕事中にはつけないのに、何故か指輪だけはしていた。 片時も離さないように、お遊戯の時間だろうとなんだろうと、指で光っていた。 「大事なものやねん」 手を掲げて、指輪を見つめながら。しんごせんせいは嬉しそうに笑っていた。 しんごせんせいを、こんな風に笑わせられる指輪が。しんごせんせいに大事にされてる指輪が、すごく欲しくて。 でも欲しい言ってもくれなかったから、交換だったら、くれるかもしれない。 銀色だけの指輪より、赤いキラキラしてる指輪のがきれいだし。こっちでいいって言ってくれるだろう。 やけど、いくらまってもせんせいから返事かえってこなくて。せんせい見てると、しんごせんせいは困ったかのような表情浮かべていた。
「これはあかんねん。交換できひんねん」 「なんでぇ?」 こんなにキレイやのに!って言うと、しんごせんせいは苦笑いを浮かべた。 「あんな、これはせんせいの大事な人からもらったもんやから、交換できひんねん」 「大事な人?」 「そう。大好きな人にもらったものやから」 「大好きな人・・・・?」 「うん。やから、ごめんな?」 大好きなしんごせんせいの、だいすきな笑顔。やけど今は、嫌いや。 ぼく以外の人のこと考えて、笑ってる顔は、大好きやけど大嫌いや。 「いやや!」 「え?」 「大好きな人がおるしんごせんせいは、嫌いや!」 「内・・・・・」 あ、しんごせんせいが困ってる。きみくんとかすばるくんが悪いことしたときに見せる顔。してる。 あかんって思ったけど。嫌われてしまうって思う。やけど。だって・・・・・ 「うわーーん!」 泣かないって、あんなに誓ったのに。泣き虫って言われるから、しんごせんせいが困ったようにするから、泣かないって決めたのに。 悲しくて。我慢できなくて。でも、困ったようなしんごせんせい見たくなくて。 「内!」 しんごせんせいが呼ぶ声聞こえたけど、聞いてないフリして教室出ていった。
「また、内泣かしたんか」 「ヨコ」 教室の前で一部始終を見ていた横山は、内の泣いた声を聴いて。これは村上じゃダメだろうと入ってきたが、一歩遅かったらしく。泣きながら出て行く内とすれ違った。 「おまえなあ、ああいうときはうまいこと言うたらええやん」 「そうやけど・・・」 「いっつもうまいこと言うてるくせに。なんでいわなかったん?」 自分よりもよっぽどうまいこと言って。なだめたりするのが得意なはずなのに。今回のことも、うまく言いくるめるのだろうと見守っていたのだが。村上らしからぬ、きっぱりとした物言い。珍しいなあと思っていた。 「やって。この指輪だけは、嘘とか、そういうこと言うたなかったんやん」 大好きな人からもらったもんやから。村上が言うと、指輪をあげた当本人である横山は顔を赤くしながら、言葉を返すかわりに村上のカラダをぎゅっと抱きしめた。
(けど、内のご機嫌とるのどないしよ・・・・ちゅうでもしたろか?) 抱きしめられながらそんなことを考えてる村上。ちゅうするくらいなら嘘でもついてくれと、あとで横山は嘆くことになるのだが。
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