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2002年08月06日(火) 松本幸四郎演出『ラ・マンチャの男』

<出演>
セルバンテス、ドン・キホーテ:松本幸四郎
アルドンサ:松たか子、アントニア:松本紀保
サンチョ:佐藤輝、カラスコ:福井貴一、牢名主:上條恒彦、
家政婦:荒井洸子、神父:石鍋多加史、
床屋、ムーア人:駒田一、ムーア娘:萩原季里、ほか

これはもう、『ラ・マンチャの男』ではない。
少なくとも私が知っていたものとは違ってしまっている。
埃っぽくて、汗の臭いがして、男くさくて、暗く、猥雑。
そんな、およそミュージカルらしくない舞台だったはずが、
健康的で清潔で明るくて、整えられた きれいな話に。
大好きだった、ラバ追いたちの最初のシーン、
汚いカップを机にガンガンと打ち付けながら歌う、
「メシ!酒!アルドンサ!!」なんかも無くなってた。
こんなの、私が愛した『ラ・マンチャの男』ではありえない。
この舞台の魅力が全部 薄められていて、泣きそうな気分。

徹底して、初心者もとっつきやすい演出だったので、
それはそれとして、幸四郎さんすごいね、とは思う。
台詞がいつになく聞き取りやすかったのも、ちょっと感動。
でも、アルドンサは ちょっと気の強いだけの陰のない子で、
色々 悩んではみるけれど、帰る家のありそうな甘えが見える。
床屋は、TVで流行のお笑いタレントのネタで笑いを取り、
強いライトに照らされて、出演者の表情がよく見えて、
最後に主役が娘の頬にキスするような『ラ・マンチャ』は嫌。

テーマは無視。そんなことを伝えるのは二の次。
まずは、エンターテイメントであることを重視した演出?
アロンソ・キハーノが、なぜドン・キホーテとなったのか、
何に心動かされて、アルドンサは変わったのか、
「夢」に対する強い思いなんざ、どこかに消えていた。

その中で私にとって救いになったのは、牢名主とカラスコ。
牢名主は、前回と同じ上條恒彦さんだったのですが、
とにかく今更、うまい!と感動してしまいました。
同じ役を演っているのに、今回の舞台に合って、軽い。
自分で演出しておきながら、自分自身は重量感の残る
幸四郎さんに比べ、ちゃんとコメディタッチが増えている。
役作りの見事なまでの変わり方に、思わず見惚れました(^^)

カラスコは、今回から新キャストの、福井貴一さん。
最初のうちはメチャメチャ違和感があったのですが、
これが本来の姿だろうと思えた、今回唯一の役でした。
とにかく前回までの浜畑さんに比べて、非常に若い。青い。
でもそのおかげで、何が欲しくてキハーノ家にいるのか、
どんな立場で何を守ろうと鏡の騎士を演じ、どう変わったか。
何回も観ていたのに初めて、彼の考え方が感じられました。
今までは、メイン2人の物語ばかりを観ていたけれど、
カラスコの若返りと、皮肉にもメインの色が薄れたことで、
この事件におけるカラスコのドラマにも目が行きました。
その点では、何度目かに一度観るには面白い舞台だったかも。

体当たりで頑張った演技をしていた松たか子は、
私が思っていたよりは はるかに良い演技だったけれど、
「生まれてきた事が最大の罪」と言うアルドンサではなかった。
でも、アルドンサの台詞の1つ1つが、いちいち、
演出の明るさに対して違和感をかもし出していたので、
演出に似合う演技が、台詞に似合わないのは仕方ないのかも。
こういう雰囲気を作り出したくての配役なのかもと思おう。
迫力に関しては、鳳蘭と比べちゃ悪いから、黙っていよう。
歌は、ミュージカルの強さは無いけど、下手ではなかったかな。

松本幸四郎@演出家が、何を目指したかは知らないけれど、
きっとそれは随分、成功していたんだろうと思う。
ただそれは、私が求めるものと真反対だったというだけ。
『ラ・マンチャの男』を観始めてから、多分、10年くらい。
最初は「つまんな〜い」と言ったのに、いつしかハマっていた。
数年に一度見返すたび、感想が違ってくるのが面白かった。
そんな舞台には もう会えないかもと思うと寂しいけれど、
これも仕方ないことなのでしょうか。



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